【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
いろいろな意味で身の危険を感じる来人。そんな彼の目の前には、赤い恐竜が迫り来ていた。
「ちょっ! タンマっ!」
「誰が待つかぁああああ!」
「おぉっ! いいぞ! やっちまえ!」
自分と同じサイズの恐竜が襲い来る。そんな非日常的な体験など、来人はしたことがない。ようするに、ちょっとビビってしまったのだ。
涎の覗く口内が地味に怖い。ついでに言えば、襲い来るその腕の爪が地味に痛い。
来人は早くも劣勢に追い込まれていた。
「カミサマなんかねぇの!?」
『……はぁ』
「呆れたような声じゃなくて!」
『平和な暮らしをしていた貴様の初めての実戦だ。そうなるのはわかるが、少し焦りすぎだ』
そんなことを言われても、と。半ば理不尽な感情を来人はカミサマに抱いた。
先ほどのトレーニング程度で戦えるようになるはずもない。こと戦いに関して、来人は素人だ。今だって、攻撃の躱し方がわからず、相手の攻撃はゴロゴロとみっともなく転がって躱しているくらいである。
そんな状況で、身の危険を感じる実戦。これが焦らずにいられようかという話である。
『貴様は阿呆か? 身の危険がない戦いなどない』
「ぐっ……」
『それに、我と話しながらなど……ずいぶんと余裕なのだな』
「そんなわけあるか! ってまた掠った!」
ちなみに言えば、来人がカミサマと話していられるのは、余裕があるからではなく、回避しかしていないためである。
体力の消費など考えなしに、逐一相手から離れた場所を保持するように動く。そうして生まれた間で、来人はカミサマと話しているのだ。
まあ、それでも相手の攻撃が掠っている辺り、来人はまだまだとしか言いようがないのだが。
『仕方ない。いいかよく聞け』
「なんでもいいから早く!」
『……まぁいい。相手を見ろ。運動性能では負けてはおらぬのだ。相手を見て探せ。隙を。チャンスを。勝機を』
「そんなことを言っても……!」
『やるしかないだろう。それとも、ここで終わりたいのか?』
馬鹿にしたかのような、カミサマのその言葉。
そういう言い方をするのはずるいんじゃないか、と。来人はそんなことを思う。ここで終わりたいか。答えは当然ノーだ。
ならば、来人のすることなど限られる。
「おっ。いい加減にやる気になったか! よっしゃ! ティラノモン! 殺さない程度にボロボロにしてやれ! レアキャラコンプすっぞ!」
「おお!」
男にティラノモンと呼ばれた恐竜が、吠える。男の言葉に気合が入ったのだろう。その目は、先程にも増してやる気に満ち溢れていた。
ティラノモンのその凶爪が、来人を狙う。
「おらぁっ!」
「っく……この……!」
迫る凶爪。対する来人は、相も変わらずのみっともない躱し方だった。
ゴロゴロと転がって、すぐさま起き上がる来人。そんな彼は、疲れも痛みも無視して、ただひたすらに集中する。カミサマの言う通り、それを見つけるために。
再度、振り抜かれるティラノモンの凶爪。まるで先ほどの焼き回しのように、だが、先ほどよりも一瞬早く、それを来人は躱した。
「はっ……っく……不思議だな」
「アァ? 何笑ってやがる。こいつMか?」
「んなわけあるか!」
三度、ティラノモンの凶爪が来人を狙う。
前より迫り来る凶爪。来人はそれを――その場に
『ほう!』
「なっ!」
感嘆したかのようなカミサマの声と驚愕したかのような男の声。
だが、誰よりも驚いているのは、攻撃を躱された当のティラノモンだろう。今までとは全く違う躱し方をしてきたことに加えて、いきなり相手が
そう。来人が急に姿勢を低くしたせいで、至近距離にいたティラノモンは彼を見失ってしまったのだ。
「バカっ! 下だ!」
聞こえてくる自分の主の声に、ティラノモンはハッと気づいて下を見る。が、すべては遅かった。
その時には、来人は攻撃準備を整えていたのだから。
「くらえっ!」
しゃがんだ状態から、一気に来人は立ち上がる。
