【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第五十話~思いがけない再会~

 謎のマンションから抜け出した来人。

 イーターもいなければ、アミも見つからない。手詰まりなのはいつものことだったが、こうも何もないとかえって暇に感じる。

 来人はベンチに座ってぼんやりと空を見上げていた。

 

「おっ……鳥が飛んでる」

 

 気持ち良さそうに空を飛ぶ鳥たち――に、並行するように飛ぶ鳥型デジモンが見える。

 自分たちよりも遥かに巨大な大きさの鳥に驚いたのだろう。鳥たちは慌てている。何と言うか、見ていて可哀想になる光景だ。

 そんな光景を眺めながら、少し休憩とばかりに、来人はぼんやりとして過ごす。

 そんな彼をじーっと見つめるのは、一人の少女だった。

 

「……何か用か?」

 

 さすがに数分も見られ続ければ、自分に何か用があるのだと気づく。来人はどこかで見たことのあるようなその少女に話しかけた。

 

「っ……あの……その……もしかして……らいとお兄ちゃん?」

 

 不安そうな顔で、少女は来人にそう聞いてくる。

 

「……?」

 

 らいとお兄ちゃん。その単語には聞き覚えがある。

 あれはいつだったか。来人は記憶を手繰って――思い出した。遠い昔のように感じるいつか。あの浅草の一件の時にそう呼ばれたような気がする、と。

 見れば、少女にも見覚えがある。あの時の少女だろうか。

 

「お前……浅草の時の?」

「……!」

 

 来人のその言葉に、パァっと少女の顔に笑顔の花が咲いた。来人が自分のことを覚えていてくれたことがよほど嬉しかったのだろう。

 その嬉しそうな雰囲気のままに、彼女は来人の座っているベンチに座った。

 

「わ、わたし……ひなって言うの!」

 

 笑顔のまま、ひなは自分の名前を告げる。

 そういえば自己紹介をしていなかったな。記憶を手繰って、来人は思い出した。

 

「ひな……ね。知っていると思うが俺はア――」

「らいとお兄ちゃん!」

 

 何が嬉しいのだろうか。

 思わず来人がそう思ってしまうほど、ひなは来人の名前を嬉しそうに言った。そんな彼女の姿を前に、来人の息は一瞬止まる。

 

「……らいと? いや、ああ、そうだ。来人だ。そのはず……だ。それでひなは俺に何か用があるのか?」

 

 だが、すぐの違和感と共に復帰した。

 少しの奇妙な違和感を覚えながらも、来人はひなに目を向ける。一方で、本来の用事を思い出したのか、ひなは表情を暗くした。

 一体何だというのか。来人は疑問に首を傾げる。

 

「うん、らいとお兄ちゃんにお礼を言いたくて……あと聞きたいこともあって……()()()会えるかなって、探してたの」

「……俺を?」

 

 来人の言葉に、ひなは頷く。

 どうやら用件は一つだけではないらしい。来人は黙って先を促した。

 

「えっと……あの時はありがとう! その、ずっとそう言いたくて……」

「……礼を言われてもな。こっちは謝らなけりゃ行けない立場だってのに」

 

 あの時、来人は彼女の両親を助けられたわけではない。

 それで礼を言われても、困ってしまうというか、逆に申し訳なく思ってしまう。うつむく来人だったが――。

 

「それでもありがとう! パパと……ママを……助けてくれて」

 

 ――それでも彼女は引かなかった。

 泣きそうな顔で、それでも来人を恨むことすらせず、彼女は来人に礼を言う。三、四歳くらいの年頃の女の子が、だ。

 強い。その姿に来人はただそう思った。

 

「まあ、礼はわかったよ。それで、聞きたいことってなんだ?」

「……それでそれで……あと、その……」

 

 来人のことを見ながら、ひなは言いにくそうに言葉を濁す。

 何か言いにくいことなのだろうか。来人は首を傾げながら、彼女の次の言葉を待つ。

 数分後、やがて決心が決まったのだろう。ひなは来人に“それ”を聞いた。

 

「怪獣さんは……悪者なの……?」

 

