【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
来人とアミはなんとか上野にたどり着いた。
そう、なんとかである。ボロ布で全身を覆い隠している来人が警察や公共機関の人々に職質を受けるというハプニングがあったのだ。
まあ、ファッションということで押し通したのだが。
「何もしてないのに、果てしなく疲れた気がする……」
「同感……」
「ってか、デジモンの俺にファッションってなんだよ……デジモンでファッションに気をつけてるやつなんか、絶対に少数だぞ……」
ぐったりとしながらも、来人たちは依頼人を探す。辺りを見渡していると――。
「あっ! いたいた! 探偵さん! こっちこっち!」
――アミの姿を見つけたのだろう、青年が声を上げた。彼は手招きしてアミたちを呼んでいる。
「俺が依頼人のマサノリだ。よろしく頼むぜ」
「私は……」
「知ってる。今話題のサイバー探偵だろ? だから頼んだんだ。そっちの人は……?」
見るからに怪しい来人を見て、マサノリは少し頬を引き攣らせた。
まあ、正しい反応だろう。アミでさえ、そんな反応をしてしまうマサノリの気持ちがよくわかった。
「私の助手?」
「おい」
「そ、そうか……」
ともあれ、マサノリはアミの言葉に一応の納得をしたようである。藪をつつきたくなかったのかもしれないが。
「受けてくれてありがとよ。情けねぇ話だけどよ。俺ひとりじゃふうかを……妹を守ってやれねェみたいなんだ」
「それは……一体どういう?」
悔しそうに言うマサノリにアミは聞き返す。すると、マサノリはゆっくりと話し出した。その顔には心配の色だけがあった。
「最近、妹が毎晩のように出かけてる。しかも、帰りも遅い」
「それは……確かに心配になるね」
「……」
「来人?」
「いや。続きをどうぞ」
マサノリの言葉に引っかかるものを感じながらも、来人は続きを促した。
「きっと……いや! 絶対に悪いトモダチと遊んでいるに決まってる! このままじゃ……ふうかが不良に……うぉおおお!」
一体何を想像したというのか。マサノリは頭を抱えて唸りだした。
一方で、アミは一人っ子である。彼の気持ちはわからない――と思いきや、家族が悪い道に行くことを考えれば、そういう反応をしてしまうのもわかる気がした。
「はぁはぁ……見苦しいところ見せたな。ともかく、その悪い連中を始末してくれ!」
だが、彼の口から次に飛び出した言葉は信じられないものだった。
始末とは、この前のバケモンの復讐並に不穏な単語である。というか、そんなものは探偵の仕事ではない。どこか困った様子をアミは見せる。
そんな彼女の姿を見て、マサノリは慌てて言い直した。
「別に始末するって言っても、ちょっと懲らしめる程度でいいんだよ……! 頼む!」
懲らしめる程度でも、困ってしまう。アミは堪らず来人の方を見た。
「うーん……来人?」
「とりあえず、そいつらを見に行けよ。話はそれからでもいいだろ?」
もしかしたら勘違いかもしれないし。本当はそうも言いたかった来人だが、本人の手前だからこそ言わなかった。
一方で、そんな来人の言葉にアミは頷く。
「よし、決まりだな。妹はそろそろ来るはずだ……隠れてみていよう!」
マサノリは来人とアミの二人を連れて、近くの建物の影に身を潜める。
しばらく待っていると小さな女の子がやって来た。
「ふうか……!」
マサノリがそう言うことから、彼女こそが彼の妹なのだろう。年の頃は小学生低学年くらいか。ひなよりは年上そうだった。
「な、なんだあいつら……!」
愕然とした様子で、ポツリとマサノリが呟いた。まあ、それも仕方のないことだろう。
見れば、ふうかと呼ばれた彼女が一緒にいるのは、見たこともないような赤い獣とスライムのような緑色の軟体生物で――つまり、二匹のデジモンだった。それぞれエレキモンと呼ばれる成長期デジモンとヌメモンと呼ばれる成熟期デジモンである。
「ま、薄々はこんなことだろうとは思ってたけど……」
ポツリと来人が呟いた。
ならなんで言わなかったのか。そう言わんがばかりの二つの視線を向けられるが、その理由はいつもの勘だからである。
