【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第五十九話~近づいてくるナニカ~

 デュークモンやドゥフトモンたちの邂逅の翌日。

 来人は暮海探偵事務所のソファーに寝転がっていた。

 

「依頼が来たから行くよ。……来人ー?」

「……」

 

 アミの声かけにも、ボーッと考え込んでいた来人は答えない。

 話を聞かない来人に少し苛立つ。が、来人は来人で何かあるのだろう。そう思ったアミは迷ったものの――。

 

「それじゃ、私行ってくるからね?」

 

 ――書き置きだけ残して一人依頼へと向かっていった。

 そんな彼女にも気づかず、来人はぼんやりと考え込んでいる。

 

「……」

 

 彼が思い出しているのは、昨日の最後のことだ。

 昨日、別れ際にデュークモンは言った。「イーター発生の原因たる人間に対してのドゥフトモンたちの怒り、そして憎しみは計り知れないものがある」と。

 その言葉と共に思い起こすは、数日前に自分を襲ってきた復讐者のこと。彼もまた、計り知れない憎しみをもって自分を襲ってきた。

 

「……」

 

 デュークモンは最後に言っていた。「私も人間を知るところから始める」と。

 ドゥフトモンたちと同じく人間について良い思いをしていないだろうデュークモンでさえ、人間を知ろうとしてくれているのだ。

 ならば、タイタモンも――。

 

「いや、そんなわけないか」

 

 ――そこまで考えて、来人は首を振った。それはありえないと。

 第一、タイタモンが自分やカミサマのことを知ったから、カミサマに対する復讐を止めてくれるか。答えは否だ。テコでも動かないドロドロとした意思の強さを、来人はもう思い知っている。

 来人は思うのだ。ロイヤルナイツも同じではないか、と。彼らは故郷を、同族を失っているのだ。その憎しみは軽くない。迷いがある。けれど、憎しみもある。そんな相手を本当に説得できるのか、と。

 

「デュークモンは確かに説得に応じてくれた……けど」

 

 「味方になったわけじゃない」と来人はそう呟いた。

 そうなのだ。デュークモンは人間を知るところからはじめるという。それはつまり、知った上で人間を悪と断じたのならば――ようするに、未だデュークモンは中立のままだ。今のところはこちらよりなのは間違いないだろうが。

 

「……はぁ」

 

 考えても、答えは出ない。

 オメガモンはノキアを買っている。来人も、彼女の真っ直ぐさはアミと並んで感じるものがある。アミとノキアの二人ならば、ひょっとすればやってくれると思わないわけでもない。

 それでも、いろいろと悪い方のことを考えてしまう。

 まあ、とどのつまりは――。

 

「アミ、大丈夫か?」

 

 ――これからもロイヤルナイツを説得して回るだろうアミのことが心配ですよ、というだけの話だったりするのだが。

 まあ、彼が実際に心配すべきなのはアミよりも自分の身である。なにせ、タイタモンというロイヤルナイツに匹敵するだろう猛者につき狙われているのだから。

 

「……どうするかな」

 

 言っても、答えは出ない。

 今のままだと確実に殺される。だが、今以上、つまり完全体のその先に至るのは不可能だと感じている。正確に言えば、不可能ではないのかもしれないが――ともあれ、目の前の壁の大きさに悩ましい来人だった。

 時間だけが無為に過ぎていく。天井を見つめて、ぼんやりとする来人は――。

 

「らいとお兄ちゃん難しい顔してる」

「っ!?」

 

 ――直後、自分の目を見つめてきたひなの存在に驚愕の声を上げた。

 いつからいたのか、気づかなかった来人は驚くしかない。

 

「ひな、いつから!?」

「え? さっきからいたよ? らいとお兄ちゃんぼーっとしてて、いくら呼んでも返事してくれないんだもん!」

 

 頬を膨らませてむくれるひなに、来人は自分がどれだけ上の空だったかを悟る。ついでに、アミがいないことにも今気づいた。

 

「そ、そうか……悪い。考え事してた。今日も遊びに来たのか?」

「うん! 今日はお姉ちゃんもいないみたいだし……!」

 

 ひなは持ってきたカバンを漁りながら、アミがいないことに嬉しそうにする。

 来人はそんな彼女に苦笑した。ひなもアミも、そこまで仲が悪いというわけではない。が、なぜかお互いに牽制し合っているかのような、そんな雰囲気があるのだ。

 

