【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第五十四話~家出の子猫と犬の探偵さん~

 

 ひなが探偵事務所に来た翌日。

 

「……」

 

 沈黙だけが部屋に満ちていた。

 今のこの部屋の状況を作り出しているのは、アミとひなの二人。二人は睨み合っていて――なんでこうなってるんだ、と内心で来人は疲れたように呟いていた。

 ちなみに言えば、事の起こりは数分前まで遡る。

 

「あわ……おはよう……らいとお兄ちゃん……あふ」

「ん、ああ、おはよう」

 

 目が覚めたひなが来人に挨拶し、来人もそれに返した。

 そう、昨日のあの後、疲れからか、前日に眠っていなかったからか、ひなは眠ってしまったのだ。それはもうぐっすりと。事情を聞く暇もなかった。

 これはまずいだろう、と眠っている間に家に連れて行こうにもその家の場所も知らない。

 結局、この事務所に泊まらせたのだが――家出してきたということは、無断外泊だろう。幼子の無断外泊。いかに本人の意思だったとしても、これでは誘拐罪で警察の厄介になる。

 

「ひなちゃん? そろそろ話して欲しいんだけど……」

「やっ」

 

 そうはならないためにも、アミと来人は昨日聞けなかった事情を聞くことにした――のだが、彼女はなかなか口を開かない。

 ついでに、彼女は未だアミに複雑な感情を抱いているようで、アミに対しての態度は少し冷たいままだった。

 

「……本当に教えてくれないのか?」

「あのね……」

「なんでっ!?」

 

 来人が聞くと、ひなは渋々と言い始める。アミは納得がいかなかった。

 

「うんっと……おばさんが……」

「おばさん……ああ、あの……」

 

 来人は思い出した。

 ひなのおばさんというと、一昨日のあの日自分のことをすごい目で見てきたあの人物だ。彼女がどうかしたのだろうか。

 

「怒られて……それで、けんかしちゃったの……」

「喧嘩? ああ、だから家出か」

 

 まあ、喧嘩如きで家出とはやり過ぎな感も否めないが、そこには来人もアミも触れなかった。

 ひなはいろいろな意味で幼いのだ。行動が極端になってしまうのも、まあ、仕方のないこと。ひなのしたような行動は、来人もアミも覚えがあった。

 

「……仲直りしないとダメだぞ?」

 

 とりあえず来人がそう言うと、「うん……」と暗い顔でひなは呟いた。彼女にも、自分の行動が悪いことであるという認識自体はあるらしい。

 これはすぐに解決するかもしれない。内心でアミと来人がそう思って――。

 

「仲直りの方法がわからないのか? なら、謝れば……」

「それはいやっ!」

 

 ――言った言葉に、ひなは思いのほか拒否をした。

 その言葉は予想外で、来人たちは思わず面食らってしまう。ゆっくりと刺激しないように、アミと来人は慎重に聞いていく。なんでそう思っているのか、を。

 

「どうしてそう思うの?」

「……」

 

 とはいえ、アミが聞くとやはり答えない。

 

「どうしてそう思うんだ?」

「あのね……」

 

 来人が聞くと、少しずつでも話し始める。

 なぜか複雑な気持ちを抱いてしまっているとはいえ、幼子にこんな対応をされているのだ。アミは少し辛かった。

 

「らいとお兄ちゃんを……」

「ん? 俺?」

 

 まさか、ここで自分が出てくるとは思わず、来人は少し驚いた。

 一方で、ひなのその目に、じわりと涙が浮かんでいく。その顔は悔しそうだった。

 

「らいとお兄ちゃんに近づくなって。おばけだから、危ないぞって……言われて……」

 

 そこで、ようやくアミと来人も事情を察した。

 来人はデジモンである。おばさんにとって、デジモンとは世間を騒がせる怪物。そんな怪物に子供が会っていたのだ。それは心配にもなるだろう。だから、おばさんはひなに言ったのだ。危ないから近づくな、と。

 一方のひな。彼女はデジモンすべてが危険ではないことを知っている。幼いこともあって、未知に対する好奇心もあるだろう。特に来人に対しては助けられたこともあって、好意的だ。そんな来人を悪く言われるのが我慢できなかった。

 

「うーん……」

「これは……どうしようね?」

 

 来人とアミは困ったような顔をして唸る。

 個人的に思うところはあれど、おばさんの言っていることは間違いではない。一方で、ひなの言っていることも間違いではない。

 どちらがどちらも正しくて、引く気がないだろうから、どうしようもない。

 顔を見合わせながら、アミと来人は唸る。そんな様子が、ひなにはどう見えたのか。

 

