【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十七話~デジタルワールド:イリアス~

 見上げるほどの巨大な山がある。

 その山頂は空の彼方にあって、立ち込める雲によって見えない。まさに天を衝くという表現がしっくりくるほどの巨山だった。

 

「……ここは」

 

 そんな山の麓で、来人は目を覚ました。辺りを見渡す。一番に見えたのが遥か巨大な山で、彼は混乱した。

 

()は一体……確か……」

 

 記憶の糸を辿る。

 そう、タイタモンだ。あの巨神と戦った。そのために進化もした。だが、その後のこと、そしてその前のことが思い出せない。

 まるで道が途切れてしまっているかのように、そこで彼の記憶は終わっていた。

 

「……ここはどこだ。人間の世界……では、なさそうだな」

 

 目の前にそびえ立つ山を見上げながら言った。

 もちろん、探せば似たような景色の一つや二つ、人間の世界にもあるだろう。だが、今の来人は直感していた。ここは人間の世界ではないことを。

 いつもの勘だが、それ以外にも何か郷愁の念にも似た感情が湧き上がってきていて――その二つが、ここがどこであるかを如実に示していた。

 

「“イリアス”か?」

 

 言ったところで、誰かが正解だと言ってくれる訳もない。

 だが、来人はこれが正解であることを確信していた。

 

「呼ばれている……?」

 

 行かなければならない気がする。そのために自分はここにいる。

 来人は歩き出した。山の頂上へ。道は一本道で、迷うほどのものではない。坂は急というほど急ではなく、デジモンである彼にとっては楽な道のりだった。

 

「……っ」

 

 だが、道のりの難易度に比例するかのように、前に進むたびに身体が重くなるのを感じた。疲労からくるものなどではない。まるで彼の身体自身が先に進むのを拒んでいるかのようだった。

 彼は気づく。これは覚悟なきもの、そして悪意ある者が神の山に立ち入らないための措置であることを。

 

「呼んでおいて……ずいぶんな対応だな。舐めるな」

 

 重くなる感覚に負けじと進む――いや、まどろっこしくなった。彼は反骨精神に従うままに走り出す。

 

「はっ……はっ……ぁ!」

 

 彼は体中に痛みを感じた。

 タイタモン戦で負った傷だろう。彼はそう思って、深く考えなかった。

 ちなみに当然のことだが、一番深い傷はその後に負った傷である。

 

「これは……鬱陶しい、な」

 

 直後、来人の視界は白で染まった。走り続けた彼は雲の中に突入してしまったのだ。

 右も左もわからない。自分が前に進んでいるのかどうかも。

 

「……こっちか」

 

 それでも、彼は迷いなく進んだ。初めは勘と、呼ばれているという言いようのない気配を元に進んでいた。

 だが、いつの間にか、なぜか彼は自然と進むべき方向がわかり始めていた。まるで通り慣れた道であるかのように、思考するまでもなく進むべき方向へと進んでいた。

 そんな奇妙なことを、奇妙とも思わずに。

 

「っ」

 

 急に視界が晴れた。雲を抜けたのだ。

 その先にあるのは晴天とばかりな青空に星々が瞬く光景。太陽があって、月があって、その上で名も無き星々がいくつも輝く――そんな、光溢れる壮大な光景。

 そして、そんな輝かしい光景のそこにある一つの門。

 まるで来人が来ることを待っていたとばかりに開かれているその門を、来人は通り抜ける。

 

「よう。悪かったな」

 

 その先で来人を待ち受けていたのは、狼のマスクをかぶったデジモンだった。

 

「メルクリモン……」

 

 初めて出会ったはずのそのデジモンの名が、自然と来人の口から漏れた。

 

「ははは。()()()()は時折あるが、いつまで経っても慣れないな」

 

 メルクリモンは笑う。寂しそうに、それでいて嬉しそうに。

 一体どういうことなのか。さまざまな意味が込められたそんな疑問の視線を、来人は彼に向けた。

 

「ああ、説明する。だが、もう少し待て。まだ全員揃っていない」

「全員……?」

「そうだ。()()()お前の身に起こったこと、起こっていること……ホメロスからの通達で皆が把握している。いろいろとあれど、今代のお前が新たに帰って来たのだ。皆が集まるぞ」

