【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
アミに忘れられ、置いていかれた来人だったが――当のアミは数分後には思い出してくれたようで、慌てて迎えに来てくれたのだった。
「……」
「もう、ごめんって」
「機嫌直して~」
まあ、少しばかり機嫌の悪くなった来人である。
「ねぇ……だから」
「もういいよ。ったく……トコモンを探すんだろ?」
渋々と、本当に渋々といった様子で、来人はアミに言う。
それは未だ機嫌が直っていないことを示していて、アミは少し居心地が悪かった。
「なら、ノキアはどうだ? アイツならそういう情報も握ってそうだろ? よほどの運がないと闇雲に動くのはキツいぞ」
来人のその言葉は、自身がイーターを探して闇雲に動いていた経験があるからこその言葉だった。
やはり経験がある者が言うと重みが違う。アミは重々しく頷いた。
「そうだね。連絡を取ってみるよ」
通信機能を使って、アミはノキアに通信する。数秒も経たないうちに、ノキアは出た。
『およ。どうしたのー?』
「あ、ノキア? 実は……」
アミは説明していく。ロップモンの依頼で、トコモンを探していること。デジモンを助ける活動をしているノキアなら、トコモンの行方を知っていないかということ。
『んふー? なるほどーなるほど! そのコのオトモダチを探してるってわけね! さっすがあたしたちリベリオンズの特別コーモン! ぐっじょぶ! よっ、やるねぇ!』
「コーモンじゃなくて、顧問ね。それだと別の意味に……こほん。それで、どうなの?」
『けど、ごめん!』
残念だけど、と。そう前置きして、ノキアは言った。自分たちのところにトコモン自身も、そしてトコモンの情報もないことを。
初めから見つかるとは思っていなかったが、結果が結果だ。アミもロップモンも僅かに気落ちした。
『けど、ダイジョーブ! あたしたちも協力するよ!』
「いいの!?」
『もちのロンよ! デジモンを助けるのは我がリベリオンズのモットー! それに、こんな可愛くて良いコを放っておくなんてできないもん!』
思いがけないところで得られた協力。
人海戦術は基本中の基本とも言えることで、アミもロップモンも嬉しくなる。思いのほか、早く見つけることができるかもしれない、と。
「っ! ノキアありがとう!」
「ありがと~」
『うんうん。任せなさい! あたしたちは現実世界で情報を探すから、アミはEDENで情報を探して! 見つかったら連絡をしてね!』
そこまで言って、ノキアは通信を切った。
ノキアが現実世界を探してくれるのなら、アミは言われた通りにEDENを素直に探すべきだろう。アミはEDENに向かうために動き始めて――。
「あ、アミ。俺も現実世界を探すわ」
「えっ!?」
――そんなことを言った来人に、アミは驚いた。彼女は、来人はてっきり自分と一緒に行動するものだと思っていたのだ。
「ど、どうして?」
「いや、ちょっとな。東京だけって括りがあっても、現実世界は広いからな。ノキアだけでカバーできるかは不安だ」
そう言った来人だが、その言葉は理由の半分だった。
本当は少し一人になりたかったのだ。先ほど、彼は置いていかれたことに重きを置いて少し拗ねてしまった。だが、よくよく考えて、一人になれることは悪くないことだったと思った。だから、ここら辺で少し一人になりたかったのである。
まあ、そんな彼はいつもの勘で、現実世界にトコモンがいないような気がしていたのだが。
「……そう。本当に大丈夫?」
不安そうに、アミは来人に聞く。
なぜかはわからないが、アミは不安だった。帰ってきて、いきなり来人が気絶していたものだから、余計にそう思えるのかもしれない。
「大丈夫だ」
本当は大丈夫ではないかもしれないが、安心させるためにも来人はそう返す。
アミは渋々納得したようだった。
「それじゃ、何かあったら連絡……連絡?」
「……」
アミの言葉に、来人は固まる。今の来人にアミに連絡する方法などないからだ。
