【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします!


第五十一話~復讐者~

 現れた緑色の巨神、その表情にあるのは歓喜の笑み。その視線は来人を捉えて離さない。

 来人は冷や汗を垂らしていた。誰だか知らないが、自分を狙っているとわかったからだ。

 

「っ! 逃げろっ!」

 

 巻き込んではいけない。すぐさまそう思った来人は声を張り上げる。

 その声に突き動かされたかのだろう。それは本能による動きだった。すぐさまこの場にいた女性はひなを抱えて走り出して――。

 

「らいとお兄ちゃん!」

 

 ――そんな中で、ひなだけが来人の心配をしていた。

 心配のあまり、悲痛な声で叫ぶ。彼女はわかったのだ。来人が自分たちに逃げろと言った理由が。そして、あの見るからに()()()()相手に、彼はこれからどうするのかが。

 心配のあまり、彼女は来人の下へと行こうとする。だが、幼い彼女の力では自分を抱える女性の力に抗うことなどできるはずもなく――気持ちとは裏腹に、ひなは連れて行かれたのだった。

 

「お前、誰だよ。なんで俺を狙う」

 

 幸いなことに、緑色の巨神は来人だけを狙っているらしく、逃げていったひなたちには興味も持っていないらしい。それだけは幸いだったが――現状は全然幸いではなかった。

 

「今更だなァ……いや、それとも殺した輩のことなんざァ知ッたこッちャねェってかァ?」

「殺した……?」

「はッ。いいぜェ聞いとけ! 俺様はタイタモン! 憎きテメェらを滅ぼす鬼神! さァ……殺してやるよォ」

 

 タイタモンと名乗った彼は、その背丈を優に超える骨刀を引き抜き、来人に向ける。

 一体何を言っているのか、その詳しいところはさっぱりわからない。

 だが、そんな来人にもわかることがあった。

 彼がカミサマたち――すなわち、オリンポス十二神を恨んでいること。そして、自分がカミサマ本人であるかどうかなど関係なく、殺すつもりであるということを。

 

「……っち。やるしかないか!」

 

 やる気なタイタモンを相手にして、来人も構える。

 本当は進化したかったが、そもそもアイギオテュースモンは周りの環境に左右される。一つの形態を除いて、今来人の周りにアイギオテュースモンに進化に使えそうな環境が整っていない。

 つまり、進化できない。来人は舌打ちしたくなる。

 ついでに、相手。相手の成長段階を正確に測ることなどできないが、それでもこの威圧感に圧力、究極体クラスであることには間違いないだろう。

 成熟期の身で究極体を相手。しかも、とばっちりで。やってられない。

 とんだとばっちりに恨み言の一つも言いたくなった来人だったが――。

 

「はァッ!」

 

 そんな来人の前で、タイタモンは刀を振るう。

 感じた悪寒を前に、来人は屈む。

 

「っ!?」

 

 ドズン、と。轟音を立てて土煙が舞った。

 それは来人が躱したことによって、狙うべき標的を失った斬撃が代わりに切ったものが立てた音だった。

 来人はそっと後ろを見る。近くの建物が輪切りになっていた。必殺技というわけでもなく、来人が躱すことができたことから本気でもないだろう。それなのに、この威力。凄まじいばかりの威力である。

 もし動くのがもう一瞬でも遅かったのならば。そう想像すれば、背筋が寒くなる。

 

「はァ! よく躱したァ!」

「……よく言うよ。わざと躱せるように切ったくせに」

「はッ! 何でか知らねェが……弱ってるみてェだからなァ! なぶり殺してやるよォ!」

「それを見抜けるなら……俺がカミサマ本人じゃないことも見抜け!」

「嘘つくんじャねェ!」

 

 苦々しい顔をする来人の前で、タイタモンは腕を地面に叩きつけた。

 ズゥウン、と。そんな衝撃と音が辺りに響く。次いで、タイタモンの腕の籠手に敷き詰められた頭蓋骨から、黒い靄のようなものが地面に侵食する。

 一体何をしようとしているのか。来人がそんな疑問を抱いた直後――地鳴りと地響きが来る。

 

