【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第二十九話~アミたちの特訓~

 ジミケンとの死闘の翌日。クーロンLV1エリアにて――。

 

「あれ……?」

 

 ――来人は目を覚ました。

 キョロキョロと辺りを見回して、自分の居場所を確認する来人。今、彼は混乱していた。彼の中では、つい一瞬前までジミケンと戦っていたはずなのだ。だというのに、いつの間にかいつもの見慣れたエリアにいる。隣を見れば、傷だらけのブラックグラウモンが横たわって寝ていた。どうでもいいが、イビキがうるさい。

 

「どうなってるんだ? カミサマはわかるか?」

 

 どうなっているのかさっぱりわからない来人は、混乱のままにカミサマに声をかけた。

 

『……順を追って話す』

「テンション低いな?」

『……ボルトモンに襲われたことは覚えているか?』

「……まぁ、なんとなく」

『あの件から一日経っている。昨日は貴様が殺されそうになったのでな。我がその身体を使ってその窮地を脱した。そして、ようやく身体の主導権が貴様に戻ったのだ。貴様の記憶がないのは、今の今まで気絶していたからだ』

 

 カミサマの言葉の意味を来人はゆっくりと咀嚼していく。

 やはり殺されそうになったという部分で、一瞬だけ息を飲む。究極体との力の差を思い出し、そして助かったことに気がついて、今更ながらに安堵の思いが吹き出してきたのだ。

 だが、安堵の思いを感じた来人は、ある疑問が浮かんでくる。すなわち、カミサマが身体の主導権を握ったことについて、だ。

 

「カミサマ、前に身体の主導権はエネルギー効率が悪いとかなんとかで俺が握ってるとか言ってなかったか?」

『確かに言った。それに事実だ。が、全くできぬという訳ではない』

「そうか……それで。ありがとう。また助けられたよ」

『……言うな』

 

 礼の言葉を受け取ろうとしないカミサマに、来人は首を傾げた。

 カミサマは、先ほどからどこかテンションが低い。来人はだんだんと心配になっていった。何かあるのではないか、と。持ち前の勘で、嫌な予感を覚えていたのだ。

 

『我が身体の主導権を握るということは、いつぞやの暴走に近い。つまり、貴様の精神に異常を出す原因になる。実際、貴様は気づいてはおらぬが、異常は既に出ている』

「え……?」

『だから、礼など言うな。貴様は知らず対価を払ったのだからな。我には礼を受け取る資格はない。ただ、謝罪をする義務だけがある。すまない』

 

 一言謝ったカミサマは、それきり黙り込む。今回の件についてよほど責任を感じているのだろう。そんなカミサマに、どこか“らしくなさ”を感じた来人。

 

「……なぁ」

 

 そんな来人は、ただ思ったことを率直に言う。

 

「前も言っただろ。俺が生きてるのは、カミサマのおかげだ。それに、異常が出てるって言うけど、俺はその異常を感じてない」

『……』

「謝る必要なんかない。素直に礼くらい受け取れよ。迷惑をかけてるのはこっちなんだから」

『……そういう問題ではないのだ』

 

 自分の異常を感じ取れない来人とは違って、カミサマは()()()()()()()()()()()を感じることができている。だからこそ、カミサマは苦しそうにそう呟くしかなかった。

 そんなカミサマの様子に、来人はやれやれとばかりに溜息を吐く。気分転換が必要だ。来人はそう思った。

 

「怪我も治ってるし……とりあえず、いつもの日課と行くか」

 

 そう言った来人は、怪我が治っていない様子のブラックグラウモンを置いて行くことにして、起こさないように歩き出す――。

 

「おい、どこに行くんだよ?」

 

 ――が、すぐに背後からその当人に声をかけられて、来人は振り返った。

 ブラックグラウモンは、おそらく来人に着いてくるつもりだろう。それくらい、来人には簡単に予想がついた。

 怪我が治りきっていないのだから、休んでいればいいのに。そう思いながら、呆れる来人だった。

 

「怪我はもういいに決まってるだろ」

「嘘つけよ。お前、無理してるのバレバレだぞ」

「眠ってると暇なんだよ!」

「……」

 