 来人は怪獣という言葉に一瞬だけ疑問を抱いたが、すぐにその言葉が何を指すかわかった。というよりも、今のこの状況で怪獣という言葉が何を指すかというのは、火を見るよりも明らかなことだった。

 

「うーん……デジモンは悪者かどうかか……」

「でじもん……?」

「ああ、怪獣の名前。ひなでいう人間っていうのと同じ……種族の名前だよ」

「う……? 種族……? ……?」

 

 ハテナを頭に浮かべるひなに来人は苦笑する。少し難しい話だったか、と。

 自分の言ったことを必死に飲み込もうとしているひなを暖かい目で見ながら、来人は考える。先ほどのひなの問いにどう答えるのが最善なのか。

 

「っていうか、どうして悪者だって思ったんだ?」

「……だって、みんな言ってるから……」

「みんな?」

「うん……幼稚園のみんなも先生も……テレビの中の人も……おばさんもおじさんも……みんな」

 

 悪者だと単純に言われた訳ではないだろう。

 おそらく危険だとか、そんな感じで言われたはずだ。ひなは幼いから、危険な生き物を悪者とイコールで繋いでしまったのだろう。

 少し複雑だが、来人もわからないでもなかった。突然として現れて、中には好き勝手するような者もいるのだ。デジモンがそう認識されてしまうのは仕方のないことだろう。

 

「……ま、悪いかどうかはわからないけど……人間にだって良い人も悪い人もいるだろ?」

「うん……」

「同じだよ。デジモンにも良いデジモンと悪いデジモンもいるってだけ。ただ……人間にはみんな同じに見えちゃっているだけで」

「……うーん……?」

 

 ひなはまた首を傾げて唸っている。

 少し難しすぎたか。ひなの姿を前に、来人は苦笑した。だが、彼にはこれ以上の説明はできそうにもない。

 まあ、余計な最後の一言がなければ、もっと単純でわかりやすかったのだろうが――来人はそのことに気づいていなかった。

 

「……うーん……あっ! わかった! らいとお兄ちゃんは良いでじもん! だよね?」

 

 先ほどの話で何がどうしてそういう結論になったというのか。嬉しそうにそう言うひなに、来人は一瞬だけ呆気にとられた。

 

「くく……」

「あー! なんで笑うの!」

「いや、別に?」

 

 微笑ましいひなの姿に、来人は笑う。久しぶりに笑った気がした。

 そんな来人の姿が気に食わないのか、ひなは頬をふくらませるが――そんなことをしても可愛らしいだけで、来人は余計に笑えてくるだけだった。

 

「そうだな。まあ、そうだといいな」

「そうだよ!」

 

 嬉しそうに言うひなを前に、来人も自然に笑顔となる。

 それは穏やかな時間だったし、その後も時間は穏やかに流れていく。

 嬉しそうなひなの話を来人が聞いていった。

 幼稚園でのこと。EDEN症候群に倒れた両親に変わって、おじさんとおばさんに引き取られたこと。好きなテレビや食べ物。

 内容はたわいのないことから、少し重い内容までさまざまだ。それでも、彼女は来人と一緒に話していられるだけで楽しいようだった。

 ずいぶんと懐かれたな。彼女の話を聞きながら、来人は苦笑した。

 

「……そういえば、ひなはどうして俺のことがわかったんだ?」

 

 気になったことを来人は聞く。今の彼はボロ布を纏っていて、外見から自分の姿をわからないようにしている。それでどうしてわかったのか、と。

 

「えぇと足が一緒だったから……」

 

 ひなのその言葉に、来人は自分の足を見る。そこにはアイギオモンの山羊のような足があって。わかるはずだ、と来人は納得した。

 まあ、普通は足など意識しないから問題はないのだが――その点、ひなはよく見ている。

 

「なるほどね。っと……そろそろ暗くなってきたな」

 

 ふと気づいた来人がそう言った。

 辺りは夕暮れ。すでに三、四歳の子供が一人で出歩いていていい時間帯ではない。

 そんな来人にひなは唇を尖らせる。もっと一緒にいたい。そう言いたいかのようであった。

 

「ま、また会えるさ」

「……本当?」

 