 

 全員。皆。そんな言葉に、何かが来人の脳裏を過ぎる。よく見知ったような、全く知らないような、そんな誰かたちの姿が。

 

「集まる……? ここは神の住む山じゃないのか?」

「ああ、俺たちを祀る神殿は各地にある。そういった各地の神域にいる者もいれば、俺のように自由気ままな放浪を続けている者もいる」

 

 「もちろん、お前を筆頭としてここにいる者もいるがな」とも、メルクリモンは言った。

 その言葉に、来人は「ああ、そうだったな」と呟いた。

 平時においては、その誰もが自由に過ごしている。集まるのは緊急性のある時か、神々の会合の時くらいなもの。来人はそのことを()()()()()

 

「わかるかもしれんし、わからんかもしれんが、こっちだ」

 

 メルクリモンに案内されて、来人は進む。

 門の向こう側にあったのは古代ギリシア建築のような数々の石造りの神殿。その数は十三。円を描くように十一の神殿が配置されていて、さらに中心に一つ配置されている。そして、ひときわ大きな神殿が頭上に浮いていた。

 

「あそこは……」

 

 来人の目を引いたのは、その空に浮かぶひときわ大きい神殿――ではなく、その下の中心にある神殿だった。

 大きさも造りもその他の十一の神殿と変わらない。だというのに、なぜかそこに気を取られるのは、そこが誰のためにある神殿であるかわかったからだろう。

 

「ああ、やっぱり気になるのは()()()神殿か。ま、当然だな。安心しろ。お前のことだからわかると思うが、先代のお前も汚したりなんかしてない」

 

 頷いて、メルクリモンは言う。

 その言葉を来人はすんなりと受け止めた。

 

「とはいえ、だ。今回の行き先はあくまであそこだ。自分の神殿を行くのは後にしろ」

「……わかっている」

 

 来人の返答に再度頷いて、メルクリモンは跳び上がった。目指す先を指し示したかのように、宙に浮く神殿へと跳んでいった。

 そして、来人もその後を追う。普通の彼ならば、一足で飛び上がることができないだろう距離だというのに――なぜか一足で行けた。その様はまるで、神殿自体が彼を呼んだかのよう。

 

「ここが……」

 

 口から出たその呟きは、さまざまな感情が入り混じっていた。

 神殿の中であるそこは、ただ巨大なだけの広間のような空間。天井に何かを祀っているような珠があるだけで、それ以外は何もない。いっそ、殺風景なまでの空間だった。

 目を閉じ、一瞬後に目を開く。来人は初めて見る、だが、前と何も変わらない見慣れた神殿だった。周りを見渡せば、そこにはメルクリモンを含めた四柱の神がいて――。

 

「……うわーん! ユピテルモンー!」

「ぶべらっ!」

 

 ――そのうちの一柱の神が、奇声を上げながら来人に突っ込んできた。

 いきなりのことに来人は対応できなかった。ついでに言えば、来人は神殿の縁に立っていた。その二つの要因が導き出す結果は、火を見るよりも明らかだ。

 その勢いに押されて、来人はこの宙に浮く神殿から投げ出される。

 

「ミネルヴァモン……!」

 

 来人は犯人の名を苦々しく呟くことしかできなかった。

 

「あー! ユピテルモンがー!」

 

 遠くから聞こえてくる声を聞きながら、来人は地面に激突する。

 幸いにして、傷らしい傷はない。釈然としないものを感じながらも、来人は再び跳び上がって神殿に戻った。

 

「えっと……あはは」

 

 戻った彼を迎えたのは、バツの悪そうな顔をした少女。だが、蛇の仮面をつけているその少女はその幼い形とは裏腹に、ミネルヴァモンという名のデジモンで――歴としたオリンポス十二神族の一柱である。

 

「うぅ……やっちゃった」

「もう、ミネルヴァモンったらダメよ?」

 

 落ち込むミネルヴァモンに話しかけたのは、包帯のような仮面で目元を隠した女性だった。まるで幼子を叱るかのように、ミネルヴァモンに話しかけている。

 来人には彼女が何者かもわかった。ウェヌスモンという名のオリンポス十二神族だ。

 

