【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第三十三話~オバケからの依頼~

 浅草の一件の後、アミは暮海探偵事務所へと戻って来ていた。

 

「お疲れ様。どうやら大変だったようだね」

「……はい」

「イーターについての新たな発見もあったのだろう? 報告を聞かせてくれたまえ。ノキアくんやアラタくんのことも含めて、ね」

 

 杏子に言われて、アミはわかったことを報告していく。とはいえ、事の前半部分はともかくとして、後半部分はあの女の子の言葉で呆然としていたため、アミは少しだけ自信なかった。

 

「ノキアくんは好きにやらせておくといい。彼女なりの熟考と決意の末の結果だ。我々に阻む権利はない。アラタくんのカミシロへの潜入も賛成だ。彼の作戦を待とうではないか」

「わかりました」

「そして、何らかの意図的な様子を感じさせる予感に……イーターの新たな特徴か」

 

 イーターの新たな特徴。それは、最後に現れた末堂アケミによってもたらされたものだった。まあ、あくまで仮説であることを念押ししていたが――それはともかくとして。

 アケミによると、イーターは取り込んだデータの性質によって形を変える特徴があることだ。

 今回、人型へと変貌したのは、人の精神データを多く取り込んだから。柔道の技を扱えたのは、おそらく柔道に精通した者が襲われた中にいたからだろう。

 

「少しずつだが、事態が進んできたな。さて、我々の行く先にある何か。今はその何かを楽しもうじゃないか」

「……はい!」

「ああ、それと……電子メールを介して依頼してきた依頼人が君を指名していてね。待ち合わせ時刻は今からだ」

「今から!?」

「ふふ……君も着々と顔が売れ始めたようだな」

 

 杏子の意味ありげな笑いに首を傾げながらも、アミは依頼が貼ってあるホワイトボードを見る。

 杏子の意味ありげな笑みの訳は気になるが、気分転換をしたくもあったアミだ。依頼が来たというのは、ちょうどよかった。

 件の依頼書を見る。そこには、アミを指名して、クーロンLV1のガラクタ公園エリアにて待つという旨のことが書かれていた。

 依頼人は不明。これで一体どうしろというのか。気になったアミだったが、ここで悩んでいても始まらない。

 

「それじゃ、依頼に行ってきます」

「うむ。依頼人を待たせるなよ」

 

 意味ありげに笑い続ける杏子にこう告げて、アミはクーロンLV1へと向かうのだった――が、実際にはクーロンLV1へと行くのにそう時間はかからない。

 アミは、半電脳体となったことである能力を獲得したからだ。コネクトジャンプと名付けられたその能力は、簡単に言えばデータの中を自由に行き来することができる能力である。これを使えば、端末からネットワークが繋がる範囲でならば、どこからどこへでも行ける。それこそ、現実世界から電脳世界へも。

 ネットワークへと繋がっている端末さえあればいいのだから、アミは現実世界からEDENへと行くのにさほど時間はかからないのだ。

 まあ、あくまで常人と比較すれば、の話だが――まあ、それはともかくとして。

 

「ここにいる……はず?」

 

 アミがやって来たのは、クーロンLV1エリアの一角にある荒廃した公園。通称ガラクタ公園。そこへやって来たアミだったが、そこには誰もいなかった。待ち合わせ時刻はちょうど今であるはずなのに。

 

「隠れてるのかなー……それとも、まだ?」

 

 彼方此方を見渡して、依頼人を探すアミ。遊具の裏に、街灯の上。至るところを探す。が、探せど探せど、依頼人の影は一ミリたりとして存在しなかった。

 一体どういうことなのか。騙されたのか。そんな、疑問をアミは思い浮かべて――。

 

「うらめしやぁぁぁぁぁあああああ!」

「ひぎっ!?」

 

 ――背後から聞こえた声。以前、ふざけたアラタがやったものとは明らかに格が違う、地獄の底から響いてくるかのような恨みの声。

 それを前に、アミは驚愕の悲鳴を漏らしてしまった。次いで、自分がどんな声を上げたか気づいたのだろう。そのあまりの恥ずかしさに、アミは顔を赤くした。

 

「いっひっひ……!」

 

 イタズラが成功したのが嬉しいのだろう。そんなアミを笑う何者か。

 

「誰っ……!」

 

