【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第七十二話~聖を纏う白なる神人~

 まだ昼間だというのに、夜に間違うばかりの漆黒の空に突風が吹き荒れ、雷が鳴り響く。

 それは世界を吹き飛ばさんとばかりの嵐だった。その嵐を前に、力ない弱きデジモンたちはなすすべなく逃げ惑い、吹き飛ばされるしかなかった。

 

「ぉおおおおお!」

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 そんな暗い世界に走る、二筋の閃光。

 吹きすさぶ嵐を物ともしないそれら。言うまでもなく、それは来人とユピテルモンだ。

 

「今代の座を捨てた貴様がどうしてこうも諦めぬ」

「悪いが……()には目的がある。そのために、ここで負けるわけにもいかないのだ!」

「つくづく……度し難い」

 

 ユピテルモンは果敢に来人を攻め続ける。対する来人はユピテルモンの攻撃を凌ぐので精一杯だった。

 とはいえ、だ。もしも今の戦況を傍から見る者がいたのならば、驚愕のあまり呆然とすることだろう。完全体が、オリンポス十二神の主神の攻撃を凌ぎ続けられていることに。それはあまりにも異常だった。

 

「はぁっ!」

「っく……」

 

 振り下ろされた剣を、来人は両腕に装備された円形の盾を使って受け流す。受け止めることはしない。もしそんなことをすれば、その瞬間に両断されることがわかりきっているから。

 

「……!」

 

 自身の攻撃を耐えられている。その事実に、表情に出さずともユピテルモンは苛立っていた。

 来人は確かに今代のユピテルモンの片割れだ。だが、今の段階ではアイギオテュースモン:ホーリーという完全体デジモンでしかない。

 完全体如きに主神たる自分の攻撃を防がれている。これほど苛立つことはなかった。

 そして、その苛立ちを来人は見逃さない。

 

「はぁっ!」

 

 攻守が逆転する。荒くなった剣筋を見切り、躱す。来人はそのまま右腕の盾で殴りつける。その殴撃は、ユピテルモンめがけて突き進んだ。

 

「……」

 

 来人は内心で呟く。やはりこれでは無理だったか、と。

 見れば、来人の繰り出した盾はユピテルモンのマントで防がれていた。それを視認した瞬間、彼はすぐさまその場を離れる。直後、剣が彼の頭のあった場所を通り過ぎた。

 

「やはりユピテルモンであるだけはあるか……」

 

 距離が離れ、睨み合いになる。そんな状況の中、来人は呟いた。

 

「我を測ろうというのか。貴様の方がよほど暴慢だな」

「かもしれぬな」

 

 ユピテルモンの罵声を来人は努めて受け流す。その単語に反応しそうになった自分自身を押さえつけて。

 

「しかし……ずいぶんと煩わしいのだな」

 

 小馬鹿にしたような笑みを浮かべて、来人はユピテルモンを嘲笑する。

 そして、やはりユピテルモンは反応した。いや、反応せざるを得なかったのかもしれない。心のどこかで、その言葉の意味をわかっているからこそ。

 

「……何?」

「そうだろう? ユピテルモンとは善そのもの。善と正義の体現者だ。その裁きには私情が挟まれることはなく、ただ淡々と行われなければならない。それがユピテルモンだ」

「……だから、何だというのだ」

「わからぬか? それに則るなら、お前も、()も……ユピテルモンにはふさわしくないということだ」

「……! 偽物風情が言ってくれるな」

 

 来人の言葉を振り払うように、ユピテルモンは怒気を発した。もちろん、その言葉の意味を、彼も心のどこかではわかっている。だが、認められない。認めてはならなかった。

 その言葉の意味を認めるということは、自身の存在意義を自身で否定するという、自己否定の結論なのだから。

 

「貴様がそれを言うのか? ふさわしくないのは貴様だけだ。貴様のせいで我はこうなっているのだからな」

「やれやれ。責任転嫁とは。いよいよ腐ったか?」

「……!」

 

 来人の辛辣な返しにユピテルモンはうめいた。いかに事実とはいえ、それを理由に自身の性格を正当化させる、その是非はまた別の問題だからだ。

 

「……無論、貴様の言っていることもわからなくはないが、な」

 

 そう、ユピテルモンの言っていることは間違いではない。このユピテルモンだが、本来の彼の性格とは僅かに違うのだ。

 言うまでもなく、それは代替わりのシステムにエラーが発生したからである。先代を通して、僅かに人間の精神データが入り込んでしまったのだ。入り込んだ人間の精神データが、新たに生まれ出てたユピテルモンの人格さえ侵してしまっている。

