【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第百十話~混沌の騎士が繋ぐ未来への道~

 メギドラモンに変わってそこにいたデュークモンに瓜二つの騎士――全体的に暗い色の鎧のその騎士は、カオスデュークモンと呼ばれる騎士だった。

 

「なるほど、カオスデュークモン、か。先の邪竜と同一視される……見る者によって姿が変わる騎士。とされているが、さて」

「行くぞぉっ!」

「ふん、ちょうどいい。向こうでの騎士は手応えがなかったからな。貴様からその分の力を奪ってやる」

 

 先ほどデュークモンから受け取った力がメギドラモン自身の内部で混ざり合い、その結果として表われた姿。それこそがこのカオスデュークモンだった。

 つまり、このカオスデュークモンは通常のカオスデュークモンとは似て非なる存在であるとも言えた。

 

「はぁっ!」

 

 カオスデュークモンは踏み込み、一足ででその距離を詰める。プルートモンに接近した直後に、その槍を振るう。

 

「くらえっ! “デモンズディザスター”!」

 

 瞬間、その手に持つ魔槍が霞んだ。放たれたのは魔槍での高速連撃。ただの連続する攻撃と思うがなかれ、その一撃一撃が並のデジモンならば防ぎようのないほどの威力を誇っている。

 槍という武器全体を使って行われる打突攻撃がプルートモンを襲う。

 

「このような児戯で俺が傷つくとでも?」

 

 だが、それら一撃一撃をプルートモンは軽く捌く。

 時には躱し、時には防ぐ。魔槍による連撃は一撃たりとして彼に当たることはない。

 

「ならばっ!」

 

 とはいえ、それだけで諦めるつもりは毛頭ない。カオスデュークモンは奇を狙う。連撃の途中で、盾を使って殴りかかったのだ。

 これにはプルートモンも僅かに驚きの色を見せる。だが――。

 

「これで終いか?」

 

 ――カオスデュークモンの上半身を越えるほどの大きさを誇る巨大な盾は、プルートモンの手のひらによって受け止められてしまった。それもあっさりと。

 

「……っ!」

「ならばこちらの番だ。ククク。俺に歯向かったことを後悔させてやる」

 

 黒雷が落ちた。直撃ではない。

 だが、間近に落ちたその衝撃でカオスデュークモンは吹き飛ばされる。急いで体勢を立て直したカオスデュークモンが見たのは、今度こそ自分めがけて来る黒だった。

 

「っ……! はぁっ!」

 

 咄嗟に、カオスデュークモンはその放たれた黒雷を盾で防ぐ。まるで大雨の後の濁流の中にいるかのような、押し流されそうになるほどの強大な力を受けて、それでもなお必死に防いだ。

 

「ククク、耐えるか。なら、これならどうだ!」

 

 盾にぶつかる黒雷が太く濃いものとなる。気を抜けば、盾ごと自身を持っていかれそうな気さえする中で、カオスデュークモンは防ぎ続ける。

 もちろん、ただ防ぐだけではいずれ楯を抜かれて負けるだけだ。だから、そうなる前に突き進む。プルートモンとの距離はまだまだある。そんな中を、防ぎながらも、一歩一歩確実に詰める。

 

「ぉ――」

 

 今、彼がしていることは竜巻の中に人間が飛び込んで耐えようとするくらいの暴挙だ。だが、まだあるプルートモンとの距離を前に、これ以外に道を見つけられないのだから、彼は頑張る。

 

「――ぉぉ!」

 

 そう、ただ頑張るのだ。

 その一言だけで片付けられるようなものではないというのに、彼はそれだけで突き進む。たったそれだけで、あと少しの距離を、次第に勢いが強くなっていく黒雷の中で耐えるのだ。

 

「ぉおおおおおおおおおぉぉ!」

 

 黒雷を防ぎながら進むその様は、まるで闇を切り裂いているかのようだった。迫り来るカオスデュークモンの姿に、プルートモンは僅かに眉を顰め、特大の黒雷を放つ準備をする。

 

「ふんっ!」

 

 そして、特大の黒雷が放たれる。

 暗闇が世界を切り裂くかのように突き進み、カオスデュークモンの盾に直撃する。凄まじい威力に、僅かに彼は押し戻された。

 だが。

 

「ま、け、る、かぁああああ! “ジュデッカプリズン”!」

 

 目と鼻の先まで来て、押し返されたのでは堪ったものではなかった。

 盾を構えたまま、カオスデュークモンは技を放つ。盾から放つ、すべてを腐食させる暗黒波動を。地に足を踏みしめ、自らの技の反動と黒雷の勢いに負けないように踏ん張りながら、持てる力すべてを注ぎ込む。