 アミは真っ赤な顔のまま、背後の何者かを睨みつけるべく振り返った。

 そこにいたのは、真っ白なオバケのデジモン。そう、バケモンだった。

 

「オデはバケモンだぞ! 依頼人だぞ、神様だぞ!」

「バケモン!? そっか、依頼って……君が……? にしても、さっきのは何?」

「せっかくだから驚かしただけだぞ!」

「……」

 

 このバケモンが依頼人だということは、別にいい。アミとてデジモンからの依頼は何度か受けたことがある。が、せっかくだから、というそんな理由で驚かされたのは初めてだった。

 なんだかアミはすごく疲れたような気がした。

 

「……? どうかしただか?」

「いや、別に……そうだ。それで、依頼内容は? 依頼書には会って詳しく話したいって書いてあったよね?」

 

 自分で言っておいてアミは思った。杏子さんはどうしてこんな怪しい依頼を受けたのだろう、と。

 その謎は、杏子のみが知ることである。

 

「そうだぞ! オデは復讐がしたいんだぞ!」

「……復讐?」

 

 復讐とは、穏やかではない。その単語に、アミは顔を顰めた。探偵家業は、ちょっと危険だったり怪しかったりする職業であるが、決して復讐などということをするブラックな何でも屋ではない。

 「そんなことはできないよ」アミはバケモンに伝える。

 一方のバケモンも、そのことをわかっていたようだった。

 

「わかってるんだぞ! オデがお前にして欲しいのは、情報収集なんだぞ!」

「情報収集……?」

「そうだぞ! アイツらを驚かすために、アイツらの苦手なものを探ってきて欲しいんだぞ!」

「……驚かす? えっと……復讐、だよ……ね?」

「そうだぞ? 絶対にアイツらを恐怖の渦に叩き込んでやるんだぞ!」

 

 どうやら、バケモンの言う復讐とは、先ほどアミにしたような、相手を驚かすことを言うらしかった。単語に似合わず、微妙に平和である。

 自分の勘違いを悟って、アミはホッと安堵の息を吐く。

 

「それなら、大丈夫かな。それで、その相手は……?」

「そうなんだぞ! ブラックグラウモンと二足歩行の角を生やした珍しいデジモンなんだぞ!」

「……」

 

 まさか、と。バケモンの言葉を聞いてアミが思い浮かべたのは、あの二人組だった。というか、それ以外思い浮かばなかった。

 

「もしかして、アイギオモンくんのこと?」

「もう一人の名前はわからないんだぞ! とにかく頼んだんだぞ!」

「って、あ! ちょっと……!」

 

 アミの静止の声も届かず、バケモンはふわふわと浮きながらどこかへと去っていってしまった。

 思わず、アミは頭を抱える。圧倒的に情報が足りていなかった。アミは、バケモンが言っている者たちは彼らだと半ば確信している。が、もしかしたら人違いの可能性も僅かにある。

 こんな状況で調査をしていいのだろうか。そう悩むアミだったが、とりあえず調査を開始する。まずは彼らを見つけなければならない。

 まず、このクーロンエリアLV1から、彼らを探して順に回っていく。が、いない。

 

「デジタルウェイブの調査をしてるみたいだし……今はクーロンエリアにいないのかも……」

 

 浅草の件の時に彼らが言っていたことを思い出したアミは、そう思う。が、アミは見習いでも探偵だ。いないかもしれない。そんな可能性だけで調査を止める訳にもいかなかった。

 可能性があるのならば、すべて潰しておかなければならないのだ。

 

「あの……アイギオモンとブラックグラウモンを見ませんでしたか?」

 

 そこら辺に屯っているハッカーたちを見つけては、彼らのことを聞き込みをする。だが、彼らの返事は一様に奇妙なものだった。

 

「あん? アンタ“も”アイツらを探してんのか? やめとけやめとけ」

「え、あの……それってどういう?」

 

 それは、このような静止の言葉だったり。

 

「え? 貴女“も”あの子を狙ってるの!? ダメよ! あのショタは絶対私がゲットするんだから!」

「ショタ……?」

 

 そもそも話が通用しなかったり。

 

「ひぃっ! お、オレは知らねぇ! 悪くねぇ! もうアイツらを狙うのはやめたんだ! 俺は悪くねぇんだぁ!」

「あの! しっかりしてください!」

 

