【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十八話~オリンポス十二神~

 宙に浮く神殿。その中に一柱を除いたオリンポス十二神、その全員が揃った。

 

「ディアナモンか……」

 

 最後に入ってきた月の女神の名を、来人は呟く。

 一方で、名前を呟かれたディアナモンは萎縮するように彼から目を逸らした。

 

「……?」

 

 そんな対応に、来人は首を傾げるしかない。

 

「さて、代替わり、とのことだが……どうやら未だ目覚めてはいないらしいの。儂はウルカヌスモン、鍛冶の神じゃ」

 

 そう答えたのは、どこか他の神々よりも老成した雰囲気を纏わせている八本の腕を持つ赤き神だった。来人は彼のことを思い出しているが、彼は言外に改めて自己紹介をする必要があると言っていた。

 

「ボクはね~バッカスモン! 一応、お酒の神だよ! 覚えてるでしょ? 先代とはよく飲んだ仲なんだ」

 

 バッカスモンと名乗ったそのデジモンは、腹に巨大な口を持ち、下半身は蛇のような神だった。

 

「これ、なんじゃその言い方は!」

「別にいいでしょ~。ウルヌカスモンは硬いんだから~」

 

 やれ最近の若い者はだの、やれバッカスモンとミネルヴァモンは神としての自覚が足りんだの、ブツブツと不満を漏らすウルヌカスモン。そんな彼をウェヌスモンが宥めていた。

 

「さて、次は俺だな! 俺は太陽の神であるアポロモンだ! お前が今代のユピテルモンとなったその暁には、共に世界を守ろうぞ!」

 

 そう言って、アポロモンは来人に握手を申し出る。彼は炎を纏った獅子のような顔をした神だった。

 そんなアポロモンの姿を、少し鬱陶しそうに見ながら、半人半魚の神が前に出る。少し、磯の香りが強くなった。

 

「俺は海の神ネプトゥーンモンだ。こと海の中ならば、オリンポス十二神の誰にもそうそう負けんぞ」

「ほぉ! では、今度試してみるか!」

「アポロモン、お前はやめろ。海が干上がる。それにお前が近くにいると鱗が乾く」

「何を軟弱なことを! そこは気合でカバーするのだ!」

「はっはっは。ならば、俺と勝負しようか!」

 

 その時、一柱の神がネプトゥーンモンとアポロモンの言い争いに割って入る。

 豹の仮面をかぶったその神だが――。

 

「腰抜けの魚よりも俺と戦った方が面白いぞ!」

「確かに……」

「ほう? 卑怯な手を使わねば勝てぬ格闘馬鹿がよく言う」

「……何だと?」

 

 ――どちらかといえば、火に油を注ぎに乱入したような感じだった。

 ネプトゥーンモンとアポロモン、そしてその神との間で険悪な空気が起こっていく。

 来人はその光景を呆れたように見ていた。

 

「まぁまぁ、皆落ち着いて。ね?」

 

 そんなアポロモンたちを止めたのは、やはりというか、何と言うべきか、ウェヌスモンだった。

 ウェヌスモンに宥められて、渋々と矛を収めるアポロモンたち。だが、内心では後で続行する気満々だった。

 

「……全く。最近の若い者は……」

 

 そんな彼らの姿を前に、ウルカヌスモンは未だブツブツと呟いていた。だが、我関せずとばかりに目を閉じている。そんな態度からも、関わる気はないようだった。

 

「ごほん! 俺で最後だな。覚えていると思うが、俺はマルスモン。軍や戦士の……まぁ、格闘の神だ。すべてが片付いたら、俺のコロッセオに来い」

 

 自己紹介をしていなかった豹仮面の神――マルスモンの自己紹介が終わって、十柱の神々全員の自己紹介が終わる。

 人間世界にいるあの女神とユピテルモンとなる来人、その二柱を加えて十二柱。これがオリンポス十二神を構成する神だった。

 

「……さて、それでは本題に入ろうか」

 

 自己紹介も終わったところで、いよいよ本題に入る。話を進行する者は、この中で最も来人の置かれている状況に詳しいだろう者。シャーマンこと、メルクリモンだ。

 