「謝らなければダメですよ」

 

 半ば責めるような口調でミネルヴァモンを問いただしたのは、花と鳥の混じったような造形の仮面に目が行く女性デジモン。

 当然ながら、彼女もオリンポス十二神族の一柱。巨大な鳥の姿をしているケレスモン――の、普段はその頭上に位置する意思の化身メディウムである。

 ちなみに、今はメディウムだけがこの場にいて、巨大な鳥の部分はこの場にはない。

 

「ご、ごめんなさい。ユピテルモン……帰ってきてくれて嬉しかったから……」

「あ、ああ、別に構わない」

 

 ミネルヴァモンに謝られながら、来人は辺りを見渡す。

 この場にいるのは彼を含めて計五柱。ということは、後七柱の神がいないことになる。

 

「……やれやれ」

 

 来人は思考を飛ばす。

 それにしても、メルクリモンは自分を帰還させた張本人だから除外するとして、自分の帰還に合わせて即座に集ってくれた面々がケレスモンとミネルヴァモン、そしてウェヌスモンとは。見事に全員が女性である。だからどうというわけではないが、事の原因だろうアイツには呆れる――。

 

「……?」

 

 ――そこまで考えて、来人は内心で首を傾げた。アイツとは誰だっただろうか、と。

 そんな来人の目の前では、メルクリモンが女性たちに詰め寄られていた。

 

「それにしても、メルクリモン。なぜこうもユピテルモンの帰還がズレたのですか」

「そうだそうだー! メルクリモンがしっかりしていれば今頃みんながここに集まっていたんだぞ!」

 

 今回、彼は自身の技“スピリチャルエンチャント”によって来人をイリアスへと召喚した。

 女性たちとしては、来人召喚の詳しい情報が自分たち全員に伝えられなかったということを責めているのだ。

 

「……ユピテルモンがいたのはイリアスと隔たった世界……それも物質世界だぞ。いかに俺が優れたシャーマンだとはいえ、そう簡単に行くものか」

「言い訳は見苦しいですよ」

「言い訳はよくないぞー!」

「まぁまぁ、ミネルヴァモンもケレスモンも落ち着いて、ね? メルクリモンも悪気があったわけじゃないんだから」

 

 一応言っておくと、別にメルクリモンは悪くはない。

 来人がいたのが現実世界であったこと、そしてロイヤルナイツたちがいろいろとしてしまったこと――その二つの要因によって、召喚される場所と時間が不安定なままだった。

 現実世界からイリアスへと特定対象を召喚できるほどのメルクリモンとて、こうまで不安定だと詳しいことを言えるはずもなかった。

 とはいえ、そんなメルクリモンの事情など考慮しないとばかりに、女性陣――特にミネルヴァモンとケレスモンは盛り上がっていく。

 メルクリモンがいよいよ追い詰められ始めた、そんな時だった。

 

「だが、確かに伝達の不足は否めないな。お前の取り柄は足の速さだろうに」

「やれやれ……若造の代替わりとはな。全く何をやっておるのやら」

 

 この場に、新たな声が響いたのは。

 見れば、この場にいなかった何柱もの神々がやって来ていて――。

 

「……ユピテルモン、その……おかえり」

 

 ――最後に気まずそうに入ってきた月の神を最後にして、揃った。

 この世界にいない女神を除いたオリンポス十二神族の全員が。

 




というわけで、第六十七話。

いろいろとぶっ飛ぶイリアス編の開始です。
オリンポス十二神も(出番があるかはさておいて)全員が出ます。
というか、次回にはもう全員集合してますね。

一応今回登場した連中だけでも説明しておきますと、

メルクリモン――放浪癖のあるオッサン
ミネルヴァモン――子供
ケレスモン――真面目
ウェヌスモン――優しい(だけの)お姉さん
ユピテルモン(不在?)――女の敵

となります。残りは次回ですね。
なお、今作の彼らイメージ付はいろいろなものを参考にした末の作者私独自のものとなりますので、他のデジモンシリーズや元ネタであるギリシャ神話の性格とはかけ離れている場合がございます。ご了承ください。

それでは次回もよろしくお願いします。
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