【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
現れたイーターを仮にイーター・イブと名づけたとしよう。
そんなイーター・イブの視線は来人たちを捉えて離さない。どうやら、やる気のようだった。
「このっ汚物がぁ! 悠子はんから離れろぉおお!」
激情のままに叫び声を上げたフェアがタイガーヴェスパモンを呼び出し、イーター・イブを攻撃する。
タイガーヴェスパモンはその手のビームサーベルを使って、イーター・イブを十字に切り裂く。その攻撃はイーター・イブの足に深々と傷を付けた。
「――!」
堪らず、イーター・イブが悲鳴のようなものを上げる。
それを見たタイガーヴェスパモンは、さらに果敢に攻め立てていく。
その光景を、アミたちもただ見ているだけではなかった。
「みんなっ!」
「オメガモン!」
ノキアがオメガモンに頼み、アミがアンドロモンとリリモンを出す。来人もそこに加われば、戦力は究極体が二体に完全体が二体で成熟期が一体。十分すぎるものだった。
イーター・イブは今までのどのイーターよりも強かった。その動きも、元のイーターと比べれば何もかもが桁違いのスペックだろう。だが、それはあくまでイーターと比べてのこと。
いくら甘く判断しても、そのスペックは完全体相当。間違っても究極体に届くようなものではない。この場で最も強いだろうオメガモンを比較対象にすれば、比べるのもおこがましいレベルだ。
「っ……!」
だが、それだけの戦力差があっても、アミたちは苦戦していた。軽く倒せるような相手に――いや、軽く倒せるような相手だからこそ。
倒すだけならば、即座にできるだろう。特にこちらにはオメガモンがいるのだ。瞬殺できる。
だが、問題は――。
「ちょっと! コイツ離れないわよ! このまま倒しちゃって……悠子っちは大丈夫なの!?」
「そんなんわっちに聞かれても! 悠子はん!」
――問題は、悠子がイーターに取り付かれたままだということだった。
イーター・イブを倒すことで悠子が解放される話だったのならば、さっさと倒せばいい。それだけの、単純明快な話だ。
だが、そんな単純な話でなかったのならば。このイーター・イブを倒した時、悠子ごと倒してしまったのならば――その時、彼女はどうなるのか。
その最悪の想像が、この場の全員の足を止まらせていた。
「……」
どうすればいい。
この場の誰もが考える。だが、考えても考えても、混乱と焦りのある頭では、解決策は思いつかなくて。
「……! イーターはデジタルの存在……なら?」
だが、そんな時のことだった。
まるで天啓のように、アミはハッと閃く。そのまま彼女は思いついたひらめきを実行するべく、イーター・イブの下へと駆け出して――。
「――!」
「きゃっ!」
――イーター・イブの攻撃に襲われた。
「ばっ! 死にたいのか!」
来人が助けてくれなければ、大怪我をしてしまっていただろう。いや、もっと酷いことになっていたかもしれない。
何考えてるんだ。そんな意思の込められた来人の睨みに、されどアミは力強く返した。悠子を助けようとした、と。自分の力があれば助けられるかもしれない、と。
「力……コネクトジャンプか。けどなぁ! のこのこ前に出てくなんて……カモネギか!」
「っでも!」
来人の言っていることはアミにもわかる。
だが、彼女とて引く気はなかった。友達を助けるための最良の一手になるかもしれないのだ。そう思えば、多少の危険など省みている場合ではなかった。
「ったく……俺たちが動きを止める」
「え?」
「少しは信用しろ」
呆れたような、それでいて不機嫌そうな来人に告げられたその言葉。
それを前にし、アミは一瞬押し黙って――。
「お願い、来人……!」
――そして、ただ頼む。
「任せろ」
そんな彼女の絞り出したかのような声に、来人は答える。
答えながら、来人は考える。やるべきことは、イーターの動きを止めること。それにはイーター・イブを抑えるための身体が必要だ、と。
カミサマの本来の姿であるユピテルモンへと進化できれば早い。だが、この身体が元々カミサマのものだからだろうか。来人にはいくらこの身体を使いこなせるようになっても、そこにたどり着ける気がしなかった。
「……」
いや、彼は心のどこかで理解していたのかもしれない。そこにたどり着いてしまってはいけないのだということに。もしそこにたどり着いてしまえば、取り返しのつかないことになってしまうだろうことに。
きっと、持ち前の勘で無意識的にでも気づいていたのだ。
「あれも無理。これも無理。なら――」
ともあれ、どう足掻いても、結局はアイギオテュースモン止まり。カミサマがいれば別なのだろうが、今カミサマは意識不明。結局、アイギオテュースモンでどうにかしなくてはならない。
だが、その基本形態も、ブルーも、ダークですら、イーター・イブを止めるには向かない。であれば。
