【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第三十二話~疑念の生まれた時~

 女の子と二人で走りに走っている来人は、チラリと横を見る。そこには息絶え絶えになっている女の子の姿があった。

 来人としては抱えてあげたいが、今の来人の両腕は彼女の両親で埋まっている。物理的に無理だった。

 

「……ここまでくれば大丈夫だろ」

「はぁっ……はぁっ……う、うん……はぁっ……」

 

 これだけの距離が離れていれば、イーターとの戦いに巻き込まれることはないだろう。そう判断して、来人は立ち止まった。

 ぜえぜえ、と荒れた息を整えている女の子。いくら来人が走る速度を合わせていたとはいえ、四歳ほどの少女が泣き言一つ言わずにここまで走り続けたのだ。そのとんでもないガッツに、来人は感心していた。

 

「君の両親もここに置いていくから、好き勝手に動いちゃだめだぞ」

 

 来人は、ゆっくりと女の子の両親をその場に下ろす。先ほどの様子からして大丈夫だとは思うものの、ついでに注意の言葉も添えて。

 急いで戻ろう。そう考えて、女の子に背を向けようとした来人。そんな彼の姿に気づいたのだろう。女の子は慌てて――。

 

「本当にありがとう! ()()()お兄ちゃん!」

「ぶっ!」

 

 ――お礼の言葉を言った。爆弾付きで。

 思いがけない方向から飛んできたいきなりの自分の本名に、来人は吹き出すしかなかった。どうしてわかったのか。そんな、驚きに満ちた目で彼は少女を見る。

 

「だ、だって……お友達の黒い恐竜さんがそう言ってたから……!」

「あいつかぁ!」

 

 ブラックグラウモンに本名を教えたのは失敗だったかもしれない。来人は、真剣に悩んだ。

 

『そろそろ行くべきではないか?』

「わかってるよ……!」

 

 カミサマの呆れたような声に、来人は渋々走り出す。

 最後にチラリと背後に目を向ければ、あの小さな女の子は笑顔で手を振っていて――その笑顔はすぐに曇ることになると知っている身として、来人は少し自責の念が湧き上がっていた。

 

「もし、俺たちがもう少しでも早くあの場にいたら……助けられたのかな」

『……さぁな。だが……もしも、たられば。そんなものは現実には通用しない。今、目の前にある世界だけがすべてだ。覆しようもない事実なのだ』

「わかってるよ。でも……考えちゃうだろ」

 

 そう呟いた来人に、カミサマは呆れたような溜息を吐く。

 

『……む』

「あれは……」

 

 そして、そんな彼らは見つけた。

 この異常な空間の中を、デジモンたちを引き連れて、混乱した様子もなくまっすぐと歩き続ける者たちの姿を。自分たち以外に、あのイーターの下へと進んで行く者たちの姿を。

 その者たちは二人組で、見知った者たちで――というか、片方に至っては先ほど会った人物だ。

 

「おたくは……」

「っ! アイギオモンくん!? どうしてここに!?」

 

 そう。アミとアラタである。

 

「お前らどうしてここに!?」

「いや、アイギオモンくんこそ! だって、アイギオモンくんは……」

「俺たちはEDENのネットワークの繋がりを通りながらイーター探して……で、いきなりなんか妙な流れに乗って……で、ここに来れたんだよ」

 

 あの時のことを思い出しながら、来人は簡潔に言う。

 人間であるアミとアラタに、あの可視化されたデータというあの光景をうまく伝えられるかどうか不安だったが、アミたちはちゃんと理解してくれたようである。

 

「そうか。おたくが乗った流れは、イーターが出現する時の異常なデジタルウェイブかもしれねーな」

「デジタルウェイブ?」

「そっか。デジモンだからわからないよね。デジタル情報を運ぶデータの流れのことだよ」

「なるほど」

「デジモンだからデジタルウェイブを通れるのか! おい、そん時に何か奇妙なことなかったか?」

「奇妙なこと……? いや、特には……」

 

