【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第十六話~新宿怪現象~

「ミレイさん! あの子は……!?」

 

 デジラボと呼ばれる部屋の中、ただ焦ったかのような声が響く。

 その声を発しているのはアミだ。一方で、その声が向けられていたのはこの部屋の主たる御神楽ミレイだった。

 

「あら……? 彼は貴女から逃げたがっていたようだったから」

「えっ!?」

 

 だが、詰め寄ってくるアミを前にしても、ミレイはいつもの冷静な表情を崩さない。まるで、アミがそう言うのがわかっていたかのように。

 

「私は出口を教えてあげただけよ? それにそんなに心配することはないわ」

「で、でも……! あの子は怪我してるんです!」

「あの子……ね。まぁいいわ。そんなに言うなら……」

 

 アミの言葉に、ミレイは面白そうに笑みを浮かべるだけだった。

 とはいえ、いつまで経っても引かないアミだ。そんな彼女に嫌気が差したのか、はたまた面倒くさくなったのか。いや、もしかしたら初めから計算づくかもしれないが――ミレイはアミに告げる。“彼”の行先を。

 

「クーロン!? わかりました! ありがとうございます!」

 

 行先を聞くや否や即座にこの場を去るアミ。

 

「騒がしい子……ふふっ」

 

 そんなアミの姿に、ミレイは面白そうに笑うのだった。

 ともあれ、だ。そんなミレイのことなど知りようのないアミは、一旦暮海探偵事務所へと戻ってきていた。一応の上司たる杏子に、今から外出するという旨を伝えに来たのだ。

 

「ということで、杏子さん! 今からクーロンに行ってきます!」

「わかった……と、いうわけがないだろう」

「えっ!?」

 

 訳も話さず出て行こうとしたアミを止めた杏子。

 まあ、当然と言うべきだろうか。とはいえ、アミはなぜ止められるのかがわからずに驚いた。

 

「訳も話さずに探偵家業を放り出すとはいい身分だな。助手くん?」

「う……」

「そんな調子では、今日のコーヒーはお預けだぞ」

「ほっ」

 

 杏子の言葉に、アミは唸るしかない。

 が、最後のコーヒー云々だけは、割と真面目に安堵の息を漏らした。コーヒー。今のアミにとって、それは混沌をもたらす災厄の化身でしかないのである。

 

「まぁいい。君のことだ。何か考えがあるんだろう?」

 

 ニヤリと笑って、アミを見つめる杏子。その笑顔を見ると、何もかも見通されてる気さえしてきて――さすが本職の探偵、と。そう、アミは感心したのだった。

 

「君の気持ちもわかるが、こちらも急務だ」

「えっ……何かあったんですか?」

「今、新宿で怪現象が起こっているらしくてね。見てきて欲しい。無論、君が優先すべきだと思った方を優先してくれて構わない」

「わかりました……」

 

 どちらを優先するべきか。

 悩みながらも探偵事務所を出たアミは――結局、新宿の方へと行くことに決めた。もちろん、勝手にいなくなった彼のことも心配だったが、そこはミレイを信頼することにしたのだ。ミレイは、本当に危険な者を部屋から放り出すことはしないだろう、と。

 いつまで続いているかわからない怪現象をさっさと調査して、彼を探しに行く。そう思って、アミは走りだし、新宿を目指して――。

 

「……アレかな」

 

 ――新宿に着いた彼女は怪現象を探し始めた、のだが。

 探すまでもないことだった。彼女の目の前には、野次馬だろう人だかりができていたのだ。何と言うか、とても目立つ。この調子では誰だってわかるだろう。

 

「おい、これって大丈夫なのか?」

「ばっか。大丈夫じゃないだろ」

「いやっ怖い!」

「なんっだ、これ……」

 

 野次馬たちの声が、辺りに充満していた。誰もが一様として、この現象に驚いているようだ。

 まあ、それもそうだろう。何せ、そこにあったのは地下鉄へと続く入口――が、まるで電子的なノイズが走ったようになっていたのだから。

 まるでこの世界がデジタルに浸食されているかのような、まさしくそんな感じだったのだ。

 

「おいおい……こいつぁすげぇな!」

 

 そんな光景に呆然としていたアミ。だが、そんな彼女の耳に届いたのは、聞き覚えのある声で――思わず、振り向くアミ。そんな彼女が見たのは、片手を上げたアラタの姿だった。

 

「よぉ」

「アラタ……!」

「しばらくぶりだな。それにしても……おたく、これが何か知ってたりするのか?」

 

 どうやら、この大勢の野次馬たちと同じように、アラタもこの現象には興味津々のようだった。その顔に、隠しきれない好奇心が浮かんでいる。

 しかし、この現象が何かを知らないアミはアラタの質問に首を横に振るしかなかった。

 

「ま、そうだよな。こんなわけわかんねー現象……ん?」

「どうかした?」

「これ、中に入れそうな気しねぇ?」

 

 そう言われて、アミは怪現象をジッと見る。確かに、アラタの言う通り、どことなく入れそうな雰囲気ではあった。が、だからといって入ろうと思えるかというと、答えは否だ。

 中がどうなっているのかも、出てこれるかどうかもわからないのだ。そんな場所、誰だって入りたくはない。入りたくはない、のだが――不幸にもこの後、アミはこの中に入らざるを得なくなることになる。

 

「おい! おめーら現場に一歩でも近づいてみろ! まとめて逮捕すっぞ!」

「確かに現場保存は捜査の鉄則だってドラマでも見るけど……婦警さんでもそういう仕事するんだね」

「いいか、少しでも勝手なことしてみろ! 捜査を乱す輩は、この伊達真希子様が容赦しねー!」

 

