【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
前話をご覧になっていない方はそちらからよろしくお願いします。
何もかもが解決して、一ヶ月が経った。
世界は何事もなかったかのように動いている。いや、本当に何もかもがなかったことになっていた。
この数ヶ月の事件そのものがなかった。
だから、事件のことを
事件がなかったことになったこの世界は、彼らの記憶と大きく違う。
例えば、神代悟瑠――悠子と勇吾の父。記憶では岸部リエの皮をかぶったロードナイトモンに殺されたが、普通に生きている。しかも、人間の岸部リエと熱愛中というおまけ付きで。
そのことを知った時の悠子は何ともすごい顔をしていたのだが、それはほんの余談だ。
例えば、EDEN症候群――これは八年前に恐ろしいテロが起き、それ以降に昏睡状態で眠り続ける奇病が流行っていたことになっている。
その誰もが、たった一人を除いて、一ヶ月前に目を覚ました。そのたった一人も、一週間前に目を覚ました。よって、奇病は完全になくなったのだ。
これについて、世のマスコミはその事態をいろいろと言ったものである。神様の奇跡、宇宙人の干渉などなど。
これ以外も諸々。統括すれば、今の世界は彼らにとって違和感だらけだった。
もっとも、その違和感に気づけるのは彼らだけ。世界にとってはこれが普通である。そこに彼ら以外の例外はない。普通の中には来人も含まれていた――。
――ある晴れた日のことだ。
来人は中野ブロードウェイの四階のカフェにて、待ち合わせをしていた。なぜかは知らないが、カフェといえば“ここ”を選んでしまうようになった彼である。
「……ふぅ」
最近、彼には諸々の悩みがあった。
何か大切なことを忘れているような、知りもしないことを知っているような、奇妙な感覚に襲われているのだ。
それ以外にもいろいろとある。例を挙げればキリがない。
このカフェによく来るようになる、コーヒーに過剰なまでの拒否反応を示す――などというのはまだマシな方だ。
「……コーヒーじゃないよ、あれは」
まあ、後者については幼馴染が笑顔で味覚破壊兵器を押し付けてくるようになったからかもしれないが。なまじ笑顔で迫ってくるだけに、タチが悪い。
ともあれ、だ。
まずいのは、外出しようとした時に布団などの大きな布をつい纏ってしまう、自分の内側に誰かがいるように振舞ってしまう――などという、一歩間違えなくとも変人扱い確定の行動だ。
それらは無意識に行動に出てしまうのだから、頭が痛い問題である。
「……はぁ」
再度、溜息を吐く。溜息を吐くと幸せが逃げるというが、今の来人は溜息を吐かなくても幸せに逃げられていた。
「んだよ、景気悪いなぁ」
そんな来人に話しかけてきたのは青年だ。白の学生服を着ている。
彼こそ、来人の待ち合わせの人物で、来人の幼馴染の一人でもあるリョウタだった。
彼の登場に、来人の表情はその辛気臭いものから一転する。彼が自分の目当てのモノを持って来てくれたとわかったからだった。
「よっす! 頼まれたもん持ってきたぜ」
「おー……悪いな」
椅子に座って、リョウタは鞄からある物を取り出す。
それは来人が彼に頼んだもので、彼は来人の注文通りにそれを見つけ、持ってきてくれたのだ。
「しっかし、電子書籍万歳のこのご時勢に紙の本とかさー……ま、来人らしいけど」
「うるさいな。どうせ俺は機械音痴だよ」
リョウタが来人に手渡したのは、一冊の本だった。
「っていうか、俺に聞かずにネットで調べろよ。……ああ、無理か」
「……うるさいな! それに、リョウタはそういうの得意分野だろ? だから、お前に聞くのが早いと思ったんだよ」
来人がリョウタにこの頼みごとをしたのは、彼が“その分野”に詳しいからだ。
彼はオカルト系を調査するバイトをしていて、その筋の人には軽く有名人となっている。将来はそっち方面に進むことすら決めているらしい。そのせいもあって、彼は古今東西の神話伝承、御伽噺に昔話、そういったものに詳しかった。
だからこそ、来人は頼んだのだ。素人にもわかりやすい本一冊を探してくれないか、と。
「ふんふん……」
受け取った本を開いて、来人は軽く中を確かめる。注文通り、素人の来人でもわかりやすい内容だった。
「気に召したか? っていうか、なんでいきなり? お前、神話とかに興味あったっけ?」
「ああ。なぜか知らないけど、興味が出てきたんだ。それにちょっと調べたけど、なんかただの他人のような気がしないんだよ。会った気さえするから不思議だ。特に一番偉い奴」
