【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~ 作:行方不明
時は少し遡る。
来人が別世界に連れて行かれていたなどとは露ほどにも思いつかなかったアミは、現実世界においてロイヤルナイツ探しの傍ら、来人とメギドラモンを探し続けていた。
依頼がある時以外、それこそ朝から晩まで探し続けていたのだ。
まあ、昼夜問わずの活動の甲斐もあったのだろう。すでに中立のロイヤルナイツたちを味方につけることができていた。
ジエスモンにアルフォースブイドラモン、そしてスレイプモンとガンクゥモン――まあ、後者二人は未だ中立を保ったままであるし、アルフォースブイドラモンにいたっては“とあるテイマー”のデジモンであって、ロイヤルナイツに名を連ねていた本人ではない。
それでも、だ。実際に説得という行為を行い、その説得にとりあえず応じてくれた。それだけでもずいぶんと良い結果である。
だが、事が順調に運んでいるように見えていても、アミは心休まらない。今の彼女の様子には、傍から見ていれば危ういものがあった。
だからこそ、上司である杏子はそんな彼女が下手な事故を起こすことを危惧し、今日一日の休みを与えたのである。
そして、珍しくも丸一日という貴重な休みを手に入れたアミだったが――。
「どこにいるの……?」
――今現在の彼女は街を彷徨い歩いていた。もちろん来人たちや敵対するロイヤルナイツたちを探して、だ。
杏子に直々に休めと言われた彼女であるが、その言を守る気はさらさらなかったのである。
まあ、杏子自身もそれをわかっていた様子だったのだが。
「あと探して無い場所は……」
探しに探す彼女は、頭の中で探していない場所をピックアップしていく。思い当たらなかった。
見つかりそうな場所はこの数日で探し続けていたし、悠子やノキア、杏子にロイヤルナイツといった面々にも、各々のやることのついでに捜索を頼んであった。
それでも見つからないのだから、アミにこれ以上で探せそうな場所は思いつきそうになかった。もちろん、だからといって諦める気はないのだが。
「うぅーん」
頭を悩ませて、アミは歩く。
実際にそんなことはないのだが、傍から見ていれば、その姿は暇を持て余してボンヤリと歩いているかのよう。
「あの……今、いいですか?」
だからこそ、悠子はそんなアミに話しかけたのだ。街中でボンヤリと歩いているところを見つけ、なおかつ彼女に用があったからこそ。
「え? あ……悠子?」
一方で、アミは話しかけられて始めて気づいたようだった。悠子が目の前にいることに。
「杏子さんに連絡したところ、今日は休みだということで後日にしようと思ったのですが……」
「あー……」
少し悩む。来人やメギドラモンを探したい気持ちもある。だが、友人を無碍にするのも気が引ける。数秒の思考の後、結局、アミは悠子の話を聞いた。
「うん。いいよ。大丈夫。探偵に休みなんてないからね! 依頼?」
「あの……私、ユーゴのアバターを削除しようと思いまして」
「えっ!?」
悠子の言葉にアミは驚く。
ユーゴのアバター。それはロードナイトモンの思惑によるものだったとはいえ、悠子がザクソンのリーダーとして活動するためにあったもの。彼女が家族との繋がりを求めたからこそ存在するとも言えるものでもあった。
それを削除するなどとは。アミは驚きで開いた口が塞がらなかった。
「はい。驚かれるのも無理はないと思いますが……その、これはリエさんにもらったものです。システム面でも特別なアバター……。リエさんに言われました。これを使っている時、私はユーゴだったって」
ユーゴのアバターは普通のアバターではない。これを使ってEDENにログインすれば、文字通りユーゴとなることができる。
ついでに言えば、個人情報の差異があってもシステムを通り抜けて使える、所謂反則の存在だ。
「私は無意識に操られていたんです。リエさんに都合の良いように……このままこれを使い続けていたんじゃ……いけないって思ったんです」
「辛くないの? だって、それは……」
アミはその先を言わなかった。
「わかっています。正直に言えば、辛いです」
例え、岸部リエの思惑があったとしても、このユーゴのアバターは彼女の兄である勇吾そのものとも言えるもの。
勇吾本人がEDEN症候群で目覚めない今、それは本人との繋がりの一つと言える。それを消すのは、アミに言われるまでもなく辛いことだった。
「でも、決めたんです」
そう言った悠子の目には決意だけがあった。
そこまで決めているのならば、アミにとやかく言う権利はなかった。
「アミさん、貴女には……せめて見届けて欲しいです。お願いできますか?」
