【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第十五話~その身に起こる異変~

 来人は、ミレイのおかげでクーロンLV1へと戻ってくることができた。

 今の来人は全快とは言えないものの、体力も傷も共に回復している状態だ。まあ、さすがに無理はできないだろうが、軽く身体を動かす程度なら問題はない。と、いう訳でだ。

 

「ふっ! はっ!」

『ふむ。やはりマシになっているな』

 

 今の来人は、身体の調子を確かめるためにも、身体を動かしていた。

 歩行から初めて、走り、跳び、拳を突き出し、蹴りを放る。そのすべてが、今までとは比べ物にならないほどに、()()()()

 

「っていうか、マシどころじゃないよな? 病み上がりなのにすっごい動く……調子が良いってレベルじゃない気がするんだけど!?」

 

 来人ですら感じるほど、今の来人の動きは、前までとは一線を画していた。

 何と言うか、気持ち悪い。来人は、得体の知れない不安を自身に覚えていた。

 動かすように意識しているのは自分であり、望んでいる動きができているというのに――あまりに上手く出来すぎて、逆に違和感が拭えない。

 

「はぁっ!」

 

 試しに腕を突き出せば、バリバリといった電気が弾けるような音がする。知らないはずなのに、来人は気づいた。それが、自分の()()()()()()であることに。

 今まで使えなかったものもあっさりと使え、さらにはそれがわかる。異常という言葉では足りないだろう。

 

『まぁ、仕方あるまいよ』

「カミサマ? やっぱり気のせいってことはないんだな?」

 

 黙っていたカミサマが、声を上げる。

 その声色に、来人は今の自分の状況が良いものではないということを感じた。

 

『あの進化のせいだな。重なりあったことにより、貴様が我に近づいたのだ。そのせいで、我の知識の一部や戦闘技術の一部が貴様に流れ込んだのだ』

「デメリットなしでパワーアップ……なんて都合がいい訳じゃないんだよな? 不都合は……」

『今のレベルなら問題はない。今回は手放しで喜んでもいいだろう』

 

 今回は。その言葉が意味するところの意味がわからない来人ではなかった。今回は手放しで喜んでもいい。ならば、次は。

 

『先ほどは言わなかったが、これが進化して暴走したデメリットだ。我と貴様が重なり合った結果、元に戻る時は多少の影響が及ぶ。今回はこの程度で済んだ。だが……』

「次回からはこの程度じゃすまないか?」

『そうだ。次回以降は、次第に貴様の精神に影響が出てくるだろう。最終的には貴様の人格が我に統合され、貴様の人格が消失する可能性がある』

 

 人格の消失。それはもはや死と同然と言ってもいい。

 そのデメリットの大きさに、来人は唖然とした。大きすぎるというレベルではない。進化しなければいいという話かもしれないが、そもそも今回の件についても無意識だったのだ。意識してどうこうなるものではない可能性すらある。

 

「ってことは、急務は普通に進化できるようになること、か?」

『そうだ。戦闘技術や必殺技が扱えるようになったのは怪我の功名と言うべきだろう。身体の修練はもういい。暴走しないためにも精神を強く持つことを心がけよ』

「わかってるよ」

 

 まあ、“進化するたび”ではなく、“進化して暴走するたび”である分まだマシだろう。

 進化してはならないというのであれば、不可能に近いかもしれない。だが、暴走しなくていいというだけならば、まだやりようがある。

 現状はお先真っ暗ではない。ちゃんと光が見えている。そのことに、来人は安心したのだった。

 

「……でも、精神トレーニングって何をするよ? 瞑想か? 滝行か?」

『精神修練でそれらが出る辺り、貴様の頭は知れてるな。心配しなくても、精神修練などせん』

「……え? いや、心配になること言うなよ」

『仕方ないだろう。肉体的な修練とは違い、精神的なものは時間がかかりすぎる。やったところで効果が出るかどうかも人による。効果がないとは言わんが、無駄なことだ』

「カミサマ、神様のくせに滝行とかを無駄って言ったよ……!」

 