来人とティラノモンの背丈は同程度。つまり、立ち上がった来人の先には、ティラノモンの頭があって――それの意味するところはつまり、頭と頭がごっつんこ、ということだ。
「がっ!」
「ぐっ……!」
頭突きという選択をしたのは自分だが、予想以上の痛みに頭を抑える来人。
とはいえ、それ以上に痛いのはティラノモンだろう。今の来人はアイギオモンというデジモンで、ついでに言えば頭に角がある。その角がモロに突き刺さったのだ。痛いという問題ではない。
そういう意味では、来人のした頭突きという選択は、良い選択だったと言える。
「ぐぁあああああ!」
「はっ……! ざまあみろ!」
痛みに悶えるティラノモン。その姿を前に、来人は胸がすく思いだった。
良い一撃を当てることができ、さらに痛みに悶えるティラノモンの姿を見られたからだろう。来人は完全にその気になっていた。勝った、と。
『はぁ。馬鹿者め』
「は? カミサマ、それどういう……っ!?」
だが、そんな甘い訳もなく。
カミサマの呆れたような声に疑問を覚えた来人は、次の瞬間にハッと何かに気づいて、勘のままにその場を飛びずさった。
一瞬後、そこを通り過ぎたのは、炎だった。その場から離れた来人でさえ熱を感じるほど高温の、真紅の炎。
それを放ったのは、言うまでもない。ティラノモンで――それに気づいた来人は、驚愕するしかなかった。
「うぇっ、ちょ、おい! なんで火を吹けるんだよ! これじゃまるで怪獣映画の怪獣じゃねぇか!」
『……? 何を言っている。ティラノモンとはそういう種だ。当然だろう』
「そこでさも当たり前かのように言うなよ! カミサマにとっては当たり前でも、俺にとっては当たり前じゃねぇんだよ!」
ティラノモンは真紅の炎を口から吐き出し続けている。
しつこいくらいに自分を狙って来るその炎を、来人は走って躱し続ける。炎は単発的ではなく、連続的に放たれ続けている。だからこそ、体勢を立て直す際に隙ができるような躱し方はしない。いや、できなかった。
炎は、たっぷり十秒間は続いただろうか。来人にとって、間違いなく人生で一番長い十秒間だった。
「はっ……はっ……なんなんだよ……!」
炎が止まった現状をこれ幸いにと、来人は荒れた息を整える。
だが、荒れた息をしていたのは、来人だけではなかった。
「ふー……ふー……!」
敵であるティラノモンも同様にして、息が荒れていたのだ。それは、怒りから来るものでは決してない。疲れからくる荒れ方だった。
はて、と。そんなティラノモンの姿に、来人は首を傾げる。だが、来人が内心の疑問を解決するよりも早く――。
「おいおい! 何やってんだよ役立たず! せっかくのレアキャラなんだぞ! 逃がすようなことしてんじゃねぇよぉ!」
苛立ったかのような男の声が、辺りに響いた。
「う、うぉおおおお!」
そして、そんな男の声に従うように、ティラノモンは来人を狙って再び動き始める。が、何と言うか、遅い。先ほどに比べてずっと。
それが、疲労状態から来るものであることに来人は何となく気づいて、だからこそ、先ほどよりも余裕を持つことができ始めていた。疲れているのは自分だけではないのだ、相手も自分と同じ生き物であるのだ、と。
余裕を持てたからだろうか。心なしか、先ほどに比べて、来人はティラノモンの攻撃を躱せるようになっていた。
これなら行ける、と。そう思った来人は見た。口から真紅の火の粉が溢れるティラノモンの姿を。勘に頼るまでもなく、来人は気づいた。またあの炎が来る、と。
「っ。どうすれば……!」
来人にあの炎に対する有効打はない。だからこそ、来人は一瞬悩んで――さすがにこれ以上を来人に任せるのはキツイと思ったのだろう。カミサマが、助け舟を出す。
『ティラノモンの必殺技である“ファイアーブレス”は文字通りブレスだ。ブレス……つまりは息。
「いろいろと気になる単語があったけど……なるほどな」
『あとは貴様次第だ』
「わかってるよ!」
