【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
ある日のことだった。
「うん……うん……わかった。すぐ行くね」
いつものように事務所にいたアミは、ノキアからの連絡を受けた。何やら相談したいことがあるようで、今から来るとのこと。
彼女らしからぬ元気のない様子が気になったが――いずれわかるだろう、とアミは意識を切り替える。
「というわけで、今からノキアが来るよ」
「どういうわけだよ。って、ノキアが?」
「なんか相談があるみたい」
アミはソファーに座っている来人に話しかける。来人は「了解」と短く呟いた。
「それで……だから……ねぇ?」
まるで自分の言いたいことを察しろとばかりに、アミは言葉を濁す。その視線は来人――ではなく彼の膝、より正確に言えば彼の膝に乗っている人物に向けられていた。
「……ああ、そうか。ま、仕事の話だしな」
「えー……」
訳がわかったような顔で頷く来人と対照的に、抗議の声を上げたのは――。
「ま、ゴメンな。今日はここまでだ」
「うん……わかった。らいとお兄ちゃん……ばいばい」
――ひなだった。
あれからちょくちょく遊びに来るようになっている彼女である。とはいえ、
「……このロリコン」
「お前さ、最近なんなの?」
後に残ったのは、相変わらず厳しい目をしているアミと呆れた様子の来人だけである。
ともあれ、そんなこんなでひなが帰ってから数十分後。
「やっほー! ……やっほ」
ノキアがやって来た。オメガモンはデジヴァイスの中にいるようで、姿が見えない。
「落ち込んでいるようだけど……どうかしたの?」
アミがそう聞く。
ノキアは、彼女らしからぬ暗い顔をしていた。
「あ、うん……まあ、落ち込んでる……のかな。少し行き詰まりを感じちゃったってゆーか。壁にぶつかったってゆーか……」
「行き詰まり?」
来人とアミは顔を見合わせた。
あの常時暴走ガールで、多少の壁なら玉砕覚悟で粉砕するノキアがこうなるのだ。よほどの壁にぶつかったのだろう。
「あれ、あの……ナントカ計画がアレしてから、デジモンと人間のトラブルがゾクシュツしててさー」
「ああ……それは」
「まあ……」
アミと来人は脳裏に思い描いた。
数日前のひなの件もふうかの件も、それに類するもの。そして、あれも氷山の一角で、似たようなことがそこら中で起きているのが今の世の中。
ノキアはそんな現状を何とかするために活動していたはずだ。
「その被害がどんどん大きくなって……ニュースなんて被害総額ウン億円とか言ってるしー?」
「ノキア、ニュース見るんだ」
「あたしだって、それくらい見るわよっ!」
アミの呟きに、恥ずかしそうに返したノキア。ちなみに言えば、彼女は普段ニュースを見ないタイプの人間である。
「と、ともかく……このままだとトンデモないことになりそーだし……何とかしなきゃなんだけど」
「そこで壁にぶち当たったのか?」
「うん。恥ずかしい話、今のリベリオンズじゃ、デジモンたちを保護するので精一杯でさ」
それは仕方のないことだろう。アミも来人も、口には出さずとも内心ではそう思っている。元々、リベリオンズは大きな組織ではない。できることなど限られている。
それに今のデジモンたちを保護しているという活動をしているだけでも、人間とデジモンの双方にとって、十分ありがたいことだ。
まあ、それで満足せず、自分を信じてさらなる行動を起こそうとする辺り、ノキア“らしい”のだが。
「これ以上被害が増える前に、保護したコたちをデジタルワールドに返してあげたかった、んだけど……」
萎んでいくノキアの言葉に、来人たちは思い出した。
今、デジタルワールドがどういう状況にあるのか、オメガモンが何と言っていたかを。
『そうだ。我々の故郷はイーターたちに食い荒らされてもうどこにもない』
ノキアのデジヴァイスから、オメガモンが声を上げる。
『イリアスなど他のデジタルワールドは無事の可能性が高いが……』
「あー……」
思わず来人は唸った。
確かに、オメガモンたちのデジタルワールド以外のデジタルワールドに避難するという手は有効かもしれない。が、残念ながら未だカミサマは目覚めていない。その案についての是非は聞けそうになかった。
「っていうか、そんなに複数のデジタルワールド間って行き来できるものなのか?」
『環境と運さえ合えば誰でも……力と知識がある者ならば、単独でも行き来できるはずだ。よほどのことがない限りはしないと思うが……』
