【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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注意
今回、ちょっとだけグロいシーンがあります。ほんのちょっとだけ。


第十三話~暴走する神人~

 カラスのような黒い翼を背中に生やし、その背と両腕に可動式の死神のような鎌を持つ今の来人の姿は――まさに、黒い怪物だった。

 誰もが、今の来人が先ほどまでの来人と同一人物だとわかっている。わかっているが、それでもいきなりの変貌に、この場の全員が呆気にとられていた。

 

「ちょ、何事!? マジでヤバそうなんだけどっ! あの子どうしちゃったの!?」

「わからないよ! 一体どうして……!」

 

 混乱するアミとノキア。

 そんな二人を守るようにして、彼女たちのデジモンたちは前に出た。彼らは、今の来人が危険であると感じたのだ。

 

「おい、進化したみたいだけど……この感じヤバくねぇ?」

「そ、そうっすね……!」

 

 一方で、ハッカーたちも、その異様さには気づいたらしい。腰が引けていて、今にも逃げ出しそうになっている。

 

「へぇへぇ! ずいぶんと悪魔的な姿じゃんwww何? オレ様に憧れてる口かァwww」

 

 この場で今の来人の異様さに混乱していないのは、ジミケンだけだった。

 

「黙れ。その口を閉じろ。貴様が口を開くだけで世界が穢れる」

 

 その言葉は、誰に向けられたものだったのか。戯言を口にするジミケン相手か、それとも騒ぎ混乱する外野相手か。普通に考えるのならば、前者だろう。事実、来人もその意図で口にした。

 だが、その言葉にあった迫力は圧倒的だった。まるで言葉に力があるかのように、ジミケン以外の誰もが黙らされてしまった。

 その言葉を向けた者のみならず、聞いたものすべてを黙らせる。まさに言葉の暴力と言えるような光景だった。

 

「……っぐ。い、行けっ!」

 

 異様な迫力を前にして、ジミケンが唸る。それは、ジミケンが初めて見せた素だった。感じた恐怖のままに、彼は自分のデジモンたちへと指示を出す。

 彼に従っていたメラモンたちとデビモンは、一瞬躊躇した様子を見せていた。彼らも、今の来人が恐ろしかったのだ。

 

「っち! 行けって言ってるんですゥ! ロックじゃねぇな! おいwww約立たずってかwww」

「う、うおぉおおおお!」

「ぁああああああああ!」

「おぉおおおおおおお!」

 

 焦った彼の再度の指示で、ようやく彼らも動き出す。全員が全員、来人めがけて駆け出したのだ。

 その頃には、ジミケンは先ほどまでの調子を取り戻していた――ように見えた、が。

 

「愚かな……自分で自分を演じるとは」

 

 来人は、今のジミケンを見抜いていて、その虚しいばかりの行為を嘲笑っていた。

 

「ワオ! 余裕wwwてか、生意気wwwふざけんじゃねぇってヤッちまえ!」

 

 思い通りにならない事態に苛立ったのだろうか。

 ジミケンは奇妙な動きをはじめる。それを知っているものならば、今のジミケンがギターの動きをしているということに気づけただろう。だが、今の彼はギターを持っていない。つまり、今の彼がしているのは、所謂エアギターと呼ばれるものだ。

 

「……まだ罪を重ねるか」

 

 ジミケンがそれをした瞬間、来人は眉をひそめた。

 彼は気づいたのだ。ジミケンがエアギターをやりだした瞬間に、彼のデジモンたちの動きが変わったことに。そして、その理由に。

 それはデジモンたちを己の特定行為でパワーアップさせる、いわゆる改造行為。しかも、デジモンたちの命を削るものであることは、想像に難くないレベルのもの。

 改造行為による無理矢理のスペックアップ。痛みで苦しいのだろう。メラモンたちは、それでもなお動いている。いや、動かされている。

 そんな彼らを見て、来人も哀れに思う――が、それとこれとは話が別だった。

 

「“バーニングフィスト”!」

「“バーニングフィスト”!」

「貴様らの罪は愚か者に捕らえられたことだ。死してその罪を贖え」

 

