【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
それは、タイタモンの襲撃から一日経った日のこと――。
「……はっ」
――暮海探偵事務所にて、来人は目を覚ました。
ちなみに言えば、彼がここにいるのはノキアたちが運んできたからだった。
「あ! よかった! 目が覚めたんだね!」
そして、そんな来人のことを迎えたのは、行方不明になっていたはずのアミで。
「……夢を見てるのか?」
思わず来人がそう呟いてしまったのも、仕方のないことだろう。
当然のことながら、夢などではない。アミは先ほど戻って来たのだ。
「一体どうなってるんだよ? ってか、お前どこに行ってたんだ! 次から次にホイホイとどっかに行って……本当に反省してるのか!?」
「う……ごめん」
謝りながら、アミは自分の身に起きたことを思い出す。
先ほど、アラタたちにも話したことと同様のことを来人にも話し始めた。
悠子を助けた後、どこかのネットワーク上の特殊な領域とやらに連れて行かれたこと。そこでEDEN症候群にかかっているはずの悠子の兄である勇吾と出会って話をしたこと。そして、誰かに迎えに来てもらって、ここへと戻ってこられたこと。
どれもこれも、信じられないような内容のことばかりだった。
「……ってことは、本当に一週間この世界にいなかったのか」
「そうみたいだね……」
話を聞きながら、最後の迎えに来てもらった“誰か”というのが、来人には気になった。実を言えば、それが誰であるか、彼には予想がついている。
だが、彼女がどうやってアミを助け出せたのか、その方法だけがわからない。
「……来人?」
「何でもない。ったく、お前は心配させてくれるな」
「それはこっちのセリフだよ。帰ってきてみれば一週間経ってるし、何でか知らないけど来人は倒れてるし……」
そこまでアミの話を聞いて、来人は首を傾げた。自分が気絶した理由をノキアから聞いていないのか、と。
「え? ああ、聞いてないよ。もしかして、何かあったの?」
ちなみに、ノキアは言わなかったのではなく、単に忘れていただけである。
「いや……ちょっとぶっ倒れただけだ」
「それ、ちょっとじゃないよね? 大丈夫なの?」
「大丈夫に決まってるだろ」などと言いながら、来人は本当のことを話さなかった。アミを危険に巻き込まないように、心配をかけないように。
「ま、ぶっ倒れたことはともかく……アミはノキアたちには会ったのか?」
「うん。っていうか、さっきまでここにいたよ?」
「……マジか」
アミは話しだした。先ほどまでここで起こったことを。
悠子にお礼を言われたこと。ノキアがツンデレ的な対応をした悠子をからかったこと。知り合いの刑事が来てアラタが今回の件の主犯として指名手配されることを告げたこと。アラタはそれを受け入れずに逃亡したこと。残されたアミたちは自分たちに出来ることをすることにしたこと。
来人の眠っている間に、事態は急激に動いていた。
「……最初の二ついるか?」
「え?」
「いや、いい。で、そうか。アラタは逃げたか……」
アラタとはそう長い付き合いではない。が、それでも彼が何を考えているのか、来人にもわかった。
アラタが一人指名手配され、世間の目を集めているおかげで、アミたちは自由に動ける。それで事件の解決をしろ、ついでに自分の冤罪も晴らせ――正確には違うかもしれないが、概ねこんな感じだろう。来人はそう考えた。
「そういえば、アラタが言ってたよ。電源落とす時にアケミさん……ああ、末堂アケミっていうイーターのことを研究している科学者に会ったって」
「……なんだって?」
「なんかよくわからないけど、邪魔しに来たみたい。でも、デジモン・キャプチャーを作ったのがあの人で……広めたのもあの人。可能性が見たいとかなんとか……」
「可能性、ね」
アミも来人も、アケミの言っていたことが気になる。
末堂アケミ。デジモン・キャプチャーの生みの親。今はイーターの研究をしていて、可能性を求める人。そのためにロードナイトモンに協力してすらいたらしい人。
だが、接触した張本人であるアラタ曰く、邪魔するために適当に興味を引くことを言ってただけだ、とのことだった。
「何とも言えないな……ノキアはパニックになっているデジモンたちを助けるために動き出したんだっけ?」