ちなみに、オメガモンの言う力と知識がある者というのは、ロイヤルナイツクラスの存在だったりする。つまり、普通は簡単に行き来できるものではないということだ。
『しかし、予想はしていたが無理だったか……』
残念な感情を隠さずに、オメガモンは言う。
少しだけ期待していたのだ。せめて保護したデジモンくらいは、と。
さすがに無許可で多くのデジモンたちを送れば、世界間の軋轢は免れない。下手をすれば、送ったデジモンたちが悲惨な目に遭う可能性さえある。だからこそ、カミサマの許可が欲しかった。世界の守護者たるカミサマの許可さえあれば別だからだ。
まあ、所詮は希望に過ぎなかったのだが。
「あたしね……上から下まで全部まるっと収まると思ってたんだ。デジモンたちを保護して元の世界に帰してあげれば……でも、デジタルワールドがそんな状態じゃ……だけど、ここにいても傷ついちゃうし……」
どうすればいいか。そんなものは来人にもアミにもわからなかった。
デジタルワールドに送り返すのはダメ。かといって、こちらの世界に留まらせるのも危ない。他のデジタルワールドならどうかといえば、やはり不安が残る――八方塞がりだった。
「そしたら、オメガモンが言ってくれたの。他のロイヤルナイツを探そうって!」
ノキアの言葉に、アミと来人は驚いた。
『次元の扉が開いた時、他のロイヤルナイツたちはこちらの世界へと移動したはずだ。この東京か、EDEN……そのどちらかにいるはず。彼らを探し出し……説得する』
「上手くいけば味方になってくれる……?」
アミの呆然としたような、それでいて希望のこもった呟きに、オメガモンとノキアが力強く頷いた。
『人間を滅ぼそうとしている連中は困難だとしても、それ以外のメンバーは未だ迷い、大局を見ている。そういった者たちを味方につける』
「そうすればあたしたちの話を聞いてくれるデジモンも増えるし、その逆も然りって感じになるぅ!」
『そうすれば、混乱は収束していくはずだ』
「というわけで、ロイヤルナイツを探そっ!」
ノキアとオメガモンの提案を断る理由はない。アミも来人も力強く頷いた。
そんなアミたちの姿に、ノキアは嬉しそうに頷いた。どうやら、彼女らしい元気が戻ってきたようだ。
『では、まずは私が気配を探ろう』
「え? そんなこともできるの!?」
ノキアが驚いた表情を見せた。どうやら、気配云々のことは聞いていなかったらしい。
『我らロイヤルナイツのデータは膨大だ。意図的に隠さない限り、見当をつけることはできる』
少しだけ得意げに言うオメガモン。
だが、そんな彼は、ノキアの「ならさいしょからそーすればいいのに! っとか思ってもないし、言わないよ」という言葉によってへこまされた。
傍から見ていて、少しだけ不憫に思えてしまった来人たちである。
ともあれ、そんな来人たちは早速外に出て、オメガモンに現実世界に出てきてもらう。オメガモンは何かを探るように少し目を閉じていた。
「これは……向こうの方角だ」
「向こう……秋葉原の方?」
「そのようだな。デュークモンの気配がする。すぐに向かおう」
いつまでも同じ場所に留まっているとは限らない。
だからこそ、来人たちは少し急ぎ目に走り出した。が、そんな彼らは気づかなかった。
「問題は……
オメガモンがそう呟いたことを。
彼は気づいたのだ。先ほど気配を探った時、ロイヤルナイツに匹敵する、されどロイヤルナイツではない何者かの強大な気配が二つあったことに。
道を行き、走る。
「近いぞ……!」
オメガモンが言う。
そうして、曲がり角を曲がった時、来人たちの視界に飛び込んできたのは獅子のような騎士だった。
「あれが……デュークモン?」
見るからに騎士然としたそのデジモンの姿を前に、アミが呟く。
オメガモンの言うことが確かならば、この場にいるのはデュークモンのはずだ。
「っ! ドゥフトモン……!」
だが、オメガモンが驚きの表情で告げた名は別の名で――驚いている彼の様子からも、ドゥフトモンと呼ばれたデジモンがここにいたことは予想外だったようだった。
「滑稽な姿だな。オメガモン。いつから貴様は引率の教師となったのだ? 最後の聖騎士の名が泣いているぞ? それとも貴様はロイヤルナイツとしての誇りを捨てたか?」
ドゥフトモンは刺のある言葉で言い放つ。そこには静かな感情しか込められていないというのに、その低い声も相まって、予想以上に威圧感があった。