 今、来人の目の前には、両腕が激しく燃え、殴りかかってくるメラモンたちの姿があった。

 それが、改造行為によって威力の底上げされた彼らの必殺技であることに、来人は気づいていた。気づいていて、それでもなお、どうも思わなかった。

 迫り来る炎の拳。その数は四。それが、来人の顔を捉えて――。

 

「は?」

 

 ――それは、誰の声だったろうか。ジミケンか、アミか、ノキアか、はたまたこの場の全員か。思わずそんな声を出してしまうほどに、彼らはありえないものを見たのだ。

 

「は? おい、ちょwww首どこいったwwwはやっ! 悪魔的すぎるわwww」

 

 はしゃいでいるような、驚いているような、そんなジミケンの声が辺りに響く。

 そんなジミケンの視線の先にあったのは――“首から上が消失した”二体のメラモンの姿と両腕の鎌を展開した来人の姿だった。

 何が起こったのか。それを理解できた者はいない。が、現状から予想することは出来た。来人がやったのだ。迫り来る二体のメラモンたちの首を落とすという技を、あの一瞬で。

 

「次はお前か……」

 

 その姿は、まさに死神や悪魔というのが相応しい。ジミケンのような紛い物ではない、本物の方だ。

 残った最後の一体であるデビモンとしては、堪ったものではなかった。彼は理解してしまったのだ。自分の力では、どうにもならないということが。

 

「……」

 

 そんな彼にできることは、一瞬後の終わりを想起し、絶望することだけ。そんなデビモンに、来人はゆっくりと近づいていく。

 

「は? おいおいおい! 何を諦めてるんですか~? 脳みそ空っぽってオチですかァ~www」

 

 ジミケンの罵倒の声が、辺りに響く。

 彼にも、一瞬後に来人がしようとしていることに気がついたのだ。それでも、どこか喜んで見えるのは、戦いに負けるという事実よりも、この先の光景を見る方が面白そうだったからか。

 まるで幽鬼のように、デビモンの前に立った来人は、その手の鎌を動かして――。

 

「っ! お願い!」

「“ダークネスギア”!」

「“ポイズンアイビー”!」

「“ブレイジングファイア”!」

 

 ――その瞬間に、そんな来人にいくつもの必殺技が直撃した。が、効いていない。

 ジロリ、と視線だけを動かして、来人は必殺技が飛んできた方向を見る。そこにいたのは、どこか覚悟を決めたような瞳をしたアミたちの姿だった。

 

「……なぜ止める?」

 

 理解できない。そんな意思を込めて、来人はアミへと話しかける。

 

「なぜって……! そこまですることはない! かわいそうだよ!」

「かわいそう? 愚かな。罪人に恩赦を与える必要はない。罪を抱く者は等しく死すべきだ。それが俺の決定だ」

「そんなの……間違ってる」

「間違っている? そうか。俺を間違いと言うか。ならば、貴様らも罪人だ」

 

 それが、来人の決定だった。絶望に打ちひしがれるデビモンを放っておいて、来人はアミたちの方へと向く。いつでも殺せるデビモンよりも、反抗してくるアミたちを先に始末することにしたのだ。

 ごくり、とアミは唾を飲む。戦闘能力からして適わないことは、アミも重々承知だった。それでも、アミは引けなかった。

 アミたちと来人が睨み合う。

 

「おぉっと仲間割れwww面白くなってきましたwwwwwが、残念無念! オレ様リアルの方で忙しいんでwww」

「逃がすと思うのか? リアル? 罪人である貴様に価値などない」

 

 そんな彼らの隙を見て、声を上げたジミケンはどこかへと去ろうとしている。

 先ほどまで睨み合っていた来人が声を上げる――が、遅かった。

 先ほどの戦闘の間に、ジミケンはずっと退却の準備をしていたのだ。もはや準備は終わっていて、彼にとって今のこの場は暇つぶしでしかなかったのである。

 

「逃げますよwwwほんじゃバイバ~イ」

 

 来人が動くよりも早く、ジミケンはこの場から消える。

 裁くべき罪人を逃した事実に、来人は苛立つしかない。今の来人は現実世界に出ることができない。それはつまり、彼が再びこの電脳空間に来るまで、彼を裁くことができないということだ。

