【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
マグナモンを仲間にできた時まで順調に事が運べていたというのに。まるでその分のツケが来たと言わんばかりの急展開だった。
イリアスの住人である巨神と女神。さらわれた来人に、いなくなったメギドラモン――アミもノキアも、いや、ロイヤルナイツであるオメガモンたちですら、この急展開にはついていけなかった。
それぞれやるべきことも、考えるべきこともあるだろう。何かあったのなら、また連絡する。全員が釈然としないままにそのような約束をして、別れた現在。
アミはとりあえず事務所に戻ろうと、道を歩いていた。
「はぁ」
溜息を吐く。
彼女の心は急転する事態とは裏腹に曇っていくばかり。まるで霧の中にいるかのようだった。
「来人……ブラックメガ……いや、メギドラモンだっけ? ……はぁ」
来人もメギドラモンも、アミにとっては大切な仲間だ。
傷つき倒れ、そして連れ去られた来人を見た時、彼女はまるで大切なものを奪われてしまったかのような空虚な苦しみで胸が砕かれそうだった。
怒りと憎しみのままに進化したメギドラモンを見た時、彼女はまるで友人が遠くに行ってしまったかのような惨めな悲しみで胸が引き裂かれそうだった。
心に影を落とすこれらの苦痛が自分の成すべきことと混じり合って、まるで頭を掻き回されたかのように彼女の感情は複雑となっていた。
「……なん、で」
愕然と、アミは呟く。
今の来人とメギドラモンのことを思い描いた時、彼女の脳裏にはなぜかひなとアラタのことが思い浮かんだのだ。
だが、なぜ自分が彼らのことを思い出したのか、その理由を考えようとする思考さえ、複雑な感情の前に押し流されていく。
端的に言えば、今のアミは参っていた。
「さて、早速報告を……ひどい顔だな。仕方ない。本来ならば報告が先だが……特別に休息を先にとろうか。コーヒーを淹れよう」
「……」
事務所に着いたことすら、彼女は気づいていない。
呆然としたままで事務所に帰ってこられたのは、ほとんど帰巣本能の結果だった。
「眠気覚ましにぴったり。ミントと緑茶をブレンドしたオリジナルブレンドコーヒー:ガム風味だ。眠気覚ましに食べるミントガムのテイストにヒントと着想を得た」
いつもと変わらぬコーヒーのような何かを淹れた杏子が、そんな何かをアミに差し出す――が、アミは反応しなかった。無視しているわけではない。気づいていないのだ。
「いつもあれほど喜んで飲む私のコーヒーを前にして何も反応を示さないとは……」
少し驚いたような声を上げながら、杏子はコーヒーを机の上へと置く。飲まないのならば、仕方ないとばかりに。
誰も飲まないコーヒーの香しい異臭が部屋に立ち上っていった。
「……やれやれ。アミが正気に戻るまでしばらく待っているとしようか」
いくら声をかけても反応はないのだから、杏子はアミの復活を待つことにした。
まあ、他に実力行使という物理的な手段がないわけではないのだが。
「……来人」
そんな中で、アミは呟く。
無意識に出たものだろう。だが、その呟かれた言葉に杏子は反応した。
「来人……アミの幼馴染だな。何かあったのか?」
最近、デジヴァイスにも入らず、もっぱら外を出歩いている人間デジモンのことを杏子は思い出した。
無駄に勘が鋭いあの少年。初めて会った時など
「……いくら考えても推測の域を出ないな。やはり、ここはアミが正気に戻るのを待つとしよう」
言って、杏子はコーヒーを飲みながら優雅に過ごす。
一方で、アミはいつの間にかソファーに座っていて、ぼんやりと何かを考えているかのよう。いや、ともすれば、何かに悩んでいるかのようでもあった。
おまけに、先ほどの杏子に反応しなかったことからも、無意識だろう。無意識のうちに、アミは異臭立ち上る液体Xを無表情で飲んでいた。ちなみに、一気飲みである。
「もっとゆっくりと味わってもらいたいのだが……」
寂しそうな杏子の声は、アミには届かなかった。
「……」
「アミ?」
「……」
「これは……」
そんな時、アミの様子がおかしくなった。
目は見開かれ、虚ろなままに視線を彷徨わせている。息はまるで過呼吸のように荒くなっていく。その上で、肌にはぶつぶつとしたできものができていた。
一体どうしたというのか。そうなるまでの何かがあったのか。杏子が疑問を推理しているそのうちに――。
「……む」
――そんな彼女の目の前で、アミは頭からぶっ倒れた。
「どこか既視感のある光景だな。……数日のうちに二度も倒れるとは、疲れが溜まっているのか。予断の許さない状況故に、休みなどあるべくもないが……体調管理はしっかりとしておいてもらわないといけないな。私から言うべきか」
呆れたように呟きながら、杏子は倒れたアミをソファーに寝かして――ひどくわかりづらいが、杏子に親しいものならば気づけただろう。その顔に、アミを心配する色があったことに。
