【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
時は少しだけ遡る。
人間世界で次元の扉を開くことに専念していたスレイプモン、アルフォースブイドラモン、ジエスモン、マグナモン――元ロイヤルナイツの面々、彼らはプルートモンに力を奪われた。
結果、彼らは成長期の姿へと退化してしまい、ろくに動くこともできずに人間世界の片隅に転がっていた。
「く、せっかくもう少しだったのに!」
「むむむ! う、ご、かな……い……!」
「リナにど突かれる。くそぉ!」
「っく、情けない! あの程度の不意打ちで! 覚えていろ!」
スレイプモンが一際大きい怒りの声を発する。それはこの場の誰もの共通の思いだった。
他人に最も重要な戦いを任せたというのに、自分たちは任せられた戦いすら満足にできないのか、と。
上空を見る。もう閉じてしまった次元の扉を、彼らはさまざまな思いで見ていた。だが、根底にあるものは同じだ。怒りと悔しさ、それだけである。
「……だからって、諦めるのかい?」
そんな時だ。地面に転がるだけの彼らに語りかける、新たな者がここに現れたのは。
青い子竜とでも言うべき、その小さなデジモン。ブイモンと呼ばれるデジモンだった。
「お前……アルフォースブイドラモン!?」
そう、そのブイモンこそ、
先ほどまで次元の扉を開き続けるために奮闘していたとあるテイマーのアルフォースブイドラモンとは違う、正真正銘、この世界のロイヤルナイツに名を連ねていたアルフォースブイドラモンの退化した姿である。
「私はこんな姿だったからね。それに、もう一人のアルフォースブイドラモンがいたこともあって、気づかれなかったみたいだ」
元々次元の狭間にて消耗していたブイモンは戦力外通告を受けて、今回の作戦には関わらなかった。皮肉にも、そのおかげでプルートモンに力を奪われなかったのだ。
「多少無茶だけど、私は行く」
力強く言い切った彼は、転がったままの者たちを見る。
「君たちはそこで転がっているだけか?」
「……」
「そんなわけないだろ? 仮にもロイヤルナイツに名を連ねた者なのだから――」
「言われなくとも、当たり前だ……!」
ブイモンの言葉を遮って、スレイプモンだったデジモンがフラフラとよろけながら立ち上がる。いや、彼だけではないか。この場で転がっていた誰もが起き上がっていた。
「ふっ。フラフラだが、宛はあるのか?」
「……ある。些か賭けだが、今の状況ならばもしや――」
「ああ、それがきっと正解だ。大丈夫、今しがた確かめてきた」
考えることは同じだ、そう言ってブイモンは頷いた。
「私は先に行く」
もはや一刻の猶予もないからこそ、ブイモンはすぐさま動く。
その瞬間にアルフォースブイドラモンへと進化する。もちろん、彼は快復しきったわけではない。ただ、命を使い切るつもりで進化しただけだ。
上空へと猛スピードで駆け上がっていく。そんな彼の一方で――。
「頼む、起きてくれ。袂をわかった身といえど、我らの思いは一つのはずだ!」
――地上に置いてきた面々はその僅かに残った力のすべてを、命を顧みずに分け与えていた。遠くにいる死にかけた“彼”に。
彼――イーターに侵食されて退化していた彼。プルートモンに力を奪われ、他の者たちと同じように退化していた彼。だが、直前の作戦によってイーターから解放され、また退化したことで、本当に一応ながらもデジモンとしての機能を取り戻した彼。
「……」
そんな彼も、今は小さな緑色の子竜へと退化してしまっている。倒れ込んだまま動かない。つい先ほどまでイーターに侵食されていた彼だけは、他の面々と違って死に向かっていた。
それでも。
「頼む!」
「お願いだ!」
「任せます!」
「我々の世界を、守るのだ!」
そんな、命懸けの者たちの想いが伝わったのだろう。
緑色の子竜は静かに目を開いた。死にかけているからか、それとも別の理由からか、今の彼では状況を考えるだけの思考ができなかった。
だが、それでも。ボンヤリとした意識の中で、仲間たちの声を聞いた。
「……グ、ギャァアアアアアアアアアアアアア!」
そして、彼は動き出す。小さな子竜が、再び竜帝へと返り咲く。
竜帝エグザモン、彼がスレイプモンたちの捨て身の献身によって再び動き出した。
「グギャァアアアアアアアアアア!」
いかにデジモンとしての機能を取り戻したとはいえ、今の彼は存在そのものが虫食い状態にも等しい。さらに死ぬ間際だということも相まって、万全とは程遠い。
一個体のデジモンとしてみれば、イーターに侵食されていた時よりも異質かつ貧弱だろう。
