【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
セイレーンモンと共に森の中へとやって来た来人。
そんな彼を出迎えたのは――。
「申し訳ありませんでしたっ!」
――土下座しそうな勢いで謝るケンタルモンだった。いや、四足という身体の構造上、土下座はできるはずもないが。
「え……?」
『何かされたのか?』
「いや、覚えがないんだけど……」
そんなケンタルモンの姿に、来人とカミサマはたじろぐしかなかった。
カミサマはケンタルモンとは初対面であるし、来人も彼とはそう関わった記憶がない。謝られるような心当たりがないのだ。
「本当に……! 本当に申し訳ありませんでしたっ!」
「だから、どういうことだよ?」
今のケンタルモンはまるで謝るだけの機械と化したかのよう。
来人が理由を聞こうとしても、萎縮してしまって余計に謝るという始末だった。
「申し訳ございませんね。彼も悪気はなかったんですよ」
そんな時だ。森の奥からあるデジモンが現れたのは。
そのデジモンは今の今まで成り行きを見守っていたのだが、ケンタルモンのポンコツぶりと困っている来人を見かねて出てきたのだろう。
そのデジモンは、姿形だけはケンタルモンによく似ている。だが、その漆黒の体躯と左腕に弓を装備している部分が違う。
「あんたは……?」
「これは失礼しました。お初にお目にかかります。オリンポスの主神よ。私はサジタリモンという者で……一応、この愚弟子の師をやっております」
畏まって礼をしたサジタリモンと名乗った彼は、ケンタルモンを睨みつけている。最後の言葉通り、愚弟子の軽率な行いに心を痛めているようだった。
『なるほど。貴様が……噂はディアナモンからよく聞いているぞ』
「おぉ……! あの方はお元気で?」
『無論、と言いたいところだが……最近は会ってなくてな。しかし、あやつのことだ。変わりはないだろう』
「はは……ですね」
カミサマとサジタリモンの会話に、来人はついていけなかった。話の内容からして、二人は間接的な知り合いだったらしいが――そんな来人のことに気づいたのだろう。カミサマは軽くサジタリモンの紹介をする。
曰く、ディアナモンに師事した一頭のケンタルモンが自身の可能性をコントロールした結果、進化したデジモン。曰く、ディアナモンが気に入るほどの知恵者。曰く、彼に師事するデジモンは数知れない。
要するに、すごいデジモンということだった。
「……へぇ。すごいんだな」
「いえいえ。主神様をお救いになった貴方様ほどではございませんよ」
「……え? 今の口ぶりだと……」
「はい、もちろん知っております。詳しいことはさすがにわかりませんでしたが……この世界の法則に異常が出てしまったこと、それを貴方が解決したこと、それくらいはわかっております」
どうやらサジタリモンは先ほどまで起こっていた事態を知っているらしい。オリンポスの神々しか知らないようなことを、詳細を知らないとはいえ知っているとは。来人は開いた口が塞がらなかった。
「そういや、サジタリモンはそこで黙ってるケンタルモンの師匠……なんだよな?」
「はい、私としては、この愚弟子の落とし前をつけに来た次第です。全く何を志すのも結構ですが、本質を見落とした挙句に仲間を危険にさらすなどと……!」
サジタリモンは呆れと怒りの入り混じったような、そんな複雑な感情のこもった視線をケンタルモンに向ける。ケンタルモンは肩を震わせた。
「興味本位で聞くけどさ。……何をしたんだ?」
「何を? 決まっております。ユピテルモン様の片割れに貴方様方が自分の奏楽団にいることを漏らしたのです」
「えっ、あー……そうか。そういうことか」
サジタリモンの言葉に、来人は納得した。
思えば、ケンタルモンは初めからずっと自分のことをしつこいくらいに警戒していた。そして、昨夜は夜遅くまでいなかった。あの時だろう。
