【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
来人がセイレーンモンたちと合流した、その翌日のこと。
「アイギオモン! ヒポグリフォモンたちを呼んできて!」
「わかった!」
来人は一団のメンバーとして、すっかりと馴染んでいた。
共に過ごした日はたった一日だけ。だが、セイレーンモンたち曰く、その一日だけでいいのだという。
「ヒポグリフォモン! 呼ばれているぞ」
「クキャクゥ!」
「コー!」
来人の声に、二体のヒポグリフォモンが声を上げた。
ヒポグリフォモンとは、白い羽毛の合成獣デジモンだ。ひときわ目立つ雄々しい翼に、鳥類のような頭が特徴のデジモンである。ちなみに完全体だ。
本来のヒポグリフォモンは獰猛なのだが、この一団の何かを気に入ったのだろう。彼らはこの一団のメンバーとして、穏やかな気性を得、そして共に行動している。
「セイレーンモン! 連れてきたぞ!」
ヒポグリフォモンたちを連れてきた来人はセイレーンモンに声をかける。見れば、セイレーンモンたちは旅支度を整えていた。
「ありがとうね! 今から出発するのね!」
「出発……? どこか行くのか?」
「そうなのね! 私たちは歌って旅する一団なのね!」
「へぇ、旅か」
セイレーンモンたちが旅する集団であったことに、来人は少し驚いた。てっきり、彼らはこの森に住んでいるものだとばかり思っていたのだ。
「目的地を決めずに街から街へ、が普段なのね! 今回はちょっと特別なのね!」
「特別……?」
特別。その言葉のことが来人は気になった。どういう意味なのだろうか、と。
「祭りなのね!」
「祭り?」
「そうなのね! 世界を守ってくださるオリンポスの神々、そして今日も続くこの世界に感謝を込めた祭り! 今からオリンポス山の麓でするのね!」
楽しそうに言うセイレーンモン。一見すれば、騒ぎたいだけだと邪推してもしまうが――そうでないのは、その目を見れば明らかだった。
本気でオリンポスの神々に感謝をし、その想いを伝えようとしている。それがわかる、真剣な目だった。
ちなみに言えば、昨日、セイレーンモンが来人を見つけたのは場所の下見に行ったからである。
「へ、へぇ……オリンポスの神々に、ね……」
ともあれ、セイレーンモンの言葉を前に、来人は頬が引き攣った。
当のオリンポスの神々が、アレであることを思い出したのだ。
彼らの真摯な想いを壊さないためにも、来人はその真実を胸にしまっておくことにしたのだった。
「それじゃ、行くのね!」
「クオォーン!」
「コー!」
セイレーンモンの力強い言葉に呼応したかのように、ヒポグリフォモンたちが甲高い声で鳴く。そんな彼らの声に動かされたかのように一団は歩き出した。
「るるらら~るら~!」
「あぁぁ……おぉぉ~!」
「るらっるらっ!」
歩く間にも、楽しげな歌が響く。力強い歌が響く。
昨日とは別の歌。自然を賛美するような、自分たちを鼓舞するような、そんな歌だった。
「ほんと、楽しそうだよな」
「何言ってるのね」
耳に届いた声の方を見る。
少し不機嫌そうになって、こちらをジトリと睨んでいるセイレーンモンがいた。
「何がだよ」
自分の言葉のどこに不満があったというのか。本心を言っただけだというのに、そんな目で見られた来人は疑問に首を傾げた。
「不満ありありなのね!」
「いや、だから何でだよ」
「だって、もうアイギオモンは私たちの仲間! 家族とも言うべきものなのね! そんな風に……輪の外で自分だけぼけっとしているなんてダメなのね!」
セイレーンモンの口から飛び出したその言葉は、来人にとって予想外のものだった。
だが、不思議と悪い気はしない。遠くの日々だった気もするし、近くの日々だった気もする、そんないつかの昔のことのよう気がする日々の中に――こんな感じの中にいたような、そんな気がした。
「ははっ」
自然と彼のその顔に笑みが浮かんだ。
帰る場所があって、家族と言える仲間がいて。そんな、自分たちの輪。それがあることが、少しだけ嬉しかった。
「そうだな。いっちょ、やるか!」
「なのね! るらららー!」
セイレーンモンの美声に合わせて、来人も笛を吹く。
笛の音とデジモンたちの歌と。さまざまな音色が混じり合って、森の中へと消えていく。木々の隙間から見える木漏れ日も、木々から吐き出される新鮮な空気も、この世界のすべてが交じり合っているかのような錯覚さえした。
「森を抜ける!」
初めにそれを言ったのは誰だっただろうか。
森の終わりを前に、つい出た言葉だったのだろう。だが、さすがと言える。それを歌の合間を縫うように、歌の邪魔をしないように言ったのは。
そして、彼らは森を抜ける。見えたのは――昨日までと何も変わらない、あの山の姿だった。
「おぉ……」
いっそ清々しいまでの神聖さを感じるのは、あの山が特別だとわかっているからか。
誰もが一旦歌うのを止め、感嘆と羨望の声を漏らした。
「……」
一方で、来人はその山の先にあるものを鋭く睨んでいた。
先ほどまでの楽しげな気持ちなど、どこかへと吹き飛んだ。思い出してしまったのだ。自分がしなければならないこと、いや、したいことを。
「……どうしたのね? 怖い顔してるのね」
セイレーンモンが来人に聞く。その表情には不安しかなかった。
「……何でもないよ」
