【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十四話~超えてはならない一線~

 黒い肌に、漆黒の翼。両腕と背中にある可動式の鎌。まさしく死神のような、アイギオテュースモン:ダーク。それが今の来人だった。

 

「ヘェ……?」

 

 進化した来人を前にして、タイタモンは面白そうに呟く。だが、そんな声色とは裏腹に、その視線は鋭くなっていた。

 彼は別に来人が進化したことに思うところがあったわけではない。進化して、より自分の憎い相手の存在に近づいたことに思うところがあったのだ。

 

「……」

 

 そんなタイタモンの一方で、来人は自身の手を見つめていた。

 思い起こすは、前にこの姿になったあの時のこと。今の彼は、自分がしているだろう恐ろしげな姿を想起していた。

 

「できれば、この姿だけは嫌だったんだけどな……」

 

 ポツリと来人は呟いた。

 彼にとって、この姿はある種のトラウマだ。別に問題ないことくらいわかるが、それでもできればこの姿にだけはなりたくなかった。

 それでも、今回この姿になったのはそうも言ってられない状況だったから。それだけだった。

 

「行くぞ……!」

 

 彼は目を伏せる。先ほどと同じように、さまざまな感慨が湧き上がる。それらすべてを捨てて、彼は再び目を開ける。ただ、倒すべき敵を睨んだ。

 

「おォ! こいこい!」

 

 この場にまで来ることができるのなら。そう言いたいかのように、タイタモンは挑発的だった。彼の下に至るまでに存在するのは、数えるのもうんざりするほどの不死身の軍勢。

 前回はこの数の暴力に屈した。いかに進化したとは言え、今回も状況と戦況的にはほとんど変わりはない。

 

「っ!」

 

 一瞬後、空気が弾ける。来人が駆け出した。

 その姿はまるで、この絶望的状況に何も感じていないかのよう。

 

「ハァっ!」

 

 そして、その瞬間――たった一人の神を目指す人と不死身の軍勢がぶつかり合う。

 迫り来る不死身の軍勢の形は様々。獣のような者がいる。人のような者がいる。悪魔のような者がいる。それぞれが、爪を、牙を、剣を、槍を、棍棒を、それぞれの武器でもって来人を狙う。

 あまりに絶望的な光景だ。

 

「さァさァさァさァ!」

 

 タイタモンは次の瞬間にも見えるだろう光景を楽しみにしていた。

 絶望的な状況の中、抗うために必死に手を伸ばし続け、その果てに屈し、最後は希望が朽ちて絶望に沈む。

 そんな光景が見られることを望んでいた。自分が絶望を味わわされた時のように、憎き者に連なる者が同じ絶望に浸ることを望んだ。

 

「ぉおおおおおお!」

 

 来人はただ抗う。そんなタイタモンの望む結果にならないためにも。

 目標と道のりを間違えない。いかに辛い道のりであろうと、道のりはあくまで道のり。倒すべき目標はタイタモンなのだ。倒すこともできない相手に構うことなどしてはならない。

 だからこそ、迫り来る軍勢を相手にするのは最低限のみ。

 

「――!」

「っち! 負けるかぁ!」

 

 数が数だ。左右の隙間を抜けるなどできるはずもなく、下を行くことはそもそも不可能。となれば上だが、そちらは例え行ったとしても、前の二の舞になる。

 八方塞がりに近い状況。だが、道がないという訳ではない。ないならば、作ればいいのだ。

 

「――――!」

「邪魔だっ!」

「――!」

「どけっ!」

 

 数という暴力を元に構成された軍勢は確かに脅威だ。だが、たった一人を狙うには少々()()()。一つの箇所、その面積内にいられる数には限りがあるのだ。たった一人を狙う場合、どうしても数が余る。

 つまり、数百の数がいるからといって、それら全員が一度に来人を攻撃できるというわけではないということ。

 来人はそこに道を見出した。狙うは一点突破。道を作りながら進む。不死身の軍勢とはいえ、攻撃が効かないような無敵の軍勢ではないことはすでにわかっている。ならば、必要最低限の相手を一時的にでも倒し、その間に身体をねじ込めば――タイタモンとの距離は、確実に詰まる。

 

「ぬぉおおおおおお!」

 

 大切なのは止まらないこと。止まってしまえば、捕まってしまう。

 なにせ、“不死身”の“軍勢”だ。四方が敵というこの状況で、進み続けることだけが唯一の生き残る道だった。

 

「っち」

 

 遠くで、タイタモンが舌打ちする。それは自分の望み通りに事が運んでいないからこそ漏れた苛立ちだった。

 

「ははっ……ずいぶんと……ぉおおお!」

 

 一方で、そんなタイタモンのことがわかったからこそ、来人はニヤリと笑う。

 そのまま、迫り来る軍勢の一体をその手に装備された鎌で切り裂いた。次いで、回し蹴りを叩き込んでその一体を蹴り飛ばしす。

 蹴り飛ばされたその一体はすぐに軍勢の中に埋もれた。

 