 その影響は僅かとはいえ、逆に言えば僅かにでも出てしまっている。

 つまり、このユピテルモンも、来人も、純粋なユピテルモンとは言えないということだった。

 

「……しかし、ふさわしくないというならば先代の方だろう。突発的に現れ、先々代からユピテルモンを継いだ者。あやつは歴代随一の愚かさだと知る」

「ふっ、確かにな」

 

 来人は苦笑した。

 確かに、先代のユピテルモンは愚かだった。異世界に調査しに行き、見捨てていいはずの誰かを救い、そして死んだ。主神という立場を考えれば、愚かしいにも程がある。

 だが、その愚かしさが他のオリンポス十二神たちに受け入れられていたことも事実なのだ。

 特に妻であるあの女神。彼女はそんな先代を好いていたからこそ、世界を超えてまで会いに行った。

 

「……だが、死した者に対する陰口とは。いよいよもって愚かしいにも程がないか?」

「……ぬ」

「それに、すまぬな。いくら愚かだろうと、()にとってユピテルモンは先代一柱だけ。それ以外を認める気はない。このためだけに新たに生まれ出てた貴様には申し訳なく思うが、()にとって偽物は貴様だ」

「っく……!」

 

 再び呻いたユピテルモンは、感情を吐き出すかのようにそのまま剣を振るう。その一撃はまさに子供の駄々のよう。突然の攻撃再開だったが――来人はそれを難なく躱した。

 

「乱れているぞ。それで()を殺そうとは……」

「舐めるな」

 

 幾百と振るわれる剣を、来人は時に躱し、時に防ぐ。

 再開された戦闘。やはり来人は防戦一方だった。ユピテルモンも、来人の地力の低さに対応してきたのだ。

 

「はぁっ!」

 

 ユピテルモンの剣による力任せな一閃。

 雷を放ちながら振るわれたソレは、来人の地力の低さを考慮した全力の一撃で――だからこそ、来人にとっては最悪なことに防御も回避も押し潰す一撃だった。

 

「っ!」

 

 右腕の盾で受け流す。感じる凄まじい衝撃に顔を顰めた。

 ピキリ、と。聞きたくない音が彼の耳に聞こえた。見れば、先ほどの一撃を受けた右腕の盾は罅が入っていて――下手をしなくても、あと数回受け止めるだけで砕けてしまうだろう。

 

「……逃さぬ!」

 

 初めて生まれたかもしれない、来人の穴。

 それを前にして、ユピテルモンはさらに果敢に攻め始めた。上から、下から、右から、左から――あらゆる方向から来る剣閃。

 来人は左腕の盾を重点に使って防ぐ。だが、やはり何度かは右腕の盾を使わなければならなかった攻撃もある。その度に右腕の盾はひび割れがひどくなっていった。

 

「……!」

 

 そして、ついに甲高い音が辺りに響く。それは右腕の盾が砕けた音で――戦闘が始まって、初めて来人は苦々しい顔をした。

 そんな来人の表情を見た瞬間、ユピテルモンはただ思う。チャンスが来た、と。

 

「はぁっ!」

 

 気合と共に、雷を纏った剣を全力で突き出す。

 

「っ!」

 

 来人は左腕の盾を構えた。

 

「はぁぁぁぁ!」

「くぅううう!」

 

 盾と雷剣が激突する。

 両者は共に、自身の獲物に亀裂が走る音を聞いた。そして――押し勝ったのは剣の方だ。

 

「がはっ!」

 

 亀裂が走りながらも盾を砕いた剣が、来人を貫いた。

 

「我の勝ちだな……」

 

 突き刺さった剣に纏われる雷が、内部から来人の身体を焼いている。

 どう見ても、致命的な一撃だった。それでも、来人はまだ動く。死んでいないのならば、と。

 

「まだ……ぜ、ひゅー……まだだな……負ける気は……がはっ、……ない……!」

「諦めの悪いことだ」

 

 来人の身体に突き刺さった剣をユピテルモンは抜こうとする。抜こうとして、そして気づいた。来人の目が諦めていないことに。何かを狙っていることに。

 一瞬、逡巡する。が、その目論見ごと粉砕する、とそう思ったのだろう。彼は迷いなく剣から手を離し、その両手にハンマーを持つ。本来の雷撃で何かを目論む来人を倒そうという腹積もりだろう。

 

「行くのねー!」

 

 だが、次の瞬間に辺りに響いたのは、落雷の音ではなく、先ほど嵐によって吹き飛ばされていったはずのセイレーンモンの声。

 そちらを見れば、そこにいたのはあの奏楽団の者たち。セイレーンモンがいた。コロナモンがいた。ルナモンがいた。ヒポグリフォモンがいた。その他、たくさんのデジモンたちがいた。