 どうやら、引く気はないらしい。

 この様子では無理矢理に置いて行かれても、一人でフラフラと彷徨い歩きだしそうである。その様子が楽に想像できた来人は、溜息を吐く。

 

「無理だけはするなよ?」

「わかってる!」

 

 返事だけは一人前。自分のことを棚上げしてでも、そんなブラックグラウモンに呆れた来人だった。

 ともあれ、決まったのならば、ここで駄弁っている必要はない。来人とブラックグラウモンは、いつものようにイーターを探して歩き出して――。

 

「あっ! いたいた!」

「……」

「……」

 

 ――さらに背後から聞こえてきた声に足を止めた。

 移動しようとするたびに止められるとは。そう思った来人は、聞こえてきた声が誰のものかわかって、自分の運のなさを呪っていた。

 

「やっ!」

「アミ……」

 

 やって来たのは、いつもの如くアミだった。その後ろには、彼女のデジモンたちが控えていて、いつも通りの様子を感じさせた。というか、本当にいつも通りだった。

 そう。アミのデジモンは昨日の傷ですら、治っていたのだ。

 

「……なんで?」

「そりゃ、僕らは回復用の道具があるからね!」

「へぇ、そりゃま、何とも便利なものがあるんだな……」

 

 自慢するかのようなテリアモンの言葉に、来人は感心したような声を漏らす。

 もちろん、その来人の言葉は素直に感心したからこそ漏れた言葉だったのだが、テリアモンはそう思わなかったようである。馬鹿にされたのと思ったのか、忌々しげに来人を睨んでいる。

 

「……あのさ、お前……いつも俺を睨むけど何かあるのか?」

「別に」

 

 素っ気ない返事である。

 来人は周りを見渡す。アミのデジモンたちはガードロモン以外全員が、含みのある目で自分を見ていて――どうやら嫌われているらしいことに、来人は気がついた。

 

「……ま、いいや。で、何の用で来たんだ? 昨日の今日だし……何か用があって来たんだろ?」

「えっと……」

「まさか、用もなく来たのか?」

「いや! 昨日はさっさと行っちゃったから、心配になったというか……ね?」

 

 昨日ついては、来人も覚えていない。だからこそ、そう言われてもなんのこっちゃという感じなのだが――それでも、心配してくれるアミに悪い気はしなかった。

 

「他にも……ちょっと付き合って欲しくて」

「えっ!?」

「特訓に」

「……特訓?」

「特訓」

 

 紛らわしい言い方にちょっと苛立った来人である。とはいえ、そんな風にちょっと不機嫌になった来人に気づかずに、アミは話しを続けていく。

 

「昨日、私たちは何もできなかった。君たちが頑張っていたのに。……だから、私たちは強くならないといけないんだ」

 

 真っ直ぐな目で見つめてくるアミの後ろで、デジモンたちも頷いた。

 まあ、そんなデジモンたちの表情は、相変わらず複雑なものだったのだが。よほど来人に複雑な思いを抱いているらしかった。

 

「それで、俺たちにか……」

「お願いっ!」

 

 手を合わせて頼み込んでくるアミ。

 まあ、来人としてもやぶさかではない。アミに頼まれて何かをするのはいつものことなのだし、彼女のデジモンたちが強くなることは、そのまま彼女の安全に繋がるからだ。

 

「いいじゃないか! ラ……アイギオモン! オレたちのトレーニングにもなるしな!」

「……いや、別に誰もダメとは言ってないだろ」

「ほんとっ!? ありがとう!」

 

 来人の承諾の言葉に、アミは嬉しくなったのだろう。彼の手を握って、ブンブンと振るう。

 やれやれ、と呆れ気味にその手を軽く振り払った来人はブラックグラウモンの怪我の様子を見て――トレーニングくらいならば大丈夫だろう、と判断したのだった。

 

「で、トレーニングって言っても具体的な案はあるのか?」

「……えへ?」

 

 どうやら、具体的なトレーニングは来人たちに任せるつもりで来たらしい。アミは曖昧に笑うだけだった。

 

「……実戦形式で行くか?」

「それでいいんじゃないか?」

 