 現れたのは女性警察官。伊達真希子と名乗った彼女には誰もが一歩引いてしまうほどの迫力があった。その目つきの悪さと声の大きさによる部分が大きいだろうが、ただそれだけでは済ませられない貫録もある。

 

「……ここは本職に譲るべきだよね?」

「だな。面倒なことになる前に……」

「あん? っていうか、オマエらどっかで……そっちのは確か、なんとかってハッカーチームで……それに、そっちのは……」

「げっ!」

「うっ!」

 

 思い出したかのように言う真希子の言葉に、アミとアラタはそれぞれ唸る。

 その時、アミは寝たきりの幼馴染の勘が乗り移ったような気がして――面倒なことになりそうだ、と。そう思った二人は、頷き合って走る。

 この人ごみの中、逃げ道は一つしかない。

 

「あっ! 待ちやがれっ!」

 

 背後で聞こえる声も無視して、アミとアラタはそこへと飛び込んだ。

 そう。あの怪現象の中へと。先ほどまでは入ることに躊躇っていたというのに――決め手は、少しの嫌な予感と多少のノリと勢いだった。

 

「夢でも見てるのか? こいつは……現実か?」

「まるで一昔前の電脳空間みたい……」

 

 怪現象の中も、怪現象が起きていることには変わらない。

 元々地下鉄の駅だったそこは外と同じようにところどころが電子のようになっていて、一言で言うのならば、滅茶苦茶な空感だった。

 

「けど、ま、ここならケーサツも追ってこないだろ」

「いや、アラタ……」

「あん……? っ」

「おらー! 待ちやがれー!」

「おいおい……! 来てるみてーだな。どんだけしつこいんだよっ!」

 

 背後から聞こえてくる声に、アミとアラタはうんざりする。二人とも、彼女がここまで追ってくるとは思わなかったのだ。

 後ろを振り返れば、確かに走ってくるあの彼女の姿。

 彼女の存在は幻聴でも幻影でもないだろう。アミたちにとっては、そうであって欲しかったが。

 

「おらぁ! 追いついたぞ!」

「うげ……こりゃ、面倒なことになったな」

 

 うんざり気味に呟いたアラタに、同意するようにアミは頷く。が、それで真希子が止まるはずもない。二人に追いついた真希子は、がっしりと二人の手を掴む。

 意外に力強い。こうなってしまえば、男のアラタはともかくとして、女のアミはどうしようもできないだろう。

 

「逮捕だ逮捕! 公務執行妨害で――」

 

 そう言い放ち、真希子はアミたちを連れて外へと出ようとした――その瞬間のことだった。

 

「おやおや、騒がしいですねぇ……」

 

 背後から聞こえた間延びした声。

 まさかいるとは思わなかった第三者の声に、真希子だけでない、この場の全員が思わず驚いた。

 

「おや。驚かせてしまいましたか。それは失敬」

「アンタ……誰だ?」

「おやおや。これはこれは。また失敬を働いてしまいましたね。私、末堂アケミと申します。カミシロ・エンタープライズの研究者です」

「カミシロの……?」

 

 カミシロ・エンタープライズ。あのEDENを運営している会社であり、いろいろと黒い噂もある会社だ。以前、アミが調査したEDEN症候群についても何かを隠しているという話まであるくらいである。

 そんないろいろな意味で有名な会社の研究者が何故ここにいるのか。アミたち全員は、その不可解さに疑問を抱いた。

 

「現在この奇妙な現象について実施調査の最中なんです。いくら解析できそうな専門家が私しかいないとはいえ……助手も付けずに現場に送り込むとは、まったくひどい会社だ。そうは思いませんか?」

「でも、善意で混沌(コーヒー)を押し付けてくる上司よりはいいと思う」

「それはそうかもしれませんね」

「って、納得するのかよ! テメーらにとっちゃ、会社よりコーヒーか!」

 

 ボケているのか、真面目なのか。

 アミとアケミの不思議な会話に、アラタと真希子は何とも言えない顔をする。

 

「世の中には知らない方がいいこともあるんだよ」

「世の中には知っている者しかわからないこともあるんですよ」

 

 アミとアケミが何を言っているのか、さっぱりわからないアラタたち二人だった。が、真希子もアラタも、アケミがこの状況について何かを知ってると思ったのだろう。

 

「おい、おっさん。実地調査ってことは、テメーこの現象について何か知ってるのか?」

「隠してると逮捕すっぞ、おらぁ!」

 

 アラタたち二人はアケミに詰め寄る。何と言うか、息が合っている。

 「二人って本当は知り合いじゃないの?」と。思わずアミがそう呟いてしまうくらい、二人の息は合っていた。

 

「まぁいいでしょう。あくまで調査から導き出される予測に過ぎませんが、お教えしましょう。しがない研究者である私では、国家権力には逆らえませんしね」

「いいからもったいぶらずに早く話せつってんだろ!」

「しかし、くれぐれも他言無用でお願いしますよ」

「はっ。アタシは警察だぜ? 約束はできねーけどな!」

 

 やれやれ、と首を振るアケミ。

 もったいぶるような彼に、イラっと来るアラタたち二人とそんな二人に引き気味なアミ。そんなアミたちの前で――アケミは話し始めた。この現象のことを。

 




というわけで、第十六話。

久々の主人公不在回前編。微妙に原作とは違いますね。
本当に微々たるものですが。

さて、次回は後編です。

それでは次回もよろしくお願いします。

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