「ぉおおおお!」

 

 進む。ただ突き進む。

 来人は右腕の鎌が目の前にいる敵を切り裂く。グチュリなどという、妙に生々しい感覚が腕に伝わった。

 背後から襲いかかってくる者がいた。背中に装備された鎌を適当に振るえば、生々しい音と感覚と共に誰かが倒れる音がする。

 再び目の前に現れた敵を、今度は左腕の鎌で切り裂いた。

 障害となるすべてを三つの鎌を駆使して突き進むその様は、さながら漆黒の竜巻のよう。

 

「はっ……はっ……」

 

 荒れた息ながら、その勢いは決して衰えていない。少しずつ、だが確実に――来人は目標(タイタモン)へと近づいていた。

 

「……」

 

 そんな来人の姿に、タイタモンは複雑な表情をした。つまらなさそうな、それでいて楽しみでありそうな、そんな表情を。

 その一瞬後のことだった。竜巻の勢いが一段と増す。その瞬間に黒が飛び出してくる。

 

「たどり着いたぞ……!」

 

 そう、来人は迫り来る軍勢を超えて、ついにタイタモンの下へとたどり着いたのだ。

 そして、その勢いのままに――。

 

「はっ!」

 

 ――来人は右腕の鎌を振るう。

 勢いに乗ったその一撃は、躱す素振りも見せないタイタモンの頭から胴へとかけて切り裂いた。タイタモンの身体に傷が斜め一直線に刻まれる。深いというわけではない。だが、確かに刻まれた。

 タイタモンはゆっくりとその傷に触れる。

 

「完全体の身で俺様に傷をつけられるたァな……ははは!」

 

 笑う。だが、それは口だけだった。そんな彼の視線は鋭くなっていくばかり。まるで、何かを思い出しているかのように。

 一瞬後、不死身の軍勢が消えた。だが、それは軍勢を保っていられなくなったから消えたのではない。タイタモン自身が直接手を下すことを決めたから、消したのだ。

 

「っ」

「死に急ぐようだなァ。テメェの望み通り、俺様が直々に殺してやるよォ」

 

 来人は空気が一段と寒くなったような錯覚を受けた。その気となったタイタモンと自分の力の差を如実に感じた。

 タイタモンがその骨刀を持ち上げる。来人は一瞬でも見逃してはならないとばかりに、彼の挙動を見ていた。

 

「死ねェ!」

「死んでたまるかぁ!」

 

 骨刀が振るわれた。

 その瞬間を察知して、来人は地面にかがむ。風切り音と共に、頭の上を通り過ぎた気配がした。直後、来人は駆け出した。

 

「甘いんだよォ!」

「なっ! 戻って……!?」

 

 だが、振り抜かれたはずの骨刀は向きを変えて、再び来人を切り裂かんと迫る。来人が躱すことを読んでいたタイタモンは、振り抜いた直後に勢い任せで軌道を変えたのだ。

 すでに駆け出した来人に二度目として迫る骨刀を躱す術は、ない――などと、来人が諦められるはずもなかった。精一杯身体を逸らす。

 キィンッ、という割れるような甲高い金属音が辺りに響いた。

 

「っち! 武器だけかァ!」

「……!」

 

 何とか躱すことはできたが、その代償として右腕の鎌をもっていかれた。

 しかも、武器がなくなっただけではない。力任せに武器をもがれたからか、右腕は鈍い痛みと共に痺れ出していて、うまく動かせなくなっていた。

 そんな状態に来人は舌打ちしたくなる。が、すぐに首を振った。あの状況から命が助かっただけでも儲けものだ、と。

 

「次はァ……命をォもらう!」

「誰がやるか!」

 

 押しつぶされそうな圧力に逆らうためにも、来人は叫んだ。

 そんな彼の内心を見透かしたように、タイタモンはニィと嗤った。 

 

「おらァ!」

「っく……!」

 

 三度、迫り来る骨刀。

 来人は躱す――が、それを躱した彼が見たものは、自分に迫り来る緑の拳だった。

 

「っ!? ぐっ!」

 

 咄嗟に動かせる左腕を使って防御した。いや、してしまった。

 タイタモンの攻撃力の前では、来人程度の防御などないも等しい。ミシミシという嫌な感覚が自分の腕から発せられている。そのことに気づいた彼は――直後、そのまま殴り飛ばされた。

 

「……がはっ!」

 

 轟音を立ててビルの壁をぶち破る。

 殴り飛ばされただけでもかなりのダメージだというのに、ビルに叩きつけられたことによって、余分なダメージが発生してしまっていた。

 

「ぜぇ……くそ……はっ……」

 