「偉い奴? ま、まさか……実はお前に浮気癖があって、だからシンパシーを感じてるとかじゃ……?」
「……とりあえず、お前がこの前ナンパ
「すいませんでしたっ、今のは冗談です!」などと、土下座しかねない勢いでリョウタは頭を下げた。やはり、いろいろな意味で恋人には弱いらしい。
露骨に来人の機嫌を取り始めるリョウタに、来人は溜息を吐いた。
「あっ、っと。そろそろバイトに行かなきゃな!」
「またか? 忙しないなぁ」
「はっ、ネタは待ってくれないんだよ! 今日はあるオカルト研究部と合同であるから、遅れるわけにも行かないんだ!」
時計を見て慌てたリョウタは、そのまま走ってカフェを出ていく。ついでに、機嫌取りの続きなのか、来人の分の支払いを済ませていった。
「……サクラに言う云々は冗談だったんだけどな」
来人はそんな彼の後ろ姿を見送る。
その手元には、先ほどの一冊の本があった。
「さて、俺も行くか」
せっかくリョウタが支払いを済ませてくれたのだから、もう少しゆっくりとしていきたいところ。だが、この後の来人にも用事がある。
だからこそ、彼は立ち上がって、カフェを出た。そのまま、中野ブロードウェイの中を歩く。
「ったく、おたくらはもうちょっと考えろ。普通、そんなもんを見舞い品に持ってくか? 果物でいいんだよ」
「何を、それは無難すぎっしょ! もちろん、ここは元気が出る悪魔的なCDを持ってく一択! 伝わる? このフィーリング?」
「伝わらねぇよ!」
「いい加減にしてください。兄はずっと病院食です。きっと美味しいものが食べたいはず……たこ焼きにしましょう!」
聞こえてきた声に、来人は溜息を吐きたくなった。
そちらに目を向ければ、そこには何かを言い争っているアラタにノキア、そして悠子がいた。
「……よう」
「……、あっ、来人じゃん!」
「一瞬誰だかわからなかったな?」
「いや、だって、君って言えばあのデジモンとイコールで結ばれてるからねーあはは」
バツが悪そうに笑うノキアだ。アラタと悠子は同意するような、それでいて非難するような複雑な視線で、彼女を睨んでいた。
「すまねぇな。このアホが」
「いや、気にしてないよ。俺も似たようなもんだしな」
「……そっか」
来人の寂しそうな呟きに、アラタは少しだけ黙った。
アラタは、いや、彼らはわかっているのだ。自分たちにとっての来人は友人兼仲間であっても、来人にとっての自分たちはそうではないことに。
「ともかく、だ。お前らは何をしてるんだ?」
「ああ、勇吾の見舞い品を選んでんだけど……コイツらが」
「来人さんも何か言ってください。アラタさんの果物は食べ物ですのでともかく、ノキアさんの売れないミュージシャンのCDなんてもってのほかです!」
「来人も何か言ってよ! 悠子のたこ焼きは美味しいからともかくとしてさ、アラタの果物は無難すぎるからないって!」
「……どうでもいいわ。気持ちだろ、そういうのって」
とりあえず、アラタの果物がマシなのではないだろうか。そう思う来人だが、口には出さなかった。口に出せば、アラタが無意識的にでも勝ち誇り、このくだらない争いが激化するのは目に見えているからだ。
まあ、彼らなりのじゃれあいである。
「こうなれば、“リンクス”で勝負!」
ノキアが言い出した“リンクス”とは、アプリゲームである。育成系のゲームなのだが、なぜかそこに見たことのある者がいるらしい。
縁もここまで来ると腐ってるよね、などと嬉しそうに言ったのは、来人の一番の幼馴染だ。
ちなみに、来人は機械音痴故にやっていない。いや、もしかしたら持ち前の勘で気づいているのかもしれない。今の自分が“彼ら”に会う可能性があるものをやってはならない、と。
「アグモンとガブモンの強力ダックの力を見るがいいさ! あっはっは!」
「タッグな。けど、へぇ? 俺のクリサリモンに勝てるって?」
「その原理で言うなら、ジオグレイモンとロードナイトモンがいる私が勝ちますね。クスッ、それじゃあ、やりましょうか。来人さん、それではまた」
黒い笑顔を浮かべた悠子は、青い顔をしているアラタとノキアの二人を連れて歩いていく。
そんなアラタたち二人の姿に、来人はなぜか売られる子豚を見た気がしたのだった。
ちなみに、この数時間後、某少年は見舞い品としてたこ焼きを持って来られて頬を引き攣らせるのだが、それはほんの余談である。
「相変わらず、嵐みたいなやつらだな……」
疲れた気がしながらも、来人は彼らの絆を感じて微笑んだ。そこでは自分は場違いな存在である、と寂しく思いながら。
そもそも、彼らとは出会いからして奇妙だった。
彼らは、奇病から目を覚ました来人の下に見舞いとしてやって来た。