まあ、来人としては別に過ぎ去ったことであるし、ケンタルモン自身も警戒ゆえの当然の行動だったろう。だから、気にするつもりはなかった。そもそもケンタルモンが漏らさなくても、あの祭りについて行った時点でああなったことは明白。彼の行動があろうとなかろうと、ほぼほぼ関係ない。
「なっ、アンタそんなことしてたのね!? 仲間を信じる気概が足りないのね!」
「ええ。此度の奏楽団の被害。その一因はこの愚弟子にあると言えるでしょう」
だが、気にしないのは来人だけのようで。
セイレーンモンとサジタリモンはケンタルモンに詰め寄っていた。
まあ、被害を被ったのが来人だけならばともかくとして、自身の所属する団まで被害が出ているのだから、来人一人が庇うこともできない。
「……ま、ご愁傷様、ということか」
『来人、貴様にも一因はあるだろうに』
「そこは……まぁ、わかってるよ」
『やれやれ』
カミサマと軽口を言い合う来人の前で、ケンタルモンはサジタリモンとセイレーンモンに連行されていく。おそらくは――というか、確実に説教されることになるだろう。
あのユピテルモン襲来の原因はほぼ自分にあるだけに、少しだけ心苦しい来人だった。
「おー! やっと来たな!」
「……ん?」
可哀想なケンタルモンを見送った来人。そんな彼に声がかけられる。声のした方を見れば、そこにいたのはコロナモンとルナモンだった。
「こ、コロナモン! 失礼だよっ」
「何言ってんだよ。大丈夫だって! セイレーンモンだって態度変えてねぇんだし!」
「で、でも……! 雷落とされるよっ!」
「……おい、やめろよ。そういうこと言うの! ちょっと心配になってきちゃったじゃないか!」
相変わらず仲が良いようで、その微笑ましさに来人は頬を緩めた――のだが、彼らにはそんな来人の顔が死刑宣告に思えたらしい。その顔に恐怖を貼り付け、凍りついた。
「……」
流石にショックである。笑っただけで、コレとは。
『くく……』
そんな来人の内心を見抜いたのだろう。カミサマは笑いを噛み殺していた。
「あ、あのだな。ま、まさかお前がユピテルモン様だったなんて思わなくてだな!」
「こ、コロナモン……死なないで……」
「うわぁ! 昨日の俺をぶん殴りてぇ!」
まるで懺悔するかのように、心の底から罪に震えるコロナモンだ。その姿は哀れみを誘うが、流石に来人は頬が引き攣って行くのを抑えられなかった。
『ぶふっ!』
「カミサマァ……! だいたいカミサマのせいだろ!」
『くく……やれやれ。他人のせいにするとはな』
原因というか、元凶というか、そんなカミサマに声を上げる来人。だが、カミサマは取り扱わなかった。
「ったく……おい」
「ひっ! な、なんだよ。いや、何ですか!」
「あの! コロナモンはいい子なんです! だから……!」
来人が声をかけただけで、二匹はこの調子である。
だが、彼はふと思う。これは自分に対する感情などではなく、どちらかといえばカミサマの風評に対する感情なのではないか、と。
『……』
「急に黙るなよ」
来人の考えていることが伝わったのだろう。
カミサマは押し黙った。一転しての悲痛な沈黙に、来人は少しだけ罪悪感を覚える。
ともあれ、今は目の前のコロナモンたちである。土下座をしそうな勢いでその時を待っている彼らの勘違いを、そろそろ解かなければならない。
「とにかく、だ。別に気にしてないからな。いいな?」
「え? ……ほ、本当か?」
「ああ。本当だ。俺はそんなに狭量じゃない」
言って聞かせる。その恐怖を解くように。
コロナモンたちは恐る恐るといった様子で来人を見つめて――やがて、その言葉に嘘はないと悟ったのだろう。その顔を輝かせた。
「だよなっ!」
「コロナモン、よかったね!」
「ああ! これで一安心だ!」
態度を一転して、喜びの感情を暴走させる二匹の変わり身の速さに来人は呆れる。
