【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第五十六話~事の裏側で~

 時は少し遡る。

 言いたいことだけを来人に言ったアミは、探偵事務所を飛び出したまま――。

 

「はぁ」

 

 ――東京の街をあてもなくぶらぶらと歩いていた。

 一応、先ほどブラックグラウモンに()()()()()様子を見てるように頼んでおいたが、どうなるかわかったものではない。

 依然として、アミはモヤモヤとした気分を抱えたままだった。

 

「……あっ! 見つけたぞ!」

「……?」

 

 背後から聞こえてきた声。妙に聞き覚えのある声だった。

 そっとアミは後ろを振り向く。そこにいたのはいつかの――。

 

「久しぶりなんだぞ!」

「バケモン!」

 

 ――ブラックグラウモンと来人に復讐しようとしているバケモンだった。

 というか、どさくさに紛れてクーロンエリアからこの現実世界へと出てきてしまっていたらしい。

 

「探したんだぞ! やっと見つけたんだぞ!」

「私を……?」

「前に言ったんだぞ! オデたちの復讐を手伝えって!」

 

 バケモンにそう言われて、アミはようやく思い出した。あれからいろいろとありすぎて、アミはバケモンのことなどすっかり忘れていたのだ。

 

「依頼ってこと?」

「そんなわけないんだぞ。むしろ、これはこの前のアフターケアなんだぞ! 手伝うんだぞ!」

 

 この前の依頼は失敗している。だから、代わりに手伝え。

 こういっているバケモンに対して、アミも少し悩む――が、少しだけだった。

 これはこの前の依頼の失敗を挽回するチャンスであるし、バケモンの手伝いをすれば気分転換にもなるだろう。あと、少しでも来人を困らせられればいい。

 そんなことを考えて、アミはバケモンに乗った。

 

「それで、私は何を? また苦手なものを聞いてくればいいの?」

「違うんだぞ! 探偵さんは役に立たなかったから、やることはこっちで考えたんだぞ!」

「……」

 

 役に立たないという部分で言い返したかったアミだが、彼女はそもそも前回の依頼を失敗している。言い返せるはずもなかった。

 

「とにかく、探偵さんには補助を頼むんだぞ!」

「補助?」

「そうだぞ! 脅かす役はリーダーに頼んであるから、アイツらの居場所を探すのとオデの指示に従って、手助けして欲しいんだぞ!」

 

 やはり微妙に平和な復讐である。

 ともあれ、ブラックグラウモンの居場所はアミも知らない。が、何となく予想はついていた。

 ブラックグラウモンは来人の監視を頼んでいる。ということは、来人とブラックグラウモンは近くにいるだろう。そして、おそらく来人はひなと一緒に行動している――とそこまで考えて、アミの胸の中に、ふつふつと形容し難い感情が湧き上がってきた。

 

「ど、どうしたんだぞ? 少し怖いぞ」

「なんでもないよ……」

 

 疑問を表現するバケモンを前にして、アミは自分を落ち着ける。

 再び考え始めて――ひなが一緒にいる以上はそう遠くに行けないはずだ、と。そんな考えに至った。

 

「詳しい場所はわからないけど、おおよその場所ならわかるかも……」

「ほんとか!? 案内するんだぞ!」

「オッケ」

 

 バケモンを連れて、アミは歩き出した。

 暮海探偵事務所のある中野ブロードウェイの近くを重点的に、それでいてバッタリ来人たちと鉢合わせしないように慎重に探す。

 もちろん、先ほどリリモンに頼んで行ってきてもらい、事務所に誰もいないことは確認済みだった。

 探して探して、とある一角の公園にアミたちはたどり着いて――。

 

「何してるの……」

 

 ――思わず、といった風にアミは呟いた。

 今、彼女の視界にはひなと遊ぶ来人とブラックグラウモンの姿があって――こっそりと様子を見るように頼んだはずのブラックグラウモンまで堂々と一緒にいることに、アミは愕然とした。

 