「……
であれば、それ以外のものを使えばいい。
不自然なほどごく自然に、彼は今までその存在も知らなかった姿を思い起こし、選択する。幸いにして、環境という条件は整っている。
来人は近くにいる
「さて……行くか」
そして、来人は進化する。
アイギオモンから、“アイギオテュースモン:グリーン”へと。アイギオテュースモンをベースとして、その上半身や両腕に植物の力を宿す。その姿はまさしく、
「来人の姿が……!」
唖然としているアミの前で、来人は駆け出す。
「アミが何か手があるらしい! 俺はイーターの動きを止める! 他のみんなは気をつけてくれ!」
今までにないほど身体が軽い。感じながら、来人は縦横無尽に駆ける。
その動きは、今までのどの形態にもないほど軽快で俊敏なものだった。
「はぁっ!」
来人の両腕のバスターから出たイバラのツルが、イーター・イブの足へと引っかかる。そのまま、来人はイバラを収縮させ――まるでロープアクションのように、彼はイーター・イブへと接近する。
「――!」
「くらうかっ!」
再び出したイバラを、今度は奥に置き去りにされたままの機械に引っ掛ける。そこを起点にして、そのまま壁を走りながら、イーター・イブの追跡を躱す。躱しながら、部屋の中を縦横無尽に動き回る。
イーター・イブは気づかなかった。すでに自分が罠に嵌っていることに。
「これで終わりだ」
来人がそう言った時、すでに遅かった。
縦横無尽に動き回った結果、イーター・イブの周りにはまるで蜘蛛の巣のようにイバラが張り巡らされていて――それは、来人の合図で収縮する。
「――!」
「……蜘蛛の巣に囚われる蜘蛛、みたいだな」
そして、その一瞬後。イバラから逃れようとしているイーター・イブという構図の完成だった。
「ほら、いつまでも抑えられそうにないから……さっさと行って来い」
「……うん! ありがとう!」
来人に礼を言いつつ、中で何かあってはいけないと、来人以外のデジモンたちをすべてデジヴァイスに戻し、アミは駆け出す。
そんなアミの姿を、この場の誰もが祈るような気持ちで見ていて――。
「待ってください」
――そんなアミに、タイガーヴェスパモンが静止の声を上げた。
「タイガーヴェスパモン?」
「私も行きます。フェイの代わりに」
タイガーヴェスパモンは覚悟を決めたような眼差しでアミを見つめ、そう言った――のだが、驚いたのはフェイの方である。
「っ!? タイガーヴェスパモン!? わっちはそんな命令してまへん! なんでプログラムがこんな……!」
フェイにとって、未だデジモンとはプログラムだった。
今回のロイヤルナイツの件ですら、実際は半信半疑であったし、そもそも悠子救出を前にしてどうでもいいと考えている節さえあった。
だから、勝手に行動するタイガーヴェスパモンに混乱してしまった。
「わかった」
とはいえ、だ。フェイの混乱など、アミにはどうでもいいこと。
アミにとっては早急に動くことの方が重要だった。
「……もうなんでもいい。お願いや。アミはん……タイガーヴェスパモン……どんなインチキでもデタラメでもいい。悠子はんを助けておくれやす!」
「うん! 任せて!」
「はい! ……大丈夫です。フェイ。必ず悠子を助けてきます」
祈るようなフェイの前で、アミはタイガーヴェスパモンを連れてイーター・イブの中へとコネクトジャンプする。
彼女たちの姿が歪んで――一瞬後、彼女たちはイーター・イブの中へと消えた。
「信じようよ。アミと……貴女のデジモンをね?」
「デジモンを……信じる……タイガーヴェスパモン、悠子はん……」
ノキアとフェイの呟きだけが、静かになった辺りに響く。
そんな彼女たちの一方で――。
「ここが……イーターの中?」
――アミはタイガーヴェスパモンと共にイーター・イブの中にいた。
真っ暗ながら、それでいて道が見える。そう。そこは、まさしく悠子へと続く心の道だった。
『今までやってきたこと……全部無駄だった。嘘だった。偽りだった……』
どこからともなく、声が聞こえてくる。
『何もかも徒労に終わるのなら……誰も残らないのなら……いっそ……』
いっそ、何だというのか。
聞こえてくる声に耳を傾けながら、アミは道を往く。
『八年前……兄がEDEN症候群に倒れて……父も死んで……いくら声を上げても、私に声をかけてくれる人はいない。私は一人……』
「そんなことない!」
堪らず、アミは声を張り上げる。悠子に届くかどうかなど関係なく、ただ声を上げる。そうしなければ、聞こえてくる感情の声にアミの方がおかしくなりそうだった。
『何もかも失って……あの人が現れた。リエさん……彼女は言った。家族を失わない方法があると……ユーゴとしてハッカーたちを纏めれば、EDENを守ることになると』
「……」
