【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
アラタと、そして今まで成り行きを見守っていた来人たちと共に、アミはアンダーゼロへと向かう。最奥と呼べる場所。そこにユーゴたちはそこにいた。
意外にも数は少ない。ユーゴとお付きのフェイを合わせて十人もいない。おそらく、ここに来るまでに脱落したのだろう。
「ユーゴ!」
「……アミ……来たんだな。いや、そんな予感はしていたよ」
自分たちに追いついたアミたちの姿を見て、ユーゴは複雑な表情をする。
嬉しいような、悲しいような、安堵したような、寂しいような、そんな複雑な表情を。
「誰かと思えば……いつかの御嬢さんにジュードの元リーダーさんじゃありませんの」
半ば挑発するかのように告げたフェイ。その視線はアラタに注がれていた。
「確か……あんさんらジュードはこのアンダーゼロに挑戦して……負けて。惨めに解散したんとちゃいますの?」
「……アラタそんなことがあったの?」
「へっ。昔の話だ。俺は警告に来たんだよ。アンタらがアンダーゼロに挑むのは勝手だ。だけど、仲間を危険に遭わせたくないのならアンダーゼロには近づくな」
昔のことを思い出しているのだろう。アラタのその言葉には重みとほんの少しの恐怖があった。
「……君がボクらの身を案じてここまで来たというのは……説得力に欠ける。それに、例えそれが本当だとしても、ボクにはリスクを冒してでも手に入れなければならないものがある」
「ってことですわ。さあさ、余計なお節介はここで終わりにひましょ。ここで消えてもらいますえ?」
「っち。やっぱりこうなるのか」
説得は失敗だった。
いや、成功するはずもなかったのかもしれない。初めから、ユーゴとフェイの二人はアンダーゼロ攻略のことしか考えていなかったから。
ユーゴとフェイの合図に従って、ザクソンのハッカーたちがアミたちの前に立ち塞がる。いかにアミたちでも、さすがにこの数を一度に相手にするのは無理だ。
「はっ。俺たちが二人で来たと思ってるのか? 甘すぎるぜ!」
だが、アラタはそんなことは予想通りだと言わんばかりに、叫ぶ。
「えっ!?」
アラタの言葉と共に現れたのは、数人の人物たちだった。
どこにでもいるような人たちだが、ここにいるということはハッカーなのだろう。一体どういうことなのか。アミはアラタを見た。
「仕込みをして来るって言ったろ? 黙ってて悪かったさ……こいつらは俺の昔の仲間。かつてアンダーゼロに挑んだメンバーに、これだけのために集まってもらったのさ」
「……へぇ。面白い余興どすなぁ」
ニヤリと笑うアラタに、フェイは好戦的な笑みを返す。そこには数の有利がなくなっても、勝つのは自分たちであると信じて疑わない自信があった。
否応なしに、場の空気が冷えていく。一触即発。まさに、そんな空気で――その時だった。
「まったー! 待ったー! まったぁぁぁぁぁ! デジモンと人間を繋ぐ希望の架け橋リベリオンズ! 只今参上! デジモンをこき使うハッカーたち! デジモンは生きてるんだからトモダチとして仲良くしなさい!」
威勢のいい啖呵と共に現れたのは、ノキアたちリベリオンズの面々だ。
「……」
「……」
「……」
「……相変わらず空気を凍らせるのが得意なブサイクさんやわ」
だが、沈黙が辺りを包み、フェイの呟きだけが辺りに響く。先ほどまでとは別の意味で場の空気が冷えた。というか、凍った。
別にノキアが間違っているとか、そういうことではないが――このタイミングで、肉を片手に、そんなセリフを吐かないで欲しかった。
「ま、三つ巴になろうと話は同じ。最後に立っていたものが勝者……やろ?」
「いざ、とつげきぃぃぃぃぃ!」
ノキアのそんな言葉が切欠となって、戦いが始まる。
三十人ほどのハッカーたちが、それぞれデジモンを出し、戦わせ合う。その光景は小さな戦争だった。
「……」
『良い気はせぬな』
自分たちには関係のないことだと今まで黙って成り行きを見守っていた来人とカミサマであったが、この光景には顔をしかめるしかなかった。
デジモンのため、自分たちのため、相手のため。さまざまな理由があれど、結局はすべて人間の都合でしかない。そのために自分たちデジモンが振り回される。来人たちの気分が良くなるはずもなかった。
まあ、別に気にしていない者もいるのだが。ブラックグラウモンとか、ガードロモンとか。
「へっ。俺たちが勝ったらこっちに従ってもらうぜ?」
「いいさ。負けるとは思わない」
