【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第四十七話~古き神は天より落ちる~

 それは一筋の閃光だった。超高圧プラズマと化したユピテルモンが天を駆けるその様は、まさに雷そのもの。

 空間も、その周りにあるデジタルウェイブも、この場に満ちるエネルギーも――何もかもを焼き尽くすその姿は、人間が初めに目撃した火そのものにして、まさに人智及ばぬ災害。

 

「うぉおおおおおおお!」

 

 見える。穴の向こう側に巨大な何者かがいて、誰かがこちらの世界へと出てこようとしているのが。その何者か以外にも、たくさんの何者かたちがいるのが。

 だが、その誰かたちがこちらへと出てこられることはない。ユピテルモンの決死の攻撃で、すでに穴は閉じ始めているのだから。

 すでに穴が閉じ始めた影響は出始めている。ユピテルモンは自分の身体が薄れていき、この世界にいられなくなっていくのを感じていた。そう、崩壊した世界の理が収まり始め、あるべき形に戻ろうとし始めているのだ。

 行ける。ユピテルモンは誰にと知れず、そう感じて――その直後のことだった。

 

「っっっっっ!?」

 

 何者かが、穴を向こう側から強引に押し広げようとしている。

 穴が塞がれそうになっているのならば、無理矢理でも開ければいい。そんな強引さでもって、穴を押し広げようとしている。

 穴を広げる誰かは、すでにこちらに流れ出たデジタルの理を利用している。穴が開いていく。

 ユピテルモンも負けじと塞ごうとするが、それ以上に穴の開く速度が速い。

 

「ぬぅううううう!」

 

 穴を閉じていく動きと開いていく動きが拮抗する。

 先ほどまでの段階で、穴は縮小に縮小を重ねている。大きさとしてはかなりの小ささだ。向こう側にいる巨大な何者かは出てこられないだろうが、成長期サイズの小さなものならば出てきてしまえるだろう大きさだった。

 だが、それは逆に言えば、そのサイズの者ならば通ることができるということ。だからこそ、ここで穴の収縮が止まってしまったのは不味かった。

 これはまずい。このままではまずい。ユピテルモンは苦々しい顔をして――直後のことだった。

 

「……?」

 

 彼は自分の腹に熱いものを感じた。

 見れば、穴から無理矢理に出た“黒い腕”が自分の腹を貫いていて――。

 

「がはっ」

 

 ――致命傷だった。

 遅れてやって来たダメージを前にして、ユピテルモンのプラズマ化が解ける。

 この傷で、さらに元の姿に戻ってしまった彼では、この穴を塞ぐほどの力はない。苦々しい顔を彼のする前で、塞ごうとする者がいなくなった穴はどんどん大きくなっていく。

 

「情けないな……オリンポス十二神の主神ともあろう者が」

「貴様は……!」

 

 そこから初めに出てきたのは黒い神。

 まるで冥府の長のようなその神は、ユピテルモンもよく知った相手だった。しかも、ロイヤルナイツなどではない。ユピテルモンと同じイリアスの住人だった。

 

「ククク……だから、貴様は甘いのだ」

「なぜ貴様が……!」

 

 黒い神にユピテルモンは問う。なぜここにいる、と。

 だが、その黒い神は答える気がないようだった。自然、ユピテルモンの顔が強張り、その手の拳に力が集まっていく。

 

「ほう。やる気か? その傷で?」

「黙れ。何をしに来たのか知らぬが、貴様をこの世界に放っておくわけにはいかん」

「ククク……まあ、それも良いが……貴様は自分の身の心配をした方が良いぞ?」

「何?」

 

 嘲笑うかのような黒き神の言葉に、ユピテルモンは首を傾げる。その直後のことだった。

 ハッと何かに気づいたかのようにユピテルモンが上を見上げれば、そこにあった光景は――赤だった。

 

「ククク。また会おうぞ」

「っ!」

 

 どこかへと消えた黒き神を追う暇もない。

 今、ユピテルモンの目の前にいる“赤”。それは色しかわからないほど巨大なまでの、竜だった。

 勢いのままに落ちてくるこの巨大な竜のことは、彼もよく知っている。だからこそ、この竜をこの世界に解き放つわけにはいかなかった。

 腹の傷を無視して、彼は巨大な竜の頭を抑え、穴の奥に押し戻そうとする。

 