このご時勢、公衆電話などないに等しい。いや、あるかもしれないが、この首都圏にはほとんどない。どこかの建物に入れば貸してくれるかもしれないが、デジモンである来人に貸してくれる親切な人がどれほどいるだろうか。
「……トコモンを見つけたら事務所に戻って、そこのパソコンで連絡して」
「ああ」
本当に仕方ない。そんな言外の言葉が聞こえてきそうな口調で言われたアミの言葉に、来人も頷いた。のだが、アミも来人も忘れている。
来人は機械音痴であることに。そんな来人に慣れない機械を触らせることがどれほど危険なことか。アミは知っているはずなのに。
「それじゃ、俺行くわ」
「うん、任せるよ!」
「了解」
アミがEDENスポットからEDENへとアクセスしていったのを見届けて、来人は歩き出した。向かう先は、昨日のあの場所だ。
数十分もしないうちに、来人は現場に到着して――。
「……うわ、ひどいなこりゃ」
――思わず来人がそう呟いた。
ここは閑静な住宅街だったはずだ。だというのに、昨日のあの軍団の侵攻のせいで、見るも無残なことになっている。
アパートやマンションといった大きな建物は無事だが、街灯や道路、自動販売機などは傷だらけの状態で転がっている。当然の如く、警察によって立ち入り禁止になっていた。
「……」
来人は立ち入り禁止を示すロープを超えて、中へと入る。
昨日、ここで来人はタイタモンに負けた。別に負けたことについて深くどうこうと思うことはない。確かに悔しいことは悔しいが、今来人は生きている。それだけでいい。
「問題はカミサマだよなぁ……」
問題はそこにあった。
未だカミサマは目覚めない。さすがにそろそろ心配になってきた。
一週間前、カミサマに身体を明け渡していた時、何があったのか来人は覚えていない。が、今のカミサマの状態から、相当なことがあったのだろうことだけは何となく理解していた。
「どうなるかな」
きっと、これから事態は急転するだろう。タイタモンのこともそうであるし、そもそもロイヤルナイツという問題もある。
それらすべては来人の力で乗り越えられるかというと――答えはノーだ。ブラックグラウモンや今のアミのデジモンたちと協力しても同じだろう。
事態解決に必要としている力と今の来人たちの力には、大きな差があった。何とかしなければならない。できるかできないかに関わらず、やらなければならないことなのだから。
「これ、大丈夫か? 心配になってくるなぁ……」
不安と心配を吐露するかのように、来人は一人呟く。
呟いて――。
『やれやれ』
「っ」
――聞こえるはずのない声が聞こえた気がした。
まるで時が止まったかのように、来人は黙る。だが、その声の続きが聞こえることはなく、辺りには街の音だけが響いていただけだった。
「空耳か。全く心臓に悪い……」
苦笑しながら、来人は呟いた。
やらなければならないことなのだから、やらなければ仕方がない。諦めるのは自由だが、諦めればすべてが終わりだ。そう、彼に叱咤された気がした。
「全く厳しいんだか、甘いんだか……カミサマ、早く戻ってきてくれよ。俺だけじゃキツいんだから」
苦笑したまま、来人は再び呟く。
当然のことながら、答えは返ってこなかった。
「さて、それじゃ行くか。トコモン探しにな」
現実世界にはいないとは思うものの、トコモンを探して来人は歩き出した――のだが、偶然にもこの時、アミはEDENにてトコモンを見つけていた。悠子の頭の上で。
まあ、そんなことは来人の知る由もないことだが。
「……なんか、もう全部終わった気がする……」
奇妙な予感を覚えながら、来人は周りの光景を見る。
相変わらず、街にデジモンたちが蔓延る光景。そんな光景を見ていた来人は――。
「ん?」
――気がついた。まっすぐに自分に走って近づいてくる何者かの存在に。
とはいえ、子供なのか、その足音は随分と軽い。
一体誰だ。来人がそう思った直後のことだった。
「らいとお兄ちゃん!」
「ぐぼはっ」
走った勢いを保持したままに、その何者かが来人の腰に突撃する。