 僅かに、本当に僅かに暗黒波動が黒雷を押し返した。

 

「これはっ……!」

「ぁあああああああああああ!」

 

 そこまで来て、傍観している場合ではないと悟ったのだろう。プルートモンも放つ黒雷に全力を注ぎ始める。

 僅かに押し返された黒雷が暗黒波動を再び押し戻した。

 

「舐めるな……よ――」

 

 カオスデュークモンは力を込め続ける。

 彼の背後にいる二人で一つの友人たちの姿が彼の脳裏に思い起こされた。同時に、その友人たちとの思い出も。

 今思えば、不思議な関係である。ただ面白いことが好きで、だからこそ面白いことに飛び込める強さを求めていて、感覚だけで一人生きていた彼。彼らは、そんな彼にできた初めての他者だった。

 始まりは何となくだったし、共にいなかった時もあったが、それでもどんな時にも彼の心の中には彼らがいた。“そこ”に彼らがいたから、彼はここにいるし、ここ最近の彼の日々は今までにないほどに充実していたと思えるものだった。

 

「舐め、るなぁよぉ!」

 

 だから、彼はこうしているのだろう。イリアス云々の事情も理屈もなしに、彼はただいつものように感情だけで動いているのだろう。

 

「ぁあああああああああああ! 押し切れェええええええ!」

 

 デュークモンに貰った力を使い果たすつもりで、彼は力を一段と込める。限界もなにも知ったことではなく、仮にそれがあるならば今だけ越える気概で込める。

 

「ぬぅう!」

 

 始めてプルートモンが苦悶の声を上げた。

 一段と黒雷の勢いが強くなる。が、同時に暗黒波動の力も強くなっていった。

 そして、永劫にも続くような一瞬の直後に世界の中心で黒が爆ぜた。二つの黒が混ざり合い、黒を超えて、世界を暗闇が包む。

 

「むぅ!」

 

 視界が塞がれて、一瞬だけプルートモンは顔を顰める。無論、その顔の歪みは視界が塞がれたことに対するものだけではないのだが。ともかく、腕を振るう。視界を晴らした――。

 

「ぁあああああああああ!」

「何!?」

 

 ――だが、視界が戻ったそんな彼の目に飛び込んできたのは、()()()()()()が迫り来る光景だった。

 

「へへっ。どうだ! “メギドォ――」

「っく……しまっ――」

「――フレイム”ゥウ!」

 

 先ほどの暗黒波動には劣るが、それでも十分高威力な業炎の一撃だ。それをゼロ距離で受けては、さすがの今のプルートモンもノーダメージとはいかない。それなりのダメージを受けて、彼は苦悶の表情を見せる。

 だが、それと同時に彼は全力でメギドラモンを蹴り飛ばした。

 

「がっ!」

「クハハハ! さすがに今のは肝を冷やしたぞ! だが、まぁ……火力不足だがな。騎士の姿を保てていたのならば、危なかったやもしれぬな!」

 

 プルートモンは地面を転がったメギドラモンに笑う。まさか今の自分にここまでの手傷を負わせられるとは思わなかった、と。

 そう言う彼の身体には、僅かな火傷の痕が刻まれていた。

 

「もはや聖騎士から受け取った力もないか? ふん、ならばいい。苦しみに悶えるがいい。それが貴様が背負う咎よ」

 

 漆黒の雷がまるで獣の口のように形作られる。

 歯向かうものすべてを噛み砕くかのようなその黒雷は、実際には敵に食らいつき、死ぬまでの間をずっと苦しめる錠だった。

 

「俺はこれから調理があるのでな。せいぜい苦しめ」

 

 そんな別れの言葉。放たれたのは獣の口にも似た黒雷。それが未だ体勢を整えられていないメギドラモンを襲う。

 

「……まだ動けたのか」

 

 黒雷の獣が通り過ぎた光景を見ながら、プルートモンは静かに呟いた。彼には見えていたのだ。誰かがメギドラモンを抱えて、黒雷を躱した瞬間を。

 この状況でそれが誰かなど言うまでもない。

 

「ライト……! お前大丈夫なのか!?」

 

 それはアイギオテュースモンとなった来人だった。

 先ほど気がついた彼らは回復のためにもすぐに退化した。横でカオスデュークモンとなったメギドラモンの戦いを感じながら、なるべく早く戦線復帰できる程度の回復を望んでいた。