「ご本いっしょに読も!」

「ん、まあ、いいよ」

 

 気分転換にもなるからな。そう思った来人は、ひながカバンから取り出した本を受け取る。

 一方で、来人に本を渡したひなは、そのまま定位置である彼の膝の上にちょこんと座った。

 

「えっと題名は……鬼太郎? ゲゲゲか?」

「あのね、おにたろうは今人気なんだよ!」

「ああ、“きたろう”じゃなくて、“おにたろう”か……」

 

 見知らぬ題名の本の存在に、来人は年甲斐にもなく興味が惹かれた。機械音痴な彼にとって、最近のやたらと高度なゲームやら何やらにはついて行けないこともあり、本はトップクラスの娯楽だ。

 ひなと一緒に本を読むようになった彼は、こういった幼子向けの本も意外にも馬鹿にできない面白さがあると知った。まあ、結局は幼子向けというだけあって、やはり少し物足りない部分もあるのだが。

 

「早く早く!」

「わかったわかった」

 

 せがんでくるひなに苦笑して、来人は本を音読し始める。

 そうして、穏やかなまでの緩やかな時間が過ぎていくのだった。

 ちなみに、アミにこの現場を見られることがあれば、彼はいつもの冷たい目でいつものように罵られることになるのだが、それはほんの余談である。

 ついでにその際、ひなにその罵声の意味を聞かれた彼が少し困るのだが、それは未来にありうる余談である。またその際にずいぶんとマイルドにその意味を知った彼女は、なぜか純粋な瞳で嬉しそうにするのだが、それもやっぱり余談である。

 

 

 

 

 

 来人とひなが穏やかな時間を過ごしていたその頃のこと。

 東京の一角、悠子が捕まっていたあの地下施設に――。

 

「もうすぐですよ。頑張ってください」

「あ、ああ……すまないね」

「あっ……ほら、見えましたよ」

 

 ――アミの姿はあった。

 アミだけではなく、悠子も一緒だ。彼女たちは見慣れぬ中年男性を連れて歩いている。

 

「あれが……」

「山科さん、大丈夫ですか?」

「ああ、なんとかね……」

 

 悠子に山科と呼ばれた彼は、以前アミは依頼で出会ったことのある人物だ。

 なぜアミたちがここに来たのか。それは今回の依頼に関係する。

 

 今回の依頼人は山科の娘。様子がおかしくて病院に入院してしまった父親を調査してくれと言う依頼だった。アミは途中に偶然会った悠子と共に、山科に接触した――のだが、彼は錯乱した様子だった。それでも何とか彼を落ち着けると、今度は忘れていた何かを思い出すためにも、この地下施設に連れてきてくれと言う始末。

 アミたちは悩んだが、彼のただならぬ様子を目にして、仕方なくここまで連れてきたのだ。

 

 そんなわけで、ここへ来たとはいえ、ここはアミにとっても、悠子にとっても、忘れがたい場所だ。できれば、あまり長居したい場所ではなかった。

 おまけに、以前カミサマが開けた大穴が残ったまま。いつ崩れてもおかしくない場所である。

 

「……早く用事を済ませましょう」

「そうだね。山科さ――っ」

 

 地下施設にたどり着いたアミたちだが、そんな彼女たちは気づいた。

 未だよく見えないが、この場に誰かがいることに。大きさからして人間ではない。デジモンだろう。しかも、見る限りのシルエットは人型。

 アミたちは嫌な予感がした。この施設にいて、さらに人型のデジモン。それはこの施設を使って企みを成功させたあのデジモンか、それかその仲間か。

 

「まさかロイヤルナイツ……?」

 

 想定外の事態に冷や汗をかきながら、アミは呟いた。それは隣にいた悠子たちにギリギリ聞こえるか聞こえないかの小さなものだったが――。

 

「私をあの野蛮騎士共と一緒にするなんて……人間はずいぶんと身の程知らずなのね?」

 

 ――相手にはバッチリ聞こえたようである。

 聞こえてきた声は、不服そうな、それでいて不機嫌そうな声。だが、それでもはっきりとわかるほど、聞き惚れてしまうかのような美声だった。

 

「す、すいません……」

「わかればいいのよ」

 

 思わずといった風に謝ったアミ。

 その相手はだんだんと近づいてくる。やがて、その姿が顕となって――。

 