犯人の身体の小ささもあって、たいした衝撃ではなかったが、予想外の事態に来人はうめいた。すぐさま、来人は犯人を見る。
そこにいたのは。
「って、なんだ……ひなか」
そこにいたのは、泣いているひなだった。
「無事でよかったよぉ」
ひなは涙と共に安堵の気持ちを吐き出していた。
「……! ああ、俺は無事だよ。通りすがりに助けてもらったんだ」
ひなは昨日のあれから、来人のことがずっと心配で仕方なかったのだ。あの見るからに悪そうな顔の巨神相手に、一人残った来人のことが心配で、夜も眠れなかった。
そして、今日。保護者の言いつけも破って、さらには警察による立ち入り禁止も無視して、彼女は一人でこっそりとこの場に来たのである。単に、来人の無事を確認したくてのことだ。
「……心配かけて悪かった」
来人はそう謝るも、ひなは来人の腰にくっついたまま離れない。よほど来人のことを心配していたのだろう。ぐすぐす、と未だ泣いているようで、来人は彼女を好きにさせておくことにした。
そうして、どれほど経っただろうか。しばらくの後、泣き止んだひなは来人の目をまっすぐに見た。
「あのね、私ね」
「あ、ああ……」
来人の勘が叫ぶ。何か面倒なことになるぞ、と。
だが、無情にもひなはそんな来人に構わず、告げる。
「家出したいの!」
特大級の面倒事を。
「……なんで、そんなことになってるんだよ?」
「だから、匿って! らいとお兄ちゃん!」
「いや、聞けよ」
匿ってもなにも、今の来人の生活はデジモン準拠のもの。ついでに言えば、暮海探偵事務所の居候ポジションであるアミに居候するようなポジションだ。
来人の一存で決めるわけにも行かない。
だからこそ――。
「というわけで、アミ。探偵だろ。デジモンからの依頼も受けるんだろ。何とかしてくれ」
「何がというわけなの!?」
――来人は、暮海探偵事務所にひなを連れて戻ってきた。こういう時は探偵の出番だろう。そんな安易な考えで。
運良くトコモン探しは終わっていたらしく、アミが帰って来ていたのは幸いだった。
「っていうか、ふーん? そっかー」
「何だよ?」
「いや? 別に。トコモンを探してくれてると思ってたけど。そっかー……幼女誘拐なんてしてたんだー……このロリコン」
来人を見るアミの目が冷たい。長い付き合いであるはずの来人が今まで見たこともないほどだ。
ちなみに、ひなは未だに来人の腰にくっついたままである。
「ちょっと待て! ひなとは偶然出会っただけでだな……」
「へぇ、偶然、ね。……ロリコン」
慌てて来人も弁明する。が、まさにとりつく島もないとはこのことで、アミは聞く耳を持とうとしていなかった。
そんな来人とアミの姿は、ひなにはどう見えたのか。
「お姉ちゃん! らいとお兄ちゃんをイジメないで!」
イジメ、カッコ悪い。そんなことを言いたいかのような、非難の形相だった。
ひなは来人の腰にさらに強くひっつく。少し来人が痛いくらいだった。というか、その光景は、まるで来人は私が守る、と言わんがばかり。
ぴくり、と。アミの口が引き攣った。
「あの、ひなちゃん? ちょっとくっつきすぎじゃ……」
「やっ」
アミの言葉に、余計にひなは強く来人にひっつく。何と言うか、意固地になっているようにも見受けられたが――アミにはそうは見えなかったようである。
「来人も何とか言ってよ!」
「いや、このくらいの年頃の子はこんなもんだろ。お前だって似たようなもんだったじゃんか」
「ちょっ」
一体アミには何がどう見えているのか、気になった来人である。
事態は混沌としていて、この混乱が収まったのはこの一時間後の話だった。
というわけで、第五十三話。
話の都合上で、あのババーン!なシーンはカットされました。
ともあれ、三度の再登場のひなによる次回への布石話でした。
結構ひなは登場しますね。しつこいくらいに。いや、さすがにシリアスシーンまで出張ることはないですが。
さて、次回はひなの家出問題を解決します。
それでは次回もよろしくお願いします。