 来人の中のイメージとして、滝行などの精神的なトレーニングをするのは、だいたい宗教者である。彼らは神仏を信じているからこそ、その教えに従い、己を律するために、そういった修行をするのである。

 だが、当の神様からは無駄の一言。もちろん、デジモンの神様ということで、人間の神様たちとは違うのかもしれない。が、なんとなく微妙な気分になってしまった来人だった。

 

『別にそこまでは言っとらん。効果がないとは言わん、と言っただろう』

「いや、変わらねぇよ!」

 

 暴走し、強くなることを誓った手前、カミサマの言葉には納得がいかない来人。そんな来人のことがわかるのだろう。カミサマは、なおも言葉を重ねる。

 

『要は心の持ちようだという話だ。デジモンも人もそう簡単には変わらん。人生観が変わるような劇的な体験や時間さえあればともかくな』

「つまり、どちらも能動的には難しいから、心持ちだけでもしておくってことか?」

『そういうことだ。変われずとも、心持ちがあるだけで違う。わかったな?』

 

 納得できなくもない。そんな微妙な気持ちになりながらも、来人はカミサマの言葉に無理矢理納得した。来人にはカミサマの言葉が嘘であるとは思えなかったのだ。

 まあ、来人にそんな納得の仕方をさせたカミサマであったが、彼も別に意地悪でこう言っている訳ではない。こういう問題は、そもそもトレーニング云々でどうにかできるものではないし、さらに言えば、こうなってしまった以上はあまり頑張られても()()

 だからこそ、彼はこう言うしかなかったのである。

 

「でも、だとすると急にやることがなくなったな……」

『何を言う。道のりを大幅に短縮できたのだ。怪我の功名ではあるが、これを僥倖と見るべきだ。そろそろ“本来の目的”を始めてもいいだろう。無論、心身共に調子を見ながらだが』

「……そういや、忘れてたな」

 

 本来の目的。そんなカミサマの言葉に、来人も思い出した。

 自分のやるべきことは、あの謎のバケモノの調査であることに。トレーニングやハッカーたちとの追いかけっこを毎日のように続けていたからこそ、今の今まで忘れてしまっていたのだ。

 

「となると……やっぱりハッカーたちに見つからないようにするのは大前提か」

『そうだな。だが、人を避ければ良いという問題でもあるまい?』

 

 そう。あのバケモノの調査をするというのならば、ひとまずはあのバケモノに接触するか、それかあのバケモノに詳しい相手を探すべきなのだ。

 こういったことは初めてであるからこそ、来人は悩んで――彼はとりあえず、あのバケモノを探しながら、あのバケモノについて知っていそうな人物を探すことにした。

 そんな来人の行動に、カミサマは何も言わない。その行動でいいということだろう。

 

「さて……んじゃ、一層一層見ていくか」

 

 誰に言うでもなく一人呟いて、来人は歩き出す。ハッカーたちに見つからないようにしながら、今いるクーロンLV1を奥まで探索する。

 目指すは、来人があのバケモノと出会ったこのエリアの最奥。数分と経たずにそこへはたどり着く――が、そこには証拠となるようなものは何もなかった。

 

『期待していたのはわかるが、初めからうまくいくわけないだろう』

「確かに、そうなんだけど……な」

 

 カミサマの言葉は実にその通りなのだが、来人としてはやはり期待してしまっていた。ここが、唯一の手がかりだったのだ。

 ここに何もないということは、手がかりゼロで探し出さなければならない。

 

「……はぁ。次に行くか」

『そうだな』

 

 溜め息もそこそこに、来人はクーロンLV2へと向かって歩き出す。

 そして、クーロンLV2へと彼はたどり着いた――その瞬間のことだった。

 

「……おっ。いいのいんじゃん」

「……」

 