 そして――。

 

「“第二曲《アリア》”! おー!」

「おぉー!」

「オォォー!」

 

 ――次の瞬間、辺りに響いたのは、いくつもの荘厳なる重低音で奏でられた歌だった。

 たかが歌と侮るなかれ。これこそ、セイレーンモンの必殺技の一つ。たくさんの歌声によって強化される、低周波によって敵の三半規管を押し潰す技だ。

 まあ、それがユピテルモンに効くかどうかというと、また別問題なのだが。

 

「……くだらん」

 

 ユピテルモンはその両手それぞれに持ったハンマーを打ち鳴らす。

 呼び出されたのは小さな雷雲だった。

 

「“マボルト”」

 

 雷雲が陣を組む。

 その組まれた陣から、雷が放たれた。

 

「っ、“第三き――」

 

 放たれた雷は、一目散にセイレーンモンたちを狙う。

 

「きゃーっ!」

「うわっ!」

「がはぁっ」

 

 阿鼻叫喚の騒ぎとなっている。

 “マボルト”はユピテルモンの意思から離れて、自動で敵を狙う技だ。つまり、もう止まらない。絶えず雷が彼らの下へと降り注ぐことになる。

 雷に打たれた者、逃げ惑い体力に限界がきた者。次々と倒れていく。

 そんな彼らを一瞥して――ユピテルモンは来人に向き直る。その時、来人はその身体に突き刺さる剣の柄を持って唸っていた。

 

「……ぐっ!」

 

 来人は剣を引き抜こうと、力を込める。僅かに剣が動いた。そして、一度動けば後は勢いで済む。ゆっくりと、だが確かに。それは彼の身体から引き抜かれた。

 

「ぜっは……ぜー……はぁはぁっ……あ、いつらは……!」

 

 荒れた息を整える。だが、いつまで経っても収まる気配はない。来人は既に虫の息も同然の状態だった。

 

「呆れるな」

 

 ユピテルモンが静かに呟いた。勝敗が決したと感じている彼は、地面に這い蹲る来人の姿を冷えた視線で見つめていた。

 

「なぜそうも……我は絶対だ。我が勝ったのだから、貴様も結論を認めるべきだろう?」

「……は、諦められるようならば……()は……初めからここにはおらん」

「何とも愚かしいことだ。やはり貴様が異物だからか。異な先代に宿った異物、か。……なるほど、この結末は決まっていたのかもしれぬ」

「……」

 

 ユピテルモンの目の前で来人は無理矢理に立ち上がる。

 その視線の先にはマボルトの雷から逃げ惑いながらも、来人を助けようと隙を伺おうと四苦八苦しているセイレーンモンたちの姿があった。

 昨日出会っただけの自分を命懸けで助けてくれようとしている彼らを見殺しにするなど、来人にはできなかったのだ。

 

「はっ!」

 

 なけなしの体力を使って、来人はその手に持ったままのユピテルモンの剣を投擲する。剣は勢いだけで飛んでいきながらも、マボルトの陣が刻まれた雷雲を切り裂く。その瞬間に雷が止んだ。

 だが、そこまでだった。身体に限界が来たのだろう。彼は剣を投げた勢いだけで倒れてしまった。再び立ち上がろうとしているようだが、力が入らないのか、その場で虚しく動くだけだ。

 

「大丈夫なのね!?」

「おい、大丈夫かよ!」

「あわわ……大丈夫ですか?」

 

 そんな来人に駆け寄ろうとしているのは、セイレーンモンにコロナモンとルナモンといった、昨日目覚めた来人と初めに出会った面々だった。

 

「だい、じ――……っ!」

 

 そんな彼らを安心させるためにも笑って答えようとした来人。だが、そんな彼は見た。遠くで光った閃光を。

 

「え……?」

「あ……」

 

 直後、呆然とするセイレーンモンたちの前で、彼は雷に襲われた。

 




というわけで、第七十二話。ユピテルモン戦前半。

前半の好調子からの、後半のアレでした。
まあ、完全体で究極体と戦うということは、初見のゲームで一回のミスもせずにクリアするくらいの難度がある――と個人的に思っているのでこのような形になりました。
だんだんと体力が切れていったこと、そしてユピテルモンが来人の戦い方に慣れたこと、それがこの結果ですね。

というか、ガッツリ盾で書いちゃってアレなんですけど、アイギオテュースモン:ホーリーの両腕のアレって盾ですよね?
設定がないので用途不明ですし、ちょっと不安です。

ともあれ、次回はユピテルモン戦後半です。
まだまだ終わりません。

それでは次回もよろしくお願いします。
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