【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
プルートモンが放った漆黒の雷。
一直線に世界を横断する黒を、ユピテルモンが自らも雷を放つことで対応した。無論、全力の一撃だ。悪くて相殺、良ければ押し勝つだろう。
ユピテルモンは両方の可能性を想定しながら、次の一手を一瞬で思考し、狙う――。
『カミサマ!』
――響き渡った来人の声に、襲ってきた自身の悪寒、それらを前にしてユピテルモンは全力で回避行動に移った。次の攻撃に繋げるためも何もない、ただ生き残るための回避をした。
一瞬後、彼のいたところを襲ったのは黒雷だった。だが、プルートモンが二発目を放ったわけではない。一発目の黒雷が、文字通りにユピテルモンの雷を押し切って来たのだ。
「馬鹿な……」
力の差を感じ取って、ユピテルモンは呆然と呟いた。
ありえるはずがない。オリンポス十二神の主神であるユピテルモンとプルートモンのスペックはおおよそ互角のはずだ。だから、一概にどちらが強いとは言いようがない。だというのに、ここまでの差があるのは有り得ない。
「ククク。笑えて仕方がないな。貴様のその阿呆面は」
「……」
明らかに馬鹿にしてきているプルートモンを前に、ユピテルモンは苦い顔をするしかなく――。
「言っとくけどなぁ、相手は――」
「ユピテルモン様だけではありませんわ」
――そんなユピテルモンを庇うかのように、というか、ユピテルモンを馬鹿にしたプルートモンに苛立ったメギドラモンとユノモンが強襲する。
ユノモンが突き出した杖に、遠心力で加速し振り回されたメギドラモンの尾、それらがプルートモンを狙い打ちする。
「ふん!」
「なっ」
「くぅ」
だが、彼らの同時攻撃すら、プルートモンは何でもないかのように冷静に対応する。突き出された杖は軽く身体を捻ることで躱し、迫り来る尾はそのまま掴み取る。
「む……そういうことか。あの聖騎士……道理で手応えがないと思っていたら、力の大半を他者に分け与えていたか」
プルートモンはメギドラモンの尾を掴み取った瞬間、何か納得したように呟いて――。
「むん!」
――次の瞬間、黒雷を自分を取り囲むように放電する。
「ぐぅうううう!」
「あぁああああ!」
鋭い痛みが断続的に続く。
苦しみに声を上げるユノモンたち。プルートモンはその手に持ったままのメギドラモンの尾を振り回し、彼ごとユノモンを吹っ飛ばした。
「っ、ユノモン!」
慌ててユピテルモンが飛んでくるユノモンを受け取る。
同時に、「ぐぇっ」と潰されたような声は無視された。
「あ、ありがとうございます」
「気にするな」
ユノモンに怪我がないことを確認し、ユピテルモンは彼女を地面に下ろす。
その横で――。
「オレは無視かよぉ……」
『大丈夫か?』
――無視される形となったメギドラモンが立ち上がっていた。
「ククク。何だ貴様ら。それでもオリンポス十二神に名を連ねる者か? あの愚騎士の力を持っているだけそこにいる邪竜の方がよほどマシではないか!」
「……貴様、その力は一体どういうことだ!」
「はて、何のことだかな」
自分にまるで歯が立たないユピテルモンたちを、プルートモンは嘲笑う。
一方で、ここまで露骨であれば、さすがにユピテルモンたちも気づいていた。彼は何か反則をしている、と。
「ふん。我はかの愚騎士たちや人間も面白いことを考えるものだと思っただけだ」
「何……?」
「現実世界に出たことで弱くなったが故か。外部からの力の供給で自らの力を増そうなどと……考えもしなかったわ!」
「そうか、貴様……向こうの世界にいた時間すべて使って――!」
「それにあの小僧にも面白いものを見せてもらった。あの危険物を使って他者を喰らい、自らの糧にするとはな」
あの小僧とは、アラタのことだろう。イーターの力でデュークモンやその他のデジモンたちを喰らっていた彼だ。
プルートモンに見られていたとしても不思議ではない。だが、プルートモンの物言いに、来人たちは引っかかるものを覚えた。
その物言いはまさか。
「貴様っ、何を考えている!」
アラタと同じようにイーターを使用したということではないのか。
だが、ユピテルモンの怒鳴り声を前にしても、プルートモンは呆れたような顔をするだけだった。
「何を言っている。使うわけ無いだろう。危険物は危険物。俺たちの世界にあれを持ち込むようなことがあってはならない」
プルートモンの言葉に、ユピテルモンはホッと安堵の息を漏らした。だが、次いでそんな彼を襲うのは疑問だ。ならば、なぜ彼のことを出したのか、と。
