【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第二十三話~事の終わりはあっけなく~

 時は少しだけ遡る。

 その時、アミと来人に謎の激励をされたアラタはブラックグラウモンに掴まれていた。

 

「おい、何する気だ」

「んー……ここら辺か。よっし」

「聞けよ!」

 

 誰も何も言われず、さらには妙な体勢でがっしりと掴まれている自分という構図。来人ではないが、アラタはそれに嫌な予感を覚えていた。

 

「行くぞ。頑張れよ! “エキゾーストフレイム”!」

 

 ワイズモンの玉が鼓動したタイミングで、ブラックグラウモンは自分の必殺技を放つ。と、同時に、彼は動き出した。必殺技は目くらまし。本命は――。

 

「行っけぇ!」

「ちょ、まっ」

 

 ――アラタをぶん投げることである。

 助走込みの投擲。デジモンの筋力で投げられたアラタは、勢いよく飛んで行くしかない。人間ミサイルというものの恐怖を身をもって体感したアラタだった。

 まあ、体感したくはなかっただろうが。

 ワイズモンを超え、その後ろ側へ。アラタは着弾する。ブラックグラウモンが手加減してくれたおかげで、スプラッタなことになるのは避けられたが、それでもアラタはかなり痛かった。

 

「いってぇ……」

「真田くん……!?」

「っ。西野さん……!?」

 

 だが、痛みに悶える暇など、アラタにはない。

 なにせ、今のアラタの前には、件の犯人である西野がいたのだから。その姿を見て、ようやくアラタは自分のすべきことを理解した。

 アラタのすべきこと。すなわち、西野の説得だ。今の西野は、ワイズモンの力で今回の事件を起こした不思議な力を得ている。それを使われる前に、西野に声をかけなければならない。

 その事実を正しく認識して、されど焦らないように、アラタは急いで話し始めた。

 

「……西野さん。俺、さ。あんたの漫画……結構楽しみにしてたんだぜ?」

「……嘘」

「嘘じゃねぇよ。とにかく漫画が大好きって感じが伝わって来てさ。俺は読むだけだから、そういう楽しみが出来るあんたが羨ましいって思ってたんだ」

「……嘘、嘘嘘嘘!」

「だから、さ。西野さんがそんな思いしてたなんて……気づけなくてすまねぇ」

 

 すべきことは、説教などではない。そう考えて、アラタは思った言葉だけをただ述べていく。

 一方で、西野はそんなアラタの言葉が信じられなかった。誰もが自分の作品を馬鹿にして来たからこそ、そんな言葉を言うアラタのことが信じられないのだ。

 

「嘘……嘘っ!」

「嘘なもんかよっ!」

「っ」

 

 アラタの怒鳴り声に、西野は押し黙った。アラタの声には、それだけの迫力があったのだ。真剣という名の迫力が。

 そんなアラタの姿を前にして、ここに来て初めて西野の中に迷いが生まれる。

 もし。もし、何か原因があったというのなら、このせいもあるかもしれない。自分のしていることに迷いを抱いてしまったせいで、膨れ上がった力の制御が外れたという。

 

「っ! アミ!」

 

 切羽詰ったような来人の声が、アラタの耳に届いた。

 そのあまりの鬼気迫る声に、アラタは意識をワイズモンの方へと向けて――そんなアラタは見た。まるで風船のように膨らんだワイズモンの姿を。

 咄嗟に、アラタは西野を抱き寄せる。その直後――ワイズモンが爆発した。

 

「っ……」

「いてぇ……」

 

 一瞬、白に染まる世界。

 その後、色を取り戻した世界で、この場の全員が無傷とは言えずとも無事だった。強烈なまでの力で、誰もが消滅必死の爆発であったのにも関わらず、だ。

 

『……そうか。あやつは望んであの娘に……。我々は助けられたのだな』

 

 カミサマの呟きは、誰に聞かれることもなかった。

 ワイズモンの消滅ということにはなったが、味方側の損失がゼロという時点で喜ぶべきことだろう。

 今度こそ、事件は終わった。その事実を前に、未だ嫌な予感収まらない来人を除いた、この場の誰もが喜んでいて――次の瞬間、来人のその嫌な予感は現実となってしまう。

 

「っ! アラタ逃げろ!」

「アラタ逃げて!」

「は?」

 

 それに背を向けていたアラタと西野以外は見た。アラタたちの後ろに、白い少年の幽霊の姿が現れたことを。

 尋常ならざる様子の面々の姿に、アラタは後ろを向く。そこにいたのは――。

 