 苛立つ来人の一方で――アミは、いなくなったジミケンに半ば感謝していた。彼がいなくなったのならば、この状況も終わるだろう、と。そんな、希望に近い思いをアミは抱いていたのだ。

 

「アミ!」

 

 そんな思いが間違っていたことだと知るのは、自分を呼ぶ鬼気迫る声がアミの耳に届いた瞬間のことだった。

 アミは、ハッとして気づく。自分の前に“黒”があることに。

 それが何かを理解したアミは、一瞬後に迫る未来を感じて――。

 

「ムゲンドラモン」

「OK」

 

 ――その直後のことだった。

 聞いたことのある声がアミ耳に届いて、アミの目の前を通り過ぎていく何か。ついで、アミの耳を襲う轟音。見れば、いつかも見た機械の竜が、その足で来人を押さえつけていた。

 よほど強い力で押さえつけられたのだろう。来人は気絶しているようだった。

 

「アミ、大丈夫か?」

「ユーゴ?」

 

 現れたのは、少年と女性。女性の方はともかくとして、少年の方はアミは知っている。ユーゴという名の少年だ。一度だけ、会ったことがあった。

 

「部下の不始末をつけに来たんだが……逃げられたみたいだ」

「部下って、まさか……!」

 

 ユーゴの言う部下。それが誰を指すのか、アミにはすぐにわかった。先ほどまでここにいたアイツである。

 

「それについてはすまない。僕のミスだ」

「いや……ユーゴのせいじゃ……」

 

 一度しか会ってないが、ユーゴの人なりは、アミもだいたいわかっている。だからこそ、言うのだ。ユーゴのせいではない、と。

 

「それにしても、ユーゴはん。こいつどないしましょ。こんままほなあきまへんどすやろ?」

「フェイ。そうだな……」

 

 アミとユーゴの会話に割り込んできたのは、ユーゴにフェイと呼ばれた女性だった。彼女は、ムゲンドラモンの足に押さえつけられている来人を指している。

 そんな彼女の言葉に、ユーゴは考え込んで――。

 

「そうだな。暴走しているようだし、このまま……」

 

 ――その言葉を口にした。

 それが、アミにはとても不吉な言葉のように感じられて、不安になる。このまま、何だというのか。このまま始末するとか、そういうことだろうか。そんな、不安だけが溜まっていく。

 

「ちょ、ちょっと待って! その子は……!」

「どうしたんだ?」

 

 気づけば、アミは静止の声を上げて、ユーゴの言葉を止めていた。

 

「その子は私が預かる! だから、ちょっと待って!」

「しかし」

「……お願い」

 

 ユーゴは驚いた風にアミを見ている。当然だろう。いくら電脳空間内とはいえ、殺されかけた相手をアミは庇っているのだから。

 アミはここで引けないとばかりに、ユーゴをまっすぐ見つめ返した。

 アミは知っているのだ。自分たちを助けてくれたこのデジモン(来人)のことを。今回はちょっとおかしかったが、それだけがこのデジモン(来人)のすべてだと、アミは思いたくなかった。だからこそ、助けたいのだ。

 

「ええんとちゃいますか? どうせ困るのはこの嬢ちゃんたちですやろ?」

「……はぁ。わかった。このデジモンのことは君に任せる」

「……! ありがと!」

 

 悩んでいたようだったが、結局根負けしたのはユーゴの方だった。

 彼は、そのままフェイと共にこの場を去っていって――そんな彼らを見送ったアミは、気絶した来人を引きずって、状況がわからずに混乱していたノキアたちの下へと戻ったのだった。

 




というわけで、第十三話。

レッツ・暴走☆な回ですね。まあ、すぐに終わりましたが。
さすがにムゲンドラモンには勝てません。不意打ちから始めれば、ほんの少しは可能性もありそうですが、実際は不意打ち“された”側ですしね。

さて、次回は今回の原因について語られる話です。
ついでに、あの場所へと来人が行きます。

それでは次回もよろしくお願いします。

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