【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第二十八話~奥の手~

 究極体ボルトモンの出現。それは最悪な状況を意味していた。

 完全体二体が相手の時ですら、かなりの疲労と労力を対価に勝ちを拾ったのだ。それ以上の敵を、今の疲労困憊な状況でどう倒せというのか。

 

「おやおやおやおやwこのスーパーロックなデジモンを前にどうしようもないんですかぁ?」

「っく……!」

 

 ジミケンが挑発するかのような声を上げる。が、それに返す余裕は来人にはなかった。

 ボルトモン。究極体。カミサマが逃げろと言ったのも頷けるほどの、圧倒的な強者の気配。完全体に進化できたからこそ、来人はボルトモンの強さを感じ取ることができていた。

 今の自分たちでは、束になっても勝てない相手だと。仮に勝てたとしても、その時は全員が欠けずにいるのは不可能だと。

 

「……ここに来て究極体とか……アイツ、顔だけじゃなくて性格も悪いな」

「まったくだ」

 

 ブラックグラウモンの言葉に来人は心底同意する。

 

「みんな……」

 

 アミの心配そうな声が聞こえてきたが、誰も返す余裕はない。この場の誰もの意識は、ボルトモンという強者に釘づけになっていたのだ。

 

「さぁさぁ! 今までオレ様を馬鹿にしてきた分、利子付きで返せぇ! お前らもオレ様の藁人形(ファン)にしてやるよwww」

「ァアアアアアアアアアア!」

『来るぞ!』

 

 ジミケンに改造を施されているからだろう。狂ったような叫び声を上げて突っ込んでくるボルトモンを前に、来人たちはバラバラに回避行動に移る――が。

 

「なっ……! はやっ」

 

 ボルトモンは、それ以上の速さだった。

 見るからに屈強な巨体が、自分たちが出せないような速度でタックルをかましてくる。重さと速さは、威力に関係する重要な要素である以上、ボルトモンのそれは脅威だった。

 そんなボルトモンの一番初めの標的になったのは、ガードロモンだった。

 

「マニュアルモード。“ディストラクション――」

 

 逃げることはできない。それを悟ったガードロモンは、迎撃を選択する。身体の装甲の一部が開き、そこからグレネード弾が覗く。一瞬後、それが放たれる――。

 

「アァァァァ!」

「ック。ヤハリ」

 

 ――その直前で、ボルトモンがガードロモンの下へと到達した。

 力任せに振られる斧。自分の身体に食い込んでくる感触。その感触を味わいながら、ボルトモンは吹き飛ばされた。置き土産とばかりに、グレネード弾をその場で暴発させて。

 

「っガードロモン!?」

 

 アミの悲痛な声が辺りに響く。

 壁に激突したガードロモンは、ボロボロだった。深々と開いた傷からは中身の動線やら基盤やらが剥き出しで、爆発によって煤汚れてもいる。生きてはいるようだが、重傷だった。

 

「ガードロモンを……! “チクチクバンバン”!」

「よくも……! “ブレイジングファイア”!」

 

 ガードロモンの最後の置き土産の爆発。

 それで隙ができていると信じ、感情任せにテリアモンとトゲモンは突き進んだ。テリアモンの熱気弾がいくつも放たれ、トゲモンの硬化した腕の刺が唸る。

 ガンっと。まるで鋼鉄を叩いたかのような、そんな硬い音が辺りに響いた。

 

「え……?」

 

 思わず、トゲモンは呆然と声を上げてしまった。

 目の前にいるのは、ボルトモンだ。自分たちの技を無抵抗で受けたというのに、未だ()()()()()の。

 

「ァァァァッァァァァ!」

 

 ボルトモンが声を上げる。

 まずい。そう感じたトゲモンが防御姿勢をとるよりも早く、ボルトモンは拳を振り抜いた。

 振り抜かれたのが拳であって、斧でなかったのは幸運だったかもしれない。まあ、どちらにせよその一撃で重傷となってしまって戦闘不能に陥るという事実に、変わりないが。

 身体の形が変形するほどの威力を受けたトゲモンは、まるでボールのように吹っ飛んでいく。

 

