【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
中野ブロードウェイ。そこは、東京の一角に存在する複合ビルだ。低階層には幾つもの商店が並び、中上階層には集合住宅となっている。
その建物の低階層の一角にその“暮海探偵事務所”はあった。そこは、電脳犯罪を始め、さまざまな超常現象事件で実績を上げている探偵事務所。実績もあって、その筋の人々からすればそれなりに有名である。
そんな暮海探偵事務所の中、ここの主たる暮海杏子の下に――。
「ただいま戻りました」
――相羽アミはいた。
なぜアミがこの探偵事務所の中にいるのか。もちろん、依頼をしに来たという話ではない。そこには、そんな単純な話では片付けられないほど、複雑に入り組んでいる訳があった。
話はつい先日、あのナビットくんからの呼び出しがあった日まで遡る。
あの日、アミはEDENの中で謎のバケモノに襲われた。が、来人のおかげもあって無事に脱出することができた。めでたしめでたし――とは、当然いかなかった。
バケモノに襲われてしまったのがダメだったのか。来人の頑張りも無駄であってしまったのか。なんにせよあの時から、アミはその身体に異変を起こしていた。
ログアウトできたのはいい。だが、彼女は
極めて簡潔かつ強引に言えば、肉体と精神が別れてしまい、現実に精神データが飛び出してしまったということである。
言葉にするまでもなく、異常な事件だ。そんな時、自身の異常さに混乱し、途方に暮れそうになったアミを拾ったのが――この探偵事務所の主たる暮海杏子である。
経緯を簡単に言えば、概ねこのような感じだった。
ついでに言えば、つい先ほどまで、アミは杏子の仕事の手伝いをさせられていた。
アミがここに来てすぐに舞い込んだ依頼。それは、杏子の古くからの知り合いであるとある刑事の依頼で、“EDEN症候群”という謎の病気を調べることだった。
杏子に丸め込まれた感はあったものの、結果としてアミは杏子と共にセントラル病院に乗り込んでいたのである。文字通りに。
ちなみに、“EDEN症候群”とは、EDEN利用中に突如意識不明の昏睡状態になる奇病のこと。原因も治療法も、その実態の多くが謎で、未だ目が覚めたものが居ないどころか年々患者数が増加傾向にある奇病だ。
そんな病気に対して、セントラル病院はいろいろと怪しい噂があるために、依頼を受けたアミと杏子は調査したである、が。
そこから帰ってきたアミは現在――。
「ひとまずはお疲れ様と言っておこう。君からの情報は興味深いものだった。君はEDEN症候群の未知の症状の発症者なのだろうな」
「……そう、みたいですね」
――傷心中であった。
理由は主に二つ。いや、元を辿れば一つになるか。ようするに、先ほどのセントラル病院にて、見たくないものを見てしまったのだ。だからこそ、彼女は落ち込んでいるのである。
「……自分の体を外から見た衝撃の大きさは想像に難くない。体外離脱現象の一つとして考えれば解決策もありそうだが……」
一つは、今も病院のベッドで眠りにつく自分の身体。まるで死体のように眠る自分を外側から見るというのは、あまりにも不気味すぎた。
精神データが肉体から離れてしまったとは、アミも前もって知っていた情報だ。そこから想像できなかったわけではないが、やはり想像することと実際に見ることは違った。
ドッペルゲンガーという話がある。もう一人の自分を見たら死ぬというオカルト系の話であるが、それはあながち間違ってもいない。自分がもう一人存在するということは、どこぞの漫画であるように便利なことではない。
自分は本当に自分なのか。自分がもう一人存在するのならば、ここにいる自分は本当に必要なのか。そんな、自己のアイデンティティの根幹を揺るがすことになってしまうからである。
アミは、まさにそんな体験をしてしまったのだ。その衝撃は、想像を絶するものだろう。
「いや、それも……そうなんですけど……」
「……? ああ……」
そして、もう一つ。どちらかといえば、アミとってはこちらの方がショックだった。
そんなアミの様子に、杏子は納得したかのような声を挙げる。事前に調査報告を受けて、杏子は彼女が何を見たのかを知っていたのだ。
「
「……いえ、大丈夫です」
「そうは見えないが……いや、何も言わないよ」
もう一つアミが見たもの。それは、自分と同じようにベッドに寝かされていた来人の姿だった。
予感はしていた。最後の姿を見た時以降、いくら連絡しても返事は帰って来なかったからか。あるいは、EDEN症候群患者としての自分の姿を見た時からか。