アラタの言葉に、自信を持ってユーゴは返す。だが、その自信も当然か。その隣に立つのはムゲンドラモン。
アミやアラタが出会った中では、まず最強のデジモンだろう。
「みんなっ!」
「はいはい」
「よっしゃ、行くぜ!」
「了解デス」
アミの声に従って、来人たちもムゲンドラモンに相対する。
この究極に打ち勝つ方法は未だ見つからないが、それでもやらなければならなかった。
そして、そんな来人たちの一方で――そこから少し離れた場所で、ノキアはフェイと相対していた。
「だから、デジモンはただのプログラムなんかじゃなくて……!」
「興味へんなぁ。そんなことは。わっちが興味あることはユーゴはん……“彼女”のことだけや。ユーゴを守り、ユーゴを知る……わっちが欲しいのは“彼女”だけや」
「こんっの、わからず屋……! ……って、“彼女”?」
「だから、わっちのすべてはユーゴはんだけに捧げる! それ以外のことはどうなってもいいんや!」
フェイの叫び声と共に現れたのは、雀蜂人間と言えるような機械の昆虫人間だった。錫杖を持った狐の神人だった。それぞれタイガーヴェスパモンとサクヤモンと呼ばれる究極体デジモンだ。
「きゅ、究極体が二体……! でも、それはこっちも同じだもんね! ウォーグレイモン! メタルガルルモン!」
「おう!」
「行くよ!」
負けじとウォーグレイモンとメタルガルルモンがノキアの前に出る。その時、フェイがニヤリと嗤ったことに、彼らは気づかなかった。
「さぁさ、はじめまひょうか、と言いたいところやけど……」
「……?」
「もうこれで終わりどすえ。ほな、さいなら」
フェイは嗤う。目の前の愚か者たちを。どこか自分と同じ感じがする愚か者を。そして、自分自身のことを。
「は? 何言って……」
「ノキア!」
「っ!?」
それに気づいた時、すべては遅かった。
ウォーグレイモンの焦ったような声。次の瞬間、ノキアの視界は閉ざされて――そこで彼女はようやく気づいた。自分がウォーグレイモンに庇われたことに。
「“スターライトエクスプロージョン”!」
遥か上から降り注ぐのは黄金の粒子。たかが粒子と侮るなかれ、それは絶大な破壊力を持った究極体の一撃。
ノキアを庇って、ウォーグレイモンがその攻撃を一身に受ける。
このままではまずい、と。メタルガルルモンが上空の敵を討とうとして――その瞬間にサクヤモンたちが二体がかりでメタルガルルモンを抑え込む。自分たちがいくら傷ついても構わないとばかりに。
「え……」
黄金の粒子が放たれ続けていた時間は、数秒にも満たない。だが、その数秒ですべては決した。
ガシャリ、と誰かが倒れた音がする。その瞬間に、ノキアの視界が開ける。
そこには、ただ凄惨な光景だけがあった。傷だらけで倒れ伏したウォーグレイモンたち。彼らと同じく、傷だらけで肩で息をしているサクヤモンたち。
そして――。
「クォオオオオオン!」
――遥か上で勝利の雄叫びを上げる、いっそ神々しいまでの黄金の神鳥の姿だった。
一体何が起きたというのか。あのデジモンは何なのか。なぜ、ウォーグレイモンたちは横たわっているのか。いや、そもそもなぜ相手もボロボロなのか。
突然の事態、そして倒れ伏した“トモダチ”の姿を前にノキアは呆然とするしかなかった。
「あらあら。呆然としまひて……可哀想やなぁ。あんさんの言うお友達は、こんなんになっちゃいましたえ?」
黄金の神鳥がフェイの横へと降り立つ。
黄金の神鳥――それがホウオウモンと呼ばれる究極体デジモンであることなど、ノキアは知らなかった。が、それでも彼女にもわかることがあった。あのホウオウモンが誰のデジモンであるかということは。
「あんた……!」
「そないな目をされましてもなぁ? 卑怯と罵ります? いいで別に。言ったやろ? わっちのすべてはユーゴはんだけに捧げる。それ以外のことはどうなってもいいんや、って……」
その為ならば、手段も倫理も厭わない。自分がどう言われようと、どう思われようとも構わない。言外にフェイはそう言っていて――そんなフェイの姿を彼女のデジモンたちが悲しそうに見ていたことに、彼女自身は気づかなかった。
「ふざけないで!」
「ふざけてなんかおりまへん。これがわっちの覚悟や。あんさんにはありませんやろ? トモダチごっこのあんさんには」
「……っ!」
その通りだった。
ノキアにフェイのような――トモダチに目的のために傷ついてくれと頼む覚悟などない。
言い返せない事実を苦々しく思い、フェイを睨みながらも、ノキアはウォーグレイモンたちに回復用のプログラムを走らせる。だが、やはり本職のハッカーというわけでもないノキアの腕では、ろくに回復させることはできなかった。
