【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十話~SOSを受け取って~

 アミは走っていた。全速力で走っていた。荒れる息も横腹の痛みも無視して、ただ走っていた。

 なぜ彼女がこうまで走っているとかというと、事の起こりは数分前に遡る。

 

 謎の女神との邂逅を経た後も紆余曲折あったものの、彼女たちはなんとか山科の依頼を終えることができた。

 そして、EDENβテストに参加した人々の中にいた五人の子供たち。その内の一人が勇吾であり、そのβテストの際に始めてEDEN症候群となったという内容を聞かされた。

 倒れた勇吾を除く四人の子供は当時錯乱していたらしく、別の世界がどうたらとわめいていたらしい。そんな子供たちを哀れに思ったのか、末堂アケミが彼らの記憶を封じたというのだ。

 五人の子供たち、勇吾、EDEN症候群、そして別の世界。山科から聞いた内容に、どこか引っ掛かりを覚えたアミと悠子だったが、どこに引っかかりを覚えたのかはわからなかった。

 ともあれ、依頼は達成。山科を家まで送り届けて――その後、アミと悠子が別れた時のことだった。アミもよく知る又吉と伊達の警察二人組から急いで来てくれという連絡があったのだ。

 

 そんなわけで、アミはこのように走って現場に向かっているのである。

 

「はっ……はっ……」

 

 息は既に切れている。横腹も痛い。だが、あの二人の只事ならぬ様子からして、相当まずいことが起きたのだろう。だからこそ、急ぐ。

 

「ぜっ……見え……はぁ……た!」

 

 いつかも訪れた新宿の地下鉄駅へと続く階段の前。そこに又吉と真希子はいた――イーターと一緒に。

 

「っ! リリモン!」

 

 慌ててアミはリリモンをデジヴァイスから出した。

 ここでリリモンを選んだのは、見た目的にも目撃者を刺激しなさそうな相手だからである。

 幸いにして、イーターは通常体だ。リリモン一体でも、簡単に倒せるレベルの状態である。

 

「又吉さん! 伊達さん!」

「あっ! おっせーよオマエ! 早く何とかしてくれ!」

「すまん、頼む!」

 

 又吉たちはずいぶんと疲れた様子だった。

 おそらく、警察としてずっと一般人に被害が出ないようにイーターを引きつけていたのだろう。イーターのことを知らないとはいえ、未知の存在をアミが来るまでの数十分間ずっと相手取っていたことになる。

 その胆力と警察としての信念に、アミは舌を巻いた。

 

「リリモン! 全力で吹っ飛ばして!」

「オーケー……アミ! それじゃ、派手に行くわよ! “フラウカノン”!」

 

 手首の花弁を銃口にして、リリモンが放つはエネルギー弾。

 植物の生命力が凝縮されたようなその弾丸は、真っ直ぐにイーターへと突き進み、着弾。イーターを消し飛ばした。

 

「ふぅ……助かったぜ! 又吉さんがお前が来るまで待てって言うからさ」

「恩に着るよ。こういうのはおまえさんの専門だと思ってな」

 

 又吉はそう言ってくれてるし、真希子も何だかんだ言って自分が来るまで待っていてくれた。その事実と信頼に、アミは嬉しくなる。

 

「あと、おまえさんを呼んだのはそれだけじゃない」

 

 アミは、そう言った又吉の視線を辿る。

 その先にあったのは、いつかと同じようにデジタルシフトを起こした地下鉄駅へと続く階段の光景があった。

 

「この中にもさっきと似たようなバケモノがいるみたいだ。あと……真田も」

 

 最後の部分だけは周りに聞こえないように小声だったが、アミにはバッチリと聞こえた。そして、同時に彼女は気づく。なぜ又吉が自分をここに呼んだのか、そのもうひとつの理由を。

 

「っ!? アラタが!?」

「しっ。静かに。どこで誰が聞いてるかわからん。さっき地下へと向かうのを目撃してな。まあ、あんな状況だ。引き止めることはできなかったが……あいつもあのバケモノを追っているらしい」

「それじゃ……」

「そうだ。おまえさんには()()()()をどうにかしてもらいたい。あのバケモノは言うに及ばず、もう一人の方も……おそらく今のあいつには俺なんかよりもおまえさんたちの方が必要だ。行ってやってくれ」

 