 思い出しても、特にそんなことはなかったように思う。来人がそう告げると、アラタはがっかりした様子を見せた。

 いったい何だというのか。気になった来人が聞いてみて――。

 

「前に末堂のおっさんに聞いたんだよ。このデジタルシフトを引き起こす異常なデジタルウェイブは、“必ず”外部からの干渉があるってな」

「はぁっ!?」

 

 ――返ってきた言葉は、来人たちにとって驚くべきことだった。

 デジタルシフトとは、この電脳化現象のことだろう。それはいい。が、問題は後半部分だ。それが正しければ、この現象は誰かの意図的なものだということになる。

 

「そのデジタルウェイブに直接入り込めるおたくらなら、あるいはって思ったんだけどな」

「悪い、デジタルウェイブに乗ったのは今日が初めてなんだ」

「なら、仕方ねーか」

 

 アラタから教えられた新たなる事実。これだけで、ここに来た意味があろうものである。が、新たなことを次々と知っていくアラタたちと対照的な自分たちの調子に、来人は内心でジェラシーを感じたりもした。

 

『……意図的、か』

「どうかしたのか?」

『いや、なんでもない』

 

 どこか引っかかる物言いのカミサマに首を傾げる来人だが、話に区切りがついたところでハッとして思い出した。こんなことをしている場合ではない、と。

 

「ブラックグラウモンがイーターと戦ってるんだった!」

「はぁっ!? おたく、それ早く言えっての!」

「早く行かなきゃ!」

 

 慌てて駆け出した来人に続いて、アミとアラタも駆け出した。が、さすがにデジモンである来人に着いて来られる訳もなく、どんどん距離が離れていく。

 アミとアラタを置いて行っていることにも気づかずに走る来人。そんな彼は、先ほどブラックグラウモンと別れた場所へとたどり着いて――。

 

「えっ!?」

『何だと!?』

 

 ――驚愕の光景を見る。

 その光景は、あのカミサマをして珍しく驚愕の声を漏らしたほどだった。

 

「足はぇえな……って、こりゃぁ……」

「追いついた……うそ……」

 

 そんな来人に追いついたアラタとアミも、その光景を前に目を見開いて固まった。その光景は、それほどのものだった。

 

「はっ……はっ……!」

「――――――!」

 

 そこにあった光景。それは、イーターと戦うブラックグラウモン。

 そこまではいい。来人にも予想通りだった。が、予想外だったのは――イーターの姿が()()()()()()()()()()()()()()姿()だったことである。

 手がある。足がある。直立二足歩行をしている。その姿は、まるで人間のよう。イーターは、そんな姿になっていたのだ。

 

「いったいなんだってンだ……!」

「知るかっ!」

 

 愕然としたようなアラタの声に、荒く返した来人はブラックグラウモンの隣へと飛び出した。

 

「もう……来たのかよ。遅か……ったな……!」

「悪かったな。……どうなってるんだ?」

「知らないに決まってるだろ。お前が行った後、すぐに変化したんだよ。まるで進化みたいに……!」

 

 来人が来たことで気が楽になったのだろう。息を整えながら、ブラックグラウモンはその時のことを思い出していた。

 あの時、来人が女の子を連れて去った瞬間に、イーターが人型へと変化した瞬間を。まるで、デジモンの進化のようなあの瞬間のことを。

 

「強いぞ。あのにょろにょろだった時よりも……!」

「そうかい!」

 

 その言葉に、来人は出し惜しみしている場合ではないと、進化する。

 アイギオテュースモンに進化した来人は、人型イーターと向き合って――先に動いたのは、イーターだった。

 

「――――――!」

「はぁっ!」

 

 迫り来るイーターを、来人は右拳で迎撃する。いや、正確にはしようとした、か。

 来人の突き出した右腕。イーターは、その両腕でそれを絡め取るように掴み、そしてそのまま来人の身体を巻き込むようにして投げ飛ばした。

 