だが、彼らにとってはそれだけ不安だったのだ。少しばかり不敬と言える態度をとってしまったデジモンがまさか神様であったなどと、そんなことは思いもよらなかったからこそ。
「やれやれ……。ん? この気配は――」
喜びに震えるコロナモンたちを再び微笑ましいものを見るような暖かい目で見つめていた来人だが、そんな彼は気づいた。強大な気配が近づいてきていることに。
殺気のような荒々しい気配は感じない。心配するようなことはないだろう、来人は楽観的にそう考えた。
「……な、何か寒くなってきたような?」
「そうか?」
ルナモンがその身体を震わせている。
まあ、確かに気温は下がってきているが、そこまで下がってはいない。現にコロナモンは平気そうだ。
これは例えるのならば、夜の寒さと言うべきか。月と星しか見えぬ暗闇の中で、熱源が月明かりしか存在しないが故の、そんな寒さ。太陽の暖かさに慣れきってしまったからこそ感じる、そんな寒さ。言い換えれば、月の暖かさだ。
「……」
それをもたらしながらやって来たのは神で――そう、月と狩猟の神ことディアナモンである。
やはり自分に用があるのだろうか。勘でそう思いながら、来人はディアナモンの第一声を待つ。
そして――。
「来ちゃった」
――待ちに待ったその第一声に、彼は場の空気が凍ったのを感じた。
特定のシチュエーションでは破壊力抜群の可愛らしいセリフ。ただし、無表情で棒読み。いや、場の空気を凍らせたという意味では、ある意味破壊力抜群と言えるか。
ちなみに、神らしからぬその第一声に、コロナモンたちは自分の耳を疑っていた。
『ディアナモン、前にも言っただろう。そこはもう少し感情を込めて言うのだ。ウェヌスモンやミネルヴァモンのように!』
「無理」
できれば、来人もコロナモンたちのように自分の耳を疑いたかった。だが、鋭い彼の勘は、自分の耳は間違っていないという答えを導いてしまう。自分の勘と耳を呪った。
「あのさ、カミサマ……一つ言いか?」
『む、なんだ?』
「ディアナモンに妙なことを吹き込んだのお前か?」
『何を言う』
ああ、よかった。やはり自分の聞き間違いだったのだ。来人はぼんやりと現実逃避した。
『当然ではないか』
まあ、すぐに現実に引き戻されることになったのだが。
『前に下界ではそういうものが流行っているとバッカスモンに聞いてな。これは是非言ってもらおうと思ったのだ』
「知るかぁっ! そんなのは自分の妻に頼め! 無関係な奴に言わせるなよっ!」
感情のままに来人は叫ぶ。
ユピテルモンを継ぎかけた時、先代のそういった部分は知識として知っていた。知っていたつもりだった。だが、所詮はつもりでしかなかった。
今、来人は自分の中のカミサマに対するイメージがガラガラと崩れていくのを感じていた。
『何を言う。確かにアイツに言ってもらうのも良いが……こういうものは普段素っ気ない態度の者に言ってもらうのが良いのではないか!』
「知るか馬鹿! あの病んでる妻に殺されるぞ!」
『我は大丈夫だ』
「お前が大丈夫でも、その他は大丈夫じゃないんだよ!」
知識として知る、そして推測で思い出すあの女神のことを考えて、来人は叫ぶ。
その後ろで、全くもって同意するとばかりにディアナモンが頷いていた――のだが、内輪の話に夢中だった彼らは気づかなかった。
「なぁ、俺たち夢を見てるのかな?」
「きっとそうだよ。一緒に寝ようよ。そうすればきっと夢は覚めるよ」
「だよな。あはははは」
目の前で起きている阿呆なやり取りを前にして、オリンポス十二神に対する信仰が崩れかけている哀れな二匹がいたことには。
というわけで、第七十五話。
前話から分割した話でもあったので、さっさと投稿しました。
そして、そろそろカミサマの化けの皮が剥がれてきましたね。いや、前から多少は剥がれてましたが。
次々回でイリアス編は終わりになりますね。
ですので、明日また同時投稿して終わりにするかもしれません。
それでは次回もよろしくお願いします。