 背後から聞こえた喜色を混ぜた声に、来人は固まった。

 次いで、来人が感じたのは、あの全身を探られているかのような気色悪い感触。

 まずい。悪寒のままに、来人は臨戦状態を取って振り返った。そのままいつも通りに逃亡――するのではなく、なぜか先手必勝とばかりに彼は駆け出した。

 

「のわっ!」

 

 そのまま、背後にいる誰かを押し倒す。

 倒れた誰かの胸の部分を足で押さえつけ、拳からパチパチと電気を漏らす。この拳を叩きつければ、その時点で必殺技が発動し、技としての完成を見せる。

 いくらEDENアバターとはいえ、デジモンの必殺技には耐えられない。つまり、この状況が示すのは詰みだった。

 

『貴様にしては少しやりすぎではないか?』

 

 そんな、いっそ暴力的なまでの来人に、呆れたような声で呟くカミサマ。

 

「……あっ!」

 

 その言葉を前にして、ようやく来人は正気を取り戻したようだった。らしくない自分の行動に慌て、来人は自身が足蹴にしている人物から足を退かす。退かして――驚いた。

 自分が足蹴にしていた人物が、自分の知り合いだったことに。

 

「アラタ……!」

 

 そう。そこにいたのは、あの日に出会ったアラタだった。

 そんな驚きのあまり、思わずといった風にその名を呼んでしまう来人。すぐに自分がしでかしてしまった失言にも気づいたが、遅い。口から出してしまった言葉は、二度と口の中には戻らない。

 

「いてて……」

 

 突如として、自分を抑えていた圧力がなくなったからだろう。いきなり解放された事実に警戒しながらも、アラタは立ち上がった。

 どうやら、来人の失言には気づいていないようである。

 

「助かった……」

 

 安堵の息を吐く来人。

 そんな彼とは対照的に、立ち上がったアラタは警戒するような目で来人を見つめていた。

 

「手荒になったのは悪かったけど……! でも、自分を捕まえようとしてきたんだ。誰だって抵抗するだろ。それに、その……アレ。なんかよくわからんプログラム」

「……デジモン・キャプチャーのことか?」

「そう。それって結構気持ち悪いんだぜ?」

 

 手荒なことをしてしまった罪悪感故か、言い訳するように来人はペラペラと文句を言う。そんな彼の一方で、アラタはポカンと口を開けて呆然としてしまっていた。

 デジモンが感情を持って喋っている。プログラムとしか思っていなかったデジモンが人間並みの感情を持っていた。そのことに、アラタは驚いていたのである。

 

「……だから、えーっと……」

「いや、おたくの言うこともわかる。悪かったな。いきなりやらかして」

「えっと、ああ。いや、わかってくれればいい」

 

 デジモンも知的生命体だと知り、さすがに悪いと思っただろう。謝ってきたアラタに、来人はなぜか胸がすく思いだった。

 

「デジモンだって生きているんだ。そういうのは、お互いの了解の上でやってくれ」

 

 くどくどと説教じみたことを言って、そこではたと来人は気づいた。自分が嫌な思いをした人間として言っているのではなく、()()()()()()()この言葉を言っていることに。

 そんな自分に首を傾げた来人はすぐに思い直す。まだ暴走の件を引きずっているのかもしれない、と。

 

「それじゃな!」

 

 とりあえずこのままだとボロを出すかもしれない。今の自分の不調にそんなことを思った来人は、話を切り上げてこの場を立ち去っていく。

 

「……なんだったんだ?」

 

 そんな来人の姿を呆然と見送ったアラタだった。

 余談だが、この後のアラタは初期の目的通りにデジモンを獲得すべく探索を再開し、紆余曲折の末に意気投合することになる一匹の成長期デジモンと出会うことになるのだが、それはほんの余談である。

 




というわけで、第十五話。
繋ぎ回ということもあって、さっさと投稿しました。

それでは次回もよろしくお願いします。
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