 ひなはそう言いながらも、来人からそう言いだしてくれたことが嬉しかったようだ。

 名残惜しそうにベンチを立ち、彼女は来人に向かい合う。もう少しだけ。そんな思いがそこに込められていて――来人は気づいた。

 彼女はきっと寂しいのだ、と。両親が突然いなくなって、その上この世界の変化に世間はてんやわんやだ。幼い彼女は不安に思ったことだろう。だから、誰か傍にいて欲しいのだ。安心できる誰かが。助けてくれる誰かが。

 

「……大丈夫」

 

 だからこそ、来人はそんな彼女の不安を紛らわせるかのようにそう言う。

 渋々と、彼女は動き出した。だが、往生際が悪く、その動きはゆっくりだ。

 暖かい目で、来人はそんな彼女を見て――そんな時のことだった。

 

「ひなちゃん!」

 

 安堵したかのような、鬼気迫るかのような大声。

 その声の方を見ると、そこには恰幅の良い一人の女性がいた。ひなの今の保護者なのだろう。女性は慌てて駆けてきて、ひなを抱え上げて来人から引き離した。

 まあ、見るからに怪しいボロ布を纏った不審者が自分の庇護する幼子と一緒にいるのだ。その対応は間違ってはない。

 だが。

 

「あ」

 

 次に来るだろうことが予想できて、来人は小さく呟いた。

 女性がひなを抱え上げた時、ひなが咄嗟に来人のボロ布を掴んでしまっていたのだ。それはつまり、必然的にひなが来人のボロ布を引っ張る形となって――それは、来人の姿が露になるということでもあった。

 

「ひぃいっ!」

 

 露となった来人の姿に女性が悲鳴を上げる。

 女性にとって、来人は異形のバケモノだった。今、この世界を騒がすバケモノと同じだった。未知の怪物の姿を前にして、彼女は震えていた。

 だが、それでいて取り乱さないのは、その腕の中にいるひなの存在があったからだろう。この子だけは絶対に守る。そんな意思を込めているかのように、自らの恐怖を押さえつけて来人を睨む。

 

「……はぁ」

 

 正直に言えば、来人はそんな目で見られてショックを受けなかった訳ではない。が、その感情はすぐに内心に押し込めた。表に出しても仕方のないものだ、とそう思ったのだ。

 ここはこの場を離れよう。そう思った来人はこの場を移動しようと動き出して――それは、その瞬間のことだった。

 

「見つけたァ」

 

 聞こえたのは、声。それは恋人と再会したかのような歓喜の声だった。仇敵を見つけたかのような憎悪の声だった。さまざまな感情を入り混じらせた声だった。

 ゾッと来人に悪寒が走る。勘がなくともわかった。危険だ、と。

 

「……おばさん! らいとお兄ちゃんは危険じゃないよ……!」

「何を言ってるのひなちゃん!」

 

 即座に来人は駆け出した。そのまま、何やら揉めているひなと女性を突き飛ばす。

 

「痛っ」

「いっ」

 

 いきなり突き飛ばされるとは思っていなかったのだろう。

 ひなたちは受身も取れずに、地面に激突し、声を上げた。

 

「な……?」

「えっ!?」

 

 抗議と疑問の入り混じった目で、彼女たちは来人を睨む。だが、その瞬間に彼女たちは見た。

 一瞬前まで自分たちがいた場所に、巨大な骨刀が突き刺さっているその光景を。その傍にいる、まるで神話から飛び出してきたかのような、緑色の巨人の如き鬼の姿を。

 




というわけで、年内最後の投稿の第五十話。

前回からの話に続く今回の話。
浅草デジタルシフトの時の少女、ひなの再登場回でした。
ついでに言えば、最後に新キャラですね。
はい、イリアスに関係するアイツです。

さて、次回は年明けになりますね。
ちなみに、自分の来年の抱負は、訳あってここ一ヶ月ほど中断していた執筆活動を再開させ、完結までたどり着かせる!
あと、いよいよ始まる就活を成功させる!
……この二点ですね。皆様はどうですか?

それでは皆様、よいお年を。
来年もまたよろしくお願いします!
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