【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第四十六話~主神降臨~

 来人たちは誰かに後をつけられていることに気がついた。

 素早くアイコンタクトをした彼らは、バッと後ろを振り向いて――。

 

「誰だっ!?」

 

 ――その存在を確認する。

 そこにいたのは――フェイだった。最後に会った時からそう時間が経っていないが、その時の自信満々な面影が影も見えないほど、ずいぶんと落ち込んだ顔をしている。

 

「あんた……なんでこんなところにいんの!?」

 

 驚愕の色を込めて、ノキアが叫ぶ。

 いや、ノキアだけではないか。声に出すことこそないが、アミも内心では驚いていた。驚いていないのは、何となくそんな気がしていた来人だけだ。

 

「お前も悠子を助けに行くのか?」

「……そうや。あんさんらも……そうなんやろ? お願いや。わっちと一緒に行ってくれないやろか。絶対に悠子はんを助けたいんや……!」

「……」

「悠子はんは……わっちを助けてくれた。居場所をくれた。大切な人や。だから、絶対に助けなければならないんや」

 

 チラリとアミは来人とノキアを見る。

 アミとしては、フェイの提案を拒否する理由はなかった。岸部と繋がっているロイヤルナイツが出てくる可能性もある以上、戦力は多い方がいい。

 いや、そんな建前がなくとも、悠子を助けたいという気持ちは同じ。それだけで、拒否する理由はない。もはやアミの中で、フェイの同行は決定事項になっていた。

 

「別にいいんじゃないか。嘘は言ってないみたいだしな」

 

 やれやれ。呆れたように来人は言う。

 一方で、そんな来人に食いついたのはノキアの方だった。彼女は気になったのだ。どうして嘘をついていないとわかるのか、と。

 

「そっか。ノキアは知らなかったっけ。来人は昔から勘がいいんだよ?」

「へぇー! 嘘発見器みたいね」

「……」

 

 あながち間違いでもないが、面と向かって嘘発見器扱いとは少し複雑である。ともあれ、来人たちの意見は一致した。

 代表してアミがフェイに力強く頷く。

 

「……! 皆さん、おおきに」

「うわっ……ちょっと寒気が……!」

 

 フェイの心からの謝礼の言葉に、思わずノキアが震えた。

 まあ、彼女にとってフェイという女性はいろいろな意味で相性の悪い相手だ。こういう対応をしてしまうのも、仕方のないことかもしれない。失礼であることに変わりはないのだが。

 

「一つだけ聞きたいんだけど……フェイはユーゴが悠子だって知ってたの?」

「もちろん知っとったわ。悠子はんはユーゴとして、父の作ったEDENを守っとった。あの姿は……EDEN症候群で倒れた兄、勇吾の姿なんや」

「そうまでして……家族の絆を繋いでいたかった。そういうことか?」

「……相変わらず勘の鋭すぎるデジモンどすな。その通りや。家族の縁が薄いお人やから……」

 

 フェイの言葉に、ノキアもアミも押し黙った。

 フェイも悠子も、アミたちには想像もつかないほどの苦しみの中にいたのだろう。

 その苦しみを思って、アミたちのやる気はますます満ち溢れていった。自然、進む足の速さも早くなる。

 

「見えたっ!」

 

 この異常な空間がそうさせているのか。

 ありえないほど早く、来人たちはそこにたどり着く。悠子が囚われる、その研究施設へと。

 

「っ。これは……!」

「来人……?」

 

 だが、研究施設の中は未だ普通の現実世界のようで、来人たちデジモン組は入れなかった。仕方なく、それぞれのデジヴァイスの中に入れてもらい、さらにカメラを通して外の状況を把握できるようにしてもらう。

 

「さて、行こう!」

 

 デジモンたちのサポートがないのはキツイが、それでもやらなければならない。

 アミたちは研究施設の中へと突入する。そこにいたのは――。

 

「――」

 

 ――何らかの機械に取り付けられた悠子と来人の知らない緑色の髪を持った女性だった。

 

「来たか」

「悠子はん!」

「あんたが岸部リエね! いいいい今すぐ悠子っちから離れなさい!」

 

 フェイが叫び、ノキアが言い切る。

 ノキアの様子からして、あの緑色の女性が岸部リエなのだろう。彼女のことを知らなかった来人にも、それはわかったのだが――。

 