「っイーター!?」

 

 ――イーターだった。

 ゆっくりと迫り来るイーター。それを前に、アラタは逃げようとする。が、不気味なイーターの姿に腰を抜かしてしまったのか、西野は動かなかった。

 

「っち。西野さん!」

「え? あ……」

 

 そんな彼女を見捨てるという選択肢は、アラタにはない。

 アラタは彼女を抱えて走り出した――が、やはり人一人を抱えての走行だ。たいした速度が出るはずもなかった。

 

「待ってろ! “エキゾーストフレイム”!」

「……! “データクラッシャー”!」

 

 そんなアラタたちを救うべく、即座に必殺技を放ったブラックグラウモンとクリサリモン。だが、彼らが必殺技を放ったのとイーターがアラタたちの下へと到着するのは同時だった。

 その時には、アラタは他のことを気にする余裕はなく、必死に足を動かしていただけだった。だが――。

 

「真田くん……ごめんね。ありがとう。真田くんの言葉、嬉しかったよ」

「え?」

 

 ――だからこそ、気づいた時には遅かった。

 その言葉と共に西野はアラタの手を振り払い、アラタを突き飛ばしたのだ。呆気にとられるアラタの前で、西野はイーターに触れ、死体のように動かなくなり――直後、西野に触れたことで一瞬動きが止まったイーターに、ブラックグラウモンとクリサリモンの必殺技が着弾する。

 それだけで、イーターは消滅した。本当に、たったそれだけで。

 犯人のEDEN症候群の発症。つまりは意識不明。それで、この事件は本当に終わったのだった。

 

 

 

 

 

 秋葉原に発生した怪現象。アミ曰くマヨヒガ現象。それはイーターの消滅と共に収まった。

 あの怪現象が収まれば、そこはもう現実の世界。デジモンである来人たちが存在できる空間ではなく――あの怪現象の終了と共に、来人たちはデジヴァイスの中に退避していた。

 後の事がどうなったのか、その場にいなかった来人にはわからない。が、いろいろとあったのだろう。

 それは、何かに悩んでいるかのような今のアミの表情を見ても明らかで――。

 

「……」

「……」

 

 ――そう。今の来人は、アミと共にクーロンエリアにいた。アミがブラックグラウモンとした約束を果たしに来てくれたのである。

 ついでに言えば、気を利かせたのか、ブラックグラウモンは来人たちから離れたところにいる。そう。今ここには来人とアミの二人きりだったのだ。

 まあ、カミサマがいるといえばいるのだが。

 

「……」

「……」

 

 何か言いたいことがあるのだろうか。来人とブラックグラウモンをデジヴァイスの中から出して以降、アミはずっと黙り込んでいる。

 そんなアミに釣られて、来人も黙り込んでいて――沈黙が包むこの場で、来人は気まずい思いをしていた。

 

「そ、そういや、事件はどうなったんだ……?」

 

 数分も経って、いつまでも続く沈黙に耐えられなくなった来人は、堪らず話し出す。が、アミが言いたいのだろうことを聞き出さずに、別のことを聞く辺りヘタレだった。

 

「ああ、うん……君も知りたいよね。犯人の西野さんについては……EDEN症候群になっちゃったみたい。EDEN症候群っていうのはね……」

「それくらい知ってる。ニュースとかで見たしな」

「ニュース?」

「あっ……何でもない! いいから続き!」

 

 普通、デジモンが人間のニュース番組を見るはずがない。

 そんな来人の言葉に、当然のように怪訝な顔をしたアミ。そこでようやく自分の失言に気づいた来人は、慌てて先を促すのだった。

 

「たぶん、イーターに接触した人間が……」

「EDEN症候群になるってことか」

「うん。元々その推測はあったんだけどね……」

 

 そう言ったアミは、そこで言葉を切る。辛い何かを思い出しているような、苦しそうな表情だった。

 

「アラタもイーターを調べるために動くって。西野さんを助けたいみたい」

「アラタが……そっか」

「一応、君がイーターについて調べてることも言っておいたよ。何か情報が手に入ったら伝えるって言ってたから、君も何かわかったら教えて欲しいな。アラタにも……私にも」

 

 アラタがイーターを調べるために動き出したということは、来人たちにとって好都合ではあった。

 現実世界に行くことができない来人たちに変わって、アラタは現実世界でイーターについて調べることができるからだ。

 ここで、話題が途切れた。

 

「……」

「……」

 

 話が終わって、再びの沈黙が辺りにやってくる。気まずさの復活だった。

 どうしようもない。そのことを悟ったのだろう。来人は、勇気を出して、アミに話しかけることにしたのだ。

 