「ウォーグレイモン……メタルガルルモン……!」
「やれやれ……諦めの悪いブサイクさんだこと。これで終わらせまひょか」
フェイの言葉にホウオウモンが羽ばたく。ノキアごとトドメを刺す気なのだ。
ノキアもそんなフェイの考えに気づいて――それでもなお、ウォーグレイモンたちの傍にいた。そんなノキアがいたからかもしれない。
「大丈夫だ。……任せておけ」
ウォーグレイモンたちがゆっくりと、だが確かに立ち上がることができたのは。
「はっ。死にぞこない二人が立ち上がって何ができるんや! いけっ!」
デジモンたちに指示を出すフェイ。だが、その言葉にはどこか焦りが含まれていた。まるでこの不屈さに恐怖しているかのような、そんな焦りが。
一方で、不死身の如く立ち上がったウォーグレイモンたちの姿に、リベリオンズメンバーの士気はうなぎ登りだった。
「うぉおおおおおお! こりゃ、俺たちも負けてられないっす!」
「おれ達も頑張るから、ウォーグレイモンさんたちも頑張れ!」
「負けてたまるかぁ! 負けるなよ!」
まるで自分を鼓舞するかのような、それでいてウォーグレイモンたちを応援するかのような言葉。それは確かにノキアたちに届いた。
「みんな……! そうだよね! まだ……終わらない……あたしたちの試合は……ホイッスルは……まだ終わってないんだからぁ! リベリオンズゥゥゥファイッ!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
「おー!」
いくつもの声が轟き震える。
その希望に満ち溢れた声が、どれほどの絶望の中にあっても希望を掴もうとするその眼差しが、フェイは鬱陶しかった。
「……! やれっ!」
そのすべてを振り払うように、フェイはホウオウモンに指示を飛ばす。
その瞬間に、ホウオウモンはウォーグレイモンたちめがけて攻撃をする。
身体は思うように動かない。それでも、まだ動ける。いや、動かなければならない。その思いで、ウォーグレイモンたちはホウオウモンを睨む。
「負けられないのは――」
「負けられないのは――」
『――こちらも同じだ!』
そして。その瞬間、ウォーグレイモンとメタルガルルモンの声が重なる。
異口同音というレベルを超えて重なり合ったその声。それはまるで奇跡の具現化したかのような光を導く。
『……! 来たか』
この空間のどこかでそんな呟きがあって――。
「我が名はオメガモン」
――次の瞬間、その場にいたのは一人の白い聖騎士だった。
「な……合体した……?」
「うぇぇぇぇぇ!? ちょ、ウォーグレイモン!? メタルガルルモン!? どうなってんのー!? まさかロボット!? ウルトラグレート合体とかそんなオチー!?」
「ノキア。君のおかげだ。いろいろと聞きたいこともあるだろうが、今は……」
ちらり、と。オメガモンは未だ唖然としているフェイを見る。それだけで彼が何を言いたいか、ノキアにもわかった。
「……! うん! さっきみたいにはいかないもんね! さぁっ覚悟しなさいっ!」
「私たちの力を見せてやる」
「っく……たかが合体しただけで……!」
フェイの混乱したままの声を、オメガモンは置き去りにする。
その左腕――ウォーグレイモンを模した籠手を振るえば、現れるは剣。グレイソードと呼ばれるその鋭利な剣が振るわれる。発生した衝撃波がフェイのデジモンたちを襲う。
先ほど傷だらけになったサクヤモンたちにそれを避け切る術はない。衝撃波に襲われ、壁に叩きつけられ、倒れ伏す。
「ほんな……ばかな……!」
残るは、上空に飛んで回避したホウオウモンだけ。
「手加減はする。これで終わりだ」
メタルガルルモンを模したその右腕の籠手を振るえば、現れるは砲。ガルルキャノンと呼ばれるその無骨な砲が火を噴く。
その先にいたのは、ホウオウモンで――。
「くぁぁ……」
――躱せるかどうかはともかくとして、ホウオウモンはその素振りさえ見せずにその攻撃を受けた。まるで、わざと受けたかのように。
手加減されていたとはいえ、超威力のソレを受けたホウオウモンは落下する。まるで羽をもがれたかのように。
立っていたのは、勝者たるオメガモンだけだった。
というわけで、第四十一話。
ムゲンドラモン戦……と、見せかけたオメガモン復活回&無双回でした。
その代償に、フェイは原作よりもえげつなくなりましたが。
さて、次回は時を少し遡って、ムゲンドラモン戦。
主人公たちがムゲンドラモンにどう戦うのか、どのような決着がつくのか、ですね。
それでは次回もよろしくお願いします。