 立ち上がりながら、来人は悪態をついた。

 見れば、感覚のない左腕が奇妙な方向に曲がっている。いや、これはもう捻れていると言った方が正しいか。どちらにせよ、もう動かせそうになかった。

 

「痛みが麻痺してくれてて助かるな……」

 

 笑いながら、来人は誰に聞かれるでもない軽口を言う。

 絶望的な現状で、あえて軽く振舞うことで自分を保っていた。これほど絶望的だった時は他にあっただろうか。そう考えて――。

 

「いや、結構あったな」

 

 ――いろいろと思い出した来人は苦笑いした。

 それらすべて、カミサマがいたからこそ何とかなった。だというのに、今、カミサマはいない。

 

「ここで俺が死んだら……きっとカミサマも死ぬよな」

 

 それは来人としても本意ではない。

 自分が死ぬことが、恩人の死に繋がる。これほど恐ろしい話はなかった。

 彼は起き上がって、そのまま走り出す。行く先は当然、タイタモンの下だ。

 

「なかなか出てこねェから逃げたかと思っちまったぜェ?」

「さて、ね」

 

 別に逃げてもよかった。ただ、逃げても追ってくることがわかっていたから、逃げる気も起きなかったというだけの話だ。

 

「……ふぅ」

 

 来人の心は静かだった。ただ自分のなすべきことだけを静かに見つめていた。

 それは、まるで嵐の前の静けさのようで――タイタモンは怪訝な顔をする。

 

「テメェ……」

「……」

 

 死ぬわけにはいかない。自分はもちろん死にたくないし、カミサマを死なせるわけにもいかない。そう思ったからこそ、来人は限界を超える。

 彼は知っていた。自分では究極に至ることはできないことを、そしてそれが道理であることを。もしその道理を越えてしまえば、どうなるかわからないことを。

 だが、彼は今までのそんな考えを内心で吐き捨てた。

 

「俺は……このようなところで死ぬわけにはいかぬのだ!」

 

 来人は無理矢理にでもそれを望む。

 その直後のこと――何か、大切なものに罅が入った感覚がした。何か、守りたかったものが砕けた気がした。

 そして、雷が世界を貫く。

 

「はッ……はははははは!」

 

 狂ったようなタイタモンの声が辺りに響き渡った。

 そんな彼の目の前にいたのは、アイギオテュースモン:ダーク――ではなく、天空の神だった。カミサマの本来の姿であるユピテルモンだ。だが、その身体を動かすのはカミサマではなく、来人であるのだが。

 

「笑っている暇があると思うのか? 復讐の巨神」

「はァ! あるさァ! 嬲り殺すのも悪くはねェが、その姿を殺す方がよっぽどいい!」

()に敵うと思うな……!」

 

 ユピテルモンへと進化した来人が、その腕の中にあるハンマーを振るう。

 発生した雷がタイタモンめがけて突き進む。

 

「舐めんなァ!」

 

 だが、その雷はタイタモンに到達するよりも早く、彼の骨刀に切り裂かれた。

 ニヤリ、と彼が嗤う。対する来人は、そんな彼の姿を無表情に見つめていた。

 

「死ねェ!」

 

 今度はこちらの番だとばかりに振るわれた骨刀。来人はそれを跳ぶことで躱し、タイタモンに殴り掛かった。

 対するタイタモンも、己に迫る一撃を難なく躱す。その躱したままの勢いを乗せて、再度、骨刀を振るった。

 

「はァッ!」

「はぁっ!」

 

 骨刀とハンマーがぶつかり合う。世界が揺れた。

 

「さァ! ()()()テメェも殺してやるよ……!」

「死すのは貴様の方だ……!」

 

 戦況は互角だった。

 まるで時が止まったかのように、鍔迫り合いながら来人とタイタモンは睨み合う。

 

「……」

「……」

 

 二人が距離を取り、互いに相手の隙を窺うようにその動きが止まった。

 そして、永劫にも感じる睨み合いの末、二人は同時に動く――。

 

「っ!?」

「あァ!?」

 

 ――だが、そんな瞬間のことだった。

 

「え……?」

 

 その腹に開けられた穴を前にして、呆然と来人は呟いた。

 それが直接のキッカケだろう。今までの無理のツケが来たとばかりに、アイギオモンへと退化した来人は倒れる。

 来人が倒れた今、この場に立っているのは、何が起きたかを察して苛立ちを隠せないタイタモンと――。

 

「見つけたわ……最悪の状況」

 

 ――来人の腹に穴を開けた犯人である、天から舞い降りた女神だけだった。

 




というわけで、第六十四話。

来人VSタイタモン……からの、ヤンデレ様による「お前の後ろだァァァ!」回でした。
来人は月のあるなしに関わらず背中からグサリとぶち抜かれましたね。

さて、次回はブチギレた彼が○○する回です。
それでは次回もよろしくお願いします。
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