【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第七十九話~ユーゴと悠子~

 アヴァロン・サーバ。メールに添付されていたURLを使い、アミたちはこの場にやって来た。

 サーバーというこの場所は、機能のみを追求した場所。その観点から見れば、この場にアミたち人間の姿はいっそ不釣り合いだった。

 そして、そんな不釣合いな者はアミたちだけでなく――。

 

「やっと見つけました。そのアバターを返してください!」

 

 ――アミたちの視線の先にいるユーゴも同じだった。

 ユーゴのアバターを使って、この場にいる何者か。悠子は毅然とした態度で対応し、アミはそんな彼女を見守っていた。

 

「返す? 一体何を言っているんだい? これは僕自身だ」

「何をわけのわからないことを……。あなたは一体誰なんですか!?」

「君が言うのか……まぁいい。僕はザクソンのリーダー。ユーゴだ」

「っ、ふざけないで……!」

 

 傍から見ていて巫山戯ているとしか思えないユーゴの言葉に、悠子は苛立ちを隠せなかった。

 彼女はその感情を隠そうともせず、その眼の中には敵意が宿り始めていて――そんな彼女の姿を、ユーゴは寂しそうに見つめていた。

 

「……悠子。君がこのアバターを返して欲しいと言うのは……これがそれだけ大切だから、ということかい?」

「何で、私の名前を……」

 

 犯人が悠子の名前を知っていたことに、悠子は驚く。

 そして、やはりユーゴは驚きを露わにする悠子を寂しそうに見ている。

 

「……」

 

 そんな彼女たちの一方で、アミはユーゴが何者かを推理していた。とはいえ、それで出た結論は有り得ないと言えるようなもので。それを前にアミは混乱し、それでいて納得してもいた。

 

「それはもちろん、僕がユーゴだからだよ。君がこのEDENで数年間過ごしたアバターだ」

 

 だが、アミが考えた有り得ない推理こそ、正解だった。

 ユーゴはユーゴそのものだった、ということだ。

 

「君はアバターを乗っ取られたと思っているようだけど……それは間違いだ。僕は僕の意思でここにいる」

「アバターに……意思? 嘘を言わないでください。そんなことが……」

「ありうるさ。EDENのハッカーをまとめる理想のハッカー“ユーゴ”……つまり、僕は仮想人格なんだ。岸部リエが君を思い通りに動かすために仕組んだ、ね。君がユーゴを演じられたのは、僕の存在があったからだ」

「あなたが……仮想人格? 自分をプログラムだって言うんですか?」

「その通り。おかしいことじゃないだろう? デジモンだって似たようなものだ」

 

 信じられない話だ。それならば、凄腕ハッカーが嘘をついているという方がよっぽど信じられる。

 だが、悠子は自然とユーゴの言うことを信じることができていた。彼女はユーゴとして過ごしてきた数年間という月日の中に、彼の言うことに思い当たることがあったのだ。

 そして、彼が正真正銘のユーゴであると言うならば、どうしてこのようなことをしたのか、誰だって想像がつく。

 

「僕はこの数年間、ずっと君と一緒だった。あるいはフェイよりも……パートナーだったはずだ。それなのに……何でなんだ? どうして僕を消そうとするんだい?」

「っ」

 

 責め立てるような、悔しがっているかのような、寂しがっているかのような、喜んでいるかのような、そんな複雑な思いが込められた言葉をユーゴは紡ぐ。

 悠子は黙って聞いているしかなかった。

 

「君は僕なしではユーゴになることさえできない。それでも僕を消すのかい?」

 

 自分を、悠子を、このEDENを心配するような声色だった。

 

「……そうです」

 

 悠子は言葉を絞り出す。

 今から彼に死刑宣告をするという、自分の身勝手さを理解して、彼女は身を切られるような痛みを覚えながら、それを言った。

 

「私は非力で……一人ぼっちだったから……何もできないから……だから、もし兄さんのような人になれたらこのEDENも守れるのにって! そう思って、リエさんの誘いに乗って貴方と出会いました」

