【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
怪現象が発生している地下鉄の駅の内部にて、アミたちはアケミの話を聞き終わった。聞き終わって、何とも言えない顔で一息つく。
アケミの話はずいぶんと専門用語や固有名詞が多く、一般人に過ぎないアミたちにはよくわからなかった。が、アケミの説明がわかりやすかったのか。そんなアミたちにも、ぼんやりとだが話の内容がわかった。
デジタル情報を運ぶエネルギーの流れ――デジタルウェイブ。その特殊なものが、この空間に渦巻いているとのこと。簡潔に言えば、この場は電脳空間化しているということだ。
「はっ。信じられるか。人間の思念もデータ化する? バカバカしすぎるだろぉが!」
「くふふ……飛躍した論理を展開してるのは否定しませんよ」
真希子の大声にも、アケミは怯まない。
不気味に笑う彼のその表情。そこには、真希子のような反応をされることを読んでいた感さえあった。
「私からも一つ質問していいですか? 君たちは“イーター”を知っていますか?」
「“イーター”? 食べる者とか、そんな感じ?」
「ええ。その解釈であってますよ。私が個人的にそう名付けただけですけどね」
そう言われても、名前だけでは、アミにはイーターとやらが何なのかわからない。が、わからないのは、アミと真希子だけだったようで――。
「……! ひょっとして、あのしましまのオウムガイみてーなバケモンのことか!?」
――アラタは、イーターとやらが何を指すのかわかったようである。
「おや、知っているのですか」
驚いたように、アケミはアラタを見た。聞いておいて難だったが、アケミはアラタ“たち”が、すでに接触しているとは思ってもいなかったのだ。
「いやはや……無事とは恐れ入りますねぇ……」
「どういう意味?」
「そのままですよ。というのも、イーターが接触したすべてのデータはバグ化してしまいます。データの無為、無価値化。構造もアルゴリズムもバラバラの……まさしく欠陥となってしまいます」
その言葉に、アラタはゾッと怖気が走った。今更ながらに、かつての状況がかなりの危機的状況だったことに気がついたのだ。
EDENにおいて、アバターとは精神データだ。それがバグ化されてしまうというということは、二度と目が覚めない可能性もある。
「……一つ、聞いていい?」
「はい、何ですか?」
「バグ化したデータが元に戻る可能性は……?」
「残念ながらありません」
「っ」
その言葉に、アミは足元が崩れたような感覚を味わった。
イーターにバグ化されてしまった者は二度と元には戻らない。精神データである場合も同様だろう。ということは、イーターに接触した自分は、そして彼は。そのことを、アミは考えてしまったのだ。
「おい、テメー大丈夫か? 顔色わりぃぞ」
そんなアミに気がついたのだろう。真希子がアミを気遣って声をかける。
アミはその気遣いがありがたかった。
そんなアミに気づいているのか、気づいていないのか。アミにとっては、意地悪く感じられるような形で、アケミは続きを話す。
「と、言われていますが、私はそうは思いません」
「え……?」
「デジタルにおいて、かつてあったものがなくなるなど実に非論理的です。事象として在ってはならない。復元する方法は必ず存在する。バグについても然り。ゆえに……私はイーターについて研究しているのです」
「……おいおい、本気かよ」
そんなアケミの言葉には、呟いたアラタだけではない、アミたち全員が驚いていた。
無理と言われているもののために研究する。望む結果が得られる可能性など僅かを通り越して存在しないかもしれない。そんな状況で、研究を重ねるのは、どれだけキツいことか。
とはいえ、イーターについて研究している人がいる。それは、アミにとっては朗報だった。自分や、ひいては彼が助かることに繋がるのかもしれないのだから。
「……ってことは、カミシロはイーターが危険な存在だとして、知ってるんだよな?」
「や。それはもちろん。ですが、会社はあくまでビジネスですからねぇ……秘密にしておきたい情報もいろいろとありまして……まったくひどい会社だ」