「わ、わわわわ……わぁっ!」

 

 その先にいたのは、テリアモンだった。

 もちろん偶然ではない。ボルトモンが狙ってトゲモンを殴り飛ばす方向を調節したのだ。

 自分よりも数倍も大きなトゲモンの身体を支える力など、テリアモンにはない。しかも、トゲモンには刺がある。この二つが重なった時、どうなるかなど火を見るよりも明らか。

 一瞬後、テリアモンの姿はトゲモンの下へと消えた。

 

「っ、このっ!」

「いい加減に……!」

『よせ!』

 

 カミサマの静止の声も聞かず、来人とブラックグラウモンは駆ける。

 

「“エキゾーストフレイム”!」

 

 ブラックグラウモンが放った全身全霊の必殺技。それがボルトモンを襲う――が、ボルトモンは多少よろめいただけだった。

 ブラックグラウモンの技を受けながらも、なんでもないようにボルトモンは突き進む。

 

「っく……! ならっ“プラズマブレード”!」

「ァァァッァァァァ!」

 

 プラズマを宿したブラックグラウモンの肘のブレードと、ボルトモンの斧が激突する。

 

「あぁぁぁあああ!」

「ァアアアアアァ!」

 

 永劫とも思える一瞬の後、それは砕ける。

 押し勝ったのは、当然というべきか、ボルトモンの斧の方で、砕けたのはブラックグラウモンのブレードの方だった。

 そのまま肩から足まで一直線に切り裂かれたブラックグラウモンは、耐え切れずにその場で倒れ伏す。身体を両断されなかったのは、単に砕かれた一瞬で後ろにほんの少しだけ後退したからだ。あの一瞬でそれができていなかったのならば、彼は今頃半分になっていただろう。

 

「くそっ! “ライトニングパイル”!」

 

 そんなブラックグラウモンの姿に悔しい思いを抱きながらも、彼が作ってくれた間に準備できた技を、来人は放つ。杭の形となった雷が、ボルトモンを打ち抜いて――。

 

「アァ!」

「なっ!?」

 

 ――ボルトモンは、素手でその雷を砕いた。

 必殺技を腕で砕く。その事実に、来人は驚くしかなかった。が、すぐさま再起動して、接近。

 

「“ボルトブレイクノックダウン”!」

 

 別の必殺技を放った。アイギオモンだった頃の“スタンビートブロウ”の正当強化とも言えるこの技は、より強力になった雷を拳に纏ってラッシュ攻撃をする技だ。

 体力の続く限り、ボルトモンを殴り続ける来人。だが――殴れば殴るほどに、その表情は硬くなっていった。彼は気づいたのだ。自分の攻撃が、“少し”しか効いていないということに。

 

『いかん! 躱せ!』

 

 カミサマが叫ぶ。だが、やはり遅かった。カミサマの声を聞き、来人がそれを理解するまでの一瞬の間。それだけで、勝負は決した。

 

「アァアアアアアア!」

 

 ボルトモンの力任せの殴打。

 まるで重力が失われたかのように吹き飛んだ来人は見た。飛び上がったボルトモンが、斧を振り下ろしているその瞬間の光景を。

 一瞬後の身体を引き裂かれるような痛みと共に、来人は意識を失った。

 

「そんな……みんな……!」

 

 凄惨な光景を目の前に、アミの悲痛な声が辺りに響く。

 たった一体のデジモンの存在で、来人たちは壊滅させられたのだ。

 全員、死んではいない。が、唯一生き残ってるのは、未だ戦意を喪失したままのデビモンだけ。どう足掻いても、この場を乗り切れるはずもなかった。

 

「おいおい、OIOIOI! 最初の威勢はどうしたザ・フールズwww」

 

 実に楽しそうなジミケンの声だけが、辺りに響く。

 そんなジミケンに合わせるように、壁際にいる操られた人々はテンションを上げていった。

 

「まwwwこの悪魔巡礼の贄として! いっちょやっちまえ!」

「アァァァァァアア!」

 

 ジミケンの声に従って、ボルトモンが斧を振り上げる。

 その斧の先には、最後に倒れた来人が倒れていて――。

 