 ブラックグラウモンと来人は頷き合って、アミの方を見る。アミたちも話は聞いていたので、デジモンたちはやる気で前に出ていた。が、その内の何体かは、目の中にやる気以上の私怨が宿っていて――。

 

「……安請け合いしたかな」

 

 ――それを見た来人は思わず、そう呟くのだった。

 ともあれ、今更やめるわけにもいかず、実戦形式のトレーニングは始まる。

 

「さっ……て。やりますか!」

 

 グルグルと腕を回し、首を鳴らし、身体の調子を確かめるかのような素振りをするブラックグラウモン。

 そんな彼の一方で、来人は光っていて。

 

「え……?」

『……』

 

 アミの呆然とした声が辺りに響く中、カミサマは悲痛な沈黙を保っていた。

 

「よっしゃ。行くか!」

 

 そう。今まで進化できなかったとは思えず、そして退化したばかりだとは思えないほど、ありえないほど()()に来人はアイギオテュースモンへと進化したのだ。

 

「っ。みんなっ! 成熟期と完全体だよ! ガードロモンはブラックグラウモンを! 他のみんなはアイギオテュースモンくんの方を!」

「了解デス」

 

 ガードロモンが駆け、ブラックグラウモンと取っ組み合う。

 それは、肘のブレードを使わせないための策。こうなれば、唯一気をつけなければならないのは、口から放たれる必殺技だけだった。

 

「わかったわ!」

「オッケ~!」

「……」

 

 テリアモンとトゲモンが、来人めがけて走る。が、やはりデビモンは立ち止まったままだった。

 

「はぁっ!」

「ふっ!」

 

 振るわれたトゲモンの右拳、そして来人の左拳がぶつかり合う。押し負けたのはやはりトゲモンの方。一瞬の接触の後のことだった。

 トゲモンが痛みに顔を顰めるの中、来人はその腕を掴む。掴んで――テリアモンの方へと投げ飛ばした。

 

「うわっ」

「わぁっ!」

 

 とはいえ、さすがに同じやられ方で負けるのは、テリアモンも御免だった。即座に飛んできたトゲモンを躱し、来人に向かって攻撃を仕掛ける。

 ガシリ。そんな擬音語を、テリアモンは聞いた気がした。そして、その一瞬後に気づく。自分の特徴とも言える大きな耳を来人に掴まれていることに。

 

「……う、わぁああああああ!」

 

 直後の浮遊感。テリアモンは星になった。

 トゲモンとテリアモンは続行可能になるまで時間がかかるだろう。となれば、後に残ったのは、先ほどから一歩も動かないデビモンだった。

 

「お前はやらないのか?」

「……」

「……ま、それでもいいけどさ」

 

 そう言った来人は、デビモンに背を向け、ガードロモンの方へと向かおうとする。

 デビモンは、動けなかった。アミの力になりたいから、強くなりたいから、だから自分はここにいる。それがわかっていても、あの日の来人の姿が、昨日のジミケンの言葉が、彼を縛り付けていた。

 今回もダメだった。そんな思いで、デビモンは諦め――。

 

「デビモン……」

 

 ――その直前で、聞こえてきたアミの言葉に、彼は踏み止まった。

 昨日のアミの言葉を思い出す。ガードロモンの言葉を思い出す。自分のことを強いと言ってくれたアミの言葉を。自分に問いかけてきたガードロモンの言葉を。デビモンは思い出した。

 

「……!」

 

 思い出して、デビモンは思ったのだ。

 トレーニングの段階からこれでどうするのだ、と。

 

「ん?」

「……! ……!」

「へぇ?」

 

 震えながら、だが確かに自分の前に立ち塞がったデビモンを見て、来人はニヤリと笑う。

 これは、デビモンが一歩を踏み出した瞬間の話で――この後、トレーニングが終わるまで、デビモンはトゲモンたちと共に来人たちにボコボコにされたのだった。

 ちなみに、トレーニングに夢中になっていた来人たちは気づかなかった。トレーニングに明け暮れる彼らを、白い幽霊たちが見つめていたことに。

 




というわけで、第二十九話です。

前回の事後話から、アミたちの特訓話ですね。
さて、オリジナルだった今回とは違って、次回は原作の話――の、裏側の主人公たちの話です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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