 そう言った又吉の表情は、まるで子供を見守る父親のような表情だった。

 敵わないな。アミは素直にそう思う。きっと子供のままの自分では、どれだけの経験をしても敵わないだろう。いや、大人になっても怪しいところだ。

 ともあれ、又吉の好意をありがたく受け取って、アミはいつかのようにデジタルシフトした地下鉄駅へ入る。

 いつかの時はアラタも一緒だった。あの時のことを思い出し、少しだけ複雑な気分となったアミは――。

 

「アラタ……!」

「お、よぉ」

 

 ――入口付近で奥へと進もうとしたアラタを発見する。

 

「久しぶりだな。こんなところで会うなんて……もしかして、俺の追っかけでもしてんのか?」

「アラタ、寝ぼけてる?」

「ははっ。冗談だよ。ジョーダン」

 

 散々心配かけて、それで再会の言葉がアレだったのだ。少しばかり苛立ったアミは、辛辣な対応をしてしまった。

 どうして自分の知り合いの男共は人の心配を踏みにじるようなことばかりするのだろうか。アミは事務所に置いてきた幼馴染のことを思い出して、苦い顔をした。

 

「体の方は大丈夫か?」

「指名手配犯に言われたくないよ」

「ま、それもそうか。漫画とかじゃよく見るけど、意外に逃亡生活ってしんどいもんだな」

 

 暖簾に腕押しレベルで、アミの怒りをアラタは受け流している。

 そんな彼の様子にはアミも余計に苛立ったのだが――今はそんな場合じゃないと言わんばかりに、アラタは言い始めた。

 

「イーターに追われて、ここに逃げ込んだ連中がいる」

「っ!」

 

 その言葉に、アミはアラタに感じていた苛立ちも何もかもが吹き飛んだ。

 早く助けなければならない。そんな焦燥感だけが、アミの中に溜まっていく。

 アラタはそんな彼女に頷いた。

 

「俺といると指名手配犯の仲間だと思われちまうぜ……? ここは俺に任せて――」

「それ、本気で言ってないよね?」

「……よくわかったじゃねーか。お前が引き下がるわけないってわかるからな。一応言っただけだ」

 

 笑みを浮かべながら、アミとアラタは頷き合う。

 久しぶりの共同戦線だった。ともすれば、場所のことも相まって、いつかのことが思い起こされる。これで真希子がいれば完璧だろう。

 

「それじゃ、行くか!」

「うん!」

 

 頷き合って、アミとアラタは地下鉄駅の中を行く。以前、真希子と共にイーターを目撃した場所の更に奥。線路を歩いたさらにその先の広大な空間まで走って行く。

 たどり着いたアミたちは、その視線の先に見る。逃げ惑う人々の存在、そして彼らを襲う五体のイーターたちの存在を。

 

「っ逃げて!」

「逃げろっ!」

 

 思わず、アミとアラタは叫んだ。だが、そんな彼らの叫びが届くことはない。

 彼らが見ている前で人々の精神はイーターたちによって食べられ、EDEN症候群となって倒れ込んでいく。同時に、人々の精神を食らったことで、イーターたちが人間のような形態へと変化する。

 間に合わなかった。そんな絶望と無力感だけがアミとアラタの心の中に蔓延した。

 

「はは……コンチクショウ……俺は……また守れなかったのか……クソ! 力があれば……力さえあればッ!」

 

 その負の感情のままにアラタが叫ぶ。

 その叫びに感じるところがあったのか。彼のデジヴァイスから現れたクリサリモンは、まるでこの世の不条理を憎むかのような目をしていて――。

 

「ケケケケケェッ!」

 

 ――その瞬間、進化した。

 蛹のような外見は蜘蛛のような外見へ変わったが、それでも未だ繭という未来を感じさせるイメージを想起させる外見。それはまるで、いつか来る日に反逆する力を蓄えるかのよう。

 そんなデジモンこそ、インフェルモンという完全体デジモンだった。

 

「クソ……行くぞっ、アミ!」

「うん! みんなっ!」

 

 アラタのように叫ばずとも、思いはアミも同じだった。

 半ば八つ当たりするかのように、アミはデジモンたちを出す。アンドロモンにリリモン、ブラックメガログラウモンとデビモン、そしてテリアモン。

 五体ものイーターを前に、アミもフルメンバーを投入した。

 

