【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。
再生していく世界、そして再び開いた次元の扉、それらを前にして来人たちはただ目を見開く。
オリンポスの神々は自分たちを助けてくれた。
アミたちはイーターの大本であるマザーイーターを倒した。
文字通り、彼らと彼女たちは二つの世界を救ったのだ。彼らと彼女たちは事を成し遂げたというのに、自分たちは何をしているのか――来人たちの中に生まれたのは、自身に対する情けない思いだった。
「本当に、やれやれだな! カミサマ……!」
『ふっ、そうだな。どうやら甘えていたのは我々の方だったようだな。うむ』
世界の救われたその横で、たかが覇権争いをしていた挙句に敗れるなど、情けなくて死にそうになる。
彼らと彼女たちは世界を救うという、まさに奇跡を起こしたのだ。ならば、自分たちも相応に奇跡の一つや二つくらい起こさなくてはならないだろう。それくらいやらなければ彼らと彼女たちの成し遂げたことに釣り合わない。
そんな、幼稚で、単純で、それでいて万感な、自分たちのすべてのプライドを賭けて来人たちは立ち上がる。
世界法則など関係ない。限界など知らない。ただ、その存在に刻まれたすべてを解き放つ。
「ぬっ!? 馬鹿な。その姿は……!」
プルートモンが驚愕の声を上げる。
「へへっ」
メギドラモンが面白そうに笑った。
「それじゃ、行くか……! あやつらとアミたちに何食わぬ顔を出来るくらいには、
そんな彼らの前で、来人たちはユピテルモン:ラースモードになる。
掲げた剣が、天地を唸らせる。その雷の如き姿が、世界を震わせる。イーターが失われたことで暗き闇が晴れた清々しい晴天――その中に、正しく小さな嵐が渦巻いていた。
「プルートモン。決着をつけよう」
「ほざけ。少しばかり気を取り直したくらいで、良い気になるな!」
言い終わらないうちに、プルートモンは黒雷を放つ。小手調べなどない、半ば本気の力を込めて。
放たれた黒雷は音すら置き去りにして、真っ直ぐに標的めがけて突き進む。
「やれやれ」
だが、黒雷は雷雲のような黒き剣に阻まれる。
防いだというよりはただ置いてあったところに当たった、そんな様子さえ感じられるほどの光景だった。黒雷はユピテルモンが構え直した剣に当たって砕けたのだ。
「……! フン。さすがはホメロス直々に封じてあった姿だけはあるということか」
「今度はこちらから行く!」
「舐めるなっ。今の貴様の力とてたかが知れている!」
プルートモンが黒雷を放つ。連続で放たれる黒雷。その様はまるで嵐天の雲の中のようでさえあった。
そんな中を、ユピテルモンは駆ける。一筋の閃光のように。その様はまるで嵐の中に生きる雷のようであった。黒い雷をすり抜け、打ち負かし、ただ前進する。
時間にしては一瞬にも満たないその時間。だが、当人たちにとっては果てしない時間だった。
「覚えておけ……!」
「っぬ!」
ユピテルモンは剣を振り上げる。
瞬間、その隙を狙うとばかりに黒雷が弾けたが、ユピテルモンはそれに耐えた。
「貴様には負けぬ。俺には我がいるし、我には俺がいる。そんな
プルートモンを両断せんと振り下ろされた剣が、世界を断つ。まさに落雷が落ちたかのような、一筋の光にしか見えない、世界を焼き切る一撃だった。
「ぬぅ!」
咄嗟、プルートモンは回避だけに専念した。それを受け止めることなど出来はしないと悟ったからこその選択だった。
その甲斐があったというのだろうか。右腕を持って行かれながらも、プルートモンは命だけを取り留める。
「……ククク、期を逃したな。片腕などくれてやる。それで貴様を倒せるならば安いものだ!」
ユピテルモンが再び剣を振るうその前に、プルートモンは行動に移す。
牽制用の黒雷を放ち、距離を取る。一足で詰められるような距離しか稼げないが、それで十分だった。一瞬さえれば、事足りるのだから。
「食らうがいい!」
放たれたのは、超特大の黒雷。今まで放たれたものの比ではない。輝かんばかりの晴天を覆い尽くしてしまうほどの、黒だった。黒としか認識できないような、破壊だった。まるで黒く染まった空が落ちてくるかのような様だった。
「やれやれ。こんなもので――」
そんな圧倒的な黒を前にして、ユピテルモンは焦ることもなくただ静かに凪いでいた。いや、静かにその時を待っていたのだ。心を落ち着け、身体を落ち着け、自らを爆発させられるその時を。
「――
一瞬にも満たない時の後、彼は荒ぶる。闇夜を切り裂く雷のように、闇夜に轟く稲妻のように、急激に最大の力を発揮して、彼は剣を振るう。
一閃。たったそれだけで、黒が割れた。割かれた黒が小さな破壊となって、世界を削っていく。