「なんだ? アイツ……本当に人間か?」

 

 ――デジヴァイスの中から様子を探る来人は違和感を覚えていた。

 岸部リエという女性を知らない彼は、彼女の存在そのものに言い知れぬ不気味さを感じたのだ。

 

「ふふふ……離れろ、か。それはできない相談だ。これでようやく……禍の種となる薄汚い人間を滅ぼすことができるのだから」

『……! そうか。そういうことか』

「カミサマ?」

『お前は……!』

「お、オメガモン……?」

 

 ノキアとアミのデジヴァイスから発せられたオメガモンとカミサマの声。そこにはただ、何かに納得したかのような雰囲気があった。

 

「オメガモンに……オリンポス十二神の主神か。全くもって度し難い愚かさだ。人間などに肩入れするなどと……」

『気をつけろ! こやつは人間ではない! こやつはロイヤルナイツだ!』

 

 焦った様子でカミサマは言う。

 誰もがその言葉の意味を、一瞬理解できなかった。一瞬後、ようやくと言えるほどの後に理解して――。

 

「クハハハハッ! 貴様らなどには止められない! ついに……ついに! この時が来たのだ!」

 

 ――唖然とする来人たちを前に、岸部リエは嗤う。

 目の前にいる愚か者たちの無駄な奮闘を。自らの計画を邪魔しようと動いている大馬鹿者たちを。この世界にのうのうと生きる人間たちを。

 光が世界を裂いて行く。そして。

 

「これは……っ!?」

 

 ゾクリ、と。一番初めに異常を感じたのは、デジヴァイスの中にいた来人だった。人間とデジモンという、二つの狭間にいる存在だからか。いや、あるいは中にいるカミサマの影響かもしれない。

 どうか思い違いであってくれ。そう思い、出られないことを願いながら、来人はデジヴァイスから出ようとしてみて――その一瞬後、来人は現実世界に出ることができた。できて、しまった。

 

「出られた……!」

「えっ? 来人!?」

 

 現実世界だというのにこの場に存在できる来人にアミが声を上げる。

 だが、この場に存在できるのは来人だけではなかった。

 

「やはり……。最悪の事態だ!」

「オメガモンも現実世界に!?」

 

 オメガモンも気づいたのだろう。彼もこの現実世界に現れることができていた。

 デジモンが現実世界に存在できる。それの示すところがわからない者はここにはいなかった。

 

「ハハハハ! これで物質世界の理は崩壊した! 扉が……裁きの扉が開いたのだっ! アハハハハハ!」

 

 岸部リエ――の姿の誰かが、狂ったように嗤う。

 

「感じる……感じる! デジタルに世界が侵食されるその感覚を……! これでっ、この醜悪な人間の姿とはおさらばだっ!」

 

 その時、岸部リエは変化していた。

 それは、世界の法則が崩壊したため、オメガモンや来人と同じく、デジモンとしてこの場に現れることができるようになったということで――それは、本来の姿を戻ることができたということだった。

 一瞬後、岸部リエのいた場所にいたのは、桃色の鎧に右腕に大きな黄金の盾を装備した騎士。

 

「……! ロードナイトモン!」

 

 ロードナイトモンと呼ばれるロイヤルナイツだった。

 この場の誰もが強硬派のロイヤルナイツの計画が成ってしまったこと、そして岸部リエがデジモンになってしまったことに呆然としてしまっていた。

 そんな来人たちの一方で、ロードナイトモンは盛り上がっていく。

 

「オメガモン! オリンポス十二神の主神! 今からでも我らに従え! 我らが世界の存続、そして世界の秩序のために!」

 

 だが、オメガモンもカミサマも答えは決まっていた。

 

「断る……!」

『我もだ。いかに人間に悪性があろうと、それが全て滅ぼす理由にはならない。我はそう定めた』

「甘いことを。やはり貴様ら古臭いイリアスの者共とは馬が合わん。オメガモンも、あくまでイグドラシルの意思に背くというのならば――」

「人間は滅ぼされるべき存在ではない! ノキアたちと一緒にいて、私はそう確信した」

 