「ユピテルモンの置かれている状況は特殊だ。皆もわかっていると思う。俺も初めは信じられなかった。さまざまな要因が重なって、こうなったのだろうが……」

「もったいぶらずに先に進めろ」

 

 我慢できないとばかりに、アポロモンがメルクリモンに先を急かす。

 メルクリモンは呆れながらも、その要望に従った。

 

「まず、自分の置かれている状況をどれほど理解している?」

 

 そう、メルクリモンが来人に聞く。

 十柱の神々の問い詰めるような視線が、来人の方へと向けられた。並の者ならば、萎縮と緊張で倒れてしまうほどのものだった。

 そんなものを受け止めてもなお、来人はまっすぐに彼らを見返した。

 

「……正直に言えば、よくわからん」

「何……?」

()自身がユピテルモンであることはわかっている。だが、少し前まで()はユピテルモンではなかった。それだけは覚えている。……だからといって、()()自身が誰だったのか……わからない」

 

 来人のその言葉に、メルクリモンたちは顔を見合わせる。その顔には、予想通りと書かれているかのような、そんな納得の表情があった。

 

「そうか。では、お前は代替わりのシステムはわかっているか?」

「代替わり、……ああ、わかっている。思い出した」

 

 代替わり。先代に、今代。イリアスに来てから、幾度となく聞いたその言葉の意味を考える。考えて、来人は思い出した。

 この世界の管理者とも言える上位神、そのホメロスが作り出したシステムのことを。

 

「欠員が出るたびに新たな騎士を迎え入れるロイヤルナイツたちとは違う……我らが神たる所以のシステムだ」

 

 オリンポス十二神族。神と呼ばれる彼らはこの世界の一般では不死であると言われている。それは半分正しく、そして半分違っている。

 当代のオリンポス十二神が死ぬと、やがて次代のオリンポス十二神がその記憶を継承して蘇る。それこそが彼らオリンポス十二神族が不死と呼ばれる所以で、代替わりと呼ばれるこの世界のシステムだ。

 まあ、蘇るとはいえ、同じ神を今代や先代と言い分けていることからもわかるように、当人そのものが蘇る訳ではない。つまり、あくまで同じ記憶を持っているだけで、精神自体は別人である。

 

「そうだ。つけ加えるならば、オリンポス十二神のデジモンへと進化した者が記憶を継承する場合もある。先代のお前はそちらのパターンだな」

「……そうだったな」

「話が逸れた。ともかく、そこまで思い出しているのならば、今回の代替わりが普通ではないことくらいわかるだろ?」

「ああ……」

 

 メルクリモンの言葉に、来人は神妙に頷いた。

 今回の代替わりは普通ではない。それはこの場の誰しもの共通認識であった。

 

「先代がこの世界の外で死したこと。その際、先代を継ぐ者がその中にいたこと。さまざまな要因が重なって、代替わりのシステムそのものが不調をきたしている」

「全く、先代も厄介なことをしでかしてくれたものだ。自世界の守護を放り出し、勝手に他世界に調査しに行った挙句、そこで死すとは……全くあの若造め」

 

 メルクリモンの言葉に、ウルヌカスモンが苦々しい顔をした。

 

「でもでも、ユピテルモンらしいじゃん!」

「ああ、先代のアイツは歴代のアイツの中でも取り分けて苦労の多い奴だったが、なかなかに良いやつだったではないか!」

「アポロモンにミネルヴァモン。らしい、らしくないの話をしているのではない。オリンポス十二神族として問題外だ、という話をしているのだ」

 

 堪らずといっていい様子で声を上げたアポロモンとミネルヴァモンに、ウルカヌスモンは呆れたような視線を向ける。その内心は、ワガママ幼児と熱血脳筋に対する呆れしかなかった。

 

「しかし、その責任はあれど、悪く言うのは感心しません」

「そうそう。ウルカヌスモン、落ち着いて。ね?」

「ふん。女どもはすぐあやつの方を持つ。全くやってられんわい」

 

