【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第七十四話~穏やかな再会~

 瞬間、ハッとして来人は目を覚ました。誰に起こされるでもなく、自然とだ。

 

『やれやれ。ようやく起きたか。全く、ずいぶんと寝坊していたものだな?』

 

 そして、真っ先に聞こえてきた声は、聞こえるはずのない声で――「まだ夢を見てるんだな」と呟いて、来人は目を閉じた。

 

『貴様……わかって言っているだろう』

 

 再び聞こえてくる、どこか呆れを含んだ言葉。

 二回目はさすがに夢で誤魔化せなくて、来人は渋々と声を出す。自分の内側の――懐かしい、カミサマに向けて。

 

「……少なくとも、さっきの言葉はカミサマだけには言われたくないな」

『かもしれぬな。……ずいぶんと迷惑をかけた』

「はは、全くだ。カミサマが寝てる間、俺がどれだけ苦労したか。主にお前の妻とかな」

 

 寝転がったまま、思い出すように来人は話す。

 今、彼の心は彼自身が思った以上に静かだった。待ちに待った者との再会だ。もう少し何か感じるものだと思っていた。

 

「ってか、起き抜けにカミサマの言葉って……デジャヴだな。はぁ。かっこわるー」

『そういうのを気にしても仕方あるまい?』

「ま、確かに」

 

 今までと変わらずに話し合う彼らの様は、まるで今までずっと共に一緒にいたかのようで、間違っても再会したばかりだとは思えない。

 もしかしたら、心のどこかで彼ら自身がこうなることがわかっていたからこそ、こういう対応になったのかもしれない。

 いや、もしかしたら、感情が溢れ過ぎて麻痺してしまっただけなのかもしれない。

 そのどちらかなのか、そのどちらもなのか、そのどちらでもないのか。彼ら自身も今の自分の気持ちをよくわかっていなかった。

 

『まぁ、その……何だ』

「ん?」

『助かった。貴様……いや、来人。お前がいなければ我は……今頃は先代として歴史の海に沈んでいただろう』

 

 実際、カミサマが復活できたのは、来人がもう一柱のユピテルモンを倒したことと、来人自身が人間としての自分とユピテルモンという存在を切り離した――つまり、本当の意味で今代のユピテルモンとなることを否定したからだ。

 来人が頑なに“ユピテルモンはカミサマしかいない”と信じ続けた結果であるとも言う。

 

『だから、その、礼を言う』

 

 恥ずかしそうに、それでも確かに礼を言ってくるカミサマに、なぜか来人も気恥ずかしくなった。

 

「……カミサマも礼を言えるんだな」

『……礼くらい黙って受け取れ!』

「ははっ、わかってるよ。……どういたしまして」

 

 来人の茶々も、カミサマの怒鳴り声も、すべては照れ隠しだった。

 空を見上げる。先ほどまでの嵐が嘘のように晴れていた。嵐だった先ほどの様も合わせた今の空模様は、まるで曇天を抜けた先、そこにようやく辿りついた今の彼ら自身を表しているよう。

 気持ちが良いばかりの快晴だった。

 

「……いい天気だ」

 

 倒れ込んで、来人は目を閉じる。

 このままゆっくりと眠って休みたかった。今までの疲れのすべてがのしかかってきたような感覚さえした。カミサマの復活によって、肩の荷が降りたのかもしれなかった。

 来人は睡魔に身を委ね、舟を漕ぐ。

 

『今はゆっくりと休め。何かあったら我が起こそう』

「ああ、頼、んだ……」

 

 そのまま眠りにつく。

 また良い夢が見られそうだ、なんて考えながら。

 そうして、彼は眠って――。

 

『何かあったら起こすとは言ったが……どうするべきか。害はないようだが……』

 

 ――その数分後に、カミサマは誰にも聞こえないように呟いていた。何と言うか、早すぎる。カミサマは心中で嘆息した。

 

「……」

 

 そんなカミサマの一方で、来人は目を覚ました。つんつん、と誰かにつつかれているような、そんな感覚がしたのだ。

 目覚めた彼は眠気に耐えながら、そのまま辺りを見渡して――。

 

「あ、起きたのね! アイギ……じゃなくて、ユピテルモン様!」

 

 ――そんな彼は見た。心配そうに自分を見つめるセイレーンモンの姿を。

 

「セイレーンモン……?」

「よかったのね……じゃない。よかったですのね! アイギ……ユピテルモン様、死んだように眠ってたから心配していたのですね!」

 

 セイレーンモンのその表情からして、本当に心配してくれたのだろう。

 眠りを邪魔されたのは癪だが、来人としてもそれは嬉しい。だが、急に改まった態度に何とも言えない距離が感じられた。

 

「別に……無理に直さなくていいんだぞ?」

 

 つい、言ってしまった。

 

「え、ですが……!」

「それに俺はアイギオモンでもユピテルモンでもない。来人って言うんだ」

「ライト……?」

「ああ、それが俺の名前だ」

 

 来人はアイギオモンとしてでも、ユピテルモンとしてでもない、自分の本当の名前でもって自己紹介をする。自分の名前を名乗るのも久しぶりな気がして、彼はなぜか嬉しさで頬が緩んだ。

 

「うぅ……わかったのね。ア……ライト。改めまして、よろしくなのね!」

「ああ。よろしく」

 

 しっかりと来人は差し出された手を握り返した。改めた自己紹介にこそばゆい感じがして、セイレーンモンと来人は笑ってしまう。

 

「ちょっと雰囲気変わった気がする……でも、こっちの方がいい気もするのね?」

「疑問形かよ」

「どっちがいいとか言えないのねー」

 