「そう。悠子は岸部リエ……ロードナイトモンの行方を追うって」
「で、アミはいつも通り探偵家業か」
来人の言葉に、アミは頷いた。本来の主が座っていない机を寂しそうに見つめながら。
この探偵事務所の本来の主のことは、来人には何とも言えない。「ま、俺たちもいるんだ。無理はすんな」と励ますことだけが、来人にできる精一杯だった。
「……うん」
微笑みながら、アミは頷く。
が、それは少し無理をしているような笑顔で――来人は苛立った。ゆっくりと立ち、軽く拳を振るう。まあ、少し小突くだけだが。
「痛っ」
アミは唸った。予想以上に痛かったのか、目の端に涙を貯めている。涙目のまま、彼女は抗議の視線を向けて――。
「……」
――そんな彼女の抗議の視線を受けても、来人は不機嫌そうに何も言わなかった。そんな彼の姿は、まるで拗ねているようで。
「ぷっ」
思わず、笑う。
そんな来人の姿がアミには可笑しかった。
「……何だよ?」
「なんでもないよー」
先ほどとは違って、アミは心からの笑みを浮かべる。
釈然としないところもあるが、来人は無理矢理に自分を抑えた。まあ、結果オーライか、と。
そして、ナイスタイミングと言うべきか。アミの復調と時を同じくして――。
「おーい、いるかぁ!」
――この探偵事務所に客が訪れた。
入ってきたのは、婦警の格好をした女性。アミも何度か会ったことのあるその人は、伊達真希子だ。
「あー? オマエだけか? あのうさんくせぇ女が行方不明だってマジだったってのな」
もちろん、彼女は悪気があってこう言ったわけではない。
少しだけアミの顔が険しくなったことには、この場の全員が気づいた。
「っち。そんな辛気くせぇ顔すんなよ。ほら! ツレーだろうが、しょげずに前見てなきゃなんねぇだろうが! あの不気味な女のこった。そのうちフラッと戻ってくるさ」
というか、彼女は一応励ましているつもりらしい。
その不器用な優しさに、アミも来人も苦笑した。
「しっかし……オマエ一人か……参ったな……」
「依頼ですか?」
「あ? あぁ、そうだよ。ま、オマエでいいか。よく見りゃ後ろにも訳アリっぽいのいるしな」
「後ろ……?」
真希子の言葉に、アミは後ろを振り向く。
そこにはいつの間にそうしたのか、ボロ布を纏ってデジモンであることを隠した来人がいた。
「……何してるの?」
「気にするな。ここ数日の俺のスタイルだ」
「……」
はっきり言って、怪しい。
どうしてそんなことになっているのか、事情を知らないアミは気になって仕方がない。が、先に真希子の方が重要だと思ったのだろう。
アミは真希子に向き合った。
「あ、いいか? 実は訳アリを拾っちまってな」
「訳アリ……?」
訳アリというその言葉に、アミは疑問に首を傾げながら想像する。一体どういうものが来るのか、と。
「ね~……も~い~い?」
そんなアミの疑問に答えるかのように、扉の向こうから聞こえてくる声。それは何と言うか、モフモフな声だった。
「あ、あぁ、いいぞ。入ってこい」
多少戸惑ったかのような、そんな複雑な感情を込めて真希子が言って――扉が開いた。
入ってきたのは――。
「……わ~い! ぼく、ロップモン! よろしく~」
――入ってきたのは、ロップモンと名乗ったデジモンだった。
大きな耳が特徴の茶色のデジモンだ。どことなくテリアモンに似ている、というか、テリアモンに瓜二つのデジモンだった。
「ね~真希子~。この人~? ぼくの相談に乗ってくれる人って~?」
「ああ、そうだ。というわけだ。わかったな?」
何がわかったというのか。そう茶々を入れたくもなるが、アミにもわかった。このデジモンこそ、今回の依頼人であることに。
「あのね。ぼくね、そのね、トモダチのトコモンとはぐれちゃったんだ~」
「ふんふん」
「小さい子だから、迷子になっちゃってて……お願い。探すの手伝って~」
お前も小さいだろ。そう思った来人だったが、口には出さない。今はアミとロップモンの話である。
「街でオロオロしているコイツを見つけてな。放っとく訳にも行かねーし……で、思いついたのがオマエのところだったんだ。オマエらこういうの得意だろ?」
「まぁ、電脳探偵ですから」
「ふぅん? ま、今じゃ東京中の彼方此方にこんなんがてんやわんやだ。アタシらもどう対応していいかわかんねーしな」