そんなドゥフトモンに圧されながらも、ノキアは声を上げる。「ロイヤルナイツなら、説得しなきゃ」と。
そんなノキアの言葉がドゥフトモンにはツボに入ったようで――。
「ふふっフハハハハァ!」
――おかしいことしかないとばかりに、大声で笑い始めた。
「な、何がおかしいのっ!?」
「オカシイに決まっている。オメガモン、そのような甘い戯言を言う人間に加担するとは……貴様、我らの考えに背くつもりだな?」
「ドゥフトモン、お前はイグドラシルの意思を自分の都合の良いように曲解しているだけに過ぎない」
「曲解しているのは貴様だ、オメガモン。どう解釈すれば、そのような人間に加担するとくだらない解釈が出てくる」
睨み合うオメガモンとドゥフトモン。そんな彼らの姿を前に、アミも来人も――ノキアですら、声を上げることができなかった。
まるで雰囲気が物理的な圧力を持っているかのようだった。
「やはり貴様とは意見が合わぬか……すべては我らが世界を救うためだ! 貴様はここで排除する……!」
ドゥフトモンがそう言った瞬間だった。その瞬間に、何者かが高速でこの場に降り立つ。
オメガモンは顔を険しくした。その何者かの正体がわかったからこそ。
「っ! デュナスモン……!」
思わず、オメガモンが呟いた。
現れたのは、白銀の鎧に竜人のような姿のデジモン。デュナスモンという名のロイヤルナイツの一人だった。
現れた状況、そしてタイミングからして、彼がどちら側であるかなど言うまでもないことだ。オメガモンは顔を険しくした。
「すべては計画通りに進んでいる。邪魔をさせはしない」
デュナスモンとドゥフトモンがオメガモンを睨む。
いかにオメガモンが強かろうと、同じロイヤルナイツ二人を相手取ることができるレベルではない。始まりそうな戦いの気配を前に――。
「ちょっと待ってよ! あんたもオメガモンの仲間なんでしょ!? どうして仲間同士で戦う必要があるの!?」
「ノキアの言う通りだよ! みんなが助かる道を私たちが見つけてみせるから……!」
――堪らず、ノキアとアミが声を上げた。
この物理的な圧力さえ感じる雰囲気の中、声を上げるのは並大抵のことではない。それでも、彼女たちは声を上げた。自分たち自身に誓うように、彼らに信じてもらえるように。
「人間風情が……それ以上、その醜い口で戯言をさえずるなら命はないと思え」
「デジモンとか人間とか関係ないでしょ!」
そう言ったアミの視線は、来人の方を向いていた。
続けて、ノキアが言う。
「あたしたちはもっとわかり合えるはずだよ。人間とデジモンは一緒に生きていける!」
ノキアはそう言い切った。
その視線はオメガモンの方を向いている。彼女にとって、自分たちの存在そのものが自分の言葉の証明だった。
「……死に急ぐか。小娘共が。よかろう。ならば、裏切り者共々始末してやる……!」
忌々しげにドゥフトモンが呟き、構える。同時に、デュナスモンも構えた。
そんな彼らの姿を前に、オメガモンと来人は構え、アミはデジヴァイスからデジモンを出そうとして――。
「ドゥフトモン! デュナスモン! ここは引けっ!」
――その瞬間、空から降ってきた槍が来人たちとドゥフトモンたちの間に突き刺さる。まるで、二つの陣営をわけるかのように。
この場の全員が一斉にそれを為した者の方を向く。そこにいたのは白い鎧に赤いマントで、左腕に大きな盾を装備した騎士。
彼こそが、オメガモンが初めに気配を感じた――ロイヤルナイツ、デュークモンだった。
「デュークモン! 何のつもりだ?」
「その娘たちの言うことにも一理あると思っただけのこと」
娘たち。それが自分たちのことを指すとわかって、アミとノキアは嬉しくなった。自分たちの言葉で、ロイヤルナイツの一人を動かせたからだ。であれば、次もきっと。一回の成功は、次への活力となる。
一方で、デュークモンの登場にドゥフトモンたちは苦い顔をしていた。
「……いいだろう。ロイヤルナイツ同士で戦うのは消耗が激しい。今はまだその時ではない。……それに、あまり刺激して眠れる主神に起きられても面倒だ」
そう言った彼らは飛び去っていく。
最後に、「我らの計画は止まることがない」とそれだけを言い残して。
というわけで、第五十八話。
そろそろ話が動き始めますね。
ほのぼの(?)な時間はそろそろ終わりです。
ええ、まだ少しありますが。
それでは次回もよろしくお願いします。