「なぁ……何でそんなに落ち込んでるんだ?」

「っ。……そ、れは……」

 

 落ち込んでいることを見破られたからか、そのことについて聞かれたからか、それとも別に理由があったからか。

 来人の言葉に驚いたアミは、俯きながら口をもごもごと動かす。今、彼女の口の中では、声にできない言葉が溢れていた。が、来人がずっと自分を見つめていることに気づいて、アミは渋々と話しだした。

 

「その……EDEN症候群の人を治す方法が見つかるのかなって。そもそも、治せるのかって」

「……」

 

 アミのその言葉で、来人は彼女の考えている不安がわかった。

 イーターに精神データを“食べられた”人間がEDEN症候群となる。今回、イーターを倒したからといって、そのイーターの襲った人間が元に戻らないのは、西野の件で明らかとなった。

 だからこそ、アミは自分の中に元々あった不安を大きくしてしまったのである。

 

「ごめん、急にこんなこと言って。困るよね。アイギオモンくんはどこか来人に似てるから……いろいろと話しちゃった」

「……」

 

 心臓に悪い。先ほどまでとは別の意味で、来人は沈黙するしかなかった。

 自分が来人に似てるとは、自分が来人である以上当然のこと。だが、アイギオモンとしての今の自分のどこをどう見て、アミは自分(アイギオモン)自分(来人)を重ねたのだろうか。

 もはやアミを慰めるつもりなどどこかへと吹き飛び、来人の頭の中にはただ混乱だけがあった。

 

「ちなみに、来人って?」

「私の幼馴染だよ。今は……その、EDEN症候群で倒れてるんだ。助けたいけど……無理かも」

 

 今の自分の身体の現状など、来人は知らなかった。が、以前カミサマと話していた通り、肉体だけで転がっていたらしい。

 自分の身体の現状が知られたのは、来人にとっても素直に良かったと言える。まあ、まだ何も解決していないが。

 

「まあ、来人云々はともかくとして、だ。今のアミはらしくないって思うな。そりゃ、不安になるのもわかるけどさ」

「……」

「……はぁ。俺の知ってるアミは、殺されかけた相手を勝手に助けるような呆れるような底抜けの馬鹿だ。嫌がってるのに、構わず構ってくるような阿呆だ」

「……それ、褒めてないよね?」

 

 来人のあんまりな言いように、アミは居心地の悪そうにするしかなかった。来人が何を言っているのか、彼女にも理解できたのだ。

 

「でも、そんな間抜けだからこそ、助けられた奴もいる。そんなお前だからこそ、助けになりたいって思う奴もいる」

「それは……」

 

 来人のその言葉に、アミは思い返す。自分に着いて来てくれたデジモンたちのことを。

 

「だからさ、いつも通りにしてろよ。お前が誰かを助けたように、お前には助けてくれる奴が大勢いるんだからな。お前は、お前らしくしてりゃいいんだ。そうすればきっと……どこぞの誰かには不可能なことでも、お前にならできるさ」

「でも……」

「その来人とか言う奴だって、そう言うだろうよ。俺がそいつに似てるなら、な。お前には、そう思わせられる何かがあるんだ。だから、頑張れ。今はそれだけでいい」

「……!」

 

 最後の来人の言葉に、アミはハッと何かに気づいた様子で来人を見た。

 彼女には、目の前にいるアイギオモンの言葉が、幼馴染の語る言葉であるような気がしたのだ。

 

「ふふ……やっぱりアイギオモンくんは来人に似てるね。私の面倒を見てくれるところとか」

「……気のせいだろ」

 

 来人は、いちいち人間としての来人と今の自分を重ねるのを止めて欲しかった。心臓に悪い。

 

「君も私を……助けてくれる?」

 

 アミのその言葉は、どこか懇願するような、すがりつくような色があって――。

 

「……ま、気が向いたら。不安になった時の愚痴くらいなら聞いてやるよ」

「うん! ありがとっ!」

 

 ――それを断ることは、来人にはできなかった。

 そうして、笑顔を浮かべたアミは去る。

 後に残ったのは、妙に疲れた気がする来人と、ようやく気を使わなくてよくなったことに安堵するカミサマ、そしてアミと入れ違いで来人に近づくブラックグラウモンだけだった。

 




というわけで、第二十三話。

秋葉原事件のエピローグ的回でした。
一連の事件がようやく終わりましたね。まあ、ほんの二、三話でしたけど。

さて、次回。
あの人のバイトの話ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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