「むぅ……えいっ」

 

 ひなは両手でがっしりと来人の顔を掴んで、そして自分の方に向けさせた。ひなのその行動は手加減知らずで、来人は首が地味に痛かった。

 

「うぐっ、なんだよ」

「らいとお兄ちゃんはこっち!」

「……?」

 

 ひなの行動にも、ひなの言葉にも、疑問しかない――が、何はともあれ、その後もアミと来人は悩み続ける。このままという選択肢はない。さすがに幼子が保護者に何も告げずにいるという今の状況はダメだ。

 だが、家の場所や連絡先を聞き出そうにも、家に帰されるとわかっているのか、ひなは教えてくれない。

 

「あれ、でも……ひなちゃんのおばさんにデジモンが危険でないってわかってもらえればいいんだよね?」

「……うん」

 

 何かを思いついたのか、アミは考え込む。

 一体何を考えついたというのか。来人にはわからなかったが、何かとてつもなくくだらないことのような予感がしていた。

 

「そっか。うん……よしっ」

「……何か思いついたのか?」

「うん。こんなのはどうかな」

 

 そう言って、アミは話し始める。

 ひなと来人は黙って聞いていく。

 

「そんなにうまくいくかなぁ……」

「大丈夫だよ」

「デジモンさんに迷惑じゃ……」

「大丈夫!」

 

 ひなと来人を安心させるように、アミは大丈夫と言う。

 穴だらけの作戦にいろいろと不安しかなかった来人だったが――まあ、代案がある訳でもない。失敗する予感はしなかった上にひなもアミの案に乗るようで、来人は黙った。

 そして、数十分後。

 

「ここでいいのか?」

「うん、大丈夫!」

 

 来人とアミ、ひなは人通りの全く無い街の片隅にいた。

 今回の作戦を実行するに当たって、人に見られるのはなるべく避けなければならない。人通りが少なく、それなりに広い場所――そういった場所を探すのはだいぶ苦労した。まあ、見つかってよかったと言うべきか。

 

「……で、ひなのおばさんの方は?」

「ばっちり!」

 

 先ほど、アミはひなから連絡先を聞いて、匿名電話にて連絡しておいた。ひなをこの辺で見かけたという内容だ。心配しているだろうから、飛んでくるだろう。

 そのことを思って、来人は呟く。

 

「悪趣味だ……」

 

 アミの考えた案は、上手くいけば効果的ではあるが、その分気持ちの良いものとは言えなかった。それこそ、来人の言うように悪趣味なものである。

 とはいえ、ここまで来たのならば、引くことなどできないのだが。

 

「ひな大丈夫か?」

「う、うん。私頑張る!」

「ああ、まあ、うん……」

 

 そんな来人の一方で、ひなは気合十分だった。この件でおばさんとの仲直り、来人の危険性のなさを説明できるかもしれないのだから、この場の誰よりも気合が入っていた。

 この悪趣味な作戦にも付き合うとは。来人の心中はひなの純粋さに複雑だった。

 そして、そんな時――。

 

「リリモンから連絡! 来たって!」

 

 ――アミがそう言った。その視線は上空にいるリリモンを見ていて、リリモンは何かを示すように特徴ある飛び方をしていた。

 おばさんが来た時がわかるように、事前に決めていた合図である。

 

「来たか。頼むぞ。ひなも頑張れよ」

「うん!」

 

 ひなは自分の位置に立った。同時に、来人とアミはバレないように建物の影へと身を隠す。

 そっと様子を伺えば、ひなのおばさんは息を切らせてこの場へとやって来て――。

 

「ひなちゃ……っ!」

 

 ――その瞬間、彼女のその表情が凍りついた。

 まあ、それもそうだろう。彼女が見たもの。それは地面に転んだひなの姿と、そんなひなを舌なめずりしながら品定めするブラックグラウモン(黒い恐竜)の姿だったのだから。

 

「やっぱ悪趣味だろ」

 

 再度、来人は小さく呟いた。

 そう。これこそアミの作戦である。ひなをデジモンに襲わせて、それを来人が助ける。そういうシナリオである。ちなみに、協力はブラックグラウモンその他アミのデジモンたち。

 お芝居の危機的状況を、それを信じ込ませるために演じる。これを悪趣味と言わず何と言うのか。

 

「……ひなちゃん!」

 