「……へぇ。是非ともいろいろ聞かせてもらおうか。又吉サンにも良い手土産になりそうだ!」
そう言ったのは、アラタではなかった。真希子だ。ゴキゴキと拳を鳴らしながらアケミを見るその目は、露骨に言っていた。断ったらどうなるかわからないぞ、と。
「や。それは構いませんが……ですが、その前に。そちらのお二人にお願いしたいことが」
「私とアラタに……?」
「身構えずとも結構です。私がお願いしたいのは、この現象内部に存在するイーターの排除です」
イーターの排除。その言葉に驚くアミとアラタの前で――。
「っ! あぁ!? テメェさっきイーターは危険だって言ってやがったじゃねぇか!」
――声を上げたのは真希子だった。そんなことは認められないとばかりに。
「……ええ。言いましたねぇ」
「そんな奴のところに一般人二人を放り出せるわけねぇだろうが!」
「ですが、そちらの二人はイーターに対抗できるものをお持ちだ。ことこの場において、事態を解決できるのはお二人だけなのですよ」
「どういうことだ……!?」
言葉の前半にあった“イーターに対抗できるもの”とは、おそらくデジモンのことだろう。
アミもアラタも、言われずともなんとなくだが理解できた。が、言葉の後半にあった“事態を解決できる”という部分だけはわからなかった。
「簡単です。この特殊な力場を発生させているのは、あのイーターと考えられるからです。イーターの存在が、デジタルウェイブに影響し、この現象を起こしている」
「信用できるのか?」
「まぁ、あくまで私の考えでしかありませんが。元凶を断つことさえできれば、この現象は消滅するはず! この推論を実証するためにも、君たちの力をぜひ借りたいのですよ」
アケミのことを信用した訳ではない。が、彼が嘘を言っているようにも思えない。この事態の打開のためにも、アミとアラタはアケミのお願いに頷く。
「っち。なら、アタシも……!」
「やめておいた方がいい。無駄に危険を経験したい訳ではないでしょう?」
「うるせぇ! アタシは警察だ。一般人に何もかも任せてたまるか!」
引く気が全くない真希子の言葉に、アケミはやれやれと首を振る。アケミはこの場から動く気がないようで、待つつもりのようだった。
結局、イーター退治に行くのは、アミとアラタ、そして真希子となる。アミたち二人としては、真希子にもこの場に残って欲しかったのだが――二人には、この警察官を説得できる気がしなかった。
「あと言っておくと、イーターがいる場には、“白い少年の幽霊”または“妙な映像”が見られます。いわば、イーターという存在の前兆です。では、頑張ってくださいね」
背後から聞こえてくるそんなアケミの言葉で送り出されたアミたち三人。三人は、この地下鉄の奥へと進んでいく。
「テメーらは、どこでその……イーターとやらに出会ったんだよ?」
道中、聞いてくる真希子。そんな彼女を前に、アミとアラタは顔を見合わせる。
どこまでをどう話すか。そもそも、クーロンエリアからして一般人は立ち入り禁止の場所であるし、今のアミたちはハッカーだ。どうしても警察に話せることは限られる。というか、ペラペラ話せるはずもない。
「……え、EDEN……かな?」
悩んだ結果、せいぜいそう言うのが精一杯だった。
まあ、そう言ったアミの後ろで、アラタは顔に手を当てていて、やっちゃったとでも言いたげな顔をしていたのだが。
「……怪しいな」
「うぇっ。な、なんで?」
「悩んでる時点で怪しいんだよ! それにアタシのカンがそう言ってる」
「っぐ。来人みたいなことを……!」
どこぞの寝たきり系幼馴染と同じようなことを言う真希子から目を逸らすアミ。そんな彼女は気づいていなかった。そういう行動こそが、怪しいのだと。
どうしようか。悩みに悩むアミだが――助けは、意外なところから来た。
「さぁ! 吐きやが……れ……」
「……?」
急に途切れた声に、アミとアラタは疑問を抱く。真希子は信じられないようなものを見るような感じで、目を見開いていて――。
「なっ」
「あれが……」
――アミとアラタの二人も、それを見る。
