【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
やって来たディアナモンと共にカミサマに食って掛かる来人。だが、当のカミサマには堪えた様子はない。
来人とディアナモン――主にカミサマに迷惑をかけられている彼らは揃って嘆息する。
そんな時だった。
「一体何なのねー!?」
背後から聞こえてきたのは、驚愕と混乱を如実に示す声。
疲れた来人が振り向くと、そこにはディアナモンの姿に目を見開いたセイレーンモンたちがいた。どうやら、ケンタルモンに対する説教は終わったらしい。
来人は、瀕死の様子でサジタリモンに引きづられているケンタルモンのことは見ないことにした。
「ご無沙汰しております。ディアナモン様」
「サジタリモン……久しぶり」
「はい。ちょうど十二年と数カ月ぶりですね」
そういえば知り合いだって言っていたか。気楽に言葉を交わしているサジタリモンとディアナモンの姿に、来人は思い出した。
まあ、旧知の仲であろう彼らが話すのは別にいい。問題はない。問題があるのは――。
「あわわ……ユピテルモン様に続いてオリンポス十二神の神々に会えるなんて! これ、夢じゃないのね?」
「現実だ」
「でも、私のような一介のデジモンが会えるとは思えないのね……! そうだっ、ライト! 私をユピテルモン様の雷で打って欲しいのね! そうすれば目が覚めるかも……!」
『それでは逆に目を閉じることになるぞ。いい加減に現実を認めろ』
――問題があるのは、セイレーンモンの方だった。
まあ、オリンポス十二神とはよく酒宴を開催しているあの酒神を除けば、滅多に出会えるものではない。セイレーンモンのような反応も仕方のないことなのだ。
果たして、現実逃避で気絶しているコロナモンたちのように現実を見られなかったのは、セイレーンモンにとって幸だったのか不幸だったのか。
「ディアナモン様……! あ、握手して欲しいのね」
「握手?」
「あっ、もちろん迷惑でございませんでしたら……!」
「……いえ。……いいわ」
「あっ、ありがとうございますなのね!」
一見すれば、握手を強請るセイレーンモンに仕方なく応じるディアナモン、という光景。だが、来人とカミサマ、そして付き合いがあるサジタリモンは気づいていた。
「あれ……ディアナモン、戸惑っているよな」
ディアナモンは仕方なく握手に応じたのではなく、単に握手を求められて混乱していただけということに。
『まあ、感情を素直に表現できない奴であるからな。ああいった感情を向けられることも少ないであろうし……困惑するのも無理はないだろう』
「しかし、初々しくて微笑ましいではないですか」
『なるほど……サジタリモン、貴様なかなかに話がわかるな』
「まさか主神様に褒めていただけるとは……とんでもない。一介の狩人ですよ」
『謙遜するな。そうだ。我が戻った暁には、共にバッカスモンの酒宴で語り合おうぞ』
サジタリモンとカミサマの会話だが、来人は全力で聞かなかったことにした。というか、脳内変換した。
彼らの言っていることに自分の思うような意味はないのだ、と。彼らに対する偏見がそう聞こえさせているだけなのだ、と。虚しい現実逃避を続けた。
「あぁぁ、ありがとうございますなのね! 今日のこと、絶対に忘れないですのね!」
「そう……」
そんな来人の目の前で、セイレーンモンは握手した手を大事そうに握り締める。よほど嬉しかったらしい。
「で、ディアナモンは何で来たんだ?」
話題が途切れた隙を見計らって、来人がディアナモンに話しかける。
その場の流れで今の今まで流れていってしまったが、そもそも彼女は何かの用があって来たことくらいわかるからだ。
「貴方たちを……迎えに来た」
「俺……いや、俺たちをか。メルクリモンはどうしたんだ?」
メルクリモンはその神速とも言える足の速さをもって、伝令役などをすることが多い。今のように誰かを迎えに行くのだって、いつもはメルクリモンがする役割であるはずなのだ。
メルクリモンに何かあったのだろうか。来人とカミサマは首を傾げた。
「別に。ただ、バッカスモンに連れて行かれたから……」
「ああ」
『それは』
来人とカミサマは同時に声を上げた。それは無理だ、と。
ともあれ、メルクリモンは手を離せない状況にあるらしく、代わりに来たのがディアナモンとのことだった。
「じゃ、行くか」
別に来人はもう一度あの場所へと行くことに忌避感はない。
あの時追い出されたのは、ユピテルモンの代替わりという特殊な事情を抱えた身で、それを拒否したからだ。既に先代は復活し、追い出される理由はなくなっている。のこのこと行ったからといって、襲われるようなこともないだろう。
「えっ、ライト……言っちゃうのね?」
軽い口調で行くと告げた来人とは対照的に、残念そうに言ったのはセイレーンモンだ。
セイレーンモンにとって来人は仲間だった。いろいろあったものの、そのいろいろを乗り越えたことによって、ようやく本当の意味で仲間になれそうだった。だというのに、もうお別れとは。
そんなセイレーンモンの思いがわかったのだろう。来人は気まずそうに苦笑した。
「……悪い。でも、セイレーンモンたちがいてくれて助かった」
思い返す。その楽しそうな歌に救われた部分があったことを。
「どうしても言っちゃうのね?」
「……ああ」