「
見れば、プルートモンが信じられないような顔をしている。
世界を貫かんばかりの一撃だったのに、ユピテルモンは無傷。その上、ここまで威力を減衰されたのだ。いろいろと予想外だったのだろう。
「……! っく、むんっ!」
だが、プルートモンもそこで終わらない。
彼はすぐさま黒雷をその手に纏い、ユピテルモンに接近戦を挑んだ。それは、遠距離攻撃ではダメージを与えられないと理解したからこその選択だ。
「はぁっ!」
「っふ!」
黒雷を纏った拳と雷を纏う黒い大剣がぶつかり合う。
その度、凄まじい衝撃が世界を揺るがす。その度、拳と剣から小さな黒雷と雷が削り取られ、世界に降り注いでいく。
「ククク。いいのか?」
「……」
「我らの戦いの余波は世界を削る。今頃、身動きのとれない貴様の妻はどうなっているだろうな?」
プルートモンも、ユピテルモンも、この状況において無差別に降り注ぐ戦いの余波まで考えてはいられない。であれば、気絶したままのユノモンはどうなるか、考えるまでもないことだ。
「何だ、その目は」
だが、それを指摘するプルートモンの言葉に、ユピテルモンは黙ったままだった。いや、それどころか、嘲りを持って見返していた。
「何、
直後の何度目になるかもわからない打ち合い、その瞬間に衝撃と黒雷と雷が世界を走る。
その最中で、プルートモンは感じた。先ほど退化したはずの混沌の騎士の気配を。
「ライトたちが頑張ったんだ。まだまだオレだって頑張るぞ!」
そんな声が聞こえた。
それだけで、プルートモンはすべてを悟る。ユピテルモンたちが限界を超えてラースモードになったように、彼も限界を超えてカオスデュークモンへと再び進化したのだ、と。
そして、カオスデュークモンがその力でもって動けないユノモンを庇っているのだ、と。
「ライトー! カミサマー! こっちのことは心配いらない! やっちまえー!」
聞こえてきた声に、プルートモンは苦い顔をし、ユピテルモンは笑う。
「
笑いながら、ユピテルモンは聞こえるように呟く。事実を突きつけて、そして剣を振るった。
プルートモンは咄嗟に黒雷を放ったが、この剣は黒雷“程度”で止まるような鈍らではない。まるでバターのように黒雷を切り裂いて、その先にいるプルートモンさえも切り裂いた――。
「ククク……まさか、今の俺が敗れるとは」
――そして、切り裂かれたプルートモンはただ嗤う。
勝てなかった自分を、自分に勝ったユピテルモンを。
「まぁ、こんなところで敗れるのだ。この俺も大した者ではなかったということだろう。貴様に敗れるのは必然だったということだ。ククク」
負け惜しみともとれるセリフだ。
だが、ユピテルモンは知っている。プルートモンはそんなことを言う性格ではないことを。
「……何を考えている?」
「ククク。これはこれで楽しみだという話だ。貴様らの矛盾した世界、その平穏がいつまで続くか」
「無論、いつまでもに決まっている。そのためにオリンポス十二神はいる」
これは負け惜しみなどではない。これは呪いだ。
言葉というものには力が宿る。
人間は言葉だけで他者を追い詰め、死に向かわせることだってできる。それが、力ある神によってもたらされた言葉なら、どうなるか。
今際の際に述べられる不吉な言葉が未来に影を落とす。解く方法など全く存在しない、最悪の呪い。
「ククッ、戯言を。貴様らもいずれ知る。管理だの、守護だの、平穏だの……そんなものに意味はないことを。光があれば影がある。貴様らが平和という光を形作る中で、必ず闇は生まれ続ける」
「……」
「やがてその闇は第二第三の俺やあの哀れな鬼として生まれ変わる。ククク。今はせいぜい勝ち取った偽物の平和を楽しむがいい。いずれその闇が牙を剥く。いつか、貴様らの喉元に届くまでな」
身体が消滅しかけているのにも構わず、プルートモンはただ言い続ける。最悪の呪いを。思うところがあるユピテルモンは黙ってそれを聞いていた。
聞いていて――。
「戯言を言っているのはそちらだろう」
――つい、口を出す。カミサマとしてのユピテルモンではなく、来人としてのユピテルモンが。
「例えそうだったとしても、
真っ直ぐに、プルートモンの言葉に反対するように言う。そこにはただ未来への希望とカミサマとしてのユピテルモンに対する信頼があった。カミサマと共にあった来人としては、カミサマのことを信じたいのだ。
「ククク。何もわかっていない人間のガキがよく言うものだ。まぁ、いい。どちらにせよ、無様に負けた俺はここで終いだ。ああ、これからの貴様らの無様を見られないのは残念だが……」
「さっさと失せろ」