「な……? ……な?」

 

 だんだんと大きくなっていく地鳴りと地響き。

 そして、それらが極限にまで達した時――。

 

「さァ、来やがれェ! そして晴らせェ! お前たちの恨みをォ! “呼応冥神”!」

 

 ――地面が裂ける。

 裂けた地面から、次々と出てくるのは、人型や動物型などのさまざまなカタチの骸骨やゾンビ。まるで地獄とこの世が繋がってしまったかのような光景がそこにはあった。

 

「っ。反則だろ!」

 

 思わず、来人は叫んだ。

 その数は百や二百では足りない。一体一体がどれほどの強さを持つのかはわからないが、これだけの数だ。多すぎて、一体一体に構っている暇はない。

 正しく不死身と言える軍団に、来人の勝ち目はまず間違いなくなかった。

 

「くそっ!」

 

 堪らず来人は駆け出した。

 敵に背を向けるなど危険でしかないが、来人の勘は大丈夫だと言っていた。

 事実、今のタイタモンは来人を狩ることに悦びを見出している。背を向けた相手に攻撃して、終わらせるなどという興ざめなことはしないだろう。

 

「おォ! 逃げろ逃げろォ。鬼ごっこの始まりだァ!」

 

 その瞬間、不死身の軍団が来人めがけて動き出す。

 周りの建物をうまく使ってそれらを躱していく来人だったが、やはり数が多いというのは脅威だった。

 まあ、この光景を見た人間たちが片っ端から逃げて行っていて、気にしなくていいことだけは不幸中の幸いだったかもしれないが。

 

「はっ……はっ……」

 

 走る。どうしようもなく、ただ走る。

 それでも、不死身の軍団は追ってくる。上から、下から、前から、右から、左から、後ろから。それぞれ数十を超える数が襲い来る。

 

「くそっ!」

 

 前方にいる不死身の軍団の一体の頭を踏みつけ、跳躍。

 そのまま軍団を足場として踏みつけながら、包囲網の突破を試みる――。

 

「げっ!」

 

 ――が、やはり数が多すぎた。

 踏みつけられながらも、冷静に来人の足を掴む者がいたらしい。来人は足を掴まれて、勢いよく地面に引きずり落とされる。

 

「がっ……」

 

 地面に叩きつけられて苦しげに吐き出された息に、ホワイトアウトする視界。

 すぐさま状況を確認すれば、数百の数の不死身の軍団が自分めがけて攻撃しようとしているという、絶望的な光景で――。

 

「っち!」

 

 ――来人は動き出す。

 勢いよく動き、未だ足を掴むゾンビを引き剥がす。その勢いを保持したまま繰り出した蹴りで、近くにいた適当なゾンビを蹴り飛ばした。

 

「はぁっ!」

 

 一体一体を確認することなどない。倒したかどうかも確認しない。

 ただ、近づいていくる敵だけに攻撃する。いつ尽きるともわからぬほどの数相手に、そんな戦い方は無謀でしかなかったが――今の来人にはそれしかできなかった。

 一向に減らないように感じる敵の数に辟易しながらも、来人はただ暴れ続ける。

 

「ぜぇ……ぜぇ……はぁ……はぁ……」

 

 右腕を振るう。左腕を振るう。右足を繰り出す。左足を繰り出す。

 そんな単純な行為を、何百回続けただろうか。まるで不死身であるかのように、やはり敵の数は減っていない。体力だけが無駄に消費されていく。

 

「ぜぇ……は……ぜ……」

 

 身体の動きが鈍くなっていく。体力の限界が近づいて、目の前が暗くなっていく。

 繰り出した右の拳は、一体の人型の骨の手に受け止められた。

 

「……!」

 

 気づいた来人がすぐに振りほどこうとしても、彼にそれができるだけの体力は残っていなかった。それは彼の抵抗が終わったことを意味していて――そこから始まるのは、絶望的なまでの蹂躙劇だ。

 

「――――!」

 

 軍団のうちの一体がまるで憎しみのような、恨みのような、感情という名の奇声を発して、その直後のことだ。まるで、その音が伝播したかのように軍団が蠢く。

 直後、不死身の軍団は来人めがけて殺到した。 

 

