【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十三話~因縁再び~

 走る。ひたすらに。

 自分が気絶している間にロイヤルナイツに会いに行ったなどというアミに追いつくためにも、彼はただ走った。

 

「頼むから無事でいてくれよ……!」

 

 思わず口から出た言葉。それは誰に向けての言葉なのか。

 いつものように無茶をする幼馴染に対してか、それとも先ほどの夢の中で出会った誰かに対してか。

 

「……くそっ」

 

 不安を振り払うように、彼は走る。

 気絶しただけだと思っていた。いずれ目が覚めるのだと思っていた。だが、そうではないのならば。

 いつの間にか彼の頭の中にあったのは、ロイヤルナイツに会っているだろう幼馴染のことではなく、未だ目覚めない恩人のことだった。

 

「……!」

 

 どうしようもなく、焦燥感に駆られたままに彼は走る。

 そして、彼はたどり着いた。渋谷と呼ばれる場所へ。即座に頭の中にある恩人のことを振り払い、元々の探し人を探すことに専念する。

 だが、探し人がこの場のどこにいるのか、彼は知らなかった。よって――。

 

「っち!」

 

 ――彼は悪態をつきながらも、探し回ることしかできなかった。

 とはいえ、ロイヤルナイツがいそうな場所だ。ある程度は絞られる。

 それらしきところがないか、と。彼は辺りを見渡す。そして、彼は見つけた。

 

「……あそこか?」

 

 野次馬が入らないように、自衛隊によって立ち入り禁止にされた箇所。そして、そこにある現実と電脳が交差している空間を。

 見るからに怪しい。あそこに行けば、“何か”がある。そんな自分の勘に従って、来人はそこへと行くことに決めた。

 

「あの自衛隊をどうやって突破するかな」

 

 力づくで突破するのは簡単だが、それでは後々妙なことになるかもしれない。そう考えて、彼は突破する方法を考える。

 

「……」

 

 だが、良い方法は思いつかなかった。

 いよいよ強行突破するしかないか。彼がそう考えたそんな時。

 

「はッ。ずいぶんとまァ……余裕ぶっこいてやがらァな」

 

 そんな声が来人の耳に届いた。

 それはあの復讐者の声で――彼は血の気が引いた。

 

「さァ! 復讐を始めるかァ! 恨みを晴らせェ“呼応冥神”!」

 

 どうして忘れていたのか、と。来人は自分の間抜けさと最悪の事態に顔を歪める。

 振り返った彼の視線の先にいるのは、数百を超える不死身の軍勢。その奥に立つのは、復讐の巨神(タイタモン)。数日前の焼き直しのような光景だが、数日前とは決定的に違うことがある。

 それは――。

 

「な、なんだ!?」

「っ! ひぃ助けてぇ!」

「逃げろぉおおおお!」

 

 ――この場に大勢の人々がいることである。

 逃げ惑う人々にタイタモンは構わない。相変わらず、その目は来人にだけ向けられていた。だが、さすがに数百を超える軍勢だ。戦いが始まれば、否応なしに周りの人々にも被害が出てしまうだろう。

 

「っ! 総員、撃てぇえええ!」

 

 瞬間、どこからか聞こえた声。すぐ後に聞こえた、戦場と間違うほどの連続した発砲音。

 その音の発信源はこの場にいた自衛隊の人々だった。急に現れたゾンビさながらの軍団に逃げ惑う人々を助けようとしているのだろう。

 彼らは弾と敵が尽きるまで撃ち続けていた。

 

「っち。鬱陶しいハエがいやがるなァ」

 

 その光景にタイタモンはつまらなそうに呟いた。

 それだけだった。タイタモンにとって、人間などその程度だったのだ。どれほどの武器を持とうと、鬱陶しいのその一言で片付けられる程度の存在なのである。

 事実、タイタモンの“呼応冥神”によって呼び出される軍勢は不死身だ。元々数で劣っている自衛隊の人々では、どう足掻いても勝ち目はなかった。

 

「う、うわぁあああああ!」

「引くなっ! 撃て撃て撃て!」

「そんなことっ、あぁぁぁぁぁああ!」

 