そう、ユーゴとしての自分に深く関わってくれたアミだからこそ、悠子はその最期を見届けて欲しかったのだ。
「わかったよ」
悠子の言葉に、アミは頷く。
悠子は「ありがとうございます。見ていてください」と小さく呟いて、デジヴァイスを操作し始める。そして、ユーゴのアバターを削除した。
「えっ!?」
はずだった。
驚愕の声を上げた悠子を前に、アミは怪訝な顔をする。何か問題でもあったのだろうか。悠子の言葉を待った。
「アバターが……消せない!? そんな……どうして……ログイン中? EDENに……? 乗っ取られた? そんな痕跡なんてなかったのに……!」
焦りと不安、そして混乱からだろう。悠子は取り乱していて、その尋常ならざる様子から、只事ではないことだけがわかる。
「落ち着いて! どうしたの?」
「ユーゴのアバターが……何者かに乗っ取られたようです。……アミさん、依頼があります」
「依頼……うん、わかった」
「まだ何も言ってないのですが……」
「わかるよ。そのユーゴのアバターを一緒に取り返してほしいってことでしょ?」
「……さすがですね。その通りです。私は絶対に兄のアバターを取り返したいです!」
消すことに決めても、いや、消すことに決めたからこそ。あれは悠子にとって大切なものであることに変わりはない。あれは他人が使っていいものではないのだ。
屈辱だった。許せなかった。彼女のその目には、何としてでも取り返すという強い意志だけがあった。
「そうだね。絶対にお兄さんを取り返そう」
だからこそ、アミは二つ返事でこの依頼を受ける。
悠子の思いが感じられたからこそだった。
「はい! 費用も時間もいくらでもかかっても構いません。多少の違法行為も大目に見ますし、何だったらご飯も……その……ほんの少しだけなら我慢します!」
「……ご飯くらいは別に大丈夫だよ?」
「本当ですかっ!? あっ、いえ……大丈夫です。我慢できます。我慢します。我慢してみせます。とにかく……!」
失言に気付いた悠子は、顔を赤くして慌てて取り繕う。そんな彼女の姿に、アミは微笑んで――そんな時のことだった。
悠子のデジヴァイスにメールが届いたのは。送り主は――。
「そんなっ、ユーゴから?」
――ユーゴだった。つまり、特殊アカウントであるユーゴのアカウントを使用して、ユーゴに成りすましている者だ。
「犯人から送りつけてきたってこと?」
「みたいですね。一体どういうつもり……? “僕が生まれた場所で君を待つ”……アヴァロン・サーバのURLが添付されています」
「僕が生まれた……ユーゴが生まれた場所がアヴァロン・サーバってこと?」
アミは尋ねた。
悠子は頷く。曰く、岸部リエからユーゴにならないかと誘われた場所が、アヴァロン・サーバであるとのこと。だが、それを知っているのはその岸辺リエと悠子のみ。
ユーゴのアバターを盗んだのが何者かはわからないが、知りようもないはずのそれを知っているということは――罠かもしれないということだ。
それこそ、岸部リエ、つまりはロードナイトモンによるものかもしれない。
「それでも……」
「大丈夫! 私には頼れるみんながいるしね。……みんなが」
アミは自分のデジヴァイスを手にとって自信満々に言う。だが、その自信の裏に存在する影が見えた。
「クスッ、そうですね」
悠子は微笑んだ。そんな彼女の様子に気づかないふりをして。
「それより、悠子こそ大丈夫なの? デジモンも持たずに行くなんて……」
以前、悠子が使っていたデジモンであるムゲンドラモンは、ユーゴのデジモンであって悠子のデジモンではない。
悠子のアバターでは、機械デジモンである彼は協力してくれないだろう。
これが普通のデジモンならば、また別だったのだろうが――機械デジモンは機械であるがゆえに、合理的な判断をする。ムゲンドラモンもその例に漏れず、合理的な判断をするはずだ。すなわち、アカウントが違う悠子はユーゴではない、と。
少し寂しい気もするが、それも当然だと悠子は認識していた。なにせ自分を偽り、その偽りの身として騙していたのだから。
「馬鹿にしないでください。大丈夫です。完全体のライズグレイモン……ムゲンドラモンには及びませんが、私に力を貸してくれる心強いデジモンです」
「そっか、なら安心だね。行こう!」
「はいっ!」
これで問題はない。
力を貸してくれるデジモンがいる。犯人追求のやる気もある。犯人の居場所もわかっている。すべてが揃って、悠子とアミは駆け出した。
行く先はアヴァロン・サーバだ。
悠子とアミアヴァロン・サーバを目指して駆け出したその頃のこと。
「なぁ」
『なんだ?』
「いつまで走ってればいいんだ?」
『さてな』
