【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第三十四話~縋りつく望み~

 浅草の一件の数日後。 

 クーロンエリアを見て回り、EDEN周辺のデジタルウェイブの中を移動する。それが、ここ数日の来人たちの調査だった。

 今日も仮眠から目覚めた来人たちは、いつものようにイーター探しを始めようとしていた。

 

「さて。行く、か……」

「やっ」

 

 だが、そんな来人たちの前に、アミが現れる。

 あの浅草の一件以降、来人はなぜかアミに付き纏われていると感じていた。なにせ、一日のどこかで必ずバッタリ会うのだ。しかも、探るような視線付きで。これでその考えに至らないはずもない。

 好きな子に付き纏われているというのは、それこそ嬉しくもあるが――それ以上に、来人は気が気でなかった。自分のことがバレるかもしれない、と。

 

「今日は一段と早いな。今日は何の用だよ?」

「今日はこれから依頼があるからね」

 

 自信を持って言うアミだが、一方で来人はそんな彼女に呆れていた。

 今のアミは依頼の合間の僅かな時間さえも抽出して、どこにいるかもわからない自分たちを探し出しているのだ。暇なのか、忙しいのか、わかったものではない。

 

「これからって……こんなところにいていいのか?」

「大丈夫。EDENから直接行くし、待ち合わせの時刻にはまだ時間があるしね」

「お前はそう言って遅刻するタイプだろ……っていうか、お前がよくとも俺たちはよくない。これからイーターを探しに行くんだけど?」

 

 早く別れたい。そんな空気を醸し出しながら、来人はアミと別れようとする。いつもならば、ここであっさりと別れられるのだが――。

 

「なら、一つだけいい?」

「……一つだけならな」

 

 ――今日はいつも通りではなかった。

 いつもとは違うこの状況に、来人は驚いた。

 そんな来人の一方で、アミは真剣だった。アミの中に湧いた疑念は解消されることなく、ここ数日でさらに深まっている。つまり今日、アミは勝負をかけるつもりなのである。

 

「私ね……EDEN症候群なんだ」

「は?」

 

 理解できない。そんな声を来人は発した。

 まあ、それも当然だろう。EDEN症候群とは、倒れたまま意識不明になる病気だ。確かに、アミはその原因となるイーターと幾度となく接触しているからこそ、EDEN症候群になる可能性はある。

 だが、彼女がEDEN症候群であるのならば、今ここに彼女がいるのはおかしい。

 

「EDEN症候群のイレギュラーな症状って言ってたかな。半電脳体っていう状態になっちゃったんだ。つまり、精神データだけが……」

 

 アミは話していく。今の自分の状況を。半電脳体であること。コネクトジャンプという力があること。こうして活動していられるが、肉体の方はEDEN症候群として入院していること。

 今まで知らなかったその事実に、来人は息を呑むしかなかった。

 

「このクーロンエリアでイーターに襲われてね。それが原因なんだけど……あの時、私を助けてくれた人がいるんだ。もしあの時、その人が助けてくれなかったら……私は普通のEDEN症候群になってたかもしれない」

「……」

「その人の名前は……来人って言ってね。私の幼馴染なんだ」

 

 来人の目をまっすぐに見つめながら、アミは真剣な目で告げる。

 一方で、来人はそんなアミに気づけないほどに、動揺していた。正体に感づかれていること――ではない。助けたと思っていた幼馴染を実は助けられていなかったことに、だ。

 

「嘘だろ?」

 

 言っておきながら、来人は自分でもわかっていた。アミは嘘をついていない、と。自分の個性となるほどに鋭い勘がそう言っていたから。

 今この時だけ、来人は自分の勘が恨めしく思えた。僅かな希望すら考えられないこの自分の勘が。

 

「嘘じゃないよ」

「……! ……怖くないのか? その……EDEN症候群なんだろ。治療法も確立されてない……」

 

 動揺が収まらない。

 そんな中で、来人は当たり障りのないことを口に出して場をつなぐ。が、動揺も収まらないその身では、考えがまとまらなかった。何を言うべきか、どう対応するべきか。

 

「怖くないって言えば嘘になるかな。うん、確かに怖いよ。私がどうなってるのか……どうなるのか」

「……」

「でも、私にはみんながいる。杏子さんにアラタにノキアに……デジモンたちも」

 

 そう言ったアミの顔には、恐怖はなかった。

 

「そう、か……」

「それに私にはやることがある」

「……やること?」

「私を助けてくれた来人を助けること! さっき怖いって言ったけど、私を助けてくれた来人が死ぬのはもっと怖い。いつも……いや、今回もかな。来人を巻き込んだのは私だから……」

 

 悔いるような表情でそう言ったアミだが、すぐに表情を元に戻して来人に向き合った。来人を見つめるその目には、どこか懇願する色が含まれている。

 

「だから……」

「……だから?」

「私は……来人が助かってくれていたのなら、すごく嬉しい。それがどういう形でも」

 

 そこまで言われて、彼女が何を望んでいるのかわからない来人ではなかった。

 彼女にここまでさせているのだ。来人は彼女の望み通り、そして自分の()()()()に、すべてを言ってしまいたい気になる。

 沈黙が辺りを包む。アミは来人の答えを待っているようだった。

 

「あ……お、れは……」

 

 まるで時が止まってしまったかのような沈黙の中、来人は何とか口を動かす。

 だが、未だ動揺の抜けきらない来人は、自分が何を言おうとしているのかわからなかった。まるで他人に操られているかのように、自分の口が勝手に動くように感じていたのだ。

 