来人は戸惑うしかなかった。全く見ず知らずの初対面であるはずなのに、妙に馴れ馴れしい彼らに。そんな彼らを心のどこかで受け入れている自分に。
結局、付き合いが全くなかったはずなのに、彼らを友人として自分の中に位置づけてしまったのだから、いよいよ来人は自分自身が理解できなかった。
「ほんと、わけわかんねーよ」
ある意味で、先ほど述べられた例以上に彼を悩ませている悩み事だった。
「やべ、時間……!」
ふと、約束の時間を思い出した来人は現在の時間を確認する。慌てて駆け足気味で歩き出した。
そんな来人の姿を、周りの人々は気にも止めない。周りの人々は当然のように他人など興味なく、それは来人としても同じこと。
「あっ、次カード見に行こうぜ!」
「占い師さん、今日はいるかなぁ」
「ジミケン逮捕だって。何でも拉致監禁って……ショックー……アタシファンだったのにぃ!」
「カフェで休憩しましょうか?」
さまざまな人々の会話が来人の耳に入る。
そのどれもを、彼は雑音として即座に忘却した。
「ねー、パパ! ママ! 私は上の階に行きたいっ!」
ただ一つ、聞こえてきた幼い声を除いて。
後ろから聞こえてきた声だった。それに何かを感じて、来人は後ろに振り返る。そこには、幼子特有の買い物に来た時の興奮のままに走る、見知らぬ幼い少女がいた。
「あらあら」
「そら、そんなに駆けると危ないぞ」
そんな少女の後ろを、彼女の両親だろう二人が歩いている。見るからに仲の良い家族だった。
「……」
「はやくはやくー!」
呆然と立ち止まった来人と、興奮で走る少女がすれ違う。それだけで何もなかった。
「……よかったな」
瞬間、来人の口から出た呟きは、誰にも聞かれずに溶けて消えた。
ハッとして気づいて、彼は自分の口を押さえる。自分の口から出た言葉ながら、彼は理解できなかった。どうしてそんなことを言ったのか、そしてどうして自分がこんなにも寂しいのか。
「……行くか」
来人は再び歩き出した。その数秒後には、すれ違った家族のことなど忘れていた。
そのまま歩き歩いて、彼は中野ブロードウェイの一角――“暮海探偵事務所”と書かれた場所へと到着する。
待ち合わせ時間にはまだほんの少しだけ余裕があった。
「……」
緊張しているのがわかって、来人はそこで止まった。
だが、そんな彼の事情など関係ないとばかりに――。
「お待たせ!」
「……はぁ」
「なんで溜息!?」
――待ち合わせの人物が現れたのだが。そう、幼馴染ことアミである。
彼女はまるで来人が来る時間を読んでいたかのように、暮海探偵事務所の中から出てきた。
「身体はもう大丈夫なのか? 一人だけ起きるのが遅れてたんだし」
「バッチリ! 私は来人と同じで数ヶ月寝てただけだからね!」
「……いや、俺もお前もたいしたリハビリなしに動き回ってるけど、普通数ヶ月寝たきりでそれは有り得ないからな?」
「ま、そこら辺は……ね?」
「何がだよ。ったく、バイトの方も相変わらず忙しそうで」
一週間前に奇病からただ一人遅れて目覚めたアミだが、なぜか彼女は退院数日でこの暮海探偵事務所の主の助手として、アルバイトしていた。
その理由が探偵直々のヘッドハンティングだというのだから、来人としては唖然とするしかなかった。まあ、どこか納得している自分もいたのだが。
「ってか、探偵なんて怪しげな職業のヘッドハンティングを受けるとか……」
「そこは、ほら。勘? フィーリング?」
「とりあえず、お前はノキアの影響を受け過ぎだ」
「来人の影響も、ね」
嬉しそうに言うアミに、来人は溜息を吐く。
世間話から始めたが、その仕事のこともある以上、あまり時間はない。アルバイトとはいえ、助手という役回りもあって、彼女は忙しいのだ。
そんな彼女を見るのは少しだけ複雑だった来人だが、なぜか楽しそうに働く彼女を見ればどうこう言えるはずもない。
「で、話って? またチャットでもしたいの?」
「……俺、チャットしようとか思ったことないけど。……いや、ないよな? あれ?」
「ごめんごめん、この世界では無いんだったね」
最近の悩み事の中に、幼馴染が奇妙なことを口走るようになったことを新たに加えた来人である。
「あー……まぁ、その……」
緊張で言葉を濁す。さすがに、“これ”をあっさりと言えそうにはなかった。
「なんで言えないかなー……」
小さくアミが呟いた。
ここ最近、彼女はノキアたちのアドバイスに
実行を強要させたノキアたち曰く、さっさとくっつけ天然カップル、とのことだった。
とはいえ、だ。ノキアたちのアドバイスはともかくとして、アミのしたことは一日アルバイトとして許可を取った依頼に同行させる、