「むぅううう! な、なら……たまには会いに来ること、それでいいことにする! 約束なのね!」
咄嗟に来人は息が詰まった。
いずれ向こうの世界へと帰ってしまう身だからこそ、その約束は果たせない約束となってしまうことがわかったから。
「……そうだな。面倒事が片付いたら遊びに来るよ。もしかしたら明日にでもひょっこり来るかもな」
「それならそれでいいのね。また一緒に歌うのね」
「一緒に歌ったことはないんだけどな……」
来人は苦笑しながら言うが、真実だけは告げなかった。約束も、小狡い手で誤魔化した。そんな彼の様子にカミサマもディアナモンも何も言わなかった。
「あ、と。そうだ。最後に一つ。サジタリモンとセイレーンモンにお願いが」
「……? 何なのね?」
「何でしょうか?」
「ルナモンとコロナモンを頼むな。ショックを受けてたから。……できれば、フォローを頼む」
引き攣った頬を隠せずに、気絶したままの二匹のことを頼む。
セイレーンモンは首を傾げていたが、サジタリモンは来人の言いたいことがわかったらしい。苦笑しながらも、「わかりました」と告げた。
「よし、それじゃ……またな!」
「またなのね!」
「ええ。機会があったら、是非また会いましょう」
最後に別れの挨拶をして、来人は駆け出す。
ディアナモンもセイレーンモンたちに一礼してから、そんな彼を追って駆け出した。
後ろ髪を引かれながらも後ろを振り向かないように、来人は走る。走って、そのままあの山を目指す。
「もう少し……ペースを上げて欲しい……遅い」
「いや、無理だから!」
ディアナモンの無茶な注文に、来人は堪らず声を上げた。
今でも全力疾走しているのだ。これ以上のスピードは普通に無理である。
『進化すれば良いではないか』
「え? あー……」
その手があったか。来人はカミサマの言葉に、その存在を思い出した。
確かに、アイギオテュースモンに進化すれば今よりもずっと速く動けるだろう。ディアナモンの求めるスピードが出せるかはさておいて。
「周りは森だし……ちょうどいいな」
言って、来人は進化する。
直後、彼の身体を光が包み、彼は進化する。一瞬後に現れたのは、緑を纏った神人――アイギオテュースモン:グリーンだった。
植物の身軽さ故に、アイギオテュースモンの中でも特に機動力に優れる姿だ。周りが森だったのはちょうど良かった。
「よし、行くか!」
気合を入れて、ペースを上げる。
その両腕に装備されたバスターからイバラを打ち出し、ロープアクションのような形で森の木々に引っ掛け、打ち出したイバラを収縮させることで自身の身体を進行方向に引き寄せる。これを走りながら絶えず行う。
この行為によって、来人の移動ペースは格段に上がった。
「もう少し早く……」
「これ以上は無理だっ!」
もっとも、それでもディアナモンの眼鏡には適わないようだったが。
『やれやれ。我に代われ』
その言葉の意味するところがわからない来人ではなかった。
「えー……ま、いいけど」
『初めの渋りは何だったのだ』
カミサマの声を聞きながら、来人は意識を沈める。
彼は自分の意識が沈んだその瞬間に、カミサマの意識が浮き上がっていくようなイメージを想起した。
「やれやれ……無事に代われたか」
そして、そんな彼のイメージ通りに――今、身体を動かしているのはカミサマとなった。
『意識して主導権を握る人格を変更するのって久しぶりな気が……あれ、初めてか? まあいいや。問題なさそうだな』
先ほどまでと変わって、来人の声がカミサマの身体の内側から響くようになっていた。
「そのようだな。さて……では、行こうか」
身体の調子を確かめる。これなら、大丈夫だろう。そう判断したカミサマは、すぐさま自分の出てきた理由を果たすべく、進化する。
直後にその姿は光り輝いて――ユピテルモンへと進化した。
『調子はどうだ?』
「問題なさそうだ」
今まではそのリスク故に進化するのも主導権を入れ替えるのも忌避感があった。
だが、来人の成長の結果だろう。来人の想いはカミサマの想像以上にその価値と強さを示した。
自分を復活させる。人間としての性格を取り戻す。来人はそんな無茶にも思えることを成し遂げたのだから、これくらいは大丈夫だろう。
そう、カミサマは信頼と共に確信したのだ。
「ユピテルモン、久しぶりな気がする」
「我もだ」
ユピテルモンに進化し、その移動スピードを上げたカミサマにディアナモンが追従する。
「……やっぱり、その……ユピテルモンはこっちの方がいい」
懐かしさがあるからだろう。長き付き合いの同胞が復活した嬉しさもあるのだろう。
ディアナモンは微笑みながらそう言って――。
「それは……少しズルいのではないか?」
「……?」
――普段無表情なだけに、その言葉にはカミサマを唸らせるほどの破壊力があった。
『カミサマ、くだらないことを言ってないで足を動かせよ』
「何を……来人、お前にはこれがわからないのか」
『いや、わからなくはないけどさ……奥さんに殺されるぞ』
「我は大丈夫だ」
『だからっ、お前が大丈夫でも他人は大丈夫じゃないんだよ……!』
そんな、軽口のような言い合いを続ける来人とカミサマ。
だが、そんな彼らは気づけなかった。ディアナモンが微笑ましいものを見ているかのような視線で自分たちを見ていたことには。
というわけで、二話同時投稿の第七十六話です。
奏楽団と別れたところで、次話に続きます。
それでは次回もよろしくお願いします。