「ああ、そうだったね」

「まるで兄さんと一緒にいるかのように……誰よりも尊敬する兄さんのようになれた気がして……嬉しかった」

「そうさ。だから、これからも――」

 

 悠子の告白を聞いて、ユーゴは手を差し出した。

 差し出された手を、悠子は辛そうに見つめる。その手に自分の兄のことを、そして今までのことを思い出したからだった。

 

「……ごめんなさい」

「え?」

 

 悠子はその手を取らなかった。

 呆然としたかのようなユーゴの呟きが空間に吐き出されて消える。

 

「リエさん……本当に恨みます。あなたは本当にあの兄さんそのもので……あなたと一緒にいるのは心地いいです。何でもできる気がします」

「なら、何で……」

「でも、私は神代悠子です。私の友達が、そんな当たり前のことを教えてくれました」

 

 そう言った悠子はアミを見る。

 彼女に見つめられたアミは微笑みながら、しっかりと頷いた。

 

「私はもうあなたに頼れません。私には私だけの居場所があります。私は私として生きていきたい! だから……ごめんなさい」

 

 アミやノキア、アラタにフェイ。彼らはユーゴではなく、悠子の友人だ。だから、ユーゴとしては生きていけない。自分と友人になってくれた彼らのためにも、悠子として生きていかなければならなかった。生きていきたいと思った。

 だから、悠子はどれだけ心地よくともユーゴの手を取ることはできなかったのだ。

 

「わかった。君は……もう僕じゃないんだね」

 

 そんな悠子のしっかりとした姿に、ユーゴは笑う。寂しそうに、嬉しそうに。

 悠子たちにはそんな彼の笑顔の理由がわからなかった。わからなかったが、わかる前に――。

 

「僕は消えるわけには行かない。EDENのためにも!」

「再起動確認」

 

 ――ユーゴの隣にムゲンドラモンが現れた。

 

「ムゲンドラモンっ!?」

「どうして、そんな……あなたは私のデジモンじゃ……」

「彼は僕のデジモンだ。今も、僕こそがユーゴだと認識してくれている」

 

 それはまさしく予想通りで、予想外のことだった。

 確かに、今の悠子がムゲンドラモンを扱えないことは予想通りだった。だが、まさか敵になるとは。最悪の状況だった。

 

「僕に勝てるかな? 僕なしでは何もできない君が」

「っ」

「ああ、勘違いしないでくれ。僕は消えたくないだけであって、君を傷つけたいわけじゃない」

 

 ユーゴを守るようにムゲンドラモンは立つ。

 その様子に、悠子は複雑な思いを抱く。悲しいような、嬉しいような、そんな思いを。身勝手だとわかってはいたが。

 

「大丈夫」

 

 頷いて、アミは悠子の隣に立った。

 

「アミさん?」

「そうか。君もそちらに立つんだね。……ずいぶんと離れてしまったね。僕の半身」

 

 そんなアミの姿に、ユーゴはしっかりと頷く。

 

「さぁ、役者は揃ったし、時は来た。後はバトルで決めようじゃないか。僕たちは“誇り高きハッカー”だろう!」

「……望むところです! アミさん!」

「オッケー!」

 

 頷きあって、アミと悠子はデジモンを出す。

 アミが出したデジモンはレディーデビモンとリリモン、そしてアンドロモン――テリアモンを除くフルメンバー。

 そして、悠子が出したのは、その半分が機械となった体躯、左腕に巨大な銃砲を装備した恐竜デジモン――ライズグレイモンだった。

 

「アミさん! 数を活かして一斉攻撃で攻め続けます! ムゲンドラモンに攻撃させてはいけません!」

 

 ムゲンドラモンのことならばよく知っている。そう言いたいかのように、悠子が叫ぶ。

 アミはその言葉に頷いて、デジモンたちに指示を飛ばす。

 

「みんなっ、四方から最大火力! 狙いを定めさせないで!」

「了解。ターゲットロック」

「オッケー任せてっ!」

「任せておけ」

 

 デジモンたちはムゲンドラモンを取り囲むように、配置につき始める。レディーデビモンとリリモンがムゲンドラモンの後ろを、アンドロモンが前を。

 