それは、白い少年の幽霊だった。その幽霊は、まるで何かを伝えようとしているかのような、そんな表情で何かを言おうとしている。だが、アミたちには何かとしかわからなかった。口が動いているのはわかるが、そこから発せられる言語が人間のものではなかったのだ。
「……消えちまいやがった」
そんな幽霊も、一瞬後には消えた。
一体何だったのか。そう思う余裕もなく、この場の全員が緊張のままに辺りを見回した。彼らは思い出したのだ。アケミの最後の言葉を。白い幽霊もしくは妙な映像。それが、何を指すのかを。
「っ! 後ろだいやがった! 気持ちわりぃやつ!」
初めに見つけたのは、真希子だった。
彼女の言葉が耳に届くや否や、アミとアラタは行動を開始する。
「みんなっ!」
「初戦闘だからな! 思い切っていくぞ!」
アミは安定のいつもの三匹を。
そして、アラタが出したのは、クラゲのような成長期デジモンだった。
「アラタも……?」
「おう。ケラモンってんだ」
「ケケケケ」
まるで挨拶するかのように笑うそのケラモンは、一言で言えば不気味と言うしかない。
「おわっ。なんだそいつら!」
突如現れた何もかもがバラバラなデジモンたち。
そんなデジモンたちを前にして叫んだのは、真希子だった。彼女はデジモンを見るのが初めてなのだ。仕方のないことだろう。
「あー……めんどくせェな」
「後で説明します!」
いろいろと驚愕続きな真希子には悪いが、アミもアラタも説明している手間が惜しい。後で説明する。そんな軽い口約束をして、二人はイーターに向かい合った。
「数はこっちが有利……なら」
「押すしかないよね。みんな!」
まるで空間を這いずるかのように動くイーターを前に、アミたちは先手を打つ。何が起こるのかわからないのだから、先手で出来るだけダメージを稼ぐことにしたのだ。
次の瞬間にデジモンたち全員が、イーターに飛びかかる。その光景は、俗に言う袋叩きと呼ばれるような光景で――。
「―――――――!」
――イーターは何もできなかった。四匹のデジモンたちによって数分もの間絶えずタコ殴りにされ、消滅していったのだ。
それこそ、傍から見ていた真希子が可哀想になるほどだった。
「オメーら。人間相手だと逮捕だからな……」
ポツリと呟いた真希子の声が、空間に響く。
その瞬間に――プツリ、と。まるでテレビのスイッチが切れるその瞬間のように、この場の全員の視界は途切れて。
「ここは……新宿!?」
「どうやら、あのおっさんの推測は正しかったみてーだな」
次の瞬間には、アミたちは何事もなくなった新宿にいた。
「……それじゃ、とっとと逃げるわ」
「あっ……うん。私も……って、そだ! 私、事務所にいるから! 何かあったら来て!」
「は? 事務所? 事務所って何の……? って、行っちまいやがった」
走り去っていくアミ。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、アラタは先ほどの彼女の言葉を振り返る。
事務所とは、何の事務所だろうか。考えつくものはアイドルのものだが、まさか。そんな、ありえない考えをしていたアラタの頭の中では、フリフリの服を着てマイク片手に踊るアミの姿が妄想されていた。
「アイドルか……まぁ、あの容姿のアイツなら……」
本人が知れば、憤怒モノのバカな妄想であるが――そんなバカな妄想をしていたアラタは忘れていた。なぜ、先ほど自分がさっさと逃げようとしていたのかを。
「逮捕だコラァー!」
「……やべっ」
その声に、アラタはハッとして正気を取り戻した。
そう。その声が示すのは、先ほどまでは突然の事態に呆然としていた彼女が再起動したということで――。
「こら待てやぁ!」
「誰が待つか!」
――そんな彼女に捕まってたまるか、と。
アラタは駆け出した。
というわけで、第十七話。
後半でした。
ちょっと弱そうに見えるイーターですが、この作品では通常形態一匹ならばこんなレベルです。
まあ、人間ならば脅威ですが。
さて、次回。
話は主人公サイドへと戻ります。オリジナルの話です。
それでは次回もよろしくお願いします。