【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第三十八話~歓迎されない雰囲気~

 紆余曲折あったものの、アミと共に行動することになった来人たち。

 あの後、急務な依頼ということで直接依頼へと向かうアミに同行することとなり、現在来人たちは彼女のデジヴァイスの中で待機していた、のだが。

 

「……」

「……」

「……」

 

 沈黙。

 デジヴァイスの中に満ちていたのは、痛々しいまでの雰囲気だった。決して和やかとは言い難い。

 

「なんでこうなってるんだ……」

『わかりきったことだろう?』

「いや、確かにそうなんだけど……!」

 

 そう。来人はわかっていた。

 今の痛々しい雰囲気は自分に原因があることに。

 元々、来人はアミのデジモンたちに好かれていなかった。ガードロモンはともかくとして、テリアモンとトゲモンなど露骨であったし、デビモンに至っては好かれる理由など皆無だ。

 つまり、彼らにとって来人とはいけ好かない相手である。そんな来人が自分たちの仲間として入ったのだ。こうなるのは当然だった。

 

「……はぁ。どうするべきかな」

 

 これから一緒にいるのだから仲良くしたい。だが、ガードロモン以外の者の自分を見る目は完全に敵を見るソレだ。

 どうしようもない現実に来人は溜息を吐く。

 

「ライトどうかしたのかー?」

 

 空気を“読まず”に身体を動かしてトレーニングしている呑気そうなブラックグラウモン。そんな彼のことが本当に羨ましく思えた来人だった。

 

 

 

 

 

 そんな来人の一方で、アミは依頼を受けていた。世にも珍しいと言うべきか、ユーゴからの依頼である。

 アミの目の前にいる白い服の少年、ユーゴ。ザクソンというハッカーチームのトップにして、生ける伝説とも呼ばれるハッカー。彼のその華奢な見た目からはとてもそうは見えないが、それでもアミ以上の実力の持ち主である。

 アミはそんなユーゴと共にEDENを歩いていた。

 もちろん、クーロンエリアなどという暗いところではなく、ちゃんとした正規のエリアだ。

 はしゃぎ回る子供たちや楽しそうなカップル、のんびりとしている大人たち。まさに平和そのものという光景がそこにはあった。

 

「……やはりいいところだな」

「そうだね」

 

 なぜEDENを歩くことになったのか。

 それはユーゴの提案であった。自分の思いを知って欲しいかったからこその。

 

「アミ。君はこのEDENがなぜ生まれたか知っているかい?」

「え? カミシロが新しいネットでのサービスを模索して……」

「そういうことじゃない。……そうだな。君には知っていて欲しい」

 

 そう言って、ユーゴは話し始めた。このEDEN誕生の経緯を。

 

 EDENは不自由な身体を離れて自分自身を表現することができる世界――いわゆる“心の解放”ができる夢の世界として作られた。

 現実世界の数多くの“しがらみ”を忘れられる場所。それがこのEDENだった。そんな理想の世界を作るために、開発者たちは血のにじむような努力をし、その熱意はユーザーたちにも伝わった。

 このEDENは人々の善意が集まる、まさにこの世の楽園となったのだ。

 

 そこまで話して、ユーゴは言う。だが、と。

 

「今のEDENはどうだ? ハッカーたちが横行し、悪意ある情報が錯綜し、善意の人々を侵す。混沌としか言いようがない。決して本来あるべき姿じゃないんだ」

 

 まるで吐き捨てるかのように言うユーゴ。その目はここではないどこかを思い描いていた。おそらくはかつての、そしていつかのEDENの姿を思い描いているのだろう。

 

「ボクはEDENを開発してきた人たちのその思いを知っている。その理想を知っている。だからこそ、ボクにはこのEDENを守る義務がある。……いや、義務などなくてもボクは守りたいと思うだろう」

 

 そう言ったユーゴのその目にはどうあっても引かないという、強靭な意志だけがあった。

 

「だから、君にはノキアを止めて欲しい」

 

 ノキア、ひいては彼女が率いるリベリオンズの活動を止める。それが、ユーゴがアミにする本来の依頼だった。

 