「っ! アイギオモンくん!」

 

 ――そんな光景を見たアミが駆け出した。

 しかし、どう足掻いても間に合わない。いや、そもそも非力なアミ一人が間に合ったところでどうにもならないか。

 

『……仕方ないか』

 

 そんな中、悲痛な声色で呟いたのは、カミサマだ。

 カミサマには、この状況を打開する手があった。いわゆる、奥の手が。だが、それはかなりのリスクを伴う。しかも、そのリスクを負うのはカミサマではなく、来人の方なのだ。

 できれば、使いたくなかった。使わずに済めばよかった。だが、状況はカミサマのそんな思いを許さない。だからこそ、カミサマはそれをする。『すまない』と一言、来人に呟いて。

 

「ァァァァア!」

 

 ボルトモンの斧が振り下ろされる。それを――まるで今までの怪我など関係がないとばかりに、来人は立ち上がって右手で受け止めた。

 いや、来人ではないか。来人の身体を動かしているのは、来人ではない。今、来人の身体は、来人以外の意思によって動かされていた。そう、他ならぬカミサマの意思によって。

 

「貴様に恨みはない……が、ここで死ぬわけにも行かぬ身だ。時間もない身であるから、遺言を聞いてもやれぬ。悪いが、即座に終わらせる」

 

 驚くジミケンやアミを前に、静かに、ただ静かにそう告げるカミサマ。

 そんなカミサマは、片腕を上げて――その一瞬後のことだった。閃光が空間を照らす。白となった世界で、次いで辺りを襲ったのは、まるで天の怒声の具現とばかりの轟音だった。

 

「は……?」

「……え?」

 

 光が収まる。色が戻った世界で、そこにあった光景。それは、まるで火事でもあったかのような黒い煤汚れとアイギオモンへと退化したカミサマの姿“だけ”だった。

 一体何が起きていたというのか。事態は一瞬だったというのに、まるで永遠にも続いたかのような錯覚。そんな中で、この場の誰もがそれを理解できていなかった。

 

「はぁぁぁぁ!? 一体何があったってんだよォ!」

 

 苛立ちのままにわめき散らすジミケンを、未だカミサマは冷たい目で見ていて――。

 

「ここにいる者たちを解放しろ」

 

 ――カミサマは、ただ静かにそう言った。

 

「は? 誰が……」

「貴様に拒否権はない」

「っ!」

 

 ギロリ、とカミサマに睨まれれば、ジミケンはそれに従うことしかできなかった。

 まるで存在の格が違うかのような、圧倒的な気配。逆らえば、それは罪であり、死があるのみ。たったひと睨みで、ジミケンはそんな錯覚をさせられてしまったのだ。この電脳世界で。

 

「っくそぉ……だが! まだ! あれさえあれば……!」

 

 何やら操作しながら、負け惜しみを言うジミケン。

 そんな彼の視線の先には、一台のビデオカメラがあった。

 追い詰められたからこそ、彼の中にある思いが露骨に現れたのだろう。その視線には、それだけは決して手放すつもりはないという、そんな意思が込められていて――アミは思った。あれだけはジミケンに回収させてはならない、と。

 だが、アミの位置からビデオカメラは遠く、デジモンたちもカミサマを除いて全員気絶状態だ。

 まずい。アミはそう思って、その直後のことだった。

 

「アグモン! ガブモン! やっちゃえー!」

「ほいっ!」

「さぁっ!」

 

 部屋に響いたのは、戦闘前に戦線離脱したノキアたちの声。

 ハッとしてアミたちがその声のした方を見れば、アグモンとガブモンがジミケンが固執していたビデオカメラを壊していた。

 

「ぬぁぁぁぁぁ! “あの人”から貰ったスゥーパァーなカメラがァ!?」

 

 思わず、発狂したかのように叫ぶジミケン。

 

「そこまでだ」

「っ」

 

 そんなジミケンを静かにさせたのは、新たな参入者の声だった。

 新たにこの場に現れたのは、二人組の男女。いつかの時も現れたユーゴという少年とフェイという女性だった。

 アミたちを一瞥してから、フェイは一歩、また一歩とジミケンに近づいて行く。

 そして――。

 

