【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
アミたちへの
あの濃すぎる一日からはや数日。来人は、クーロンLV1へと戻ってきていた。
来人がこのエリアにいるのは、このエリアが一番安全だからである。ハッカーたちと彼らの連れているデジモンのレベルも高くなく、さらには野良デジモンのレベルも低い。
ここは他のエリアに比べて、比較的安全圏なのだ。
とはいえ、まあ、あくまで比較的のレベルでしかないのだが――そんなレベルでも、安全と判断するようになってしまった来人である。
『いつまで休んでいる。そろそろ下層に行くぞ』
「はいはい! わかってるよ」
休憩の終わりを告げるカミサマの声。
それに従って、来人は移動を始めた。相変わらずの隠密行動。ここ数日で、すっかり来人も慣れたものだった。
「でも、いつまで経っても必殺技とかできる気がしないんだけど……必殺技って種ごとで共通なんだろ? この身体……アイギオモンだっけ? の必殺技だけでも教えてくれないのか?」
『概要さえわかっていればできるというものではない。今の貴様は人間ではなく、アイギオモンなのだ。自分で掴み取らなければ意味がないだろう』
「だけどさ……」
『それに、貴様は一度必殺技を使っている。まさか忘れたわけではないだろう? できぬというわけではないのだ。用は慣れだ』
「……」
カミサマのスパルタ教育に肩を落としながらも、来人はあの時のことを思い出す。あの時、グラウモンと戦った時のことを。
あの時、来人は無我夢中だった。何をどうすればいいとか、そんなことを考えていたわけではなかった。思い返しても、何やら特別な感覚があったわけではない。
確かに、カミサマの言う通り、できないというわけではないのだろう。だが、今すぐにできるとは思えない来人だった。
『少し荒療治が必要やもしれぬな』
「不吉なこと言うのやめろよ!?」
『冗談だ』
「絶対嘘だろ。勘だけど、わかるんだからな」
そんな来人たちは、クーロンLV2を超え、クーロンLV3まで来る。この数日で何回か来たこともあって、十分に慣れた場所だった。
「さて……いい加減に敵を待つ戦法も飽きてきたんだけどな。もっと身体を動かしてぇ……」
『仕方ないだろう。派手に動いて奴らの目に留まるわけにも行かん。文句は言うな』
「わかってるよ……」
敵に襲われるのを待つ、そんな待ちの方法に来人は飽きてきていた――見える光景が、どこまで行っても似たような光景であることも、それに拍車をかけていた。
まあ、それも仕方のないことだ。彼はこの数日、暇な一日ずっと待ち続けているが、それでも戦闘にまで発展したのはほんの数回なのだから。
なぜか野良デジモンたちは、ハッカーたちに戦いを挑んでいくことはあれど、来人に戦いを挑むことは少なかったのだ。
「なんで野良デジモンは俺たちを襲わないのかね? 血の気が多い奴らばっかりじゃないのかよ?」
『誰もそこまでは言っておらんが……むぅ。もしかしたら、我々と同じなのかもしれんな』
「同じ……? ……あぁ、そういうことか」
カミサマの言葉の意味に、来人は一瞬遅れて気づいた。
来人が野良デジモンだけを実戦トレーニングの相手として狙うのは、ハッカーたちを相手にするのはリスクが大きすぎるからだ。
ハッカーたちに会えば、捕まってしまう可能性が高くなる。来人は捕まりたくない。だから、来人はハッカーたちを避け、野良デジモンを狙う。
「つまり、野良デジモンたちは、捕まりたくないからあいつらを積極的に狙うってことか。やられる前にやれって……本末転倒じゃないか?」
『ついでに言えば、奴らを相手余力を残すために貴様をあえて避けている可能性もある。無論、そうでない者もいるにはいるだろうがな』
彼らのしている行動は、来人の逆。それでも、その根幹にある思いは変わらない。すなわち、ハッカーたちに捕まりたくない。
もちろん、そうでない者もいるだろうし、もっと下層にいるであろう自分に自信がある者たちならば違うかもしれない。