そう言った真希子は疲れた様子を見せる。
とはいえ、真希子の言った現状は警察に限った話ではない。話が通じる者もいれば、通じない者もいる。暴れない者もいれば、暴れる者もいる。人間を襲う者もいれば、人間に寄り添う者もいる。
そもそもその姿でさえ、多種多様。恐ろしい姿をした者が優しい性根をしていることもあれば、可愛らしい姿をしている者が恐ろしい性根をしていることさえある。
そんなデジモンという未知の存在を前に、誰もが対応を悩んでいた。
「コイツは噂に聞くような暴れる奴じゃねぇし、話が通じる。それにか、かわ……かわいいしな」
最後の声はとても小さなものだったが――それでも来人にもアミにも、バッチリと聞こえた。真希子のイメージに合わないようなその一言がバッチリと。
「ぁあああ! オマエ“ら”今笑ったろ! 悪かったな可愛いもん好きで!」
「いや、別にそこまでは……」
「ともかくな! こう……むやみにとっちめるのもガラじゃねーし、害もなさそうだし、困ってるみたいだから連れてきたんだ」
「ごめんね~……ぼくらデジモンにもいろいろなのがいるんだ~」
申し訳なさそうに言うロップモンだったが、アミは明るく返した。「そんなものは人間も同じだから気にしなくてもいいよ」と。
その内容は奇しくも、一日前に来人が言った言葉と同じだった。
「ま、そいつの言う通りさ。そ、それよりも後で……耳触らせろや。ってか、モフモフさせろや……気持ちよさそーじゃねぇか」
そんなことを言う真希子。
アミと来人は、そんな彼女を見る視線が自然と暖かくなっていって――。
「はっ!? しまった……! と、とにかく任せたぞ、コラ!」
――自分を見るそんな視線に気づいたのだろう。
真希子は慌てて居住まいを正す。が、まあ、はっきり言って無駄だった。
「そ、そうだ……オマエのダチの……アラタだったか。アイツの逮捕状が正式に発行された。つまり……」
「正式に指名手配犯ってこと?」
「そうだ。ああ、誤解すんなよ? 又吉さんはすげー頑張ってくれたんだぜ? でも、アイツが逃げちまったことも状況を悪くさせてる」
“又吉さん”。来人はそれが誰か知らなかったが、話の文脈から察した。多方、真希子の上司の警察官だろうと。
「それは……」
「ま、心配すんなよ。又吉さんが動いてくれてんだ。ぜってー悪いようにはなんねぇ! あの人は訳アリなやつをぜってー見捨てねぇからな!」
「アラタのこと……よろしくお願いします!」
「おう! ソイツのことは任せるから、アイツのことは任せとけ!」とそう言って、真希子は去っていった。アミは、そんな彼女の気遣いが最後までありがたかった。
「きみの友達も迷子なの?」
不安そうな、辛そうな表情でロップモンはアミにそう聞いた。
「え? まぁ……そう言える、のかな?」
まあ、彼はある意味迷子ではあるが――そう言い切っていいかどうかといえば、難しいものがある。結果、アミは言葉を濁した。
「じゃあ、一緒に探そっ! 大丈夫! すぐに見つかるよ!」
なぜ言葉を濁したのか、その意味にも気づかず、純粋に受け取ったロップモンは明るく言った。
そんなロップモンの姿に、アミは少し癒されて――。
「うん! それじゃ、行こうか」
「お~! 出発しんこ~だ~!」
――彼女たちはトコモンを探すべく出発した。
ちなみに、依頼の話だと思って気を利かせて黙っていた来人。そんな彼が彼女たちに思い出されるまで――あと数分。
同時刻。東京上空にて。
「どこにいるのですか……ユピテルモン様……!」
女神は一人呟く。
まるで神話の世界から飛び出してきたような美しさを持つ彼女は、悲しそうに瞳を伏せる。
つい一週間前、この世界へと降り立った彼女は、目的の相手を探して動き出していた。だが、見つからない。この世界に来る前に、一段と強く感じられた“彼”の気配が、今は感じられない。だから、見つけられない。
「絶対に参ります……待っていてください」
彼女が探す相手を見つけるのは、まだ先の話になりそうだった。
というわけで、第五十二話です。
いつの間にか帰って来た原作主人公、ちょっと間が悪かった主人公のお話でした。
そして、最後にちょろっと出てきたのは、(物理的に)這い寄って来る某ヤンデレ様。
まあ、本格的に出てくるのはもう少し先ですが。
ともあれ、次回に続きます。
それでは次回もよろしくお願いします。