 弾丸は当たっている。

 装甲や甲殻の厚さで傷つけられないという訳でもなく、ちゃんと当たり、貫通している。だというのに、いくら弾丸を撃ち込んでも、決して軍勢は死ぬことはない。

 その事実を前に、自衛隊の心は折れそうだった。いや、事実何人かの心は折れている。

 

「先に場を整えるかァ」

 

 ポツリと呟いたタイタモンは、その手の巨大な骨刀を構えた。“斬神刀”と名付けられたその刀を。

 

「ッたく。コイツァ羽虫を払うためにあるんじャねェんだが……なァ!」

 

 タイタモンは真横に一閃、骨刀を振るう。彼がしたのはたったそれだけだった。

 そこに敵を斬るなどという意識は毛ほどもない。ただ、目の前の敵を粉砕するためだけの攻撃。斬撃と言うには大雑把、されど衝撃波というには切れ味が鋭すぎる。

 そんな、力任せの一撃が軌道上のすべてを壊す。自らが呼び出した不死身の軍勢も、街も、自衛隊の車も、その何もかもを。

 

「ヘェ?」

 

 一瞬後、タイタモンは面白そうな声を上げた。

 それは、自分の一撃で誰も()()()()()()ことがわかったからだった。

 不死身軍団は見るも無残なことになっていて、再生を待つ状態。街はいたるところが壊れ、先の一撃の軌道上にあったビルなど深々とした線が刻まれている。少しつつけば倒壊するだろう。

 そんな状態にあって、重軽傷の差はあれど人死がいないというのは奇跡でしかない。

 

「なかなかやるじャねェか」

 

 否、奇跡などではない。

 タイタモンは気づいていた。先ほどの一撃を放つことに決めた直前、この場にいた来人が飛び出して、自衛隊の人々を彼らを取り巻いていた不死身軍団ごと伏せさせたことを。結果、彼らの命だけは助かったことを。

 

「……お前の狙いは俺だろ? しかも、人間はお前の復讐には関係ないはずだ……関係のない奴ばっかり狙ってるんじゃない」

「はッ。まァ、そうだがァなァ……甘ッちョろい奴だなァ。さっきのうちに逃げてりャよかったもんを」

 

 確かにタイタモンの言う通りではあった。

 今の来人にとって、アミたちのような人間はともかくとして、見知らぬ人間など助ける理由はない。見捨てても問題なかった。なにせ、デジモン(自分たち)をバケモノ扱いするような人間が今の世の中は大半であるのだから。

 それでも彼が自衛隊の人々を助けたのは――先ほどタイタモンに言い放った理由の他に、ここで彼らを助けなければ取り返しのつかないことになる、と彼自身が直感したからだった。

 

「別にいいだろうが……」

「ふん……さすが()()()()甘いって言われる主神様ってことかァ? 前に殺してやッた代の奴以上に……虫唾が走る」

「……前から言ってるけどさ。俺はカミサマじゃない。俺は――」

 

 そこまで言って、来人は続きが言えなかった。

 俺は。その続きは一体何だというのか。来人はカミサマではない。それはわかる。が、だからといって、誰だというのか。

 頭に浮かんだ疑念に一瞬押し黙った来人だが、そんな彼をタイタモンは嗤った。

 

「ふん。知らぬは我が身ばかりなりってか?」

「……?」

「あァ、確かにそうなんだろうよ。テメェはアイツじャねェ。けどなァ、んなもん関係あるかァ?」

 

 そう言ったタイタモンの瞳は、ただ憎しみだけがあった。

 お前の事情など知ったことではないのだ、と。自分の事情だけが大切なのだ、と。復讐さえできるならば他のどんな道理も関係のないことなのだ、と――彼の目は雄弁にそう言っていた。

 

「事この場において……いやァ、これから先において、テメェはアイツなんだよ」

「どういう意味だ……?」

「はッ。しらばッくれんな。本当は気づいているんだろォ?」

 

 タイタモンの言っていることがわからなくて、わかりたくなくて、来人は混乱する。そんな来人の姿を、タイタモンは愚か者を見るかのような目で嘲笑っていた。

 

「まァいい。さァ、始めようかァ?」

「っ。このようなところで死して堪るか……!」

 

