【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第十八話~漆黒の魔竜~

 アミたちがイーターについて、僅かながらでも知ることができてから数日後のこと。

 そんな彼女たちの一方で――

 

「今日も今日とて何も異常なし、と」

『見事なまでに何もないな』

 

 ――その情報を血眼になって探している来人たちの調査は、何の進展も見せていなかった。今日もクーロンエリアは平和である。

 

「しっかし、本当にこんなんで見つかるのか……?」

『見つけねばならぬ。これくらいしかできることはないのだからな』

「まぁ、そりゃそうなんだけどな……」

 

 このEDENから出ることができない来人では、できることなどかなり限られている。

 数日前、悩みに悩みながらカミサマと二人で考えた結果――来人は見回りをすることになった。いつイーターと接触してもいいように、来人たちはクーロンエリアを歩き回ることにしたのである。

 

『文句を言うな』

「わかってるよ」

 

 そんなこんなで、毎日毎日来人はクーロンエリアを歩き回っている、のだが――日がな一日歩き続けるのは、まだいい。が、毎日となると、さすがに飽きてくる。

 数日前の暴走以降、有象無象のハッカーたち相手に脅威を覚えなくなったからこそ、余裕の生まれた来人は飽きを感じていた。

 

「EDENの通常のエリアに行けば情報が手に入るかな」

『だが、デジモンはいないのだろう? そのような場所に行って目立つのは避けた方がいいだろう』

「そりゃ、確かに。でも、この調子だといつまで経っても調査は終わらないだろ」

 

 来人の言ったことは、すべて半分冗談で言ったことではあったが、半分は本気であった。

 EDENにはさまざまなエリアがある。商業エリアだけではなく、コミュニティのエリアなど、まさに千差万別。そのどこかには来人たちの望む情報を持つ者くらい存在するだろう。来人はそう思って、先ほどのことを言ったのだ。

 まあ、カミサマの言う通り、今の来人がデジモンである以上は行くことができないのだが。目立つというレベルの話ではない。

 

「……そういや、何人かのハッカーたちってパーカー羽織ってたよな」

『そうだな。……貴様まさか』

「ははは……ちょっと思っただけだよ。実行しないから大丈夫」

『……そういうことは思っても口に出すな。いらぬ疑惑を招くことになるぞ』

 

 相変わらずの呆れたようなカミサマの声。

 来人としてもほんの冗談である。実際にやるわけではない。少なくとも、今はそのつもりだった。

 そんな、冗談交じりの雑談を交わしながら、いつも通りの道を行く来人。その先で初めに気づいたのは――やはりカミサマだった。

 

『気づいているか?』

「何に?」

『……気配を探る術も学ばせるべきか』

 

 カミサマは何かに気づいているらしい。

 そのことに気がついても、来人自身は彼が“何に”気がついているのかがわからなくて、首を傾げるしかなかった。

 

『そうだな。では、一歩前に出た方がいいぞ』

「……?」

 

 言われるままに、来人は一歩を踏み出した――その瞬間のことだった。

 

「うぇっ!?」

 

 ドズン、と。そんな轟音を立てて何かが降ってきたのは。

 その何かが降ってきた位置は、来人が一瞬前までいた場所。もしカミサマの言葉が一瞬でも遅かったのならば、来人はぺしゃんこになってしまっていただろう。

 

「っ。なんだ!?」

『この闘志。ちょうどいいといえばいいか』

 

 突然の事態に焦ってしまったものの、ここまでくれば、カミサマの言葉を聞かずとも来人にもわかった。すなわち、敵であると。

 来人の目の前にいるのは、黒い誰か。こちらに背を向けているため、その姿の全容はわからない。が、尻尾らしきものが生えていることだけは見て取れた。

 

「お前見たことないやつだな! オレと戦え!」

 

 そう言いながら来人の方へと振り向いたそのデジモンは、来人も見たことのあるデジモンだった。かつて戦ったことさえある、グラウモンというデジモンだ。が、何と言うべきか。かつてとはいろいろと違った。

 特に色。以前は深紅の魔竜という異名通りの赤い体躯であったというのに、今目の前にいるグラウモンはただ黒かった。

 

「……グラウモンか? でも、色が……」

『ブラックグラウモンだ。この前のグラウモンとは同種だが……まぁ、色違い程度に思えばいい』

 

 そう。カミサマの言う通り、今来人の目の前にいるデジモンはグラウモンではない。ブラックグラウモンという名の、色違いの亜種デジモンなのだ。

 

「何をごちゃごちゃ言ってやがる! いいから戦え!」

『経験を積むのはいいことだ。近くにハッカーたちも見当たらない。ちょうどいいだろう』

「はいはい……わかったよ」

 

 やる気に満ち溢れているブラックグラウモンと異様に乗り気なカミサマに後押しされて、来人は構える。

 キラキラとしたブラックグラウモンの純粋な目に、来人はやりにくさを感じて――それは、油断だった。やりにくさを感じて、気を抜けたその一瞬。その一瞬で、ブラックグラウモンは駆ける。

 

『馬鹿者!』

「えっ!?」

 

 聞こえたカミサマの怒鳴り声に、来人は慌ててその場でしゃがんだ。直後、来人の頭の上を風が通り過ぎる。もちろん、ただの風ではない。ブラックグラウモンのその肘のブレードが通り過ぎた時に発生した風だ。

 

「っ」

 

 そのまま転がるようにして来人はブラックグラウモンから距離をとった。もう少しカミサマの言葉が遅かったのならば。そんな、一瞬前までの“IF”を想像しながら。

 

「今のを躱すのか! やるな!」

 

 そんな感嘆したような声が聞こえたが、来人はその声には答えず、ただ集中する。

 やりにくさなどもう感じない。隙などもう見せない。ただ、目の前にいる敵を打倒する――そんな風に、彼の思考が切り替わる。

 