勘の鋭い来人だけではなく、この場の誰もがそのことについて嫌な予感を覚えていた。それこそ、アラタの身に起こっていたことすら知らず、興味もないユノモンでさえ。
「ふん。他者から力を奪うというのは、思いのほか便利だということだ」
「まさか……!」
「動きを止めた木偶に、扉を開けるのに夢中になっていた連中、力を貸したせいでろくに力も残っていなかった愚者――力を奪うのに苦労はしなかった」
そう、プルートモンはあちらの世界に行ってからずっと研究していたのだ。
自分の本来の力をできる限り早く取り戻す切欠を。それを探すうちに、アラタやロイヤルナイツのしていることを目撃し、それに切欠を得た。
「ふん、命だけは見逃してやったがな。ククク。感謝して欲しいものだ。この俺の力となれたのだから」
そして、プルートモンはイーターに頼らずとも、他者から力だけを奪う
まあ、奪えるのはあくまで力だけで、イーターを持っていたアラタのように存在自体を取り込んで自己進化する能力はないのだが――元が元であるだけに、彼には力だけで十分だった。たったそれだけで、ユピテルモンたちすら上回る強大な力を手に入れたのだから。
「ククク。これだけの力がありさえすれば、イリアスをも支配できる。もう貴様らオリンポスの時代は終わったのだ」
「やはり、それが目的か」
「当然だ。そのヒントを探すためにわざわざ世界を超えたのだからな。結果は期待以上だったが……」
このプルートモンがイリアスへと戻れば、冗談抜きで戦争になるだろう。オリンポス十二神とプルートモンとの戦争に。
下手すればホメロスが介入する事態になるかもしれない。いや、下手をしなくとも、神々の戦争に多くの罪のない弱き者たちが犠牲になるだろう。
そんなことは、断じて認められるものではない。ユピテルモンとしても――来人としても。
『カミサマ……何が何でも止めてくれ』
「無論だ」
来人だって、あの世界に思い入れがある。あの世界にいたのは少しだけだったが、友人と呼べるほどの者たちがいた。彼らは楽しそうに騒いでいるのがお似合いなのだ。
だから、彼らを悲しませる事態には遭わせたくなかった。
「弱者を気にかけ、罪人は滅する、か。だから貴様は甘いのだ」
「何だと?」
「何度も言っているだろう。弱者は虐げ、罪人には圧倒的な力の下に永劫の苦しみを与える! それこそ世界に相応しい姿だ!」
「愚かな……! そのような恐怖に塗れた世界にどれだけの意味がある!」
「ふん、ぬるい貴様らの矛盾した世界よりは遥かにマシだ。貴様らが世界を管理し、守護し……その結果があの哀れな鬼だろう」
哀れな鬼――おそらくはタイタモンのことを言っているのだろう。
確かに、彼はユピテルモンたちの犠牲者だ。ユピテルモンたちが平和を願い、謳い、目指し、その影に隠れてしまった者たちの代表だ。
「……それでも、我はこの道を往く」
「矛盾も抱えて、か。反吐が出る。……まぁいい。初めから貴様を認められるとも思ってはいない。貴様はここで終わる。無論、代替わりされては堪らんが……力を奪い取ってこの世界に放置すれば、例え戻ってこられたとしても手遅れになるだろう?」
そのためにプルートモンは来たのだ。
代替わりのシステムに組み込まれたオリンポス十二神を殺しても意味はない。であれば、事が済むまで動けなくさせてしまえばいいのだ。帰って来られようと来られまいと、イリアスを乗っ取ってしまえば関係がないのだから。
「そこまですればホメロスが動くぞ……!」
「ふん、アレがこの程度で動くものか。外敵や異常ならばともかくな。他に聞きたいことはないか? 冥土の土産に答えてやらんこともないぞ? ククク」
ユピテルモンたちを見下している。
そう単純な話ではないだろうが、やはりロイヤルナイツ数人分の力を溜め込んでるだけあって、プルートモンはずいぶんと余裕そうだった。
「……なんだ、血の気が多い者もいるじゃないか」
ふと、プルートモンが呟いた。
「おい、待てよ!」
『バカ……!』
プルートモンにばかり気を取られていたユピテルモンは、その瞬間に来人とメギドラモンの叫び声を聞く。
一体どうしたというのか。ユピテルモンがその事態に気づくよりもずっと早く――瞬間、甲高い音が辺りに響く。
「良い怒りだ。やはり貴様の性は俺側だな」
「ふざけないでもらえるかしら? ユピテルモン様の力を奪う……? 冗談にしては面白くないわ。下郎」
「ククク……俺に近しいという部分は否定しないのだな」