 そして、最低限戦線復帰できるレベルまで回復できたからこそ、来人はメギドラモンを助け出せたのだ。

 

『ま、無事ではないがな』

「けど、メギドラモンが時間を稼いでくれたおかげだ」

「……へへ。なら、よかったぜ。オレも頑張った甲斐があった」

 

 とはいえ、状況は改善されていない。

 来人の身体は未だ傷だらけだ。しかも、最低限しか回復していないからこそ、ユピテルモンになることができない。完全体の身で、反則的強さとなっているプルートモンを相手しなければならないのだ。

 しかも、未だに気を失っているユノモンが近くに転がっている。

 

「しぶといな。それもバグか?」

『さて、考えたことはないな。それに、反則はどちらかといえば貴様だろう』

「ククク。違いない」

 

 プルートモンは自信満々に嗤っていた。

 

「……ライトは行けるか?」

「ま、行くしかないよな」

「オレはデュークモンからもらった力は使い切っちまった」

 

 一方の来人たちは話し合いながら、プルートモンの様子を見る。そして、見ればその手には黒雷が弾けていて――。

 

「っ!」

「うわっと!」

 

 ――全力でその場を跳んだ。直後、彼らの一瞬前までいた場所に黒雷が落ちる。

 躱すことはできたが、そのせいで来人とメギドラモンは分断されてしまった。

 

「なんだ。弱いくせに一度助かった程度で油断している阿呆に一撃を、と思ったのだがな。ククク」

「いやらしいことこの上ないな」

「ふん。弱者の事情など知ったことか。だが……貴様らにとっては時間切れ、という奴ではないのか?」

「時間切れ? っ、まさか――!」

 

 嘲笑を浮かべたプルートモンの言葉に、来人は血の気が引いたように上を見た。イーターに犯されたこの世界の空。だが、そこにはなかった。先ほどまで僅かに開いていた次元の扉が。

 それの示すところはつまり、プルートモンの言う通りの時間切れということだった。

 

「……そんな」

『むぅ……』

 

 次元の扉が繋がっていなければ、両方の世界に時間逆行現象は起きない。例え、アミたちがマザーイーターを倒してこの世界が救われたとしても、人間世界は救われない。

 事態が悪い方向に突き進んだような気がして、来人もカミサマもショックを隠せない。

 

「そうだ、その顔だ。希望が潰えた瞬間の顔! 貴様らのその顔が見たかったのだ!」

 

 そして、そんな来人たちの様子をプルートモンは嗤う。

 自分にとって不倶戴天の敵であるカミサマのそんな状態など、今まで一度として見たことがなかったからこそ、彼は生まれてから最も気分が良かった。

 

「ククク。良いものが見れた。これだけでもここに来た甲斐があるというものだ」

 

 言いながら、プルートモンは黒雷をその手に生み出す。ショックを受けている来人をいたぶるつもりだった。

 そのまま放つ。生かさず殺さずの絶妙な加減をした黒雷を。

 だが――。

 

「――……む」

 

 ――来人は躱した。

 無論、躱せたのは加減された一撃であったからこそだ。だが、もう躱そうとする気力もないと思っていただけに、プルートモンは僅かに顔を顰める。

 

「ライト」

『来人』

 

 メギドラモンとカミサマの心配の声が上がる。

 来人はゆっくりと首を振った。まるで恐れを振り払うように。

 

「大丈夫だ。勘だけどな」

 

 その言葉に、カミサマは僅かに息を呑む。そして、笑った。

 

『はは、そうか』

「……まずはここを乗り越えるぞ! 何もかもがそれからだ!」

『そうだな!』

 

 来人たちは先ほどまで絶望に沈んでいたはずだ。だというのに、いつの間にか立ち直っている。それが、プルートモンには妙に腹立たしく、そして気味が悪かった。

 

「人間が……不愉快だな、その目は。まるで先を見通しているかのような、暗闇にあって光を見つける目は。人間如きが暴慢が過ぎる――!」

「は、何を言うかと思えば。ま、勘が良いって言うのも考えものなんだけどな……“ライトニングパイル”!」

 

 言いながら、来人は雷の杭を投げた。真っ直ぐに飛んでいく杭は、同じ軌道を飛んでくる黒雷に消される。もちろん、雷杭を消した程度で止まる黒雷であるはずがない。

 自分めがけて飛んでくる黒雷を、来人はギリギリで躱した。

 

「ったく、向こうの方が技の出が遅いのにこっちより疾くて強いとかやってられないな!」

『次が来る。四の五の言わずに躱せ!』

「わかってるよ!」

 

