【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
時はほんの少しだけ遡る。フェイを倒したノキアとオメガモンは、呆然としたままのフェイを放置して、辺りを見回す。
見回して――気づいた。ムゲンドラモン相手に必死に耐えている来人たちの姿に。
「こりゃぁヒーローはピンチに遅れてやって来るってやつ!? やっちゃって! ガルルグレイモン!」
「ガルル……わかったノキア」
言いたいことはいろいろとあったが、ノキアの言葉を
放たれた砲撃はムゲンドラモンに直撃、来人たちを救った。
「……! そのデジモンは!? いや、それよりもフェイは……!」
オメガモンの参戦に、ユーゴは驚きの声を上げる。彼にはフェイが負けるなど信じられなかった。
『さて……これで戦況は逆転だな』
実際はどうであれ、自らの優位性を示すかのようにカミサマは勝ち誇る。
その声はユーゴの耳までしっかりと届いていて、彼は苦い顔をするしかなかった。オメガモンの合流によって、場の流れが自分ではなく、来人たちの側にあることに彼は気づいたのだ。
「形勢逆転、だな。おたくのムゲンドラモンはまだやれるだろうが、それはこっちも同じ。この数相手に勝ち目あると思ってんのか?」
「っく……!」
敗北を突きつけるアラタのその言葉に、ユーゴはますます苦い顔をする。
ユーゴとて馬鹿ではない。オメガモンとムゲンドラモンは、かなり甘く見て互角。その状態で、さらに来人たちも未だ健在。
どちらが有利であるかなど、馬鹿でもわかるだろう。馬鹿でなければなおさらだ。
「どうして……! どうして、邪魔をするの!? 私は……私は、ただ……父の遺した夢の世界を守りたいだけなのに……!」
その言葉は静かに、だが、力強くユーゴの口から漏れ出た。
苦しそうに言っていた。思わず口から出てしまったものなのだろう。だが、だからこそ、その言葉は彼の本心を表していて――それは上手くいかない現実に対する悲痛なばかりの叫びだった。
「急に女々しくなったな……父がってどういう……?」
「夢の世界……EDEN? EDENを残したってことは、カミシロの……」
「……! まさか!?」
来人の呟きを拾ったアミは、何かに気づいたかのような声を上げた。その表情には信じられないとばかりの、驚愕の表情が張り付いていた。
一体どういうことなのか。何に気づいたのか。来人たちがアミに聞こうとした、その瞬間のことだった。
「はいは~い。ごっ苦労さまぁ~!」
この空間に甘ったるいまでの気色悪い声が響いたのは。
「お姉さん、ほんっと感心しちゃったわ~。よく頑張りました。パチパチ~。あなたの役目はこれで終わり。あとはゆっくり休んでいてね?」
「私の……役目……?」
「ここにみんなを連れてくることっ。きゃ~! 健気なユーゴちゃんのおかげで助かったわ~。さぁさぁ……それじゃ、いってみましょ~」
アミも、来人も、アラタも、カミサマも――誰もが聞こえる声の発言について行けない。だが、この声の主が何かよからぬことを企んでいることだけはわかって、警戒する。
何が来る。どこから来る。そうやって、警戒していた彼らの前に――それらは現れる。
「……!?」
「っ!」
「こりゃぁ……!?」
誰もが絶句した。
現れたのはイーターだ。そこはいい。いや、誰もがよくなかったが、仮にそこはいいとする。問題は数だ。十を超える大量の数、そこには以前に見た人型さえも何体か混じっている。
この大量のイーターを前に、誰もが驚き呆然としていた。
「あ~ハッハッハ……! おっかしい! ほんっとハッカーちゃんたちってば、馬鹿よねぇ? 手のひらの上で転がるどころか、無様に腹踊りまでしてくれちゃって」
「……! やっぱり罠だったんだな!」
「あなたたちの若ぁ~くて~青臭~いエネルギー……お姉さんがぁ搾り尽くして、ア・ゲ・ル」
それが合図だった。
イーターたちが一斉にハッカーたちに襲いかかる。デジモンたちが必死になって守ろうとするが、戦いによって疲弊した彼らに物量で迫るイーターたちを防ぎ切ることはできなかった。
一人、また一人と――ハッカーたちが餌食になっていく。
『嵌められた……ということか。ずいぶんといやらしい真似をする輩だな』
「同感だっ!」
この異常事態を前に、アミたちは一時休戦してこの状況を打開する話し合いをしているらしい。
となれば、来人がするべきことは決まっている。オメガモンやムゲンドラモンがいるためいらないかもしれないが、アンドロモンとブラックグラウモンにアミたちの護衛を任せて、イーターを攻撃することだ。
追尾式にして放ったメカニゼィションパワードアームが、次々とイーターたちを討ち果たしていく――が、やはり数が多い。
「来人!」
そんな時だった。アミの自分を呼ぶ声に、来人は振り向いた。
どうやら、作戦会議は終わったらしい。動き回っているアームに迎撃の一切を任せて、急ぎアミの下へと走る。
「で、状況は!?」
「簡単に言うと、ここに高密度のデジタルウェイブが流れ込んでいて……イーターが操られてるみたい!」
「言い方が悪かった! 打開策を教えろ!」
「そっち!? ガルルグレイモンがそのデジタルウェイブを何とかしてくれるから、私たちのすることは……」
そこから先は言われずともわかった。