安心させるように、来人は笑って返す。だが、その笑顔はどこかぎこちないものだった。
「そう……なのね? なら、いいのね……」
セイレーンモンは釈然としない様子だった。
そんなセイレーンモンに、来人は先を急がせる。目的地はもうすぐだろ、と。
「……それじゃ、進むのね!」
「クォオオオン!」
「コホー!」
二体のヒポグリフォモンが鳴き、再び一団は歩き始めた。
「緊張しているか?」
「ケンタルモンか……いや、
歌いながら歩き出した一団の中、来人に近づいてきたのはケンタルモンだった。昨日はどこかへと行った彼だが、昨夜の遅くに戻ってきた。
正直言って、ここで彼に話しかけられたのは意外だった。来人は、自分は彼に好かれていないと思っていたのだ。
「そうか。気楽なものだ。いや、全く羨ましい。私は緊張しているからな」
「緊張しているのか?」
「もちろんだ。セイレーンモンたちは楽観が過ぎる。神々へと捧ぐ祭りなど、一世一代のことといっても過言ではないものだからな」
そう話すケンタルモンの顔は強張っていて、本当に緊張しているのがわかった。
だが、来人は持ち前の勘で気づく。彼の緊張が、祭りに対してのものだけではないことに。だが、来人は軽く流した。流して、しまった。そういうこともあるだろう、と。
彼が自分の間違いに気づくのは、オリンポス山の麓についた時のことで――。
「それじゃあ、準備するのね!」
「おー!」
「お、ぉー」
――自分のしてしまった間違いに来人は気づかず、一団はオリンポス山の麓についた。
さっそく、祭りの準備が始まる。木々を組み上げ、焚き木を炊けるようにする。それらと犠牲にする食べ物を中心に用意した。そして、それを取り囲むようにして、円形になるようにそれぞれは位置する。
これが祭りであると知らない者からすれば、宴会のようにも見える見た目だった。
「……準備はオーケー。それじゃ、するのね! 今年の祭りを!」
「クォオオオオオオオオン!」
「コォオオオオオ!」
始まりの合図を聞いたヒポグリフォモンたちがひときわ甲高く鳴く。それはもはや叫びに近かった。天まで届けと願わんばかりの、そんな咆哮だった。
「いち、に、あー……いち、に、さん、しっ!」
「あぁーあっぁっ……いち、に、さん、しっ!」
「おぉーぉぉー! いち、に、さん、しっ!」
それが始まりの合図。
円周上に等間隔に並んだセイレーンモンたちが、近くにいるデジモンたちに聞こえるようにリズムを刻み、数字をカウントする。
四の合図で、揃えるように全員が歌い始めた。
「あぁぁぁああぁーぉおぉ、おぉっ、あー」
「おぁおぁーおぁー」
「ぴっく、ぁぴっか、ぴこっ」
昨日や今日の道中にも増して力強く、そして美しく歌われた歌だった。聞いている者を勇気づけるような、そんな歌。天に住まう雄々しき神々のことを歌ったものであるかのような、そんな音色。
相変わらず、歌詞はない。擬音を基にして声で音を発する。歌というよりは、曲。自分を一つの楽器として扱っているかのような、そんな気さえする。
「すごい、と表現するべきかな。楽器もなく、これほどの表現をするとは」
来人は祭りからこっそりと外れ、その歌を聴いていた。そして、気づく。その歌は節ごとで曲調が変わることに。
まるで酔い狂うほどに溺れる酒のような。
まるで冷たくも美しい月のような。
まるで灼熱にして力強い太陽のような。
まるで戦場の破壊を成す格闘のような。
まるで疾風の如き導き手のような。
まるで荒々しく壮大な大海原のような。
まるで都市を守る叡智のような。
まるでひたすらに鉄を鍛えるかのような。
まるで大いなる愛であるかのような。
まるで実りをもたらす母なる大地のような。
まるで男女の契約を慮る証明者のような。
そんな、十一の曲調が一つに混じり合わさって天に昇っていく。
これ一つ一つがオリンポス十二神それぞれを賛美するものだと、来人は気づく。であれば、次に来るだろうものも予想がつく。
そして、数秒後の次に来たものは、やはり予想通りのものだった。
まるで天に轟く雷のような――そんな歌で。その瞬間のことだった。
「っ!」
初めに気づいたのは、やはり来人だった。次いで、他の者たちもそれに気づく。
はたしてこれは偶然か、それとも必然か。歌われた歌に追従したかのように、歌われた歌に先行するように――雷が唸った。神が鳴った。そして歌の通りに、天が轟いた。
「死にたくなくば、今すぐに逃げろ!」
来人が叫ぶ。
だが、何が何やらといった様子で、周りの者たちはこの状況に理解が及んでいなかった。
そんな全員に、来人は舌打ちをして――その瞬間に、彼は感じた。来る、と。それがわかったのも、やはり彼だからだろう。
瞬間、生贄の食物も焚き木もそのすべてを燃やし尽くさんとばかりの雷が落ちる。
雷。神はそんな自身の権能と共に現れたのだ。
「さぁ、悪よ滅びよ。その死を持って……!」
現れたのは、天地を裂くほどに分厚い剣を持った
というわけで、第七十話。
まさかまさかのVSユピテルモン、となったところで次回に続きます。
なぜユピテルモンがいるのか、それは次回に語られます。
あと、ぶっちゃけイリアス編よりかはサイスル本編の方が良いって人はたくさんいると思うので、もしかしたら投稿スピードを上げるかもしれません。
どうなるかはわかりませんが、それでは次回もよろしくお願いします。