 ケレスモンとウェヌスモンの言葉に、ウルカヌスモンは苦々しい顔をした。

 ちなみに。女ども、と発言をしてすらいないのにウルカヌスモンに一括りで扱われたディアナモンは少し落ち込んでいたのだが――それはほんの余談である。

 

「とにかく! 早急にやるべきなのは今代のユピテルモンの復活、そしてそれによる代替わりのシステムの異常の復帰。それのみだろう。その他のことはその後でも差支えはない」

 

 ネプトゥーンモンが締めるように言う。誰も異存はなかった。

 実を言えば、一番の最優先事項はネプトゥーモンが言ったこととは別のことだったりするのだが――そのあまりのくだらさなさ、そしてそのどうしようもなさに、誰も言い出さなかったのだった。

 

「では、まず……今代のユピテルモン。これから――」

 

 メルクリモンが来人をどこかへと案内しようとする。

 

「その前に一つ。……よいか?」

 

 来人が声を上げたのは、そんな時だった。

 イリアスに来てから今の今まで、彼はずっと成り行きに身を任せていた。だが、そんな彼は思ったのだ。今こそ声を上げるべき時だ、と。

 

「……なんだ?」

 

 一応、メルクリモンは続きを促す。

 とはいえ、神であるメルクリモンだ。彼が何を言おうとしているか、予想がついた。いや、メルクリモンだけではない。この場の誰もがわかった。

 だからこそ、この場の誰もが面白そうな顔をして来人のことを見ていた。

 

「俺は今代のユピテルモンになるつもりはない」

 

 強い目で言い切った来人に、それぞれがそれぞれの反応を返した。

 ある者たちは面白そうに笑みを浮かべ、またある者たちは残念そうに気落ちし、さらにある者たちは力強く頷いていた。

 

「さっきも言っただろう。少し前の()は違った、と。確かに、今の()自身は今代のユピテルモン、なの……だろうな」

 

 だが、と。言葉を切った来人は思う。

 確かに今の自分は前の自分のことを、自分が何者であったかを覚えてはいない。それでも、いつだったかに自分を助けてくれた恩人のこと、それだけは未だしっかりと覚えている。だというのならば――と。

 

「今代のユピテルモンは必要ない。なぜなら、先代が未だユピテルモンとして生きるからだ」

「……自分がどれほど有り得ないことを言っているか、わかっているのか?」

「当然だ、メルクリモン。他ならぬ“俺”の勘がそう言っている。……可能性があるなら、それに手を伸ばすべきなんだ」

 

 罅割れた何かを無理矢理に繋ぎ留めたかのような、そんな奇妙な感覚があった。何か、慣れた自分が戻って来た気がした。

 

「救われてばっかりな俺だけど、今度は俺が恩を返す。先代のユピテルモン……いや、“カミサマ”は死なせない」

 

 今代のユピテルモンとしてではない、来人としての言葉を告げる。その後に、奇妙な感覚は消えた。

 

「……っく……!」

 

 まるで笑いを堪えているかのように、メルクリモンは苦しそうにしている。いや、彼だけではなく、何柱かの神々も同じようにしていた。

 

「そこまで言うならば、いいだろう。今代の……いや、アイギオモン。お前が今代のユピテルモンであることを放棄するというのならば――」

「っ」

 

 急に真面目な雰囲気を出したメルクリモン。

 その一瞬後に来人は感じた。この場の全員から発せられた、まるで自分を押しつぶそうとしているかのような圧倒的なまでのプレッシャーを。

 

「貴様は我らの同胞を貶めた暴慢なる者だ。与えられた試練を前に、その身でもって罪を贖え……!」

 

 直後、来人は山の麓まで吹き飛ばされた。

 それはまるで、神であることを否定した来人に、この神々の住まう山にいる資格はないとばかりに。

 




というわけで、第六十八話。

独自設定満載の回ですね。
代替わり云々は……まぁ、先代が亡くなって後継者に苦労することになります、くらいの認識でもオッケーです。

今回名乗りがあったオリンポス十二神ですが、

ディアナモン――クール系天然
ウルカヌスモン――おじいちゃん
バッカスモン――酒好き
ネプトゥーンモン――魚
アポロモン――熱血
マルスモン――筋肉バカ

以上ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。

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