「はっ!」

「おぉ!?」

 

 先ほどとは逆に、来人が距離を詰める。と同時に放たれた彼の右の拳は、ブラックグラウモンの左の拳で受け止められた。

 そこから先は、ただひたすらの近接戦(インファイト)。ブラックグラウモンの主武装は爪と肘のブレード。対する来人は両拳。

 それらが、近距離でただひたすらにぶつかり合う。

 

「はっ! ふっ! はぁっ!」

「おりゃぁっ! はぁぁぁっ!」

 

 太い爪が、鋭いブレードが、固く握られた拳が、空間を行き交う。

 互いに敵の武器をくらわないように、互いに敵を打ち倒せるように、互いの両腕は動く。向かい来る敵の武器を、己の武器でもって逸らし、生まれた隙に己の武器をねじ込む。

 そんなやりとりが、幾度も幾度も続いていった。

 

「っく……!」

「っぐ……!」

『……』

 

 そんな二人の戦いを見ながら、カミサマは一人、“こういう”戦い方をしているブラックグラウモンに感嘆していた。

 カミサマはブラックグラウモンの必殺技を知っている。また、得意技として、それに匹敵するほど名を馳せる技も。

 その二つを戦いに組み込めば、今の来人相手でも有利に事を運べるはず。だというのに、彼はそれをしない。

 

「おぉおおおおおお!」

「ぐぉおおおおおお!」

 

 思えば、ブラックグラウモンは闘志こそあれど、それだけだ。普通の敵に対して持つようなもの、つまりは敵意や殺意、憎悪を持っていない。それの意味するところは、単純に来人を敵と定めているのということではないということだ。

 まるで相手の土俵に合わせるように、自分の力を抑えるようにして、ブラックグラウモンは戦っている。そんな彼の意図が読めたからこそ、カミサマは感嘆したのである。

 

『血の気が多い者は数多く見て来たが……その中でも取り分けて面白い部類の奴だ』

 

 そう、誰に聞かれるでもなく呟いて、そのまま戦況を見守るカミサマ。だが、カミサマは思った。どうせならば、と。

 

『このままでもいいが……うむ。滅多にない機会だしな。そこの魔竜よ!』

「違う声……だと?」

 

 来人の身体から聞こえた、来人のものではないカミサマの声。

 それを前にして、ブラックグラウモンは驚くしかなかった。彼は二重人格のデジモンなどという存在を知らなかったのだ。

 まあ、それでも隙を見せずに戦い続ける辺り、それほど驚いている訳ではないとも言えるかもしれないが。

 

『訳あってな。まぁそれよりも、だ。本気を出せ』

「何だと……?」

『我々はそれを打ち破るぞ』

「……! ずいぶんと挑発的だなぁ!」

 

 そんなカミサマの言葉に、ブラックグラウモンは面白そうに笑う。

 今まで本気を出していなかった彼がその気になれば、戦況が変わるのは明らか。だというのに、それをわかった上でカミサマは言っている。彼を超える、と。

 だからこそ、ブラックグラウモンは笑えたのだ。今まで、自分が本気でなかったことを見抜いた者はいなかったからこそ。今まで、自分にそんなことを言う者もいなかったからこそ。

 

「はははは! いいぜ! 本気だ!」

 

 そんなブラックグラウモンの言葉に、来人は顔を厳しくさせた。いろいろとカミサマに言いたいこともあったが、後回し。ただ来人も全力を出す。

 バチバチッという、電気の弾けるかのような音が辺りに響く。それは、来人とブラックグラウモン、両者の腕から発せられているものだった。

 

「死ぬなよ」

「死んでたまるか」

 

 ブラックグラウモンの肘のブレードに、プラズマが発生する。来人の拳から、電気が弾ける。

 

「おらぁ! “プラズマブレイド”!」

「はぁっ! “スタンビートブロウ”!」

 

 一瞬後、両者はぶつかり合う。

 迫り来るブレード。それを前に、来人はしゃがんだ。戦闘開始時と同じ、頭の上を通り過ぎる風。それを感じた直後、彼はそのまま足のバネを使って、飛び上がった。

 狙うは、相手の顔面。振るった拳がブラックグラウモンの顔面を捉え――。

 

「だよな。それくらいは読めてた」

 

 ――る直前で、ブラックグラウモンがニヤリと笑った。

 ブラックグラウモンの口が開く。そこから放たれるのは、爆音と火炎。ブラックグラウモンの必殺技。

 

「っ!」

「おそい! “エキゾーストフレイム”!」

 

 放たれた火炎。それを躱す術も防ぐ術も、来人にはない。が、あくまでそれだけだった。

 躱せないのならば――。

 

「はっ!」

 

 ――ダメージ覚悟で突っ込めばいい。

 そんな殺伐とした思考で、来人は強力な火炎を突っ切る。肌を引き裂くかのような強烈な痛みに襲われる。思わず、戦闘用に切り替わった思考が元に戻りそうになる。が、関係ない。ただこの一撃だけを。

 

「なっ!」

「“スタンビートブロウ”!」

 

 今度こそ、来人の拳がブラックグラウモンの顔面を捉える。

 次いで、解き放たれる電撃が、ブラックグラウモンの神経を麻痺させて――身体が動かなくなったブラックグラウモンは倒れ伏した。

 戦闘が終わって――。

 

『……これは、少しマズイか?』

 

 ――そんなカミサマの声だけが辺りに響く。

 来人は、倒れ伏していたブラックグラウモンの隣に倒れていた。

 




というわけで、第十八話。

オリジナル回前半で、戦闘回でした。
次回に続きますね。

それでは次回もよろしくお願いします。

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