 ハッと正気に戻ったおばさんが、ひなを助けるために走り出す。

 だが――。

 

「ガウっ!」

 

 ――だが、ブラックグラウモンの太い尾が振るわれ、先に進めない。

 やけに大きな風切り音と小さな悲鳴がこの場に響いた。

 

「おばさん……!」

 

 ひなが苦しそうに声を上げる。悲鳴を上げたおばさんのことを心配してのことだろう。ひなが上げたそんな声だが、なまじ心配している分、余計にこのお芝居に迫真さを追加する。

 何と言うか、すればするほどドツボにはまるようで、来人は見ていられなかった。

 

「来人、出番だよ」

 

 小さく、アミが来人に言う。

 仕方なく、来人は覚悟を決めて――。

 

「はぁっ!」

「ひぃっ。もう一体!?」

 

 ――ブラックグラウモンとひなの前に飛び出た。

 来人の登場におばさんが悲鳴を上げた気がしたが、来人は気にしなかった。

 

「ふっ!」

 

 勢いに任せて、来人が走る。

 そんな彼は半ばヤケになっていた。ブラックグラウモンの尾を躱し、その腹を一発殴る。そして、あらん限りの表情でブラックグラウモンを睨む。

 睨み合いが始まった。事情を知らないおばさんは固唾を呑んで見守っていて――。

 

「……」

「……ガウ」

 

 ――この数十秒後。気合負けした。そんな雰囲気を出して、ブラックグラウモンは去っていく。

 

「ふぅ」

「あ、ありがとう!」

 

 来人はそのままひなを立ち上がらせる。

 ひなの本心からのお礼に苦笑しながら、来人は彼女をおばさんへと引き渡した。

 

「あの……悪いな。なんか」

「あ……え?」

「俺たちは……まあ、ああいう奴もいるけど、みんながそうだってわけでもないから嫌わないでくれ。なんか、悪かったな。いや、ほんとに」

 

 混乱するおばさんに苦笑いを向けながら、来人は台本通りのセリフを言った。少しだけ台本とは違って、本心が混ざってしまっていたが、まあ、許容範囲だろう。

 ともあれ、自分のやることは終わった。あとは打ち合わせ通り、この場を離れるだけである。おばさんに見えないようにひなに手を振って、来人はその場を離れた。

 

「おばさん……!」

「ひなちゃん! 無事でよかった……!」

「う、うぅ……ご、ごめんなさい」

 

 背後に聞こえる二つの震える声を聞きながら。

 ともあれ、高速でその場を離れた来人は、無事にアミたちに合流する。

 

「どう、来人? なんとかなった?」

「さぁ。とりあえずは台本通り。あとは……まあ、どうだろうな? ひな次第だろ」

「ま、そうね」

 

 話しながらも、来人は上手くいっていると思っていた。そんな気がしたのだ。

 まあ、いつもの勘である。

 

「ブラックグラウモンも。久しぶりだけど、いきなり悪かったな」

「いやー。お芝居ってのも結構面白かったし、別にいいぞ。ただ、オレのセリフがなかったのがなー」

 

 そう言ったブラックグラウモンだったが、そこは仕方がなかった。

 見た目の怖さからあの役に彼を使うのは決定事項だったが――彼はセリフを言わせると棒読み、下手で仕方がなかった。かといって、アミのメンバーでは見た目の面で他に適任はいない。

 よって、彼のセリフなしは苦肉の策だった。

 まあ、実はそれが良い方に作用したのだが。

 

「ま、一件落着か。事務所に戻るか」

「そうだね」

 

 アミはブラックグラウモンやリリモンをデジヴァイスに戻し、来人はボロ布を纏って、そして事務所へと向けて歩き始める。

 

「そういや、今回……依頼は依頼でもタダ働きか。ひなはお金払えないんだしな」

「いや、支払いは来人だよ? 何とかしろって話だったでしょ? ちゃんと元に戻ったら払ってもらうからね。割引もしないから……覚悟しておいてね!」

「俺かよっ……ん? 元に戻る?」

 

 依頼金の発生について、こんな一幕があったのだが、それはほんの余談である。

 ついでに言えば、今回の支払い額はアミの私情込み料金となることも、当たり前だが余談だった。

 




というわけで、第五十四話。

前回に引き続く回でした。
そういえば、久しぶりにブラックグラウモンが登場しましたね。

この調子で、次回もブラックグラウモンの回です。
日常のような、どこか緩いアレの回です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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