その音は、怒りのままに飛び出したユノモンが突き出す杖をプルートモンが防いだ音だった。
ユピテルモンを狙うプルートモンの言葉を聞いたからだろう。ついユノモンは攻撃してしまったのだ。怒りのままに、先ほどと変わらない攻撃を。
防いだからには、カウンターがある。ユノモンが回避に動くよりも早く、プルートモンの黒雷が落ちる――。
「させぬ!」
――瞬間、ユピテルモンが動いた。
「だろうな。そう来ると思っていた」
そんな呟きが辺りに響いた。
瞬間、轟音が世界を満たす。世界を黒が染め上げる。黒い波動が衝撃となって、辺り一帯を吹き飛ばす。まるで光という光を飲み込んでしまうかのような闇の雷が、世界を貫く。
今のプルートモンの全力の黒雷が落ちたのだ――。
「が……」
――ユノモンを助けようとした、ユピテルモンに。
身体が原型を保っているのが不自然なほどの威力、自身の格を遥かに超える一撃に、ユピテルモンは崩れ落ちる。
「あぁあああああああああああ! ユピテルモン様ぁあああああああああ!」
そんなユピテルモンを見て、ユノモンが黙っていられるわけがなかった。悲嘆に苦しみ、怨嗟に焦がれ、激情の波に支配される。
どんな手を使ってでも、最愛の夫を倒した咎人を恐怖と暴力で消さなければ気が済まなかった。
「ぁああああああああああああああああ! ころす……殺す、コロス、殺す、コロス、殺す! 殺して、殺して、殺して、殺してあげる……!」
狂気と殺意を纏う。
ユノモンは夫直々に禁じられたヒステリックモードを解禁する。
「死になさい……!」
拷問具のような残虐な姿となって、ユノモンはプルートモンを殺すため動く――。
「ククク。妻が傷つけられそうになれば夫が動く。夫が傷つけられそうになれば妻が動く。夫婦の業とはかくも愚かなものだな」
――だが、その瞬間に先ほどにも匹敵する黒雷がユノモンめがけて落ちる。
「ユ、ぴてる、もん……さま……」
ユピテルモンですら耐えられなかったソレに、ユノモンは耐える。身体を焼かれ、意識を持っていかれそうになっても、それでも進む。すべてはプルートモンを殺すために。
「ふん。そこまで奴を思うか。安心しろ、その力は共に俺の力としてやるわ」
弱りきったユノモンを掴み上げる。闇の雷がユノモンの身体を這い、その力を奪い取る――。
「“メギドフレイム”!」
「ぬっ……」
――直前、プルートモンの腕を業炎が焼いた。直後、深紅が駆けた。
その
「そうか、まだ貴様がいたか。これほどの炎……ククク。ずっと溜めていたのか。そいつらがくたばったその時も」
「……」
プルートモンは嗤う。ユピテルモンとユノモンの二人を助け出しながらも、たった一人で戦うこととなったメギドラモンの姿を。
「おい、オレはアンタのことが嫌いだ。オレの友達に穴開けるし、訳わからないことばっかり言うし、デジヴァイスの中じゃ偉そうだし……」
唐突なメギドラモンの言葉。だが、それはプルートモンに向けられたものではなかった。
「でも、そんなお前がカミサマの大切な奴だってことは知ってる。さっきもお前のために、カミサマが命を賭けたことも見てた」
「なんだ? 遺言か? そこの後ろに倒れる馬鹿共にか。ククク。いいぞ、言わせてやる」
「……やっぱりお前のことは嫌いだし、妻とか何とかはよくわかんないけど……でも」
メギドラモンは力強い目で、倒れたままのユノモンを見る。ここまで弱った彼女を見るのは初めてだった。
「友達の大切なもんだ。友達が悲しい顔するのも嫌だし――」
それは宣言だった。
それは謝罪だった。
自分に対する、来人に対する、ユピテルモンに対する、デュークモンに対する。
「――今だけだ。オレの友達のついでに守ってやるよ」
メギドラモンはそう言い切った瞬間のことだった。
轟音と共に彼に黒雷が落ちる。余りの威力に大地が砕かれ、土煙が舞う。メギドラモンは躱せなかった。
「ふん、話は終わったな。ならば、落ちろ」
プルートモンは嗤いに嗤う。
黒雷による土煙が晴れた。
「……何だと?」
彼は僅かに目を見開く。
そこには、いた。先ほどと変わって二本足で、先ほどと変わらないように立つ、巨大な魔盾を構えた者が。
「こっから先はオレが相手だ!」
構えた巨大な魔盾によって黒雷を防いだ者――それは、どこかデュークモンに似た混沌の騎士だった。
というわけで、第百九話。
プルートモン(補助付き)との戦闘回。
初端から押されに押される主人公たちの話でした。
そんなわけで、次回に続きます。
それでは次回もよろしくお願いします。