「はッ。それがソイツが感じた憎しみと苦しみ、嘆きと怒りだァ! 自分の身から出た錆に嘆き絶望し、そして死ねェ!」

 

 遠くでタイタモンが声を上げる。

 そんな彼の声は、その瞬間を今か今かと待ち望んでいるかのような声だった。

 だが、そんな彼の声も、極限まで体力をすり減らした来人には雑音にしか聞こえなかった。今の来人には、ただ目の前に蠢く何かだけしか見えていなかったのだ。

 来人だけだったのならば、この絶望的な状況から生還することなどできないだろう。

 

「“ガルルキャノン”!」

 

 そう。来人だけだったのならば。

 凛とした声が響くのと同時に軍団の下へと飛んできたのは、氷の砲撃。それは寸分違わずに軍団に直撃し、氷漬けにした。

 もちろん、来人だけはうまく氷漬けの範囲から逃している――だが、「……くそ」と呟いて、来人はそのまま倒れた。

 

「っち。新しいだけが取り柄の犬っころか」

 

 忌々しげにタイタモンが呟く。

 その視線の先には、白い騎士――オメガモンがいた。隣にはノキアもいる。

 彼らがここにいるのは暴れに暴れる謎の軍団のことを聞きつけ、ロイヤルナイツが関連しているのではないかと考えたからである。

 まあ、ロイヤルナイツは全くと言っていいほど関係していなかったのだが、ともあれ、そのおかげで来人は助かった。

 

「でしゃばりがすぎるぜ。犬っころ! イリアスの問題に首を突っ込んでくるとかなァ」

「イリアスのデジモンか。確かに、私個人としてもイリアスの問題に関わる気はない。だが、お前が狙っているそのデジモンは私やノキアの仲間だ。みすみす殺させるわけにはいかない!」

「そうよ! その子はアミのデジモン……うぅん、トモダチなんだからね! この人間とデジモンの絆の伝道師ノキア様がそんなこたーさせないわ!」 

「はッ。甘っちょろい理想と綺麗事だけの傲慢な連中が何を言う」

 

 ノキアとオメガモンの言い分を嘲笑うかのように、タイタモンは吐き捨てる。

 

「いいかァ。ソイツらオリンポス十二神に対する俺様たちの憎しみはなァ! こんなもんじゃねェ! イグドラシルの犬如きが邪魔すんじャねェ!」

「どうしてもというのなら……」

「はッ。端からその気だろうがァ!」

 

 オメガモンがグレイソードを構え、タイタモンがその骨刀を構える。

 否応なしに、場が冷たくなっていく。圧倒的な力を誇る強者の放つ特有の圧力同士がぶつかり合い、空間を軋ませていく。

 ノキアは世界が悲鳴を上げているような錯覚をして――。

 

「やめだやめだ」

 

 ――直後、そんな空気は霧散した。

 引いたのはタイタモンの方だ。

 

「テメェら犬っころとやり合う義理も理由もねェ。いずれはアイツらを相手取らなきャなんねェのに、テメェらを相手取る必要もねェ」

 

 タイタモンはオメガモンに背を向けた。

 タイタモンにとって復讐対象であるオリンポス十二神たちは命懸けで戦わないといけない相手である。それと同等クラスの力を持つオメガモンたちロイヤルナイツまで相手取る。そんなリスクを犯すのは、いくらなんでも望まない。

 タイタモンはそう言っているのだ。 

 無論、戦わないのならば、それに越したことはない。去っていくタイタモンを、オメガモンはただ見送って――。

 

「大丈夫か!?」

 

 ――タイタモンの姿が見えなくなると同時に、ノキアとオメガモンは倒れたままの来人に駆け寄った。

 




というわけで、新年第一回目の第五十一話。

復讐者ことタイタモンの登場、とばっちりを受けた上で敗北した主人公のお話でした。
この主人公、やたらと気絶しますね。
ちなみに、タイタモンは結構設定に近い感じです。

さて、原作の空白の一週間のうち、この話の日が六日目ということは……次回はそういうことですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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