「ライズグレイモンはアンドロモンと同じように前をお願いします!」

「ウム、ワカッタ!」

 

 配置につくべく動き始めた彼らに遅れを取らないように、悠子もライズグレイモンに指示を出した。

 そして、数秒も経たないうちに彼ら全員が配置につく。ムゲンドラモンとユーゴは特に動きを見せるでもなく、ただ立ち止まってその光景を見ていた。

 そんな彼らの行動に奇妙なものを感じながらも――アミたちは止まれなかった。

 

「みんなっ!」

「任せろ。“ダークネスウェーブ”!」

 

 コウモリのような暗黒の飛翔物が。

 

「ファイア! “スパイラルソード”」

 

 振り抜かれたアームから飛び出したエネルギー状の刃が。

 

「いっけぇ! “フラウカノン”!」

 

 花弁によって作られた銃口から放たれたエネルギー弾が。

 

「撃ツ! “トライデントリボルバー”!」

 

 銃身を限界耐久で三点バーストした砲撃が。

 四つの必殺技がムゲンドラモンに直撃する。ムゲンドラモンは躱さなかった。防ぎもしなかった。その身に迫り来る攻撃をただ受けた。

 凄まじい爆発によってムゲンドラモンの姿が見えなくなる。

 

「やった……わけないよね」

 

 アミはさもわかったように言う。悠子も当然のように頷いた。

 彼女たちは知っているのだ。ムゲンドラモンの強さを。

 

「みんなっ、止まらずに攻撃し続けて! 近づかないように!」

「ライズグレイモンもお願いします!」

 

 アミと悠子の言葉に従って、デジモンたちは休む間もなく攻撃を続ける。

 いっそ卑怯と言えるまでの戦法だったが――誰もそれに否を唱えなかった。この場の誰もがわかっていたのだ。一度でもムゲンドラモンに攻撃させてしまえば、それでこちらの負けが決まってしまうことが。

 だが。

 

「やれ」

「OK」

 

 だが、すべては浅はかな考えでしかなかった。

 声が聞こえた。その瞬間、ついにムゲンドラモンが動く。

 

「ターゲットオールロック!」

「っ、みんな!」

 

 一瞬だった。動き始めたムゲンドラモンは爆煙と攻撃を振り払い、一瞬で四体のデジモンたちを瞬殺する。何が起こったのかさえ理解できない。デジモンたちは地に伏した。

 

「これが現実だ」

 

 悠子を見つめて、ユーゴは言う。

 

「君は僕なしでは何もできない。僕のいない君では……いかに決意をしようと無駄なんだ」

「……そんな」

 

 ムゲンドラモンの横に立ったユーゴは悠子を諭すように言う。

 悠子は歯を食いしばって、悔しそうにした。それでも――。

 

「私は諦めません。私はここにいます。だから……!」

 

 ――悠子は前を向いていた。

 例えどんなに絶望的でも、ユーゴに対してだけは引くわけにはいかなかった。引いてしまったら、また元通りになってしまう気がしたからだった。

 そんな悠子を支えるように、アミとライズグレイモンはその隣に立った。

 

「大丈夫。私たちは“悠子”と一緒にいるからね!」

「ソウ。オレ。悠子、一緒イル!」

 

 悠子は頷いて言った。ただ「ありがとう」と。

 

「オォオオオオ! オレ、頑張ル!」

 

 その言葉がどれだけ嬉しかったか。

 ただ一緒にいるために。悠子の力になるために。ライズグレイモンは先を望む。そして、悠子と自分の想いを支えるために彼は進化する。完全のその先、究極へと。

 

「ハァっ!」

 

 ライズグレイモンが進化したのは、侍のようなデジモン。グレイモン系究極体の亜種にして、歪な形の二刀をその両手に持つ鎧を着たデジモン。それが、ガイオウモンと呼ばれる究極体デジモンだった。

 

「進化したのか。だが……」

「行ク!」

 

 ユーゴの言葉を遮って、ガイオウモンは駆け出した。

 ムゲンドラモン相手に、その両手の刀を巧みに使って攻める。

 