来人たちは次元の狭間とでも言うべき、世界と世界の間の奇妙な空間をひたすらに駆けていた。
「イリアスに連れてこられた時はもっと一瞬だった気が……あれ、どうだったっけな? ……そういや、気絶していて覚えてない!」
『やれやれ。これに関しては仕方ない。似た世界であるデジタルワールド同士ならばともかくとして、世界法則すら違う世界同士を繋げ、移動するのだ。時間がかかるのは仕方がない』
「でも、走るって……」
『走っているのは貴様のイメージだ。移動というな。時空入り乱れるこの空間に下位世界の概念は通用しない。貴様の捉えやすいイメージが貴様と我に認識される』
カミサマのよくわからない解説を話半分に聞きながら、来人はひたすらに足を動かす。どれほどの時間が経ったのかさえ定かではない。
来人自身はかれこれ数時間も走っているような気がしたが、よくよく考えてみれば未だ数分しか経っていないようにも感じられる。
全くもって、世界の狭間とは不思議な場所だった。
「しっかし、なぁ……」
『なんだ?』
「ロイヤルナイツたちがあんな大掛かりなことして世界を繋げたのに、カミサマたちオリンポス十二神はこうも簡単に世界を繋げられるんだなって」
感心したように来人は呟いたが、それは誤りだ。
ロイヤルナイツたちが大掛かりなことをしてくれたからこそ、メルクリモンは少しの労力でどうにか出来たのだ。
だから、カミサマたちオリンポス十二神がロイヤルナイツたちに比べて特別優れているという訳ではない、のだが――。
『我々オリンポス十二神の力はそれほど、ということだ。あの脳筋騎士たちには真似できぬことよ』
――それをわかった上で、カミサマは誇らしげに言った。
「脳筋って……さすがにそこまでは言えないだろ」
『いや、言える。新しさと勢いだけが取り柄の奴らだ。そんなあやつらに我らの研鑽と歴史は真似できぬ!』
「……ま、言いたいことはわかるけどさ」
来人とて、ユピテルモンとなった時にオリンポス十二神のことは知識として粗方知った。
だから、ロイヤルナイツたちよりもオリンポス十二神族の歴史の方がずっと古いということも知っている。
だが、来人は思う。
「でも……さ。それって先に生まれていたオリンポス十二神は後から生まれたロイヤルナイツたちに追いつかれたってことだよな?」
そう、オリンポス十二神には歴史という名の重みがあり、彼らの権威は積み重ねられてきた歴史そのものだ。それが良いか悪いかはさておくが。
反対に、そんなオリンポス十二神に匹敵する力と組織規模をロイヤルナイツたちが誇るということは、来人の言う通りに新興の彼らが古くからあるオリンポス十二神に追いついたということを示している。
カミサマやロイヤルナイツたちが互いに仲良くできないのは、この辺の事情があるからだった。互いにライバル意識にも似た感情を抱いているのだ。
『言ってはならないことを……!』
来人のあんまりな物言いに、カミサマは怒りの声を上げた。カミサマ自身もいろいろとわかっているらしい。
今までなかったカミサマの様子に、来人はたじろぐしかない。
「いや、悪かったって! まさかそこまで怒るなんて……」
『全く貴様という奴は!』
地雷を踏んだらしく、カミサマの小言が始まった。
まさに口は災いの元。代わり映えしない景色でさえ現実逃避になるほど、来人は後悔して――まさにそんな時だった。
「あれは――」
『まだ話は終わってないぞ! ……む』
本来ならば誰もいないはずのこの場所で、来人たちがそれを見つけたのは。
現実ではバレンタインデーですが、そんな雰囲気は微塵もない第七十八話。
欝から抜け出した主人公とは打って変わって、未だ欝終わらぬ原作主人公アミの話でした。
一応、時間の経過がありますので、説明しておきますと――。
原作で言う平行世界の話も終わっています。
ので、リデジデコードからゲスト出演した某暴走ガールの出番はありません。
ジエスモン覚醒イベントも終わっていますし、スレイプモンとの追いかけっこも終わっております。
つまり、中立派ロイヤルナイツ説得イベントがすべて終わっているわけですね。
現在はその翌日という感じですね。
結果としてはカットしただけあって、原作と同じです。ジエスモンとアルフォースブイドラモンは味方に、スレイプモンは中立のまま。ガンクゥモンは、まぁ、はい、修行中。
ガンクゥモンだけアレですが、原作でもジエスモンのイベントで登場した以降は登場しなかったので、やっぱりこんな感じですね。
イリアス編の裏では、きっちりとサイスルの物語が進んでいたわけですが、ようやく流れが合流します。
次回は今回の続きで、ユーゴを盗んだ犯人を追います。
それでは次回もよろしくお願いします。