「彼女はまっすぐにデジモンやEDENを愛してくれている。彼女に付き従っているハッカー……いや、テイマーたちもそうなんだろう」

「……そうだね。そうだと思うよ」

「危険な目に遭うのは僕や私利私欲に塗れるハッカーたちだけでいい。……彼女たちのような者たちはそうあって欲しくない」

 

 まっすぐとアミを見つめるユーゴ。先ほどまでとは逆に、その目には心配の色があった。

 ユーゴは本気で心配しているのだ。ノキアや彼女に付き従っているテイマーたちのことを。

 ユーゴの言い分はわかったが――。

 

「ごめん。その依頼は……受けられないよ」

「……君らしい答えだな」

 

 ――ノキアを止めることはアミには不可能だった。

 アミは知っている。ノキアのデジモンに向かう真摯な姿勢を。彼女たちのまっすぐな思いを。アミはそんな彼女を止めることは()()()()()()()

 

「そうか。思えば君はいつもそうだったな」

「……?」

 

 ユーゴは懐かしそうに目を細めて何かを思い出している。

 そんな彼の姿に首を傾げて、その瞬間のことだった。アミのデジヴァイスに通信が入ったのは。

 

『あの……アミさんっすよね? ノキアさんに連絡しようにも繋がらなくて……』

 

 画面に現れたのは焦った様子の青年だった。見覚えのない青年だ。

 

「何かあったの?」

『困ったことがあったらアミさんに連絡しろって……今、クーロンにいて……うわっ、ちょ……ぐぁぁぁっぁぁぁああ!』

 

 悲鳴と共に通信は切れた。

 明らかに只事ではない。通信をしてきた彼が誰だか知らないが、そんなことはアミには関係がなかった。

 助けに行かなければならない。その思いでアミはユーゴを見ると彼はすべてわかっているとばかりに頷いた。

 

「……異常事態のようだね。行くんだろう?」

「うん、ユーゴ……ごめんっ!」

「いや、ボクも行こう」

「……! ありがとう!」

 

 ユーゴが一緒にいてくれるとは心強い。

 ユーゴのハッキングスキルによって通信情報を逆探知してもらい、アミはその場所へと駆ける。クーロンエリアLV4の一角。そこに先ほどの通信の青年は倒れていて――その倒れている青年を、一人のハッカーが荒れた様子で足蹴にしていた。

 

「何してるの!」

「あぁ!? 誰だお前って……ぁぁぁあぁあ!? お前はユーゴさん!?」

「……何をしているんだ?」

「っち。こいつはなぁ! オレたちハッカーを時代遅れだとか吐かしやがったんだよ!」

 

 ふざけるな。何でそんなことを言われなければならない。ハッカーの言葉にはそんな意思が込められていて、倒れている青年を苦々しく睨んでいる。

 

「時代遅れ……か。ボクたちも変わらなければならないのかもしれないな」

 

 ポツリと呟かれたユーゴのその寂しそうな呟きは、誰に拾われることなくこの空間に溶けて消えていく。

 一瞬の間。そうとしか言えない沈黙が辺りに満ちて――この場の誰もがユーゴという一人の少年に注目していた。

 

「……アミ。まずはコイツを片付けよう」

「あぁ!? アンタはこの雑魚の味方をすんのか!?」

「だからどうした。……君はその雑魚の言葉で傷つく程度の誇りしか持ち合わせていないのか?」

「なっ……!」

「君のような紛い物のちっぽけな矜持などボクが粉砕してやる」

 

 そのユーゴの言葉が引き金だった。

 生ける伝説と謳われるユーゴの言葉だ。その圧力に震えながらも、ハッカーは三体のデジモンを出した。

 現れたのは赤い海蛇と灰色のクワガタ、そしてアンキロサウルスのような姿のデジモンで――それぞれメガシードラモン、オオクワモン、アンキロモンと呼ばれるデジモンだ。ついでに言えば、成熟期のアンキロモン以外は完全体である。

 