 聞いた瞬間、恐慌状態に陥ってしまったり。

 一体彼らはどういう扱いをされているのか。知りたくなるような、知りたくないような、そんな微妙な好奇心を喚起することしか聞き出せなかった。

 

「どうしようか……?」

 

 デジヴァイスの中にいるデジモンたちに話しかけるアミ。だが――。

 

「ほっとけばいいと思うよ! そんな依頼はキャンセル~!」

「アタシもそう思うわ。いない奴に気を取られることなんてないのよ!」

「……」

「情報ガ得ラレナイノナラバ、足デ稼グシカナイカト」

 

 ――約一名を除いて、素っ気ない返事しか返って来なかった。ついでに言えば、返って来たその一名の返事も、名案とは言い難い者で、アミは肩を落とす。

 途方に暮れながら、アミはその後もクーロンエリアを彷徨う。

 

「どうしよう……」

 

 だが、見つからない。今まで自分が行ったことのあるエリアを、すでに何回も見て回っているというのに。

 時刻はそろそろ夜になろうかという時間。ノキアの一件に、浅草の一件。立て続けの事件の後に、この依頼。アミは疲労が溜まってきていた。

 今日は一旦引き上げよう。また明日、もう一度探そう。彼女がそう思った、そんな時――。

 

「疲れた顔して何してるんだよ」

「おー……さっきぶりだな」

 

 ――彼女の背後から聞こえた声は、彼女が探し求めていた者たちの声だった。

 皮肉である。探している時は見つからないのに、探すのを諦めた瞬間に見つかるとは。余計に疲れが溜まった気がするアミだった。

 

「……やぁ」

 

 ぎこちなく今日三度目の挨拶をするアミ。

 来人の姿を視界に収めた瞬間、先ほどまで考えていた疑念がぶり返して来たのだ。

 

「……?」

『何か疑われておるぞ。一体何をやらかしたのだ、貴様は?』

「俺はずっとカミサマと一緒にいるんだから、心当たりがカミサマになけりゃ俺にもないに決まってるだろ」

 

 一方で、そんなアミの様子に心当たりがない来人たちは、首を捻るしかなかった。

 

「で、何してるんだ?」

「決まってるでしょ。依頼だよ」

「依頼? なんの?」

「守秘義務があるからね」

「おい、ら……アイギオモン。本当に何したんだよ。いつになく素っ気ないぞ?」

 

 ら、とは一体何なのだろうか。ブラックグラウモンの言葉ですらも、アミは疑念を深めていく材料にしかならない。というか、アミにとって、もうすべてが疑う材料にしかならなかった。

 

「ま、それなら仕方ないけど……なんか嫌な予感がするんだよなぁ。俺の勘がそう言ってる」

「……!」

 

 何と言うか、本当にワザとではないのだろうか。思わずアミがそう疑ってしまうくらい、今日に限って来人“らしい”部分が目立つ。

 いや、あるいは――。

 

「……私が見落としていた?」

「どうかしたのか?」

「いや、なんでもないよ」

 

 ――その可能性を思いもしなかったからこそ、見落としてしまったのかもしれないが。

 今自分が考えていることが馬鹿げた考えであるとは、アミもわかっている。わかっているが、それでも思ってしまうのだ。もし、目の前にいるデジモンが彼だったのならば、と。何らかの形で、自分のように彼が助かっていたのならば、と。

 

「でも、だったらどうして……?」

「ん? 何か言ったか?」

「別に。とりあえず、私は帰るね」

「え? おい……依頼とやらはいいのか!?」

 

 今は一人になりたかった。背後から聞こえる声にも答えずに、アミはただ走る。

 そんな彼女が依頼のことを忘れていたことに気づくのは、明日の朝のことで――バケモンに怒られ、後日の彼の復讐の手伝いをすることになるのは、またいつかのことである。

 




リンクス、まさかの2016年になりましたね……どうなってるんでしょう。
さすがにネクストオーダーと同時期……は、ないと信じたいですね。

ともあれ、第三十三話。

順調に疑念を深めていく原作主人公の話とバケモン再登場の話でした。
バケモンはまたそのうちに再登場します。

で、次回ですが……もう少し疑念渦巻く話が続きます。

それでは次回もよろしくお願いします。
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