「やれやれ風邪をひくぞ……そういえば、風邪をひくという表現はどうなのだろうな。ふむ、風邪……風?」
アミが起きるまでの間、本題の調べ物の片手間に気になったことを調べていく杏子だった。
ちなみに、アミが起きるのはこの数時間後の話で――起きたアミは、なぜか口内をはじめとした体内に感じる謎の爽快感に首を傾げることになるのだが、それはほんの余談である。
もっと言えば、その爽快感ゆえか、“とにかく行動する”の意識となったアミは空元気のままに活動し始めるのだが――それがあの液体Xの効果であるかどうかは不明であった。
タイタモンやロイヤルナイツたちとの邂逅、その後のメギドラモンの襲撃。
さまざまな事態に遭いながらも、当初の目的を達した女神。そんな彼女は
「はぁ……ふぅ、全く野蛮だわ。皆して私の愛の邪魔をする!」
当初の目的を達したとはいえ、そこに至るまでの邪魔のことを思い出して、女神は苛立った様子だった。タイタモンにメギドラモン、そしてロイヤルナイツたち。彼女にとって、誰もが邪魔者だった。
だが、彼女は首を振って、冷静さを心がける。心を乱す必要はないからだ。どれほど邪魔者がいようと、自分にとって本当に大切なものは取り返したのだから。
「ユピテルモン様は未だ目覚めない。あぁ! 私に力があったのなら、今すぐにでも貴方様の身体に巣くう偽物を引き剥がして差し上げるのに!」
地面に横たわって未だ眠る来人の姿を、女神は忌々しげに見た。
彼女には、愛する夫とそれに付随している人間の意識という、元は別々の存在であるそれらの区別がはっきりとついていたのだ。
そんな忌々しい存在から目を逸らすかのように、彼女は来人に背を向けた。
「……でも、そうね。考えようによってはチャンスだわ」
女神は、ハッとして何かに気づいたかのような声を上げる。良いことを思いついたとばかりの、そんな楽しげな色がその表情にあった。
「今のうちにユピテルモン様に色目を使うあの小娘を抹殺すれば……うふふ。大丈夫です。貴方様には私さえいれば問題ないのですから。他の女など必要ないのですわ」
ここではないどこかを見つめる女神のその目に映るのは、先ほど来人の怪我を治そうとした赤髪の少女――アミの姿だった。
「うふふ……浮気なんてする必要はありませんからね」
一度は見逃したのだ。だというのに、懲りる様子はないのだから、情状酌量の余地はない。そう考えて、女神は彼女に与えるべき罰を考える。
絶望の淵で泣き喚くまで痛ぶってから殺すか、それとも何が起きたかわからぬうちに殺すか。もしくは周りの人々に疑念の種を植え、欺瞞の中で孤独を味わわせるか。はたまた適当な悪人を見繕って、女性としての尊厳を奪うのもいいかもしれない。
彼女の脳裏の中で、さまざまな刑罰が思い起こされていく。だが、そのどれもがイマイチのような気がしていた。
「あら、困ったわ。意外に思いつかないのね。ここはやっぱり原点に立ち返って、私自らやるべきかしら。私がいない間にあの人の寵愛を一心に受けていたかと思うと……殺したくなるし」
一体どうするのが一番いいだろうか。考える女神だったが、そうやって思考を飛ばしていたからだろう。彼女がそれに気づけなかったのは。
彼女がそれに気づいた時には、すべてが遅かった。
「っ! この感じは……!」
感じた気配を前にして、女神は振り返った。まさか、と愕然しながら。
そこには先ほどと同じように未だ眠る来人がいて――だが、それだけではなかった。
そこには亀裂があった。地面や壁にではない。空間そのものに、だ。ここではないどこかと繋がっているだろう、その亀裂はかなり大きい。ともすれば、人間一人くらいならば通れてしまうほどの大きさだ。
「っ、なぜ!?」
『“スピリチャルエンチャント”!』
どこからか、声が聞こえた。何かを呼ぶような、何かに祈るかのような、そんな力強い声が。
「なぜ邪魔をするのです! “メルクリモン”!」
女神が叫ぶ。空間の向こうにいるであろう、
そして、彼女のその手は来人めがけて伸ばされていたが――次の瞬間には、来人の身体は空間の亀裂に飲まれて消えた。
後に残ったのは、閉じてしまった亀裂を前にして苦々しい顔をした女神だけだった。
治りかけてますが、数年ぶりに風邪を引きました。
風邪ってあんなにキツかったんですね。高熱に、寒気に、頭痛。眠ろうとしても眠れず……ただただ言葉に尽くしがたいほどに不快で……最悪の気分でした。
みなさんもくれぐれもお体にはお気を付けください。
ともあれ、第六十六話です。
えー……今回の最後の展開でお分かりだと思います。
賛否両論というか、否しかないと思いますが、超展開ですね。
次回から割と独自設定満載のイリアス編が始まります。
他のオリンポスの面々も(一応)登場します。
ついて行けないと思われるかもしれませんが、よろしかったらよろしくお願いします。