 軽口を言い合いながら、来人は思い出した。自己紹介しなければならない者がまだいた、と。

 

「そうそう。まだもう一人……もう一柱? 自己紹介しなくちゃな」

「どういうことなのね?」

「えっと、それは……」

『やれやれ。我だな。初めまして、というべきか。歌い手のデジモンよ』

 

 どうやら、セイレーンモンは来人の中から声が聞こえるとは予想打にしていなかったらしい。その顔には驚愕だけがあった。

 もっとも、普通は予想できないだろうが――そんなセイレーンモンの反応に、来人は苦笑していた。

 

『我はユピテルモン。それと……今の名はカミサマだ』

「え? えぇぇぇえ!? ユピテルって、え? カミサマ? カミサマの名前がユピテルモン様で、ユピテルモン様がカミサマで、ライトで、声で……あれ、え?」

「オーバーヒートしているな」

 

 先ほどの驚愕から抜けきらないうちにされた、カミサマのある意味意地の悪い自己紹介。それを前にして、セイレーンモンは混乱していた。

 

「きゅう……」

「あ、倒れた」

 

 頭の限界許容量を超えてしまったのだろう。セイレーンモンは倒れた。

 自分を心配してきてくれたはずなのに、いつの間にか自分が心配することになっている。来人は何となく引っかかるものを感じていた。

 

「おーい、大丈夫か?」

「う……カミサマ……ユピテルモン様……ライト様……カミライテル様? うぅ」

『これはダメだな。しばらく待つことになるだろう』

「言っとくけど、カミサマのせいだからな」

 

 事の元凶に呆れながら、来人はセイレーンモンを寝かせる。その様子からして、しばらく起きそうになかった。

 

「っていうか、何なんだよ。さっきの自己紹介は」

 

 なぜわざわざ混乱させるような言い方をしたのか。そんな疑問を込めて、来人は尋ねた。

 

『ふむ。我はユピテルモンだ』

「ああ。で?」

『それで……だ。ユピテルモンであることに違いはないが、我としてはカミサマという名もそれなりに気に入ったのでな。こうしてユピテルモンとして正式に活動できない今くらい、両方を名乗っても問題はないと思っただけだ』

「……なぁ、カミサマ変なものでも食ったか?」

『真面目に聞け!』

 

 来人の本気で心配したような声に、真面目に話していたカミサマは怒鳴った。

 だが、来人がそう心配してしまったのにも仕方のない部分もあるだろう。

 今までカミサマは“カミサマ”と名乗ってきたことが多々あった。だが、それはどちらかといえば来人が勝手に名づけた結果で、仕方なくの部分が大きい。そんな彼がまさかの気に入った発言をしたのだ。

 来人であっても、これで混乱しない方が無理だった。

 

「……ま、いいけどな」

 

 少し遅い気もしたが、来人は慌てて誤魔化す。

 カミサマは内心で再び嘆息した。

 

「うーんうーん」

「うなされてるみたいだな。カミサマ、冗談が過ぎたんじゃないか?」

『だから、冗談ではないと……!』

「仕方ない。強引に行くか」

 

 そう言って、来人はセイレーンモンの顔を叩く。

 ちなみに当然だが、力はそんなに込めていない。

 

「うぅ……なんか痛い気がするのね」

 

 来人の努力の甲斐があったのだろう。

 その頬がりんごのように赤くなった頃、セイレーンモンはようやく目を覚ました。

 

「お、起きたか」

『顔は大丈夫か?』

「……夢じゃなかったのね」

 

 聞こえてくる声に、セイレーンモンは疲れたような声を上げた。どうやら、思考放棄する(諦める)ことにしたらしい。

 

「……そういや、みんなはどうなったんだ?」

 

 みんなとは、もちろんセイレーンモンの所属する奏楽団のことである。

 

「大丈夫なのね! 奇跡的に死者はいなかったから……今はみんな森に避難しているのね!」

「森へ? なるほど」

 

 森はそれだけで隠れる場所が満載の場所であるし、それに死者はいなくとも、負傷者はいるのだ。森の中には数多くの薬草などがあり、負傷者の治療にも役立つものが多くあることだろう。

 

「……ん? なんでセイレーンモンはここにいたんだ?」

「……様子を見に来たのね」

「いや、じゃあ何で気絶状態の俺はここに放置されて……ああ、なるほど」

 

 持ち前の勘で気づいた来人は納得したような声を上げて、その先は言わなかった。

 セイレーンモンが身を縮こまして申し訳なさそうにしていたから。

 セイレーンモンが団の仲間の移動にかかりっきりで、自分のことを忘れていたなどと――そんなことは忘れるに限る。来人は脳内からその記憶を排除した。

 

「ごほん! そういえば、ケンタルモンが……」

「ケンタルモン? ああ、あいつか。どうかしたのか?」

「いや、何か顔を真っ青にしているから……何かあったのかもしれないのね。でも、聞いても答えてくれないのね……」

「むしろ、それを俺に話してどうするんだ?」

「ライトのことばっかり見てたのね。だから、ライトに何か原因があるのね!」

 

 そう言われても、来人には心当たりがない。

 『まあ、会ってみればわかることだろう。火急の用事もないことであるしな』とカミサマが呟いて――その一言で、来人たちは頷きあって歩き出したのだった。

 




ということで、第七十四話。

ついにカミサマ復活、な回でした。
ようやくですね。二十数話ぶりです。

さて、カミサマが復活したところで、イリアス編も終わりが近づいてきました。
もうあと数話程度ですので、ハイペースでさっさと投稿して行きますね。
一応、今回の話はただの分割した話ですので、同時投稿します。

それでは次回もよろしくお願いします。
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