「おぉ、いたんだぞ! よしなんだぞ。今から作戦を始めるんだぞ!」

「私、なんにも聞いてないんだけど?」

「別にいいんだぞ。オデが直接指示を出すんだぞ。それよりも、オデは他のみんなを呼んでくるから、見張ってて欲しいんだぞ!」

 

 そう言って、バケモンはゆらゆらと飛んでいった。おそらく、仲間を呼びに行ったのだろう。

 バケモンが帰ってくるまでの間、アミは公園の片隅の陰に隠れて来人たちを見張る。

 

「……私何してるんだろ」

 

 だが、アミは虚しくて堪らなかった。

 仕事だから仕方ないのだが、何が楽しくて()()()()で楽しそうに遊ぶ来人の姿を見なければならないのだろうか、と。

 そうして、虚しく見張ること数時間後。日が傾き始めた頃、ようやくバケモンが帰ってきた。

 

「待たせたんだぞ! みんな、所定の位置についたんだぞ」

「やっと……」

 

 疲れたような気がしながらも、アミはそっと様子を見る。

 そこでは来人たちの周りを火の玉が蠢いていた。今が夕暮れ時ということもあって、なかなかの演出である。アミも素直に感心した。どうやっているのかはわからなかったが。

 

「ほら、頼むんだぞ! ゾワゾワっとするような音を出して欲しいんだぞ!」

「ゾワゾワっとするようなって……」

 

 アミは内心で溜息を吐いた。なかなか難しいことを言ってくれる、と。

 ともあれ、ご所望とあればやらなければならない。アミはリリモンを呼び出した。

 

「ゾワゾワっとような音を出して欲しいって言ってるんだけど……できる?」

「へぇ。アイツを驚かすのね! 任せてっ!」

 

 瞬時に事情を悟ったリリモンだが、なぜかやる気満々だった。

 何をそんなにやる気満々なのだろうか。そう思うアミの前で、リリモンは飛び――周りに申し訳程度に植えられている木々を揺らし始めた。

 上手い、とアミは思う。アミたちにとってはリリモンが揺らしているだけだが、来人たちにとっては風もないのになぜか木々がざわめいているように聞こえるだろう。

 

「おぉっ! いい感じだぞ!」

 

 その感じに、バケモンは喜びの声を上げる。

 一方のアミが来人たちの様子を伺えば、事態は佳境に入っているようだった。来人たちの前に現れる死神、もといファントモン。

 

「……」

「……」

 

 いよいよだ。

 アミもバケモンも固唾を呑んで見守って――。

 

「あっ!」

「えっ!?」

 

 ――そんなアミたちの前で、ブラックグラウモンがブラックメガログラウモンへと進化した。

 そこから先はもう転げ落ちるかのように、事態は収束していく。ファントモンの土下座に、ネタばらし。一気に終わってしまった。

 

「……ねぇ」

「仕方ないんだぞ。リーダーもオデたちも直接的な戦闘力は低いんだぞ。ああなれば、誰だってああするんだぞ」

「……」

 

 アミはいろいろと言いたいことがあった。が、バケモンは仕方ないの一言で済ませるようで。

 

「こうなれば、さらなる案を考えるんだぞ! その時はオマエにも手伝ってもらうんだぞ」

「……」

「それでは解散! なんだぞ!」

 

 逃げるように――いや、実際に逃げたのだろうが、バケモンは去っていった。ついでに、ファントモンも逃げるように去っていく。

 後に残ったのは、やりきれないような表情のアミと退屈そうなブラックメガログラウモンだけだった。ともあれ、こうなれば隠れていても仕方ない。アミはブラックメガログラウモンのところに行った。

 

「お、アミか。ライトならいないぞ?」

「わかってるよ。ってか、驚かなかったんだね?」

「そりゃ少しは驚いたぞ? でも、結局は倒せばいいからな。なかなか面白かったぜ? 本音を言えば、あの後もオレと戦えばもっと良かったかもしれないけどな」

 