「と、ともかく! 探偵さん、頼んだぜ!」
「え?」
「あのバケモノたちめ! ふうかをたぶらかしやがって!」
ピクリ、と。マサノリの言葉に、僅かながらに来人が反応した――が、そのことに気づいたのは、アミだけだった。
何はともあれ、アミとしてはあの二匹が悪いことをしているように思えない。だから、彼女が取る次の行動はすぐに決まった。
「……それはできないよ」
「っ。なんでだよ!」
「だって、妹さんはあんなに楽しそうだもん。止めたら、それこそあの笑顔はなくなる……」
見れば、ふうかは本当に楽しそうにエレキモンたちと遊んでいる。例え人間でなくとも、彼女にとっては本当に友達なのだ。
「……確かに、な。ふうかのあんな笑顔は……久しぶりだ。東京がこんなことになってから、みんなピリピリしてて……ふうかも寂しそうだったから……」
ジッと彼女たちが遊んでいた光景を見続けながら、マサノリはそう呟いた。その声には、まるで妹を笑わせられなかった自分に対する嘲りがあるような、そんな色があった。
「そうだな。俺が浅はかだった。むしろ感謝すべきだったのかもしれないしな」
スッキリした寂しそうな顔で、マサノリは話し続ける。
「探偵さん、今日はありがとうな。俺は心配だし、もう少し見守っておく。……でも、やっぱり夜に出歩くのは心配だな……できれば、数日は一緒に見守ってくれないか?」
そして、そう言ったマサノリにアミと来人の二人は了解の返事を返す。今日のところは大丈夫だろう、とそう考えて二人はとりあえず探偵事務所へと戻る――。
「やれやれ。仕方ないことだけど、人間は俺たちのことを何だと思ってんだ」
「あはは……自分で仕方ないことだって言ってるじゃない」
――探偵事務所に着いた来人とアミは、ソファーに座りながらひとまずの休憩をしていた。
いや、ひとまずではないか。今日はもう遅い。これから他の依頼を受けることもなければ、どこかに出かけるのにも遅い。アミも来人も、このままここで休むつもりだった。
「あ」
そういえば。
そこで、来人は前々から気になっていたことを思い出した。せっかくだ、この際に聞いてしまおう。そう思った来人は、アミに尋ねる――。
「そういえば、アミ……アミ?」
「すぅ……ふぅ……」
――のだが、アミは一足早く夢の国へと旅立っていた。
いくらなんでも早すぎではないのか。そう思った来人だったが、口には出さない。せっかく眠ったのだ。起こすのも忍びないだろう。
緩やかに眠るアミを視界に収めながら、来人も眠ることにする。目を閉じて、やがてやって来た睡魔に身を任せた。
「っっっ!」
だが、直後にこの部屋に響いたのは、アミの言葉にならない声で――睡魔と戯れていた来人は叩き起された。
「一体何だよ!?」
「え? あれ……ここは……?」
「……? 寝ぼけてるのか?」
挙動不審なアミを訝しみながら、来人はアミの話を聞く。彼女曰く、「ふうかちゃんが危ない!」とのことで、何が何だかわからない。
「落ち着けよ。何があったんだ? 何を見たんだ?」
「えと……えっと」
ゆっくりと来人は聞き出していく。
アミは眠っている間に夢でふうかたちの様子を見たそうで、エレキモンたちを危険と判断した正義感の強そうな警察が、エレキモンたちを追い詰めていたとのこと。
普通ならば、戯言ととって然るべきことだ。だが、アミはそんなことを言う性格ではないことは来人もわかっている。何より、彼の勘はアミの言っていることが現実だと言っていた。
「仕方ない。急ぐぞ」
「うん!」
帰ってきて一時間も経っていないが、来人とアミは上野へととんぼ返りする。
間に合って欲しい一心から急ぎ、上野の公園へとたどり着く――が、先ほどいた場所にふうかはいなかった。ついでに彼女の兄のマサノリもいない。
「すぐ近くにいるはず……ん?」
「今のは……!」
聞こえたのは、甲高い音。アミも来人もそれを聞くのは初めてではなかった。以前はテレビの中で、最近は東京中でよく聞こえるその音は――銃の発砲音。
いよいよまずいことになっているかもしれない。そう考えながらも、来人たちは銃声のした方へ走る。そこにあった光景は――。
「えっちゃん! ぬぅくん!」
「うぅ……」
