【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第六十九話~呑気で平和な奏楽団~

 夢を見ていた。

 いつかの夢を。

 

「えっと……初めまして!」

「あ……え……ああ、はじめまして」

 

 誰かと誰かが出会う夢。

 見覚えのあるような、見覚えのないような、そんな二人が出会う夢。

 

「一緒に遊ぼう?」

「ああ!」

 

 赤い髪の少女と共に遊ぶ、誰かの夢。

 楽しそうに笑いながら、時間のある限りに遊ぶ夢。

 

「それじゃ、バイバイ○○!」

「またな! △△!」

 

 最後、再会を祈って別れる夢。

 未だ未来へと続く予感を感じさせる、そんな夢。

 もう思い出せない、そんなどこかの誰かの夢を――見ていた。

 

 

 

 

 

 夢から覚めたような、そんなぼんやりとした意識の中で、来人は気づいた。

 つんつん、と。そんなおっかなびっくりといった様子で、何者かにつつかれていることに。

 

「ね、ねぇ……やめなって……危ないよ」

「へっ。平気だって。見ろよ、ぐっすりと眠ってる」

「で、でもぉ……」

 

 聞こえてくる二つの声は、どれも聞き馴染みがない。

 目を閉じたままの真っ暗な視界、そしてそのぼんやりとした意識の中で、彼は考える。一体、今はどういう状況なのかを。

 考えて――次の瞬間に思い出した。オリンポス十二神と出会ったこと、そしてあの山を追い出されたことを。

 思い出した瞬間、頭が冷える。意識が覚醒する。彼は目を開けて飛び起きた。

 

「きゃっ!」

「う、わぁぁぁぁあ!」

 

 驚いたように去っていく気配を感じながら、来人は今いる場所と自分の身体を確かめる。

 まず、今いる場所。ユピテルモンとしての知識が来人に教えた。ここはあの山からそう遠くはない森の中だ、と。

 次に身体の調子。怪我が治っていた。誰に治療されたわけでもないというのに、あの女神やタイタモン戦の時に負った傷がすべて治っていた。

 

「一体……?」

 

 なぜか自分の身体に僅かな()()()を感じる。酒など飲んだ記憶もないというのに。来人には何もわからなかった。

 

「そー……」

「……あ、危ないよぉ」

 

 そんな彼に向けられている、まるで怖いものに触れるかのような、好奇心と恐怖心の二つが混じりあったかのような二つの視線。

 

「……何か用か?」

 

 振り向いて、その視線の元を見た。その視線を発していた者たちは、驚いたかのように木の陰に隠れる――が、来人はバッチリと見た。その者たちの正体を。

 太陽の子のような獅子デジモンと月の子のようなうさぎデジモン。それぞれコロナモンとルナモンと呼ばれる成長期デジモンだった。

 

「何か用か?」

 

 再度、来人が尋ねる。二匹は木の陰から出てこなかった。

 どうしたものか。無視するか、それとも二匹に接触するか。その二つの選択肢を前に、考える。

 そんな時だった。

 

「あら、起きたのね! 良かったのね!」

 

 鳥と魚が融合したかのような、神々しささえ感じる人型のデジモンがこの場にやって来たのは。

 

「目が覚めて本当に良かったのね! オリンポス山の麓で倒れてたから心配したのね!」

「お前たちが助けてくれたのか。ありがとう」

「いいのね! 困った時はお互い様だから! そうだ、私はセイレーンモンね!」

()はアイギオモンだ」

 

 セイレーンモン。歌好きの完全体デジモンだ。いつも空や海、いたるところで楽しげに歌っている――という情報を、来人は思い出した。

 

「セイレーンモン!」

「セイレーンモンー」

 

 先ほどのコロナモンたちがやって来る。

 二匹はどうやら、セイレーンモンの連れだったらしい。未だ来人のことを警戒しているようだが、見知った者が話しているから、出てきたのだろう。

 そんな二匹の姿に、セイレーンモンは苦笑した。

 

「大丈夫ね! この子はいい子だから!」

「何でわかるんだよ! だいたい、オリンポス山の麓で倒れていたってのも怪しい! コイツは神々に逆らったのかもしれないだろ!」

 

 楽観の過ぎるセイレーンモンに、コロナモンが突っかかる。

 なにせ、神々の住まう山――オリンポス山の麓で倒れていたのだ。

 コロナモンは来人が神々の不興を買ったのかもしれない、と考えていた。神々の不興を買った者と一緒にいれば、共に罰を受けることになるかもしれない。彼は気が気でなかった。

 

「こ、コロナモン……落ち着いて……」

「ルナモンは黙ってろ!」

「ぁ、う……」

 

 ヒートアップしていくコロナモンを宥めようとしたルナモンだったが、一言で黙らされる結果となった。

 自分がするのも違う気がしたが、ともあれ、来人は落ち込む彼女の肩を叩いて慰める。彼女は少しだけ空笑いをした。

 そんな来人とルナモンの姿が気に食わなかったのだろうか。コロナモンは余計にセイレーンモンに突っかかる。

 

「こんな奴、さっさと捨てるべきだ!」

「大丈夫ね。昨日、オリンポス十二神の神々が山に行くのを見たって話も聞いたし……」

「あのな、だからだよ!」

「本当に神々の不興を買ったのなら、アイギオモンがここにいられるはずもないのね!」

「っ、それは……」

 