「こやつ……!? まさか?」

 

 その際、この竜の身に起こっている異変を感じ取ったが、その異変のことは無視した。

 今重要なことはこの竜を穴の向こうに押し戻すことだ。

 ギリギリ、と。落ちてくる竜と押し戻そうとするユピテルモンの力が拮抗する。が、腹の傷がある分、ユピテルモンの方が不利だった。

 

「ぐ……」

「ァァァァッァァ!」

 

 苦しそうに叫ぶ。ユピテルモンも、竜も。

 幸いにして、穴はこの竜の巨大さによって大半が塞がれてしまっている。小さなデジモンはともかくとして、ロイヤルナイツほどの大きさのデジモンが出てこられそうな隙間はない。

 

「ぉおおおおお!」

 

 負けてたまるか。その意思でユピテルモンは竜を押し返す。竜はまるで穴に吸い込まれていくかのように穴へと戻っていく。

 だが――。

 

「古臭い神如きが邪魔をしてくれる。“ドラゴンズロア”!」

「なっ……ぐっ!?」

 

 ――竜と穴の隙間から飛んできたエネルギー弾を躱す術は今のユピテルモンにはなかった。

 先ほどの腹の傷の上で、このエネルギー弾。さすがのユピテルモンでも、限界だった。

 激痛を感じて力が抜ける。目の前の景色が歪む。彼が最後に見たのは赤だった。彼は自分の目の前に迫る赤に激突された。

 

「……すまない」

 

 ユピテルモンは謝罪の言葉を吐き出し、落ちていく。

 自らの姿を保つことができなくなり、アイギオモンへと戻ってしまったことを感じる。そのまま、身体の主導権が来人に移ったことを感じて――カミサマは意識を失った。

 

 

 

 

 

 一方その頃、地下ではロードナイトモンとオメガモンが睨み合っていた。

 

「我が同胞を迎えに行けなかったのは癪だが、どうやら上手くいったようだ」

「彼は失敗したのか!?」

「ふっ。愚かだ。あの古臭い神などを信用なぞするからこうなるのだ!」

 

 勝ち誇ったように告げるロードナイトモンに、オメガモンは苦々しい顔をする。

 

「っ。待て!」

「反逆者の始末はまた今度だ」

 

 オメガモンの静止の声も聞かず、ロードナイトモンはユピテルモンが開けた穴を通ってどこかへと消えた。みすみす逃してしまった事実に、アミたちは苦い顔をする。

 そして、その直後のことだった。

 

「えっ!?」

「停電!?」

 

 明かりが消えた。

 真っ暗になった視界にアミたちは一瞬だけ驚いて――すぐさま思い出した。自分たちの計画にはこれがあったのだ、と。

 東京中の電源を落とすことで、エネルギーの流れを中断させ、あの穴の発生を止める方法だ。とはいえ、少し遅かったか。

 

『悪い、間に合わなかった』

 

 明かりが戻って、電源を落とす係だったアラタが通信をしてくる。

 その顔は申し訳なさそうだった。

 

「いや……ユピテルモンと君のおかげで最悪の事態だけは免れた。ロイヤルナイツはその大半がこちらの世界に来てしまったようだが……それでも最悪ではない。気にすることはない」

「だって、さ! オメガモンもこういってるんだし、ダイジョーブ!」

 

 オメガモンの言った通りだった。

 もしユピテルモンが穴を閉じるために奮闘していなかったのならば、ロイヤルナイツたちだけではなく、もっと多くのデジモンたちがこちらへと来てしまったことだろう。

 さらに、次元の扉を最後に閉じたのはアラタだ。その功績は言うまでもないことだった。

 

『……だといーがな』

 

 だが、そんなノキアたちの励ましも届かず、暗い顔のままアラタは通信を切った。そこには遣る瀬無さだけがあった。

 

「……とにかく、今は――」

 