「あぁ……」
警官に銃を向けられながらも、ふうかを庇うエレキモンとヌメモンの姿だった。
その光景に、来人たちはおおよその事情を察する。おそらく、あの警官はただふうかを守ろうとしているだけだろう。警官にとってデジモンは怪物だから。だがその一方で、ふうかにとってはデジモンは友達だ。
この相互の意識の違いが、この状況を生み出していた。
「っち。これだから、人間は……!」
このままではどうなるかわかったものではない。エレキモンたちだけでなく、ふうかも。舌打ちをしながら、飛び出そうとして――。
「待って来人!」
――それを止めたのは、何とアミだった。
来人を止めた彼女は、明後日の方向を見ている。
「何だよ!」
一体何だというのか。半ば苛立ちながら、来人が聞き返した。
「あれ!」
「……あれ? っ!」
だが、すぐに来人は知る。アミが自分を止めた訳を。
アミの視線の先にいたのは、オレンジ色の片目の鬼――サイクロモンと呼ばれる成熟期デジモンだった。目を血走らせていて、その片方しかない視線の先にはふうかたちを捉えている。
「このままじゃふうかちゃんたちが……!」
「仕方ない。アイツは俺が何とかする。お前はあっちを何とかしろ!」
さすがに、獲物を狙うかのような血走った目をしているサイクロモンをふうかたちに近づける訳にもいかない。来人はサイクロモンめがけて駆け出した。
一方で、この場に残ったアミは、来人に言われたようにふうかたちを何とかしようとそちらを向いて――。
「おらぁあああ! 俺の妹とその友達に何してるんだぁ!」
「わ、お兄ちゃん!?」
「き、君っ。危ないぞ!」
「危ないのはアンタだろう! 子供に銃を向けて怖がらせて! ふざけるな!」
――アミが見たものは、どこからか現れたマサノリが、ふうかたちを庇って警官を追い払っている光景だった。
マサノリの勢いに圧倒されたのだろう。アミの見ている前で、警官はすたこらと逃げていく。それだけマサノリの気迫は凄かった。完全体デジモンにも引けを取らないほどだ。
「お、お兄ちゃん……あの、この……その……」
「ふうか……心配させるなよぉ」
「ごめんなさいっ」
大人に歯向かったのだ。やはり怖かったのだろう。涙ながらにふうかは兄に駆け寄っていた。
「ねぇねぇ、その人ふうかのお兄さんー?」
「……うん。マサお兄ちゃ……そういえば、何でここにいるの?」
「何でって……ふうかのことが心配だったからに決まってるだろ!」
「……! ありがとっ」
「お兄さん、かっこよかったぜ!」
「うん、かっこよかった!」
「お、そうか……? へへ……」
傍から見ていたアミは、そんな光景に静かに微笑む。
アミの出る幕はなかったが、ちゃんと事態は解決した。いや、むしろでなくてよかったかもしれない。彼女が出張っていれば、こういう結末ではなかったかもしれないのだから。
「……ま、結果オーライってことだな」
「来人! あれ、あのデジモンは?」
「適当に小突いたら泣きながらどっかに消えた」
もう自分たちは必要ないだろう。そう考えたアミは、いつの間にか自分の傍に来ていた来人と笑い合いながら、事務所へと帰り始める。
ちなみに、この一時間後に――明日からは自分がふうかに付き添うため、依頼達成にしてくれ。そんな旨の文が感謝の言葉と依頼金と共に事務所のパソコンに届けられたのだが、それはほんの余談である。
「そういえば……夢で見たって言ったな。お前、今度は超能力に目覚めたのか?」
「そんなわけないでしょ。……今更な気もするけどね」
自身の境遇とコネクトジャンプという力のことを思い出して、アミは苦笑する。
「……大丈夫なんだよな?」
「……? 大丈夫だよ?」
一方で、来人だけは不穏な空気を感じていたのだった。
というわけで、第五十七話。
まあ、読んでいただいたのでおわかりだとは思いますが……ほとんど原作と変わらないので、さっさと投稿しました。
違うのは、お兄さんに活躍の場を持たせたこと、サイクロモンの出番がなくなったこと、原作主人公であるアミの出番もなくなったこと――これくらいですね。
……こう書くと結構違う気がしますね。
それでは次回もよろしくお願いします。