「っ」

「……!」

「ぉお……」

 

 ――そのあまりの美しさに、アミたちは目を奪われた。

 現れたのは女神だった。比喩でも冗談でもなく、本当にそう言っても過言ではないほどの美しさを持つ者だった。

 

「ねぇ、アナタたち。私の旦那様を知らないかしら? ユピテルモンという名前のお方なのだけれど……どうやらここにいたようなのよね……」

「い、いえっ」

「そう……」

 

 女神は残念そうに言う。女神にはアミの言葉に嘘のないことはわかった。

 そして、だからこそ、女神は気づけなかった。ユピテルモンという名前を知らないだけで、実際には彼女たちはそのデジモンを知っているということに。

 

「はぁ……」

 

 残念そうに溜息を吐くその姿でさえ、アミたちには美しく感じる。自分たちとは違う何かがそこにはあった。

 

「あら……?」

 

 そんな女神は何かに気づいたようにアミに顔を近づける。すんすんと鼻を鳴らしているところから、アミの匂いを嗅いでいるようだ。

 

「え、え……?」

 

 アミは混乱のままに固まった。

 まあ、同性であるアミでさえ美しいと感じる女神の美貌を近づけられたのだ。そうなるのも仕方のないことかもしれない。

 

「……」

「……」

 

 突然の事態に、外から見ていた悠子も山科も、その光景に耳まで顔を赤くしてしまう。とはいえ、それでもしっかりと一瞬一瞬を逃さぬように目に焼き付けているのだが。

 

「アナタ……」

「は、はいっ!」

 

 混乱のままに、アミは生返事をした。

 心地良い美声に、麗しい美貌。女神の存在そのものによって、アミは頭がクラクラと揺れる。熱暴走しそうなほど、そのぼんやりとした頭のままで――。

 

「あのお方の匂いがするわ。知らないというのは本当でしょうけど……もし、あのお方に()()()()()()のなら、コロスワヨ?」

「っっっっ!」

 

 ――次の瞬間に聞こえてきた声に、アミは一気に心臓が止まりそうになった。

 冷水をかけられたどころではない。ほんの一瞬だけ溢れた嫉妬と憎悪の殺意が、アミを先ほどまでとは別の意味で固まらせる。

 

「……」

 

 そうして、固まったアミを放っておいて、女神は天井の大穴からこの施設を出て行って――施設から出た女神はそのまま東京の上空に行き、街を見下ろす。

 

「さて、ユピテルモン様……どこにいらっしゃるのかしら。()()どこぞの愚女に手を出していらっしゃるのかしら? オホホホ」

 

 上品そうな笑い声は、聞く者すべてを魅了しそうなほど美しい声だった。

 だが、彼女の美しさに惑わされない者は気づくだろう。そこに洒落にならない複雑な感情が込められていることに。

 そして、その者はこの場にいた。

 

「はッはァッ! 見つけたぜェ! オリンポス十二神!」

 

 復讐に狂う巨神が。

 見れば、彼は()()()()()()()。空を飛ぶことはできないはずの彼は、地面を蹴り、その反動で空を跳んだのだ。なんというデタラメである。

 だが、そんな巨神の姿を見ても――。

 

「あら……? ふぅん? 悪いけど、アナタの相手をしている暇はないの。もしかしたら、アナタのような悪よりも先に始末しなければならない愚女がいるかもしれないのだから」

 

 ――女神はただ面倒そうなだけだった。

 女神にとって、最優先事項は自分の夫のこと。それ以外はすべて些事。だからこそ、女神は巨神を躱し――そしてこの場から消えた。

 

「ッちィ! 逃げるなァ!」

 

 後に残ったのは、重力に引かれて落ちていく巨神だけである。

 




何が、とは言いませんがジリジリと近づいてきています。そんな第五十九話です。
ヤンデレ様再登場。
こうやってジリジリと近づいてきて最後に、お前の後ろだァァァァ! っと来るわけですね。
怪談っぽいですが、実際にヤンデレは怪談です。

ちなみに、このヤンデレ。
“手を出した”ではなく、“手を出された”と言っているのがミソです。誰がとは言いませんが、可哀想に。

あ、アミたちはこの後、しっかりと山科さんの――記憶を“奪われていた”という事実を確認しました。


それでは次回もよろしくお願いします。
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