「なっ! ……ぐっ!」

 

 一瞬後に来る衝撃に呻きながら、来人は体勢を立て直す。

 すべては一瞬のことで、来人は何をされたのかわからなかった。が、もしも客観的に先ほどの光景を見ることができたのならば、来人は気づけただろう。自分は、()()()()()の要領で投げ飛ばされたことに。

 

「っ。おぉおおおお!」

「――!」

 

 次いで、そんな来人に代わるように、ブラックグラウモンがイーターに突撃する。が、イーターはそんな彼の腕を掴み、外側から彼の足を払う――それが、柔道で言う大外刈という技であることなど、彼には知る由もなかった。

 ともあれ、足を払われた彼がどうなるか。火を見ることより明らかだ。体勢を崩した彼が、立て直すよりもずっと早く――イーターは、ブラックグラウモンの腹に一撃を入れる。

 

「がはっ!」

 

 イーターの一撃を受け、ブラックグラウモンは呻く。

 スペック的に、ブラックグラウモンは今のイーターに負けているわけではない。来人に至っては完全に上回っている。だが、イーターの今までにないほどの独特な戦い方に、彼らは翻弄されてしまっていた。

 一方で、戦いを外側から見ていたアミとアラタも、そんなイーターに混乱するしかなかった。

 

「イーターが柔道技を? どうなってるんだよ……!」

「わからないよ! けど……ここでこうしてるわけにもいかない! みんなっ!」

「わかってるよ! クリサリモン!」

 

 アミとアラタの指示に従って、デジモンたちが飛び出した。

 今回アミが出したのは、テリアモンとガードロモン。全員を出さなかったのは、アミに狙いがあるからだった。

 

「近づくと柔道技も混じった戦い方で翻弄されちゃう……なら! みんなっ! 遠距離で攻めるよ!」

 

 そう。遠距離技で攻めるという狙いが。

 トゲモンとデビモンは、その技と戦い方の性質上、近距離戦闘しかできない。それでは来人たちの二の舞だ。そう考えたからこそ、アミは彼らをこの場に出さなかったのだ。

 

「って、待って! まだ……!」

「よし……名誉挽回名誉挽回……! 行くよっ! “ブレイジングファイア”!」

「ターゲットロックオン。“ディストラクショングレネード”!」

 

 アミの静止の声よりも早く放たれた熱気弾とグレネード弾が、まっすぐにイーターへと向かう。来人たちが戦っている最中の、その場へと。

 

『後方注意だ』

「なっ!」

「ちょっ!」

 

 カミサマの声に、来人たちの焦ったような声。

 一瞬後、近くにいた来人たちを巻き込んで、彼らの技は炸裂した。

 その光景に、アミは血の気が引く。巻き込んでしまったかもしれない。その事実に、彼らの無事を祈ることしかできなかった。

 

「ったく。おたくも少しは考えろよ……」

 

 アラタの呆れたような声。

 ハッと気づいてアミがアラタを見ると、そこにはアラタとクリサリモン、そしてクリサリモンの触手によって助け出された来人たちの姿があった。

 

「殺す気か!」

「ご、ごめん!」

『まあ、あの程度の技では死なないがな』

 

 クリサリモンから解放してもらった来人は、アミに詰め寄る。味方によるフレンドリーファイアなど、冗談では済まない。カミサマはあの程度では大丈夫だと言ったが、それを抜きにしても怖いものは怖いのだ。

 そして、自分が悪いとわかっているアミは、詰め寄ってくる来人に頭を下げるしかできなかった。

 

『それくらいにしておけ』

「カミサマの言う通りだな。まだ終わってないんだし」

 

 ブラックグラウモンとカミサマに慎められて、来人は渋々にアミから離れる。そして、先ほどまで自分のいた場所へと視線を飛ばして――。

 

「――――――」

 

 ――そこには、ボロボロの身体で息絶え絶えとなったイーターの姿があった。

 