 セイレーンモンの言葉に、コロナモンは押し黙った。

 その通りだったからだ。ユピテルモンを頂点としたオリンポス十二神の神々は非常に厳格だ。一度、許されざる行いをした者に手加減はしない――と、少なくとも伝わっている。

 来人が生きている以上、本当にコロナモンの言う通りである可能性は低かった。

 

「むぐー」

「アイギオモンはどこか行く当てがあるの?」

 

 むくれるコロナモンを放っておいて、セイレーンモンは来人に話しかける。

 来人は少し考えた。やるべきことは当然ある。だが、それがどうすればいいかわからない以上、現状で行く当てはなかった。

 

「なら、しらばく一緒に行くのね! みんなのところに案内するのね!」

「は? おい、セイレーンモン!」

「だから、大丈夫ね」

 

 わめくコロナモンを放っておいて、セイレーンモンは来人の腕を引っ張って歩き出した。

 その瞬間のこと。

 

「っ」

「これは……珍しいのね」

 

 轟音。天を裂くかのような、雷の音。

 遠くで、だが、聞こえるほどには近くで。その発信源は、あの山の方角だった。

 

「……」

「どうしたのね? やっぱり嫌なのね?」

「いや……何でもない」

 

 何でもない訳が無い。あの瞬間、まるで自分の中の何かと共鳴したかのような感覚がしたのだ。

 セイレーンモンはそんな来人に首を傾げたものの、すぐにまた歩き出した――そして、歩き出して数分も経たないうちに、目的地へと到着した。

 そこは森の開けた場所、まるで森の中の広場となっているかのような場所で――。

 

「帰ったか! セイレーンモン!」

「おかえり、だ!」

「あれ、その子は!?」

 

 そこで来人たちを迎えたのは、多くのデジモンたちだった。

 数にして二十はいるだろう。さらに、大抵のデジモンは同じ種がいた。セイレーンモンも何人かいるし、コロナモンとルナモンも何匹かいる。

 一体しかいないのは、上半身が人型で下半身が馬型の、半獣半人デジモンだけだ。

 

「そいつは何者だ?」

 

 そんな半獣半人のデジモンは来人に視線を向けたまま、セイレーンモンに話しかける。その視線には警戒の色があった。

 

「オリンポス山の麓で倒れてたのを拾ったのね! 行く当てがないみたいだから、連れてきたのね!」

「あの山の? ……神々の不興を買ってないといいがな」

「ケンタルモン! コロナモンと似たことを言わなくてもいいのね!」

 

 ケンタルモンと呼ばれたそのデジモンは、気に食わないとばかりに鼻を鳴らした。

 だが、何も言わないところを見るに、決定事項に不満はあれど、文句を言う気はないようだ。そんな彼は「少し出てくる」と言って、どこかへと行った。

 そして、そんなケンタルモンを見送って――その直後のこと。

 

「それじゃ、みんな! 新しい仲間の加入を喜んで……歌うのね!」

 

 いきなりだった。

 一体何を言い出すのか。そう思った来人だったが――周りを見ると、誰もが疑問を抱かずに楽しそうにしている。

 どうやら、この団体はこういう団体らしかった。

 

「らららー!」

「おーおーおー!」

「るるららる」

「ああおーおー!」

 

 始まったのは大合唱。

 セイレーンモンたちの美しい声が響き渡り、それに追従するように他の者たちの声が響く。音楽のことなどわからない来人だが、そんな彼でさえ感嘆するような合唱だった。

 

「ほら、アイギオモンも何かするのね!」

「しかし……」

 

 合唱から抜け出てきたセイレーンモンが、来人に言う。

 だが、今日初めてこの場に来た彼にいきなり合唱の中に入ることなどできるはずもなかった。

 

「そんなのはいいのね! 楽しんだ者勝ちなんだから!」

 

 セイレーンモンが本当に楽しそうに言うものだから、来人としてもやぶさかでなくなってくる。だが、知りもしない歌を歌うのはやはり無理だ。

 どうすればいいかと悩んで――彼は思い出した。自分の腰に付けられている、今まで一度も使ったことのないシュリンクスという名の笛のことを。

 

「では、これで行くか……」

「おっ、いいのね!」

 

 歌は知らずとも、笛ならば。そう思って、来人は笛を吹く。

 無論、そんな簡単な話であるわけがないのだが――アイギオモンとしての種に植えつけられた本能か、その音色は様になっていて、合唱と混ざり合った。

 

「楽しくなってきたのね! らららー!」

 

 来人がいきなり吹き出したその笛の音に、驚いた者たちもいた。だが、そんな者たちでさえすぐに慣れて楽しそうに歌う。

 誰もが――来人でさえも、笑顔でいる。これは、そんな明るい音色の響く空間だった。

 

 

 

 

 

 その頃。オリンポス山の麓に――。

 

「あの者は森の中、私の所属する奏楽団の者たちと共にいます」

 

 ――ケンタルモンはいた。

 まるで呟くように、祈るように、その声を発している。

 

『そうか。悪はそこにいるか……』

 

 響き渡るは、雷のような轟く声。

 ケンタルモンは冷や汗が止まらなかった。それが誰の声なのかわかったからこそ。

 

『報告、ご苦労だった』

「はっ……」

 

 山の頂上、その雲の中で雷が轟く。

 

『我を騙る偽物め。許され難い悪だ。排除する。必ずだ』

 

 一層強く、雷は轟く。

 まるで天災の如きその様に、ケンタルモンは震えるしかなかった。

 




というわけで、第六十九話。
最後に不穏な影が見え隠れしたところで次回に続きます。
長くなりすぎて分割したので、今日は二話同時投稿です。

それでは次回もよろしくお願いします。
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