ここにいるのは、成長期や幼年期、良くて成熟期といった若い部類のデジモンたちばかり。だからこそ、このような事態が起こっているのだ。
「そうなると……ここだと効率が悪くないか?」
『しかし、これ以上下層に降りても、ボロボロにされる可能性が高くなるだけだ。ボロボロで済めばいいがな』
「結局、地道にやっていくしかないってことか。時間ないって言ってたけど……」
『わかっている。致命的なまでの無茶をさせる気はない。……全くうまくいかないものだな』
「まったくだ」
見つからないようにハッカーたちを躱していく来人は、多少のことでは動じずに、カミサマと話す余裕さえあった。本当にこの数日で慣れたものであある。
『む。あれは……奇妙なことになっているな』
そのカミサマの声は、訝しむような、それでいて面白がっているかのような声色で。今までで聞いたことのないようなその声色に、来人は首を傾げながら視線を移す。
そこにあった光景は――。
「何が? って、あれか」
――どこかで見たような黄色い恐竜と獣の皮を被った一角の生き物が、ハッカーたちに追い掛け回されている光景だった。
『まさか妙なことを考えてはないだろうな?』
「え? いや……だって、助けた方がいいだろ」
彼らは必死に逃げ回っていて、追う側のハッカーたちはそんな彼らを嘲笑っている。人として見過ごせるような光景ではなかった。
これを見過ごすのは、人としてダメだろう。来人はそう思う――が、そんな来人に反して、カミサマはいつになく辛辣だった。
『大丈夫だから放っておけ。なぜああなっているかは知らぬが、あの者がそう簡単にどうこうなるものか』
「……?」
カミサマのそんな言葉に、来人はどこか違和感を覚えた。が、どこが引っかかったのかがわからない。
わからないままで、来人は追い掛け回されている彼らを見て――そんな彼らは、カミサマの言葉に反して追い詰められていっていた。
「ちょ、おい! 大丈夫じゃねぇ!」
『大丈夫だ。妙なことになっているが、奴があの程度の奴らにどうこうされるとは思えん』
来人を宥めるようにカミサマは言う。が、やはり来人には、目の前の彼らが大丈夫だとは思えなかったし、大丈夫ではないといつも通りに勘が叫んでいた。
だからこそ、カミサマの言葉を無視して、来人は走り出して――。
『……やれやれ。奴らに恩を売るのも一興か』
――そんなカミサマの声を、来人は聞いた気がした。
カミサマがあの二匹の何を知っているのか、来人は知らない。が、助けようとしている来人に何も言わない辺り、おそらくカミサマも内心では気が気でなかったのだろう。
まったくもって素直ではない、と。そう、来人は内心で苦笑した。
「ちょっと待て!」
静止の声を上げながら、二匹の前に飛び出る来人。
そんな来人の姿に、ハッカーたちは驚いたようだった。
「はァ? 誰……おぉおおおおお!? 見たこともないデジモン……! 超レアっすよ!」
「ほう? デジモンが正義の味方気取りか? 文句でもあるってかァ?」
目を輝かせるハッカーたち。その視線は、ハッカーたち特有の、品定めするかのような、そんな気持ち悪い視線だった。
これが現実世界だったのならば、来人は嫌な汗をかいていただろう。
「き、君は……?」
「助けてくれるの……?」
黄色い恐竜と獣の皮を被った謎生物の二人が、呆然と言う。そこには、助けが来てくれたという、安堵の声色が含まれていた。
『アグモンにガブモン……貴様らはなぜ本気を出さない?』
まるで問い詰めるかのような、真意を問うカミサマの言葉。だが。
「えっ!? 今の声は……?」
「ほ、本気……? どういうこと……?」
『どういうこと、は我のセリフなのだがな。……記憶を失っているのか?』
カミサマにアグモンと呼ばれた黄色い恐竜も、ガブモンと呼ばれた獣の皮を被った謎生物も、その声に驚くだけだった。そこには望んだ答えなどなく、カミサマは混乱するしかなかった。が、とはいえ、だ。
カミサマが混乱しようとしまいと事態は進む。混乱するカミサマの前で、二人のハッカーたちは来人を面白そうに見つめていた。
「ふぅん? いいっすね! これは思わぬ拾いものっす!」