「やれっ! インフェルモン!」

「ケケケッ! “ヘルズグレネード”!」

 

 インフェルモンの口の中から飛び出た銃口から、エネルギー弾が放たれる。打ち出されたエネルギー弾は真っ直ぐにイーターの一体を正確に狙う。

 だが、その正確さが仇となったというのか。それは難なく躱される。

 思わず舌打ちしそうになるのを、アラタは抑える。なにせ、本命はこの後。

 

「“コクーンアタック”!」

 

 本命は手足を本体に収納した繭形態による、インフェルモンの突撃にあるのだから。

 二段構えの攻撃を躱す術はイーターにはない。イーターは無惨に押しつぶされる。イーターに対するアラタの怒りをインフェルモンが代わりに形としたかのような攻撃だった。

 そんなアラタたちの一方で――。

 

「うぉりゃ!」

「えいっ!」

「ロックオン」

 

 ――アミたちはその数を活かして、順調に戦っていた。

 完全体組は言うに及ばず、イーターなど相手ではない。問題はデビモンとテリアモンという、成熟期と成長期タッグだった。

 

「……!」

「“ブレイジングファイア”!」

 

 テリアモンの口から放たれた熱気弾がイーターに直撃する。が、イーターはまるで堪えていない。いや、それどころか、熱気弾をその身に受けながらも突き進んでテリアモンを蹴り飛ばした。

 

「うわっぁああっ!」

 

 まるでボールのように飛ばされていくテリアモン。

 

「テリアモンっ!」

 

 そんな彼をアミがキャッチした。

 

「……」

「――!」

「……!」

 

 一方で、イーターが次に目をつけたのは当たり前だがデビモンである。未だ恐怖を完全に克服できない彼を、イーターが襲う。

 襲い来るイーターの攻撃を、デビモンは及び腰で防ぐ。だが、それだけだ。何とか防ぐものの、反撃まで行かない。決してスペックでは負けていないというのに。

 いつかのトレーニング、そして来人のメンバー加入による交流によって、あの時に芽生えたデビモンの中の恐怖はほぼ消え去っている。

 少なくとも、本人はそのつもりだった。だが、やはりつもりはつもりでしかなかったようだった。恐怖を乗り越えたつもりの理性はともかく、身体に刻み込まれた戦いへの恐怖は未だ消えてはいなかったのだ。

 

「デビモン……」

 

 そんな彼の戦いを傍から見ていたアミは、苦しそうに呟いた。

 彼が恐怖を克服しようとしたことを彼女は知っている。それでも、未だ彼のその努力が報われないことが苦しかった。

 

「……頑張れ」

 

 小さくアミは呟いた。

 もはや、彼女の頭の中からは他の皆の戦いのことは消えていた。ただ、未だ震えるデビモンのことを応援していた。

 

「頑張れっ!」

「……!」

 

 デビモンは、そんな彼女の気持ちが嬉しかった。

 前の人間(ジミケン)とは違う、まるで支え合う家族のような暖かい感情。少しこそばゆくはあったが、それでもどこか心地いい。

 思えば、彼女はいつもそうだった。いつも皆の中心にいて、ただ暖かく、時折陰っても周りの者たち(かぜ)によって再び燃え上がる――まるで、太陽のような存在。日陰の身ながら、デビモンはそんな彼女に憧れた。

 

「……」

 

 アミのことを思う。伸ばされたその手に、改めて応えたいと思った。憧れる彼女に近づきたいと思った。

 瞬間、デビモンの身体の震えが止まる。ただまっすぐに敵を見た。気づけば、身体は変わっていた。

 

「えっ……?」

 

 アミの驚くような声が、耳の届く。

 これが進化か、と。自分の身に起こった現象に、()()()力強く頷いた。

 

「ありがとうアミ」

「喋ったってことは、声が……!」

「ああ、すぐ終わらせる」

 

 今なら何でもできそうな気がした彼女は、改めてイーターに向かい合う。

 

「アイツも……進化した……」

 

 悔しそうに呟かれた声が空間に溶けて消える。

 アミも彼女もその声には気付けなかった。

 




というわけで、第六十話。

デビモンの進化回……だったはずが、あまりに長くなったので分割しました。
ともあれ、彼から彼女になってしまったデビモンですね。何に進化したのかは次回で触れます。

次話は明日辺りにでも投稿しますので、またよろしくお願いします。
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