どちらにせよ、アミは思ってしまったのだ。来人も、ああなっているのではないか、と。
そんなアミの予感通りに、外れて欲しかった予感は現実となってしまったのである。
「命を賭けて助けてくれた者は昏睡状態。助かった我が身も無事とは言い難い……か」
「……どうすればいいんでしょうか?」
「焦るな、としか言えない。探偵の話だが、調査は焦っても慌ててもいけない。急ぎすぎても、急がせすぎてもいけない。“ただひたすらに粘り強く。鉄頭徹尾、堅固な黒鉄のごとき忍耐であたれ”……父の言葉だよ」
「良い言葉ですね」
「そうだな。他人事ですまないが、期を見るのだ。今の焦りにも不安にも、そのすべてに耐えることができれば……いつか、きっと“何か”がわかるだろう。いや、わからなければならない」
「何か……」
そう言った杏子はこの事務所に飾ってある額縁を見ていた。徹頭徹尾をもじったものであろう、達筆な字で“鉄頭徹尾”と書かれているその額縁を。
それを見上げる杏子が何を思っているのかは、アミにはわからなかった。それでも、その文字にも、杏子の言葉にも、感じることはあった。
「杏子さん……お願いがあるんですけど」
「なんだ?」
「私をここで働かせてください!」
だからこそ、アミはそれを願い出る。
元の体に戻りたかった。自分が置かれている状況を知りたかった。なにより、自分を助けてくれた来人を助けたかった。そして、そのためには、杏子の言う“何か”を知らなければならない。何かがわかる場所にいなければならない。
この暮海探偵事務所は、電脳犯罪から超常現象まで取り扱う場所。まさにうってつけだった。
「いやはや、まさか君から言うとは……」
そんなアミの言葉には、杏子も呆気にとられていた表情だった。が、すぐに不敵な笑みを浮かべて、アミを見る。
「ふふ……やはり面白いな。決まりだ。君の能力も素質も適正も、ついでに衣住食も保証しよう」
「……! それじゃあ……!」
その言葉に、期待を込めてアミは彼女を見る。
そこには、アミの望んだ応えがあった。
「期待しているよ。私の助手兼……
「はい! よろしくお願いします!」
半電脳体になったことによって
「うむ! ソファーにかけて待っていたまえ。我々の前途を祝って、乾杯といこうじゃないか。酒でなくて悪いがね。とっておきの珈琲を入れよう」
「いえっそんな! おかまいなく!」
「ふふ……遠慮するな」
社交辞令としてアミは遠慮したが、杏子は珈琲を入れにキッチンの方へと行った。
「杏子さん……コーヒー入れるの好きなんだなぁ」
キッチンの方へと行った杏子のその後ろ姿はどこか楽しそうだった。
アミは杏子が珈琲好きなのだと知って――そんな彼女が、呑気にしていた過去の自分を呪うまであと数分で。ついでに言えば、これは彼女が妙な漢気を見せてぶっ倒れる、その十分前の話だった。
「待たせたね。ほら、特製ブレンドコーヒーだよ」
「ありがっ……!」
そうして、杏子はソレをアミの前に持って来る。特製の
先ほど話題にも上がった来人はというと――。
「なんでこんな目に遭ってるんだよ!」
『我のせいではないぞ。貴様が隠密行動が下手だからだろう』
――EDEN下層、クーロンと呼ばれる空間にいて。
「レアキャラだ……!」
「おい、あんなデジモン見たことねぇぞ! こりゃ、絶対キャプチャだ!」
「デジモン、ゲットだぜ!」
「よく見たらちょっと可愛くない!?」
「いやぁーん。ショタ! ショタよ! 絶対欲しいっ! あんなことやこんなことしたいっ!」
「はぁはぁ……ぐへへ……」
男女問わず、さまざまな人間に追い掛け回されていた。
彼らがハッカーで、デジモンを捕まえて使役する人間だということは、来人もなんとなくわかった。だが、今の来人には相手がハッカーであろうとなかろうとどうでもよかった。
来人の望みはただ一つ。平穏な休憩。それだけだった。
「くそっぉおお! 捕まってたまるかぁ!」
来人は逃げる。捕まったらどういう目に遭うか、あの時のバケモノよりも明確にわかりそうなだけ、必死さが二割増しだった。
それは奇しくも、アミが
というわけで、第七話。
原作のワンシーンで、以前も言った原作の最低限の話ですね。
こんな感じで、時々原作オンリーの話が入ります。
主人公はしばらく現実世界に出ることができないので……どうしてもしばらくは現実世界での話に関われないんですよね。
さて、次回は主人公の方に戻りますね。
それでは次回もよろしくお願いします。