「俺は……!」

 

 ごくり、と。唾を飲み込んだのは、アミか来人か。

 数十秒後、この沈黙を破ったのは、来人でもアミでもなく――ピリリリという、アミのデジヴァイスに入った通信を伝える甲高い音だった。

 今までの空気を吹き飛ばすその音に、来人とアミはがっくりと肩を落とす。

 うるさいくらいに鳴り響くソレ。初めはアミも無視していたのだが――いつまで経っても止まる気配のないソレに、アミが折れた。

 渋々といった風に、通信に出るアミ。その瞬間に――。

 

『おい! 何してんだ! 計画パーにする気か!』

 

 ――響いたのは、辺り一帯に轟くほどのアラタの怒鳴り声。

 アミが表示された画面を見れば、アラタはどこか苛立った様子。そこで彼女は、ハッとして気づいた。そろそろ、計画の時間だということに。

 なるほど、アラタが怒鳴り声を出すのも頷ける話だ。そろそろ計画実行の時間帯であるというのに、作戦の要の一人であるアミがいつまで経っても来ないのだから。

 

「ご、ごめん……! すぐ行く!」

 

 チラリ、と。アミは来人を見る。正直に言えば、アミはこのまま来人を問い詰めたかった。が、今回の作戦が重要なものであることもわかっている。決して、自分のワガママで無為にしていいようなものではないことも。

 

「……用事だろ? さっさと行けよ」

「う、うん……」

 

 来人の姿に後ろ髪を引かれながらも、アミはアラタの下へと駆ける。そんな彼女にアラタによるお説教が待っているのは、当然のことだった。

 一方で、去っていくアミを見届けた来人は――。

 

「カミサマ、知ってたんだろ?」

『その問いに返せば……知らなかった。気づいてはいたがな』

「……」

 

 ――愕然とした面持ちのまま、その場に立ち尽くしていた。

 あの時、助けることができたと思っていた。だが、そう思っていたのは自分だけで、単なる自己満足に過ぎなかった。

 その事実を来人はまざまざと見せつけられたのだ。今の来人の心の中は、自責の念でぐちゃぐちゃになっていた。

 

「終わったなら、いつも通りに行こうぜ? その方が気分転換になるだろ」

 

 今までずっと黙っていたブラックグラウモンが声を上げる。そんな彼の姿はいつも通りで――来人にとって、そんな彼の様子はありがたかった。

 

「ブラックグラウモンお前……何気に気遣い出来るよな」

「そうだろー」

 

 来人は歩き出す。ブラックグラウモンの気遣いに感謝して。だが、感謝できていたのは、ここまでだった。

 

「一つ聞きたいんだけどさー。お前、なんでアイツのとこに行かないんだ?」

「……ほじくり返すのかよ」

「気になったからな! だって、お前あいつのことが好きなんだろ? 好きだったら一緒にいたいんじゃないのか?」

「……」

 

 複雑な心境の部分を聞いてくるブラックグラウモンを前に、来人は顔を引き攣らせる。今彼の中には、先ほどまで会った感謝というものは微塵もなくなっていた。

 

「前……カミサマには言ったと思うけどさ。アミってトラブルホイホイな気質があるんだよ」

「トラブルホイホイ?」

「そ。要するに、いつの間にかいろんなことに巻き込まれるっていうか……な。今だってそんなことになってるし」

「ああー……」

「だから、イーターなんて危険なもんを調査しなくちゃいけない俺がアイツの傍にいたら……アイツを危険な目に合わせるんじゃないかって思ったんだよ。……ま、そんな俺の気遣いは無駄だったけどな」

 

 それが、来人がアミに自身の正体を気づかれたくない理由だった。

 自身が無事であることを知れば、アミは自身と接触してくるだろう。今回のように。そうすれば、トラブルホイホイな彼女のことだ。きっと自分の抱えている厄介事に巻き込まれて、そして危険な目に遭う。

 そう思ったからこそ、来人は自分の正体を感づかれたくなかったし、極力彼女と一緒にいたくもなかった。

 まあ、それ以外にも男のプライド的な理由もあるが――これが理由の大半を占めていることは間違いがない。

 

「でも、その割には何だかんだで会ったりしてたよな?」

「それは、まあ……」

 

 ブラックグラウモンの鋭いというか、当たり前のツッコミに、来人は明後日の方向を向く。

 大半はなり行きであったが、我慢ができずに多少付き合いを持ってしまったのは事実だったからだ。

 

『しかし、もうあの娘は事の中核の近くにいると言っても過言ではない』

「う……」

『我としては、イーターについてわかるのならば、どのような過程でも構わない。さすがに行き過ぎはダメだがな』

「……」

『すべては貴様の心次第。貴様が決めろ』

 

 カミサマの言う通りだった。

 アミはすでに来人たち以上にイーターに関わっている。であるのならば、何の選択が一番良いのか、来人でなくともわかるだろう。

 

「……」

 

 とはいえ、今更感がありすぎて、来人は何となく言い出しづらいのだが。

 例えるのならば、そう。イタズラがバレずに数週間が過ぎて、言い出したくても言い出せなくなったかのような。

 結局、来人は答えが出せずに悩むのだった。

 




というわけで、第三十四話。

原作で言うカミシロ潜入の前話でした。
ちなみに、潜入自体は原作と同じように終わりましたので、カットされます。

次回はノキアの回ですね。
それでは次回もよろしくお願いします。
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