 死を運ぶ黒雷が、いくつも降り注ぐ。

 来人もメギドラモンもそれを躱す。必死に躱し続ける。

 時折頭を掠って角の先端が消失したりなんだりと危ういところもあったが、来人たちは何とか生きていた。本当に、何とかであるが。

 

「ふん。よく躱す。逃げ足だけは褒めるべきか?」

「……わざと躱せるレベルで撃ってるくせによく言うよ」

「当然だ。貴様のような、いや、貴様らのような奴こそ苦しみと絶望の中で死ななければ意味がないのだからな。とはいえ、まぁ、ならばこそ脆いところから狙うという手もあるか」

 

 そう言ったプルートモンがチラリと覗き見たのは、未だ気絶しているユノモンだった。

 

『来人!』

「わかってる!」

 

 プルートモンが何を考えているのかがわかって、来人たちは焦る。目の前で、黒雷がユノモンめがけて突き進んだ。

 まずい。一瞬だけ、焦りのままに来人たちは気が逸れた。瞬間、ユノモンめがけて走っていた黒雷が()()()()。一直線に来人たちめがけて。

 

「っ!」

 

 雷は疾い。

 持ち前の勘で気づいた来人は咄嗟に躱そうとしたものの、あくまで躱そうとできただけだった。曲がった黒雷が、来人を撃ち抜く。

 

「がぁっ!」

 

 消滅こそしなかった。だが、その身体は焼け爛れを超えて溶けかけている。

 引き裂かれるような激痛が彼らを襲う。しかも、激痛云々以前に身体の感覚さえもなくなって、来人は倒れ込んだ。

 

「ライト!」

「ククク。終わりのようだな。そこで見ていろ。貴様の大切なものが苦しむ様を。そうすれば、少しはその不愉快な目もマシになるだろう」

 

 メギドラモンがプルートモンの気を引こうとしている中、来人は激痛に苦しみながらも必死に立ち上がろうとする。

 だが、身体は彼の意思に反して動かないままだった。この感じには覚えがある。何度か味わった、死の感じだ。

 

「……く」

 

 死という限界が近づく中、来人は必死に抗おうとしていた。ふと、自分の内側でもカミサマが抗おうとしているのを感じた。

 それでも容赦なくやって来るそれに、来人は意識を持っていかれる――。

 

「む?」

「これは……やったんだな! おい、ライトー! 寝てる場合じゃねぇぞー!」

 

 ――その直前で、有り得ないものを見て目を見開いた。

 まるで時が巻き戻っていくかのようにゆっくりと、だが確かに、イーターに侵されていた世界が元に戻っていく。

 これは、やはりそういうことだろう。

 

「はは……ア、イツ……本当に……!」

 

 この現象の示す意味、それはアミたちが一足先に最後の激闘を制したということだ。

 ()()()()不甲斐ない結果になってしまって、来人は力なく笑う。

 そして、この直後のこと――空に巨大な穴が空く。それはまさに次元に開けられた穴だった。その穴の先、そこに覚えのある十の気配があって、そして青と赤が見えた。

 

『これは……我々も寝ている場合ではないな……!』

 

 慣れ親しんだ気配を感じて、カミサマも力なく笑う。

 身体に力が戻る。乖離しかけていた意識が繋ぎ止められる。

 アミたちはちゃんと自分たちの戦いに決着をつけたのだ。

 彼らは宣言通り、いや、宣言以上に駆けつけてくれたのだ。

 だったら、どうして自分たちがここで終わることができようか――来人たちは彼女たちの、彼らの、全員の姿を思い描き、そして笑う。

 

「今度は俺たちの番だろ。な、カミサマ?」

『そうだな。行こうか』

 

 来人たちは立ち上がった。しっかりと二本の足で立っていた。

 そんな来人たちめがけて、再度の黒雷が落ちる。

 

「悪いけどな……!」

『我も来人も、ここでは死なん!』

 

 迫り来る黒雷。それを、来人はその手に生み出した雷で切り払った。

 

「さっさと終わらせなきゃいけないからな。俺たち(我々)も限界を超えて、正真正銘の全身全霊で行くとしよう!」

 

 そして、再びこの場に天の神が降誕した。

 




ついにデジモンリンクススタートしましたね!
テンション上がって加筆修正したら、文量が増えに増えて……どこで切ろうか悩んだ末、変なところで分割しちゃった気がする第百十話です。

次回、決着です。加筆修正しているうちに文量がエラいことにならない限り、ですが。

それでは次回もよろしくお願いします!
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