 アラタのことは気になる。が、今は他にやることがある。

 そう言って、アミは駆け出す――のだが、その足は直ぐに止まった。ユピテルモンが先ほど開けた穴から何かが落ちてきたのだ。

 

「っ!?」

 

 全員がその何かに驚きつつも、その何かをジッと見る。

 土煙でよく見えないが、人型。まさか、ロイヤルナイツだろうか。もう来たのだろうか。

 誰もがそんな心配と共に、息を呑んで、その“何か”から“誰か”に変わった存在を見る。

 

「いや、あれは……」

 

 オメガモンが言う。ロイヤルナイツではない、と。

 では、一体誰だ。そう感じた面々の前で、土煙が晴れていく。そこにいたのは――。

 

「う……」

 

 ――気絶した来人だった。

 

「来人っ!?」

 

 半ば悲鳴のような声を上げて、アミが駆け寄る。

 見た感じ傷はない。が、どこからかはわからないが、相当な速度で落ちてきたのだ。見た目にないだけで、もしかしたらあるのかもしれない。

 そんな中で彼女にできるのは、彼を呼ぶことだけだった。

 

「ちょ、大丈夫!?」

「来人! 来人!」

 

 アミとノキアが来人を呼ぶ。

 その甲斐があったのか。

 

「聞こえてるって……」

 

 すぐに来人は目を覚ました。

 

「悪い、止められなかった」

「いや、それはしょうがないよ。来人は大丈夫なの?」

「……? 来……あ、ああ。俺“は”大丈夫だ。カミサマが助けてくれたからな……」

 

 そう。主導権が移った後の来人も背負うはずだった傷と疲労、それらすべてをカミサマは引き受けた。だから、来人は無傷でこの場にいられる。

 もっとも、その代償として今のカミサマは気を失っていた。

 

「とにかく! 今は外も大変なことになってるかもしれない。すぐに目的を達してこの場を離れた方がいいだろ」

「そうだね! 悠子っち!」

「そうや! 悠子はん!」

 

 来人の言葉に頷いて、ノキアとフェイは悠子の下へと走り出す。

 悠子のことを彼女たちに任せて、アミは心配そうに来人を見ていた。今、彼女は来人の姿に言い知れぬ不安を感じていた。

 

「……? 俺たちも行こうぜ。ついでにアンドロモンを呼んだ方がいいかもしれない。あの機械、無理矢理に外していいかわからないしな」

「そ、そうだね……」

 

 立ち上がって、来人とアミも歩き出す。

 見れば、ノキアとフェイが悠子を捕らえる機械を外そうと四苦八苦していた。

 

「こんのぉおおお!」

「待ち! 乱暴に外してどうなるんや!」

「でも……!」

 

 誰もが、ひとまずの事態はもう終わったものだと安堵していて――だからだろうか。この場の誰もが油断してしまっていたのは。

 

「っ! 危ないっ!」

 

 叫んだのはオメガモンだった。

 その鬼気迫る様子に誰もが唖然としていた。その隙に、“それ”は来る。

 

「っ!?」

「イーター!?」

 

 初めからいたのか、それとも今来たのか。ここが研究施設でデジタルウェイブの中心点としてあったからか、それとも別に理由があるのか。何か理由があるのか、それとも理由などないのか。

 現れたイーターは、他には目もくれずに悠子に取り付いて――。

 

「……な」

「え?」

 

 ――唖然とする面々の前で、いつかのように姿を変えた。

 まるで蜘蛛のような形に、その上部に悠子を捉えている。悠子という女性と融合したそのイーターは、神話の女性のようで、昔話の女郎蜘蛛のようで、それに負けず劣らずの怪物だった。

 

「はは……どうしてこう……一転二転するんだかね」

 

 来人の呟きだけが、辺りに響く。

 事態はまだ終わっていなかった。

 




というわけで、第四十七話。

まあ、大まかな予想付いたかもしれませんが、結局は原作通りになりました。
ついでに、カミサマは一時退場です。
カミサマの腹に穴を開けた黒い神。一体誰なんでしょうか……!?

ともあれ、まだ事態は終わってません。
次回は悠子救出篇です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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