上を見上げれば、ポッカリと開いた穴めがけて白い光が向かって行っていた。
すでに原因を断ちに行ったのならば、残った来人たちに出来ることは――これ以上被害が拡大しないようにすることだ。
何だ、先ほどまでと変わらないではないか。来人は苦笑した。苦笑して――気づく。
『くく……!』
「カミサマ……?」
『す、まない……くく……ガルルグレイモン……ぶはっ……これは……』
カミサマが何やら笑いを堪えようとして、盛大に失敗していることに。
オメガモンという正式名称を未だ知らない来人だ。カミサマが何にそこまで笑っているのかわからなかった。
『一つ聞く。くく……ガルルグレイモンとは……貴様が……ぷぷ……名づけたのか?』
「え? いや。ノキアだよ? ……もしかして、違うの?」
『いや……くく……問題ないだろう。……ガルルグレイモン……ぶふっ……なのだからな。そうか、あの娘か……くく……最高だ』
こんな状況でありながら、カミサマは何と言うのか、今までにないほど機嫌がよさそうで――来人もアミもちょっと引いた。
ともあれ、だ。いつまでもこんなカミサマに構っている暇はない。そう考えた来人ながら、左腕を振り抜く。その拳はちょうど接近していたイーターに当たって――イーターを殴り飛ばした。
「さて、んじゃ……もう一息頑張りますか」
言いながら、来人は周りを見渡す。
未だ、イーターの数は減っているようには見えない。来人もブラックグラウモンたちもその他のデジモンも、ずいぶんと倒したはずなのだが。
「ふっ! “プラズマブレード”!」
肘のブレードによってイーターを切り裂き続けるブラックグラウモン。
「はぁっ! “ウイングカッター”!」
腰についたウイングで空を飛翔し、すれ違うイーターをそのウイングで切り裂く来人。
「ロックオン。“スパイラルブレード”」
冷静にイーターの隙を見つけ、放つエネルギー刃で確実に倒していくアンドロモン。
その他さまざまなデジモンたちが一丸となって、イーターを倒し続けていた。だが、倒しても倒しても、湧いて出てくる。
「これは疲れ……っ!?」
瞬間、衝撃。
感じた衝撃に来人たちが上を見れば、そこにはイーター出現の原因だろう穴はすでにない。どうやら、オメガモンが上手くやったらしい。
「さて、これであとはこっちの番だな」
「ライト、気を抜くなよ!」
「こっちのセリフだ。アミたちもあと少し……だ、から?」
言いながら、来人はアミたちの方を見る。
アミたちは“何か”に驚いていた。一体何に驚いているのだろうか。また何か異常事態でもあったのだろうか。ひしひしと嫌な予感を覚えながらも、来人は彼女たちの視線の先に目を向けて――。
「なっ!?」
――驚いた。そこには、もう一人のユーゴがいたのだ。しかも、半透明で。
そして、さらに驚くべきことが起きる。その半透明のユーゴが現れたその瞬間から、イーターたちが逃げて行き始めたのだ。
「どうなってるんだ……!?」
『わからぬ。だが、あの少年は本体というわけではなさそうであるな。思念体か? なんにせよ、イーターに関する者ということだけは確かだろう』
カミサマの声を聞きながら、来人は成り行きを見守る。
もう一人のユーゴはすべてのイーターが退却するのを見届けると消えた。まるで、初めからそこにいなかったかのように。
そして、もう一人のユーゴが消えたのと同時に――。
「ぐぅっ……リエさん何を……やめっ!?」
――元々いたユーゴも消えた。不自然な様子で。
「このタイミングでログアウト……だと? いや、外部から誰かに強制的にログアウトさせられたのか?」
呆然とアラタは呟いた。
はっきり言って、来人は展開についていけていなかったが――アミだけは違ったようである。呆然としている全員の中で、彼女だけが即座に動けた。
「っ! アミ!」
来人が思わず叫ぶ――が、遅い。
アミは、ユーゴがログアウトした痕跡をたどってコネクトジャンプし、彼を追ってどこかへと行ってしまったのだから。
「アミ……!? アイツは何を……!」
「ライト、置いてかれちまったな!」
「うるさい!」
「アミノ方ハ大丈夫デショウ。リリモンタチモイマス」
ユーゴの最後の様子からして、何かがあったのだろう。
そんな場所へ共に行くことができず、来人たちは歯がゆかった。頼むから無事でいてくれと祈る。
「くそっ。ほんっとうに……なんなんだよ、一体……」
『さてな。だが、事態が急激に動いたことには変わりないだろう』
立ち尽くすことしかできない。
そんな来人たちの一方で――。
「……ほんっと……ムカつくことしてくれんじゃねぇか……!」
――アラタは怒っていた。
生き残ったハッカーたちは、初めに比べて十分の一もいない。
何もできなかった自分に対する怒り、自分たちの誇りを踏み躙ってきた者に対する怒り。さまざまな怒りが彼を焦がす。
今の彼の脳裏には、一人のハッカーとして、その矛先を向けるべき敵の姿が思い浮かんでいた。
そして、そんなアラタの一方で――。
「ノキア。この姿に戻ったことで、私はすべてを思い出した」
「本当に!? おめでとうガルルグレイモン!」
「ガルル……私はオメガモンだ……」
――オメガモンはノキアに真面目な顔をして話しかけていた。
そして、そのまま彼は言う。「君に話さなければならない大切なことがある」と。