【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第三十七話~ただいま~

 ノキアの一件の次の日のこと。

 その日はこの場所限定で曇天だった。そう、この場所――御神楽ミレイなる謎の女性が運営するデジラボ限定で。

 

「……」

「……」

 

 この場所を曇天としているのは、神様でも、気候でもない。ここにいる馬鹿二人(アミと来人)だ。

 ちなみに言えば、ブラックグラウモンは気を利かせてアミのデジヴァイスの中でのんびりと過ごしている。

 

「貴方たちいい加減にしてくれないかしら」

 

 思わず。部屋の主であるミレイが苦言を呈する。

 これは相当なことだった。ミレイとて大抵のことならば笑って済ませるし、いつもの意味深な笑いで状況を楽しむことができるだろう。

 だが、今のこの場の空気はそんな彼女ですら苦言を言ってしまうほどだった。

 

「はぁ」

『すまぬな』

 

 溜息を吐いたミレイに、カミサマが心ばかりの謝罪する。

 頭痛そうに手を当てるミレイを前にして、カミサマも不憫に思った。

 

「……」

「……」

 

 相変わらず、事の元凶たる二人は黙り込んだままだ。

 事のなり行きとしては、至極簡単なのだが――アミがゆっくりと話ができる場所へと来て、来人に話を聞こうとした。で、一方の来人は話す気がない。

 たったそれだけ。馬鹿でもわかるほど簡単にこの状況が出来上がりだった。

 

「……」

「……」

 

 このような状況になって、かれこれ二時間は経とうとしている。

 この状況で二時間。一応、アミも来人も暇人ではないというのにも関わらず。

 

『やれやれ。仕方ないか』

 

 呆れた様子でカミサマが呟く。

 

『我から話そう』

「ちょ、カミサマっ!」

 

 冗談ではない。堪らずに来人が声を上げ、カミサマを止めようとする。

 しかし、そもそもカミサマは口を通して話す必要がない。彼にカミサマを止めることは不可能だった。

 

『事の始まりはこやつがイーターに襲われた時から始まる』

 

 今からカミサマが言うことは、本当は来人自身がその意思で言うべきことである。だが、この様子ではいつまで経っても進展しそうにない。さらに言えば、この部屋の主が可哀想だ。

 だからこそ、カミサマから言うことにした。ほんの少しだけ、事態を進展させるために。まあ、老婆心という奴である。

 

『イーターに襲われたこやつだ。そのままだったのならば、他の者と同じ運命を辿っていたのだろうな』

「ってことは、来人はカミサマが助けてくれたの?」

『うむ。とはいえ、少し変則的であるし、かなり無理をしたがな。うまくいって良かったと言うべきか』

 

 かなり危ない賭けだったのだろう。カミサマの最後の一言に来人は耳を疑った。今更ながらに、肝が冷えた。

 

「……おい、それ初耳なんだけど?」

『気にするな。生きているのならばいいだろう』

「ま、そりゃそうだけど……」

『そして、助けた代わりに、我が元々する予定だったイーターの調査を頼んだのだ。我は動けなくなったが故な』

 

 なるほど。アミは頷いた。来人が助かった経緯は簡単にだが理解した。

 幼馴染を助けてくれたのだ。カミサマには感謝の念は尽きないし、黙り込んでいる来人に変わってこうして話してくれたのもありがたい。

 だが、アミの聞きたいことは別にあった。

 

『後のことはこやつに直接聞け。我が話すのはお門違い故にな』

「うん。来人を助けてくれてありがとう……本当に」

『……我は礼を言われる立場ではない』

 

 照れ隠しからか、それとも本心からか。小さな声でカミサマはポツリと呟く。そして、それきり黙り込んだ。

 ここから先は来人に変わるということなのだろう。

 

「……」

「……」

 

 ジッとアミは来人を見つめる。

 一方で、来人は顔を引き攣らせて、彼女から目を逸していた。冷や汗だけが彼の背中に流れる。

 先ほどの沈黙合戦の再来だった。が、その沈黙はすぐに破られる。

 

「……ねぇ」

「っ!」

 

 他ならぬアミによって。そんな彼女の表情はどこか暗い。

 その彼女の表情に、来人の胸はチクリと痛んだ。

 

「なんで、言ってくれなかったの? 自分が来人だって。あの時もあの時も……何回もチャンスはあったよね?」

 

 アミが思い出しているのは、今の来人と出会ってからのことだった。

 グラウモンとの戦いに乱入して来た時のこと。ジミケンとの戦いで暴走した時のこと。秋葉原の神隠しの時のこと。ジミケンとの再戦の時のこと。その他いろいろ。

 何度か実際に話しているのだ。言う機会はいくらでもあった。

 

「私がどれだけ心配したか……君の家族だって……」

 

 心配した。自分のせいだと責めもした。末堂アケミのような者もいて、きっと助けられると希望を抱いた。出会ったデジモンが来人と重なった。そのせいで、余計に苦しくなった。

 前を向いているノキアがいた。ちょっと変なアラタがいた。導いてくれるミレイや杏子がいた。デジモンたちがいた。そのおかげで、苦しくともアミはここまで来た。

 想像していた形ではなかったが、実は再会できていた。その考えが浮かんだ時、アミは嬉しかったのだ。だというのに――。

 

「本当、なんで……よ……」

 

 ――なぜ、再会した幼馴染は自分から何も話してくれないのか。

 何もかもが自分を苦しめる要因となっていて、アミは苦しかった。

 せっかく再会していたのに何も言ってくれなかったことも。そして、気づくチャンスはいくらでもあったというのに気づけなかった自分のことも。

 