「耐久力に難ありってのはかわんねーみたいだな」

「でも、さっさと倒せばいい。近づかなければたいしたことないって、身をもって知ったしな」

 

 アラタに言葉を返した来人だが、その棘のある言葉にアミは呻くしかなかった。が、ちなみに言えば、来人にそういう意図はなかったりする。

 

「さて……終わらせるか。“ライトニング――」

 

 パチパチ、と。電気が発生する音が辺りに響く。来人がその手に作り出したのは、雷の杭。それを、イーターめがけて投擲した。

 

「――パイル”!」

 

 元々アミたちの攻撃で動きが鈍っていたイーターだ。来人のその攻撃を躱すことはできず、その一撃を受けて消滅する。

 その瞬間に、世界が歪んで――。

 

「今更だけど、俺たちってどうなるんだ?」

『引っ張られておそらくは元の流れに戻ることになるだろうな』

「おそらくかよ……!」

 

 ――次の瞬間に、世界は途切れた。

 ハッとアミたちが気を取り戻した時には、そこはもう元の浅草だった。先ほどまでの異常の様子も、来人たちの姿も、どこにもない。

 

「終わったのか……この辺りは今までとかわりねーみたいだな」

「うん。みたいだね」

 

 アラタの言葉に返したアミだったが、その声は暗いものだった。

 「どうしたんだよ?」と気になったアラタが、アミにそう聞く。

 

「どうって……あれ……」

「あれは……」

 

 そして、アラタの言葉にアミが指差した先にあったのは、倒れて動かない人たち。おそらくは、イーターに襲われてしまった人たちの姿だった。

 自分がもっと早ければ。アミは、彼らの姿にそんな自責の念を感じてしまうのと同時に、今も眠っている幼馴染のことを思い出してしまったのだ。

 そうして、暗い顔をしているアミだったが――。

 

「……お兄ちゃん! お姉ちゃん!」

「……?」

 

 ――そんなアミたちに話しかけてくる女の子が一人いた。

 

「えっと……どうしたのかな?」

「お父さんとお母さんが……あのお兄ちゃんのおかげでちゃんと病院に行けることになったから……もう一度お礼がしたくて」

 

 そう言った女の子は、泣きそうだった。両親が病院送りになったという事実に、幼いながら、いや、幼いからこそ不安を感じてしまっている。

 それでも、もう一度お礼だけはしなくてはいけない。しっかりとお礼をするのは、両親からの教えだから。

 だからこそ、彼女は救急車が来るまでの僅かな時間に自分を助けてくれた者を探しているのだ。

 

「“あの”お兄ちゃん?」

「そう! 山羊のようなお兄ちゃん!」

 

 山羊のような。その言葉に、アミとアラタは彼のことを思い起こした。

 彼は、今回自分たちより早くこの場にいた。ならば、この女の子が言っているのも、おそらくそうだろう。アミは彼のことを告げようとした。

 だが、そんなアミはその後の女の子の言葉に驚愕することになる。

 

「らいとって名前のお兄ちゃんだよ!」

「……え?」

 

 まるで、心臓が鷲掴みにされたかのようにアミは動けなくなる。

 アラタと女の子が何か言っているが、アミには聞こえなかった。お辞儀をして去っていく女の子の姿でさえ、アミは呆然と見つめていて――。

 

「おやおや!? いつかのお二人ではありませんか!」

 

 ――その後、やって来た末堂アケミとアラタがイーターについて話している最中にも、アミは呆然と思考の海に囚われていたのだった。

 




というわけで、第三十二話。

イーターの柔道技については……イーターの性質上、これくらいできるかなって思ったんです。
食った人間の中に柔道ができる人がいたんですね。きっと。
……納得できないかもしれませんが、そういうことです。

さて、疑念を植えつけられた原作主人公。
次回はそんな原作主人公のお話です。
ちなみに、作中時間で同日ですので――濃い一日ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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