 ブラックメガログラウモンの言葉に、アミは溜息を吐く。

 きっとバケモンたちはまだ頑張るのだろう。このいろいろな意味で鈍い相手を驚かすために。そんな彼らの苦労を思って、アミは静かに合掌しておいた。

 

「帰るね」

「おお、そうだな」

 

 何はともあれ、ブラックメガログラウモンをデジヴァイスへと戻し、アミは暮海探偵事務所へと戻る。

 そして、事務所へと戻った彼女を迎えたのは――。

 

「っ!」

 

 ――コーヒーだった。

 一瞬、アミは言葉に詰まる。コーヒーといえば、ここの主。帰って来たのか、脳裏に浮かんだその考えはすぐさま否定した。なぜなら、机の上に置いてあったコーヒーは普通のコーヒーだったから。

 もし本当に、ここの主が帰ってきていたのならば、このコーヒーが普通であることなどありえない。

 

「……ああ、帰って来たか」

「来人……」

「ま、そろそろだと思ってな。勝手にコーヒー豆とか借りたぞ」

 

 案の定だった。コーヒーを淹れたのは来人で、アミの思っていた相手ではなかった。

 来人は、アミを気遣ってこのコーヒーを淹れたのだろう。それくらいアミにもわかる。善意だけで悪気がないことも。

 だが、アミとしては、やはりコーヒーというものは特別なもので――。

 

「ごめん、せっかく淹れてくれたけど……飲めないよ」

「……? 苦手だったっけ?」

「いや……ちょっとね」

 

 ――来人の淹れたコーヒーを飲む気にはなれなかった。

 疑問を感じた来人も、アミの表情に何かを感じたのだろう。彼はアミに何も言わず、二人分のコーヒーを飲んだ。

 

「ああ、そうだ。依頼が来てたぞ。パソコンに」

「……見たの!?」

 

 来人のその言葉に、アミは驚きの声を上げる。

 忘れていたが、来人は機械音痴だ。そんな彼がパソコンに来た依頼を見ることができたことは、驚天動地の事実である。いや、もしかしたらパソコンが大変なことになっているかもしれない。

 アミは急いでパソコンに駆け寄ったが、パソコンは無事なようであった。

 

「その反応は傷つくぞ……別に、画面に依頼が来たって表示がされたのを見ただけだ。弄ってない」

「あ、ああ、だよね……」

 

 ホッとアミは安堵の息を吐く。

 パソコンはここの主のものだ。それに依頼を受けるだけではなく、それ以外のさまざまなデータも入った重要なものである。それを壊せば、その損害は計り知れない。

 アミは来人の英断を讃えた。

 

「そこはかとなく馬鹿にされてる気がするぞ」

「気のせいじゃない? っと……依頼は……上野に夜八時に来てくれ?」

「怪しいな」

 

 夜に来てくれなど、怪しすぎる。そんな依頼を受けなくてもいいのではないか。言外にそう含ませた来人だったが――アミは受けることにしたようだった。

 

「なんでだよ?」

「だって……ほら」

 

 アミは来人に画面を見せる。もちろんその際、来人がパソコンに触れないように注意しながら。

 アミの対応に少し苛立ちながらも、来人はパソコンを見る。

 そこには一言こう書かれていた。妹を助けたい、と。

 

「今から出ればちょうどいいよね」

「だな。それじゃ、行くか」

 

 ボロ布を纏って行く準備万端となった来人。なぜ来人がそんな格好をしているのか分からず、アミは首を傾げる。

 

「……? 俺が行っちゃ不味いのか?」

「えっ!?」

 

 ようやく、アミは来人の行動の意味がわかった。

 一緒に行ってくれるのだ、と。なぜかはわからないが、アミは無性に嬉しくなって――。

 

「うん! さぁ、行こう!」

 

 ――笑顔のまま、事務所を飛び出した。

 




というわけで、第五十六話です。

前回の話の裏側のお話と、ほんの少し次回に続くお話でした。
はい、前回の話では描かれなかっただけで、実は原作主人公が少しだけ関わっていたんですね。

次回は夜の公園のお話です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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