そして、プルートモンは消えた。最後まで嗤っていたその様からは、どこか嫌な予感を覚える。
それでも、何とかなる気がしていた。来人としての勘がそう言っていた。
「……終わったな」
『終わったな』
来人はアイギオモンに退化しながら、ゆっくりと地面に降り立ち、その場に寝転がる。
清々しいほどに晴れた空模様に、奇妙なまでの何かが見えるような気がした。カミサマも来人も、疲労云々を除いて言葉少なく空を見上げていた。
「おーい、ライトー!」
そんな来人たちに、相変わらずの様子のメギドラモンが飛びかかってくる。
いつの間にか進化し、そして退化した彼の元気に笑うその姿からは、先ほどの戦いの疲労など全く見えなかった。
「まったくもー! オイシイとこ全部持ってきやがって! オレも活躍させろよ!」
「……お前、一人で滅茶苦茶やってたじゃないか」
「ラストはやっぱ格別だろーが! それにお前らがドンパチしてた後なんか、アイツが怖くてやってられなかったんだよ!」
メギドラモンが言うアイツ。それが誰であるか、来人たちにはわかった。というか、すっかり忘れていた。こっそりとそちらの方へと視線をずらせば、そこには黒い瘴気を纏うユノモンがいた。というか、もう瘴気を纏うを通り越してヒステリックモードにまで行きそうだ。
ちなみに、今の彼女がヒステリックモードになったのならば、彼女はユピテルモンだけには感知されないというその特徴をフルに使って田舎に引き篭る所存だった。
「カミサマ、妻がいじけてるぞ。GO!」
『そうだな。では、近づいてくれるか?』
言うまでもないが、来人とカミサマの身体は兼用だ。そんな中で、行けと言う割にその場から動こうとしない来人にカミサマは突っ込む。
「嫌だよ。なんか怖いもん」
まあ、来人としても今のユノモンにはあまり近づきたくなかった。
渋る来人を何とか説き伏せて、カミサマは彼を動かす。恐る恐る彼はユノモンに近づいていく。ユノモンは――。
「う、うぅ……」
――泣いていた。涙腺を全開にして号泣していた。
『どうしたのだ? 涙を拭いてくれ。いや、拭いてあげよう。来人』
「俺がやったら殺されるに決まってるだろ。しばらく黙ってるから、言葉だけで何とかしろ」
本当ならば身体の主導権を変わってあげたい来人だが、疲労のせいでそれもできない。だから、来人としてもこの夫婦の時間にお邪魔せざるを得ないのだ。気まずいなどというものではなかった。
早く終わってくれ。来人は切に願う。
「い、いえ……申し訳ございません。私事ですので……」
『いや、私事などではないだろう。言っておくれ』
「うぅうう! わ、私……ユピテルモン様の足でまといになってしまって……あのトカゲも大任を果たしたというのに、私は今の今まで眠りについてしまっていて……! ぅぅ!」
グズグズと綺麗な顔を涙で歪めながら、ユノモンは告白した。今までここまで足でまといになったことなどないからか、彼女は相応のショックを受けているらしい。
どう言えばいいのか、カミサマは言葉を探していく。
『ふむ……我は――』
「それに!」
『む?』
「それに、それに……下種な劣猿風情がユピテルモン様と身体を同じくしているだけではなく、あまつさえ次の段階へと進む導き手となるなど……妬ましくて、妬ましくて!」
どうやら、ショックを受けているのは足でまといだったことだけではないようだった。
話を聞かざるを得なかった来人は思わず頬を引き攣らせる。これは人間に戻ってから殺されることにならないだろうか、と。
「……」
「それで、ショックで泣いていたのです。申し訳ございません、このような無様な姿を晒してしまいまして……これでは妻失格です。私は――」
『いや、いい』
「え……?」
『そういった本心を吐露してくれること、嬉しく思う。そういったところもお前は可愛いのだ。これからもその本心を隠さないでおくれ』
「……っ! は、はい!」
そんなカミサマの一言で、ユノモンの表情に笑顔の花が咲く。
傍から見ていれば、とても現金な彼女の様子に、来人は呆れる。それと同時に、その笑顔があの自分に懐いてくれた小さな幼子に似ているように見えてしまって――複雑な思いを抱く来人である。が、すぐに思い直した。個人的に印象最悪な彼女とも、これでお別れなのだ。それを思えば、少しくらい言わせておいてもいいだろう、と。
「……っ!」
そこまでいって、来人はようやく気づく。先ほどから感じていた何かの正体に。それが寂しさという感情であることに。
そう、これでお別れなのだ。メギドラモンとも、カミサマとも。
というわけで、第百十二話。
決着、でした。
いよいよ終わりですね。
明日、二話同時投稿で最終話を投稿します。
それでは最後までよろしくお願いします。