 言い切ったオメガモンを前にして、ロードナイトモンは馬鹿にしたように「恥さらしめ」と呟く。そして、構えた。

 その目には敵意しかない。同じロイヤルナイツであるはずなのに、もはや仲間だとは思っていないのだということが感じられた。

 そんなロードナイトモンを前に、オメガモンも構える。冷たい空気だけが辺りを満たしていく。

 アミたちは圧倒的強者の放つ戦場の雰囲気を前に、苦しそうに耐えることしかできなくて――。

 

『……』

「これは俺の勘なんだけどさ。まだ終わったわけじゃないんだろ。……何かあるんだろ?」

 

 ――そんな中で、来人だけが前を見ていた。

 今回彼がこの場に来たのは、ロイヤルナイツの侵攻を止めるためでも何でもなく、アミの友達を助けたいという気持ちを手伝いたかったからだ。

 とはいえ、だからといって、彼も世界が滅びる結果を認められるわけもない。この世界にはアミがいる。()()()()()()()()が、自分の家族もいる。黙って破滅へと動き出した世界を見ている訳にもいかない。

 だから。

 

「頼む」

 

 だから。

 

「カミサマ……何かあるなら、やってくれ。俺のことは気にすんな」

 

 だから、来人は覚悟を決めた。自分の保身をやめて、流れに身を任せて突き進む覚悟を。

 同時に、カミサマも覚悟を決める。そんな来人の覚悟に報いる覚悟を。

 

『……よかろう。オメガモン! そやつのことは任せるぞ。まだ間に合う!』

 

 そう言い切ったカミサマに、オメガモンもロードナイトモンも怪訝な顔をした。いや、彼らだけではない。この場の誰もが似たような顔をしていた。

 一体、どうするというのか。何をする気なのか。この場の誰もがそう感じて――最初にそれに気づいたのは、アミだった。前に一回だけ、一瞬だけ見たことがあったからこそ、気づけのだ。

 

「っ来人!」

 

 心配の色を込めたアミの叫びをかき消すように、雷が世界に轟く。

 瞬間、来人の姿が変わる。アイギオモンでも、アイギオテュースモンでもない。それ以上に完成系たる姿がそこにはあった。

 

「さて……」

 

 そこにあったのは、黄金の鎧に、白い羽で出来たマントを纏うデジモン。オメガモンたちが物語の勇者だというのならば、それはまさに神話の神。

 それこそがカミサマの本来の姿である――ユピテルモンと呼ばれる究極体デジモン。

 

「間に合う? 古臭いだけの……前時代の神の貴様に何ができる? お得意の神罰が通じるかやってみるか?」

 

 馬鹿にしたように言うロードナイトモンだが、一方のユピテルモンはただ無表情のまま言う。それが自分の判断だとばかりに。

 

「新しいことがすべて良いというわけではない。我の審判は絶対だ。この世界は滅ぼさせない」

 

 そう言って、カミサマはその手のハンマーを振るう。雷が天井を貫き、大穴が開く。それは外へと抜け出る穴だった。

 ロードナイトモンはそんなユピテルモンを止めようとするが――。

 

「どけっ!」

「任せると言われた! どかない!」

 

 ――そんなロードナイトモンをオメガモンが抑えた。

 外を頼む。そんな意思を込めてオメガモンは頷き、ユピテルモンは頷き返す。

 そのまま外へと出たユピテルモンは、天を往く。その視線の先にあるのは、穴だ。巨大すぎる穴。世界と世界を繋ぐ穴。

 することは単純だ。この場に満ちる力に、そして空間に穴を穿っている力場そのものにダメージを与え、穴を塞ぐ。たったそれだけ。

 

「ふぅ」

 

 ゆっくりと、しかし確実に、自身の気力を練り込んでいく。

 使うは、自らの最大の必殺技。全身を超高圧プラズマと化す技。

 

「ぉおおおおおおおお! “ワイド――」

 

 今ならまだ間に合う。間に合うのだ。いや、間に合わせなければならない。

 自分の身が――いや、心がどうなるか、薄々感づいているだろうに、それでもその身を差し出した来人の覚悟のためにも。

 

「――プラズメント”ォ!」

 

 瞬間、プラズマと化したユピテルモンは全身全霊をもって突き進んだ。

 




というわけで、第四十六話。

ついにカミサマの真の姿がお披露目されました。
そう、カミサマはユピテルモンだったのです!
……まあ、バレバレでしたよね。

ともあれ、次回。
本来の姿を取り戻したカミサマが奮闘します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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