「行こうアミ。行け、ムゲンドラモン!」

「OK」

「行くよ! トゲモン! 来人!」

「はいはーい! ちょっと待っててねー」

「いきなりなんだよ」

 

 そんなハッカーに対して、ユーゴはムゲンドラモンを、アミはトゲモンと来人を出した。

 

「……どういう状況?」

 

 いきなり戦闘に駆り出された来人。出てきてみれば、隣にいるのはムゲンドラモン。トゲモンはどこかへと消えた。この混沌とした状況に、来人は首を傾げるしかなかった。

 だからこそ、来人は状況説明を問うのだが――。

 

「え? ……こういう状況」

 

 ――残念ながら、アミは状況説明をする気がないようだった。

 

「はぁ」

 

 横にいるということは味方でいいのだろう。味方であるのならば心強い。今までにない頼もしさを感じながら、来人は敵であろう三匹を見た。

 強そうではある。が、それだけだ。究極体ほどに実力のある相手がいないのならば、どうとでもなる。そのレベルだ。

 

「……さて、どうする?」

「来人はメガシードラモンで、ユーゴたちはオオクワモンを。トゲモンは……」

 

 アンキロモンを。同じ成熟期同士だからこそ、そう言おうとしたアミ。だが、そこで気づいた。トゲモンがどこにもいないことに。

 一体どこに行ったというのか。出したメンバーが行方不明になるという今までにない状況に、アミは首を傾げて――。

 

「トゲモン? 違うわっ!」

「え?」

「は?」

 

 ――その直後にトゲモンは帰って来た。いや、正確にはトゲモン()()()者は、か。

 

「アタシはリリモンよ!」

 

 現れたのは花の妖精。それがトゲモンだった者であるとは疑問を挟む余地もないことであるが――であれば、一体いつ進化したというのだろうか。

 先ほどデジヴァイスから出た時は未だトゲモンだったというのに。

 

「は? 何で?」

「乙女はいつだって嫉妬と羨望でキレイになるんだから!」

「っていうか、いつの間に進化したの!?」

「さっきよ! 乙女の着替えは人には見せないわ!」

「……」

 

 突っ込みどころ満載だった。

 元々性格に女性らしさがあったのは確かだが、こうも露骨だったろうか。というか、こんなに軽く進化してもいいものだろうか。

 いろいろと思うところがあるこの場の面々の中で、カミサマだけだった。彼女が進化できたのは、来人が仲間へと介入したことが切欠であるとわかったのは。

 

「ぁぁっぁぁぁ! てめぇら……馬鹿にしやがってぇ!」

 

 痺れを切らしたかのようなハッカーの声。いつまで経っても戦い始めないアミたちに向けたものだろう。

 見れば、ユーゴも生暖かい目だった。

 ともあれ、戦闘の空気が戻ってくる。いよいよ始まる。この場の全員がそれを悟って――。

 

「はぁっ! “フラウカノン”」

「ぐあっ!?」

 

 ――開幕直後に放たれたリリモンの必殺のエネルギー弾が、アンキロモンを吹き飛ばした。

 突き出した両腕。手首の花弁で形作られた銃口。技を放った体勢のままで止まっているリリモン。

 

「女の子の準備も待てないような輩にはお仕置きよ」

 

 そんな彼女は、まるで何でもないことのように済まし顔だった。

 

「んー! 今日のアタシ調子いいっ! やっぱり綺麗になったからかしらっ」

 

 一転、文字通りに花の咲いたような笑顔。

 いろいろな意味でのあまりな変わりように、来人もアミも呆然としてしまっていて。

 

「終わったよ」

「え? あ……!」

 

 その間に、ユーゴとムゲンドラモンは残るデジモンたちを片付けてしまっていた。

 

「俺いらないじゃん……」

『そう気を落とすな』

 

 来人としても、アミに良いところを見せようと思わなかった訳でもない。

 あまりのインパクトで全部かっさらっていったリリモンを前に、ポツリと呟くしかなかった来人だった。

 




というわけで、第三十八話です。

せっかくパーティーインしたのに、たいした活躍もできない主人公のお話でした。
さて、次回は日常回ですね。嵐の前の静けさのような回です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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