「ユーゴはんに逆らうあんさんは不要や。ほな、さいなら」

 

 ――腕をひと振り。ジミケンのアバターを破壊した。アバターが破壊され、この電脳世界から追い出されたジミケンを、フェイは冷たい目で見ている。

 

「え? え? アンタたち仲間じゃないの……!?」

「ブッサイクなお嬢はんたち? 深入りは禁物ですえ?」

「ぶっ……」

「……さいく!?」

 

 フェイの言葉に、アミとノキアは愕然とした。

 ノキアもアミも、自分の容姿を不細工と言われるほどだは思ってはいなかった。だからこそ、そんなフェイの言葉に驚いたのだ。

 まあ、ノキアの方は、ほんの少し自意識過剰であったが。

 

「……アタシはブサイクじゃないし! っていうか、そういうアンタこそブサイクですー! ブサイクって言った方がブサイクなんだからね!」

「……」

 

 どうやら、アミとノキアの二人は完全にフェイを敵視し始めたようである。それは、ノキアの勢いに押されて黙っているアミですら、ノキアを止めようとしていない時点で明らかだった。

 

「……全く。女というものはどこも変わらぬか。まぁよい。フェイと言ったな。貴様の口ぶり、貴様らがこの件に関わっているということでいいか?」

「へぇ? 勘のいいプログラムどすなぁ……なんや、解析系のもんでもつんどるんかいな」

 

 カミサマの言葉に、感心したような口ぶりのフェイだが、カミサマを見つめるその視線は冷たかった。

 

「それほどでもない。経験の差だ。小娘“たち”のことくらい見抜けないのでは、笑い話にもならないからな」

「……! 勘や経験で済む話じゃありまへん……ここで潰しておきましょか」

 

 不穏な空気を出し始めたフェイは、その手をデジヴァイスへと伸ばして――。

 

「やめろ。彼女たちに手を出すな」

 

 ――そんな彼女を止めたのは、意外なことにユーゴだった。

 

「あきまへんで、ユーゴはん。さっきのことと言い、こいつらは危険どす!」

「やめろと言っているのが聞こえないのか? それとも……君まで僕に逆らうのか?」

「ひっ! ちゃいます! そんな……そんなこと言わんといて! わっちがユーゴはんを裏切るわけ……あらへん」

 

 そう言ったフェイだが、最後の方はもはや懇願に近かった。それだけ、フェイという女性はユーゴという少年に心酔しているのだろう。

 アミたちには理解できなかったものの、彼女が必死にユーゴの傍にいようとしていることだけはわかった。

 フェイのそんな様子を見たユーゴは、今回の件の謝罪ということなのか、そのままアミに頭を下げた。

 

「ユーゴはん!?」

「すまない。今回のことは僕の不始末が原因だ。彼は純粋に客を呼びたくて、こんなことをしたんだ。カミシロに唆されてね」

「それって……」

「唆したのは、おそらく岸部リエという女性。アイディアやそれに必要なものを準備したのも彼女だろう。……彼も操られていたんだ」

 

 そう言ったユーゴは、どこか悔しそうな顔をしていた。どうして、そんな顔をするのか。それは、知り合い程度の付き合いしかないアミたちには、わからないこと。

 結局。その後、彼らは去った。アミの端末に、ここへ集められた人々の現実世界での居場所の情報を送り、後始末をすまなさそうに頼んで。

 

「我もそろそろ行く」

「あ……カミサマ! アイギオモンくんは……」

「中の奴は……無事だ。そのうちに我とまた入れ替わるだろう」

「そっか……」

 

 カミサマの言葉にホッと安堵の息を吐くアミ。そんな彼女の姿を見て――カミサマは、ブラックグラウモンを背負ってクーロンエリアへと戻る。

 そんな彼らの姿を見送ってから、アミたちは自分たちのやるべきことをやるために現実へと帰還したのだった。

 




というわけで、第二十八話です。

ジミケン戦決着。
さすがに来人たちでは究極体には勝てませんでした。
一体カミサマが何をしたのか。
まあ、予想はつくと思いますが……そのうちに明かされます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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