 正直に言えば、未だ混乱している。が、今が混乱している場合でないことも確かだった。

 絶対に生き残る。来人は混乱を振り払って、それだけを思う。

 

「行くぞ!」

 

 来人の身体が暗い光と共に変化する。それは、前回の時にはしなかった進化だった。

 来人が完全体であるアイギオテュースモンに進化するためには、形態に合わせて周りの環境が整っていることが条件。

 前回の時も今回の時も、進化できる形態は一つしかない。今この場で整っている環境は、そう――タイタモンや不死身軍団という者たちによる、邪という環境。

 つまり――。

 

「おぁあ!」

「ヘェ?」

 

 ――進化したのは、アイギオテュースモン:ダーク。

 かつて暴走したその姿だった。

 

 

 

 

 

 渋谷の地上でそんな戦いが始まった、その一方で――。

 

「きっかけを与えてくれた貴女たちに感謝を。僕は人間の味方となります」

 

 ――渋谷の地下にて、アミはマグナモンに仲間になってもらっていた。

 その経緯には、ノキアの登場があったり、ロイヤルナイツであるデュナスモンの襲撃があったり、とさまざまなことがあった。

 そのさまざまなことの果てに、マグナモンは人間の味方となってくれることを約束してくれたのだ。

 

「ありがとう、マグナモン!」

「ありがとっ! あたし、マグナモンみたいなちょー頼りになる仲間ができて、感激っ!」

 

 アミとノキアは礼を言う。マグナモンの決断は本当にありがたいことだった。

 

「ノキアもありがとう! ノキアが来てくれなかったら……」

「んなにもー! 水臭いこと言いなさんなってお嬢さん! なんてね」

「それでもだよ」

 

 ノキアとアミは笑い合う。

 マグナモンのことが解決して、アミは肩の荷が少しだけ降りた気がしていた。

 

「そうだ。僕の連れを助けてくれたお礼をしなければいけませんね」

 

 思い出したようにマグナモンは言った。

 彼の言う連れとは、以前アミが依頼を受けたロップモンとその探し相手であるトコモンのことである。彼らはあの後、ノキアの下にいた。

 今回のマグナモンが人間の味方になってくれることを決定づけてくれたのも、ノキアが連れてきてくれた彼らの説得があったからこそ。

 その時のお礼をしたいとマグナモンは言っているのだ。

 

「そんな、お礼なんて……」

 

 だが、アミとしては善意で助けたのだ。

 依頼であるからには当然のように依頼金というものも発生するが、今回のソレはどちらかといえばボランティアに近いもの。というか、ロップモンのような幼子から金や礼を取るのはさすがにアミも嫌だった。

 

「僕の友達から譲り受けたものです」

「えっ、そんな大切なものはもらえないよ!」

「いえ。それに先ほど君のデジモンを見ましたが……これは君が持っていた方がいいと思います。彼も君に渡すのならばわかってくれるでしょう」

 

 そう言って、アミがマグナモンから受け取ったのは、黄金の何か。

 一見すれば、どこか派手な置物のように見えるが――それだけではない圧倒的な何かを感じさせるものだった。

 

「君にはこれを」

「えっ、あたしにも!? ありがとー!」

 

 次に、マグナモンはノキアにもお礼を渡した。

 ノキアに渡したのは、まるで果物のような木の実で――曰く、デジタルワールドの美味しい食べ物らしい。

 オメガモンが少し羨ましそうに見ていることからも、その美味しさのほどがわかるというものである。

 

「おぉ……ま、まぁ……お礼を断るのはし、失礼だしね!」

 

 その見るからに美味しそうなものを前に、ノキアはヨダレが止まらず――それをありがたく受け取ることにしたのだった。

 そこには露骨な食欲が見て取れて、この場の誰もが思わず笑ってしまった。

 そんな、ひと時の休息とばかりな緩やかな時間が過ぎていて――彼らが地上で起きていることに気がつくまで、後十数分。

 




というわけで、第六十三話。

タイタモン&アイギオテュースモン:ダークの再登場回でした。
はい、ダークは実に五十話ぶりの登場ですね。最も早く登場した形態にして、暴走という最も不憫な形での登場だっただけに、再登場です。

さて、次回はVSタイタモンですね。
ついに――というお話です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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