だが、それでも彼は動く。ろくに思考もできず、ろくな力も持てない身で。
そこにあるのは、同胞たちに託された想いと、僅かに残った彼自身の想い――すなわち、故郷を救いたいという強い想いだ。
「グギャァアアアアアアアアアア!」
「来たか! 大丈夫か?」
「グギャァ……ガ、ギャァアア!」
「ああ、世界にも我々にも時間がない。行こう!」
そして、アルフォースブイドラモンとエグザモンの二人は行く。
彼らのしようとしていることは単純だ。
先ほどまで次元の扉が開いていた場所、そこに強大なエネルギーをぶつけることで強引に空間を引き裂き、穴を穿つ。そして、空いた入口を片方が押し広げ、片方がデジタルワールドにたどり着いて出口を作る。そうすることで、再び次元の扉を作り出す。
「おぉおおおおおお! “シャイニングVフォース”!」
「ガァアアアアアア! “ペンドラゴンズグローリー”!」
二つの力が空間に穴を穿つ。
エグザモンがその穴をたった一人で押し広げる。彼は頷いた。入口は作った。あとは出口だ。アルフォースブイドラモンも頷き返す。
その穴を通り、アルフォースブイドラモンは出口を作るために疾走する。次元の狭間という中で、今にも消えそうな、僅かに残る痕跡を頼りにして行く。
「っく……!」
アルフォースブイドラモンはうめく。
無茶をしたツケか、今の彼は身体が消えそうな感覚を味わっていた。
「ふっ、このアルフォースブイドラモンを侮るな!」
それは誰に言うでもない、自分に宣言した叫びだった。自分に向けた鼓舞だった。
息も尽きそうになる中、彼はついにたどり着く。次元の狭間において漂ってくる気配がある場所。そこは僅かな痕跡が残る場所と一致していた。
この“向こう”に故郷がある。彼はそれを確信した。
「“アルフォースセイバー”!」
一閃。
全力でもって振り抜かれた両腕の剣が、空間を引き裂く。その向こうに、黒雷の迸る世界が見えた。
彼はやったのだ。やり抜いたのだ。だが、その瞬間のこと。彼は自分の身体が動かなくなるのを感じた。無茶をしたが故に、限界が来てしまったのだ。
「あ、ああ……!」
動け、と彼は自分の身体に命令する。
まだ終わりではない。今開けた空間の裂け目は放っておけばすぐにでも閉じてしまいそうなほどだ、それを広げなければならないのだ。
だというのに、彼の身体は動かなかった。
「う、ご……け……!」
だが、やはり彼の身体は動かない。
彼は必死に手を伸ばす。伸ばして――。
「……!?」
――その手を、誰かに掴まれた。
「やれやれ、脳筋騎士はこれだから……。もっと簡単で賢いやり方が他にあるだろうに」
驚きと共に、目だけを動かしてアルフォースブイドラモンは自分の手を掴んだ誰かを見る。
それは神だった。狼の仮面を被った神、メルクリモンだ。
「お、前は……」
「事の成り行きは知っている。イグドラシルの問題なんてどうでもいいんだがな。まぁ、なんだ。俺たちは“アイツ”に借りもある。奴が迷惑をかけた詫びもできちまったしな」
メルクリモンの言葉と、そして彼の後ろの光景に、アルフォースブイドラモンは目を見開いた。
そこには神々がいたのだ。十柱の神々、ユピテルモンとユノモンを除いたオリンポス十二神の面々が。
「お前らのためじゃない。ない、が……あとは任せておけ」
メルクリモンたちは頷き合う。
彼ら全員が、アルフォースブイドラモンの広げた僅かな穴を広げるべく動く。
そんな彼らの姿に、アルフォースブイドラモンも自分自身に喝を入れた。動けないからと、ここで立ち止まる筋があるものか、と。
「っふ、私を舐めないでもらおうか……!」
力を振り絞り、動く。
「いけるの?」
「む、ろんだ!」
「そう……」
近くにいた月の神の無感情なまでの心配の声、アルフォースブイドラモンは力強く返す。すぐさまオリンポス十二神に混じって、穴を広げる。
遠くで赤き巨竜の咆哮が聞こえた。
「おぉおおおおおおおお!」
力を振り絞って、アルフォースブイドラモンも叫ぶ。
世界を超えて、オリンポスの神々とロイヤルナイツが協力する。そして、穴は再び開いた。
えー……というわけで、第百十一話。
ここで分割するなら、原作主人公勢の戦いも描いた方がいいだろうか……でも、それすると三話くらい取られるよなぁ……などと、いろいろと考え迷った末、分割することになりました。
なお、やはり原作主人公勢の戦いはありません。
そちらを描くと、主人公たちの戦いが蛇足になりかねないので。
何はともあれ、今日は二話同時投稿です。
次話、決着編もよろしくお願いします。