「まずはボコボコにして、生意気に首突っ込んだこと後悔させてやるよォ!」
叫びながら、ハッカーたちは自らの端末を操作。自分たちのデジモンを出した。現れたのは、緑色の小鬼と黒い猫。
いつものことながら、いきなり出てくるのはズルいと思う来人だった。
「今度は出す前にどうにかしてやる……!」
『ゴブリモンとブラックテイルモンか……ゴブリモンは成長期だが、ブラックテイルモンの方は成熟期だ。一対二という状況もある。油断するな』
「わかってるよ! ってか、え? 成熟期……? あれが……へぇ。見かけによらないんだな」
小鬼がゴブリモンで、黒猫の方がブラックテイルモンだ。
わかりやすい名前とありがたいカミサマの説明に頷く来人。だが、そんな来人は思うことがあった。見た目詐欺だろ、と。
今まで来人が見てきた成熟期デジモンは、みなゴツイデジモンばかりであった。だが、ここへ来て見た目の可愛らしいブラックテイルモンが成熟期デジモンという事実。
それには、来人は驚くしかなかった。
「何をごちゃごちゃ言ってやがる! やれっ!」
「行くっす!」
ハッカーたちの指示を受け、二匹のデジモンたちは来人へと襲い来る。
一方の来人はそんなデジモンたちを前にして、動き出した。狙うは、ゴブリモンだ。弱い方から先に倒して、同格相手は一対一でじっくりと。それが来人の考えである。
「ぉおおおおおおお!」
叫び声と共に、ゴブリモンはその手の棍棒を振り下ろす。が、遅い。スピードから、何から何まで。成熟期どころか、成長期デジモンと比べても郡を抜く遅さだった。
「もしかして……弱い?」
首を捻りながら、来人は棍棒を躱す。躱しついでに、蹴りを入れて――。
「ぐはっ!」
――ゴブリモンは、その蹴りをあっさりとくらった。
それどころか、それきりで倒れ込んだ。起き上がる気配はない。死んだふりではなさそうである。
「えぇ……」
『これは……ひどいな』
あまりの弱さに来人どころか、カミサマまで思わず声を出した。
それほどまでに、ゴブリモンは弱かった。とはいえ、その弱さすらも作戦だったというのならば、大成功だろう。あまりの弱さに、敵の気を逸らすという作戦だったのならば。
来人は確かに、ゴブリモンの弱さに気を逸らしてしまったのだから。
「にゃあっ!」
「っぐ……!」
そんな来人めがけて、ブラックテイルモンが強襲する。
いくら戦闘に慣れてきたとは言え、不意打ちを防げるほどの技量を来人が持っているはずもない。その一撃をくらってしまった。
一瞬、ホワイトアウトする来人の視界。そんな彼の視界が戻るよりも早く――。
「ニャアッ!」
「がっ……」
「ニャニャニャァ!」
「痛っ!」
――いくつもの鋭い痛みが、来人を襲った。
傷と痛みだけが増えて行く。来人も必死に抵抗はするものの、視界が回復しきっていない現状で、その抵抗は意味をなさなかった。
一方的にやられる現状に、来人の心の中に焦りだけが溜まっていく。
そんな時のことだった。
「お願いみんな!」
「わかったわ! “ポイズンアイビー”!」
「オッケ~! “ブレイジングファイア”!」
「“ダークネスギア”」
「にゃぁあああ!」
来人の耳に聞こえたのは、聞き慣れた声と聞き慣れぬ声たち、そして猫の悲鳴。
嫌な予感だけが、来人を支配する。先ほどまでとは別の意味で、焦りが自分の中に溜まっていくのを来人は感じていて。
そして、視界が戻った来人が見たものは――。
「君この前の子だよね!? 大丈夫!?」
「ってか、傷だらけじゃん! 手当しないと!?」
――自分の顔を覗き込んで来て心配の声を挙げている、見覚えの有りすぎる赤髪の女子二人組。
そんな二人の姿を前に、来人は自分の表情が引き攣っていくのを感じたのだった。
というわけで、第十一話。
アグモンとガブモンに出会った来人でした。
まあ、すぐにみっともない姿を晒してしまいましたが……大丈夫です。
この件のうちにちゃんと汚名挽回します。ある意味で。
さて、次回。
サイスル界で上位に入るほどのかませ兼濃いあのキャラがついに登場します。
それでは次回もよろしくお願いします。