『一人ぼっちは嫌だった。自分を無くしても、一人でなくなるなら……家族と繋がっていられるなら……でも! 全部仕組まれていた……ザクソンの皆だって私について来たんじゃない。私がEDENを守ってたわけじゃない……すべてリエさんの力……私は何もしていない……!』
聞いている方が苦しくなるほどの心の吐露だった。
アミも負けじと進むが、感じる苦しみに足が止まりそうになる。
「大丈夫ですか?」
「タイガーヴェスパモン……大丈夫」
その度、タイガーヴェスパモンに支えてもらいながら先へと進む。
『寂しい
「違う……!」
『みじめな
「違う……!」
『哀れな
続きに続く、自責のような言葉の数々にアミは耐えられない。
耳を塞ぎたくなる。必死に否定の声を張り上げても、それを上回る言葉が続く。まるで無間地獄のようで――。
「違いますよ」
――アミ以上に静かに、それでいて力強く。悠子の言葉を否定したのは、タイガーヴェスパモンだった。
「貴女は決して一人ではない」
『……』
「貴女がフェイと私と出会ってくれたから、私たちは一人じゃなくなった。貴女が私たちに居場所をくれた。私はフェイの下に。フェイは貴女の下に。思い出してください。今も昔も、貴女のそばには誰かがいた」
『……』
「何度でも言います。貴女は一人じゃない」
それを最後、声が聞こえなくなる。
不気味なほど、されど暖かさを持った沈黙が辺りを包む。
「行きましょう」
「……そうだね!」
アミはタイガーヴェスパモンと共に進む。
もし自分一人でこの場に来たのならば、自分は悠子を助けられなかったかもしれない。そんなことを思いながら。
道が終わる。まるで湖の底のような、そんな場所へとたどり着く。そこには、座り込んだ悠子がいた。
「悠子!」
「アミ……さん……!」
アミとタイガーヴェスパモンの姿を視界に収めながら、悠子は思い出す。
幼い頃、父が言っていた言葉を。“パパが作るEDENでは、一人ぼっちになる人なんていない。例え遠く離れていても、誰かが一人で泣いていたらすぐに手を差し伸べられる”。
今なら、その本当の意味がわかった気がする。悠子はただただそう思った。
「私……いてもいいですか? みんなの隣に……あの世界に……! いっぱい間違えた私が……!」
「もちろんだよ! 私もノキアもアラタも……フェイだって。みんないる!」
「……ありがとうございます。私の友達を連れて来てくれて……手を差し伸べてくれて……」
「だって、友達だもん! さぁ、帰ろう!」
「……! はいっ!」
世界が崩れる。
アミの伸ばした手を、悠子はしっかりと握って――直後、世界が弾けた。
気がつけば、アミと悠子は元の地下施設にいた。
「悠子はん!」
「アミ! 悠子っち!」
駆け寄ってくるノキアとフェイ。
そんな二人の姿にアミは苦笑する。
「よかった……よかった! ほんま……悠子はんが無事で……!」
「フェイ……ありがとう。私の友達でいてくれて」
「っ! 当たり前や! わっちはずっと……悠子はんの友達や……!」
涙ながらに再会する悠子とフェイに、この場の誰もが暖かな視線を向ける。
まさに感動の再会で――そんな雰囲気の中で、ノキアだけがニヤニヤとした下衆な顔をフェイに向けていた。
「あっれぇー? いいのかなー?」
「な、なんや……?」
「ぐふふ……オトモダチ? そんなんでええんかのー? ぐふふ。本当はもっとそれ以上の……狙ってるんじゃないのー?」
「あ、このブッサイク……! ゆゆ、ゆ悠子はんの前で何を言うんや!?」
「あれれー? 何を想像したのかなー? ぐふふっふっふ……」
「どこのエロオヤジや……!」
ノキアはまさしく獲物を狙う目でフェイをからかう。そこには、無意識的にでも今までの分の鬱憤を晴らそうとしていたのかもしれない。
「ノキアさん、フェイはそんなことを考える人ではありませんし、彼女は私の一番の友達ですよ」
「悠子っち……」
「な、なんでそんな目で見られるんです……?」
思わず哀れみを込めた目で悠子を見てしまったノキアである。
そんな彼女たちの一方で、フェイは――。
「まぁ、いいことあるさ」
「なんや!」
――まるで同類を哀れむかのような目をした来人に肩を叩かれていた。
未だ大筋の事態は何も解決していない。だが、せめてこれくらいはいいだろう。この時間は、そんなひと時の休息だった。
「……アミ?」
だが、このひと時に休む彼らは気づかなかった。
いつの間にか、この場からアミがいなくなっていたことに。
というわけで、第四十八話。
まあ、この話は前回の話の蛇足的話ですね。はい、実にあっさりとした話でした。
せっかく登場したアイギオテュースモン:グリーンですが、この話での出番はこれだけです。
ほぼほぼ原作通りですね。申し訳ないです。
ともあれ、これにてこの物語の一部に相当する部分が終了。
次回からはいよいよ二部に相当する部分が始まります。
ちなみに次回からは、原作主人公のいない空白の一週間の間の主人公の話です。
それでは次回もよろしくお願いします。