「そ、れは……」

 

 アミの苦しそうな声に、来人は何も言えない。

 心配かけているとは思っていた。迷惑をかけているとも思っていた。だが、ここまで彼女を苦しめていたとは。

 無論、来人とて自分のことばかり考えていたわけではない。彼が正体をずっと明かさなかったのは、アミのためを思っていたという部分が大きい。

 まあ、それが良いか悪いかはまた別問題だが。

 

「言ってよ! 頼ってよ! ()()()私ばっかり助けられて……!」

 

 アミが突っ走って、来人がそんな彼女をフォローする。

 その幼い頃より続く構図はアミも重々理解していた。その訳をアミは詳しく知ることはないが、彼女にとってその構図は当たり前だった。

 そんな当たり前が――当たり前でなくなったあの時に感じた恐怖を彼女は忘れられない。

 

「私だって……来人の助けになれるんだよ!?」

 

 それはアミの本心だった。心からの叫びだった。自分の責任は自分で果たそうとする意思だった。

 

「助けなんかいらないんだよ……」

 

 一方で、来人はポツリと呟く。

 まるで時が止まったかのような静寂の中、その呟きだけは確かに辺りに響き渡った。

 嬉しさと悲しさの入り混じった複雑な感情は、彼の頭をただ熱していく。

 

「っ」

 

 一瞬、アミの呼吸が止まる。来人の口から語られた言葉を彼女の脳は認識できなかった。

 

「俺は! ……自分の勝手でお前を助けたんだ。だから、自分の責任くらい自分でとる! ……助けてくれなくて言った覚えはない」

 

 口から出た言葉は止まらなく溢れていく。もはや勢いだけがそこにあった。

 これを言っている来人自身、何を言っているのかわかっていなかった。勢いのままに口が動いていく中、彼の頭は混ぜ合わせられた絵の具のようにぐちゃぐちゃだった。

 何を言えばいいのか。何が自分の本心なのか。何もかもがわからなかった。

 

「……放っておいてくれ」

 

 だが、思考がまとまる前に勢いは消える。ポツリと呟いた言葉を最後に来人は黙り込んだ。黙り込んで、しまった。

 

「……」

 

 やってしまった。急激に冷えた頭の片隅で来人は気落ちする。

 一応、勢いだけの出任せとはいえ、先ほどのことも本心と言えば本心である。が、もちろん彼の本心のすべてではない。

 自分の心の一部分を勢い任せに言い放ってしまったことに、来人は後悔していた。

 

「放っておけないよ」

 

 だが、そんな彼に聞こえたのは先ほど拒絶した彼女の声。

 信じられない。そんな目で来人は彼女をまじまじと見つめて――目の前にいた彼女の目には、絶対に引かないという強さだけがあった。

 

「は……?」

 

 来人は混乱する。先ほどボロクソに言ったのに、一体何がどういう化学反応を起こしてそういう結論に至ったのか。

 普段の来人ならば、アミがこういう反応と対応をすることに気づけただろう。幼馴染としてよく知るからこそ。それに気づけなかったのはいろいろと極限状態で視野が狭まっていたからか、それとも別の理由があったからか。

 

「放っておけるはずないよ。だって、来人のことだから」

「……え」

「来人言ったよね。自分の勝手で私を助けたって。私だって同じ。私の勝手で来人を助ける。だからそのためにも……来人は私と一緒にいて欲しい」

 

 ――そんな彼は次のアミの言葉にあらぬ想像をして赤面することとなった。

 まあ、もちろんアミの言葉には、彼の想像したような意図はない。彼が言葉尻だけ捉えて勝手な解釈をしただけで、そのことは彼自身もわかっている。が、やはり想像してしまったものは仕方なかった。

 

「……はぁ」

 

 アミの言い分はわかった。

 火照った頬を無理矢理にクールダウンさせ、来人は冷静を心がける。正直に言えば、先ほどの言葉は勘違いを抜きにしてもかなり嬉しかった。

 元々、もはや来人がアミと合流しない理由は初期の頃の惰性を引きずっているようなもので、半ば形骸化していた。カミサマなどアミとの合流を案として訴えていたくらいだ。

 半ば意地になっていたと言ってもいいが――来人は苦笑と共に受け入れた。自分の“負け”を。

 

「何度だって言うよ……! 私は来人の助けになれる!」

「ったく……わかったわかった。だからバレたくなかったんだよ。……お前がそんなんだから」

「……?」

 

 来人の言葉の意味がわからず、可愛らしく首を傾げるアミ。

 そんなアミに来人は笑う。予感がした。また以前のような日が来るような予感が。

 

「っ! なんだ……?」

 

 同時に、大きな“何か”予感の予感もして――来人は一瞬怖気が走った。

 そんな彼に気づいているのかいないのか。アミは彼の手を引いて、笑顔で告げる。

 

「おかえり!」

「……ただいま」

 

 迎えられた事実に来人は笑う。

 先ほどの怖気はともかくとして、今はただこの嬉しい時を。

 

「あらあら……ふふ」

『いっそ哀れさを誘うな……』

 

 ちなみに、そんな二人の姿に外野二人が対照的な感情を抱いていたのだが――それはほんの余談である。

 さらに言えば、どうしてああも頑なに拒絶した来人に関わろうとするのか。その理由の根幹部分にアミは未だ気づいていなかったのも――もっと余談である。

 




というわけで、第三十七話。

ネタバレ回ですね。
ようやくと言うべきか……もう、と言うべきか。
ともあれ、これから主人公は原作主人公と行動を共にすることになりますね。

さて、次回からは原作が進みます。
原作で言う第一部辺りの話も残りわずかですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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