このままジリ貧に陥って負けるくらいなら、多少の賭けに挑んで勝つことを選ぶ。
カミサマからヒントを貰って、来人は決めた。その選択をする覚悟を。
一瞬後、来人の目の前で、ティラノモンは口を大きく開けて――。
「“ファイアーブレス”!」
――放たれたのは、真紅の炎。
それを、来人は先ほどと同じように走って躱し続ける。これで終わりにすることを考えているからこそ、来人は全力だった。すべてを出し切るつもりで、ただひたすらに躱し続けていた。
炎が続いたのは、九秒間。だが、実際には七秒目辺りから、炎の勢いは弱くなり始めていた。
「っ! 今だっ!」
七秒目を超えて、炎の勢いが衰え始めたその時から、来人の賭けは始まった。数秒後には炎が消えることを信じて、彼は炎に突っ込む。
「なっ!」
「……!」
まさか自分から炎に突っ込んでくるとは思わなかったらしい。遠目に戦いを見守る男と炎を吐くティラノモンの驚愕した気配が辺りに漂った。
とはいえ、男にできることはないし、炎を吐くティラノモンも
消えていく炎。来人は賭けに勝ったのだ。
完全に炎が消え、息が切れて疲労を露わにするティラノモン。そんなティラノモンに向かって来人は。
「これで俺の勝ちだっ!」
全力疾走の勢いを乗せた飛び蹴りを繰り出した。
ティラノモンに、それを躱す術はない。
「ぐぉっ」
苦しそうな声がティラノモンの口から吐き出された。そのまま、静かにその場に倒れ込む。
正真正銘、今度こそ来人の勝ちが決定した瞬間だった。
「はぁっ!? 負けてんじゃねぇよ! 役立たず!」
悪態をつきながら男は何か端末を操作して、その直後にティラノモンの姿が消える。
一体あの男が何をしたのか。来人にはよくわからなかった。
まあ、わからなかったのは来人だけで、カミサマにはわかったようだったが。
『どうやら、あの端末の中にデジモンを収納したらしいな』
「えっ……そんなことできるんだ……」
カミサマから教えられた事実に驚きながらも、そんな便利機能に感嘆する来人。
そんな彼の目の前で――。
「覚えとけよ……絶対に俺が捕まえてやるからな!」
――負け惜しみのようなセリフを吐いて、あの男は走り去った。
その後ろ姿を見ながらも、来人はホッと安堵の息を吐いていた。いろいろとあったものの、これでようやく終了したと言えるからだ。
『……デジモンをあのように使いおって』
「やっぱりムカつくか?」
『当然だ。パートナーとしているのではなく、主従としているのでもなく、ただ私欲の道具として使う。気分がいいはずはない』
まだ出会って数時間の仲だが、それでも来人はカミサマが苛立っていることがわかった。それほどまでに、カミサマの声は、厳しい声色だったのだ。
『あのティラノモンが哀れでならん。追々調べていくが……意思が抑えられているかのようだった』
「意思が……って操られているってことか!?」
『その可能性もあるやもしれん。貴様も気をつけろ。戦いが始まった時、奇妙な感覚がしただろう』
「ああ、気色悪い……なんかだったな」
あの感覚を来人はしっかりと覚えている。
自分の中身を探られているかのような、そんな気色悪い感覚。できれば、二度と味わいたくないとさえ思えるほどの感覚だった。
『あれはおそらく何らかのプログラムだ。今の我では完全にはわからなかったが……対象を
「え……?」
『まあ、一度の邂逅で完全に、というのはあまりないだろうが……捕まりたくなければ気をつけろ。おそらく同一対象に何度も出会った時、弱っている時や気を張っていない時などのスキャンは割合として大きいはずだ』
「……」
カミサマのその言葉に、来人は遠い目をしてこの空間の天井を見上げた。
その視線の先にあったのは、誰かに捕まる心配をする必要のなかった人間としての日々だ。デジモンになった今、来人はそんな遠い日々がどれほど貴重だったのかを知ったのだった。
というわけで、これから本格的に始めます。
待っていた人はいないかもしれませんが、これから始めるので、またよろしくお願いします!