初めのもの以外、どこぞの黒い聖騎士以外は誰も喜ばない行動をアプローチだとしていたのだから、来人が気づかないのも当然である。
「……ま、まぁ、アレだ。約束もあるからな」
ふと、口から出た言葉に来人は黙る。約束とは何だったろうか、と。
「約束かぁ……ね、来人? “約束”って期待していいんだよね?」
「ああ、もちろん」
だが、わからなくとも、彼は他ならぬ彼女との約束を違える気などなかった。
思い出すのは、いつかの笑顔ともう一つ。奇病から目を覚まし、会話した時の彼女がした寂しそうな顔だ。
違和感と認識のズレが二人の間にあった。きっと、彼女はそのズレを寂しく思ったのだろう。
未だ来人にはそこにあるモノがわからない。
だが、だからこそ、彼は遅くなってしまったが、果たそうとしたのだろう。自分ではない、けれど確かに自分である自分がした約束を。
『やれやれ。いい加減に腹を括れ』
「そうは言ってもなぁ……って、あ」
聞こえた幻聴に素で返してしまって、来人は頭を抱える。
というか、幻聴にすら呆れられるとは。彼も呆れるしかない。
見れば、アミは微笑ましいものを見るような目で自分を見ていて、彼は頬を引き攣らせた。
「ふぅ」
息を吐く。
ふと、先ほどリョウタから受け取った本のことを思い出した。“イリアス”と書かれたその本――その中に登場する空想上の存在に、来人は背中を押された気がした。
何を馬鹿なことを。自分に呆れながらも、来人は覚悟を決める。
「あのさ――」
そして、来人は約束を果たした。
残った約束は、ただ一つ。約束にできなかった約束だけだった。
それが無事に約束として結ばれ、それが果たされるかどうかは、また未来の話。
もしも再び世界が交わることがあれば――その時の話だ。
本当はゼヴォの時みたいに後書きでの続編嘘予告でもしようと思ってましたが、やめました。
というわけで、最終話でした。この話を投稿した数時間後に、この小説を完結扱いにします。
これにて、この半年続いた小説も完結です。ここまでお読みいただき、ありがとうございました!
以下は反省兼あとがきです。
そもそもこの小説の発端は以前にも書きましたが、実はあれだけじゃなかったりするんですよね。
せっかく書くのだから、他の作者さんたちが書くサイスル小説とは少し違うものを書きたくなったんですよ。
で、その結果がオリ主モノですね。
あとは……はい、いち作者として恋愛要素にチャレンジしてみたくなったんです。
そうなると(当然ですが)ヒロインが必要。考えました。
オーソドックスに行けば悠子ですが、彼女ヒロインは小説としてもうありますし……。
であれば、杏子さん。いやいや、彼女ヒロインでオリ主は原作主人公から寝取るようなものですし。
リナやノキア? 自分には彼女たちが恋愛するところなんて思いつかなかったです。
オリキャラという手もありますが、あんまりレギュラーキャラを増やすのも。
じゃあ、主人公以外に恋愛させるか。……それもどうだろうか。
というわけで悩んだ結果、何が起きたのか元々男予定だった原作主人公を女性にするという強引な結果になりました。
で、小説を書いて……恋愛要素入れるのって難しいですね。入れなきゃよかったと後悔しました。
オリンポス十二神についても、初期プロットではもっと出番があるはずだったんです。
ただ、書いていて……サイスルストーリーで、ロイヤルナイツにオリンポス十二神をぶつけると、自分の技量じゃ収拾がつかなくなったり、出来てもゼヴォの時の二の舞になることに気がついちゃったんです。
初めから気づけよという話ですが。
というわけで、急遽中止。方向性を変えました。その結果がイリアス編です。
やっちまった感満載でしたね。オリンポス十二神とロイヤルナイツについては、いつか別の形でリベンジしたいです。やっぱりクロニクルやゼヴォ辺りがやりやすいですかね……。
まぁ、他にもいろいろとありますけどね。
初めの段階で主人公を悠子サイドにつかせて、原作主人公と敵対させるとか。
アルフォースブイドラモン枠に、某100%テイマーを呼び出すとか。
クロニクルの主人公を杏子さんのパートナーとして出すとか。
けど、これらをやると本当にカオスなことになるんで、やめました。
そんなこんなで路線変更とかいろいろありましたけど、書いてる最中は楽しかったです。
感想や評価をくださった皆様、読んでくださった皆様のおかげです!
やはりあるとモチベーションが違いますね。
皆様、今作を読んでいただき本当にありがとうございました。
またどこかの作品でお会いしたら、その時はよろしくお願いします。
それでは。