「……」

「オォオオオオ!」

 

 その勢いで、勢いだけで、真正面からムゲンドラモンを押す。

 その果敢な攻撃にムゲンドラモンは沈黙を続けていた。爆発した感情が乗せられた一撃一撃を、ムゲンドラモンはその無骨な両腕を使って防ぎ続けていた。

 

「ハァッ! “燐火斬”!」

 

 この調子で押し切るつもりなのだろう。ガイオウモンは必殺技を放つ。両腕の二刀を十字に振り抜き放つは、怪しい軌跡。その軌跡に触れたものすべてを切り裂く斬撃。

 

「ファイア。“∞キャノン”」

 

 もちろん、ムゲンドラモンとて、高威力の斬撃をただで食らう気はない。少し遅れながらも、必殺技を放つ。

 超弩級のエネルギー波と斬撃がぶつかり合った。

 

「っく……」

「きゃっ」

「くぅうう」

 

 凄まじい余波が人間組を襲った。

 そして、押し勝ったのは――斬撃の方だった。切り裂かれたエネルギー波。押し通る斬撃。ムゲンドラモンに避ける術はない。

 

「……ダメージ大!」

 

 ムゲンドラモンはその胴に深々と十字の傷をつけた。

 だが、まだ戦える。そう判断したムゲンドラモンだが、そんな彼は見た。

 

「狙イ撃ツ――」

 

 歪な二刀の頭をつなぎ合わせ、そして形成した弓に怪しい光の矢を番えたガイオウモンが、自分に狙いを定めているその姿を。

 

「“燐火撃”!」

 

 一瞬後、放たれる矢。何事をも構わず、まっすぐに突き進む。

 主従共々のまっすぐな決意の表れであるかのような、それ。世界に一筋の光が走り去った。

 見れば、ムゲンドラモンの十字の傷が入った胴に、穴が空いていた。そこから向こう側の景色が見える。

 

「ああ……済まない。君には茶番をさせてしまった」

 

 ムゲンドラモンだけに聞こえるように、ユーゴは小さく呟く。ムゲンドラモンは気にするなとばかりに頷いて、そして動かなくなった。

 そして、ユーゴは悠子に向かい合う。

 

「やはり僕は消えなければならないようだね」

「あなたは……」

「まあ、予想は出来ていたことだよ。気に病むことはない」

 

 消えることが確定したというのに、彼は微笑んでいた。寂しそうな、嬉しそうな、誇らしそうな。そこに負の感情は少しも見受けられなかった。

 なぜそうも笑っているのか。その理由に行き着いてしまって、悠子は顔を歪めた。

 

「ああ……そんな顔をしないでくれ。君が決めたことだろう?」

「はい、さようなら」

 

 悠子は無理矢理に笑顔を浮かべて、ユーゴを見送る。ユーゴはしっかりと頷いて、その顔に似合わないほどの笑顔で消えていった。まるで妹の成長を見られて満足したとばかりに。

 

「さようなら……私のもう一人の兄さん」

 

 悠子は静かに呟いた。

 そんな風に、別れの余韻に浸る彼女だ。しばらくは一人にさせて上げるべきである。そう考えて、アミはデジモンたちの様子、そして未だに消えていないムゲンドラモンの様子を見る。

 動けなくなったムゲンドラモンは、未だ何かあるのか、この場に無理矢理留まっているかのよう。

 

「アンドロモン」

 

 ムゲンドラモンに呼ばれたアンドロモンは一瞬逡巡したようだったが――今にも消えそうなムゲンドラモンの言葉とあって、行くべきだと思ったのだろう。

 アンドロモンはダメージの抜けきらない身体で彼の下へと行く。

 

「礼ダ。“ユーコ”ノ友デアル、オマエノ主ニ対スル……」

 

 そう言って、ムゲンドラモンは光る何かをアンドロモンへと差し出す。

 

「……!」

 

 アンドロモンは、それが何であるのかわかった。

 いいのか。そんな逡巡と共にムゲンドラモンの方を見れば、彼はしっかりと頷いた。だからこそ、アンドロモンは迷いなくそれを受け取る。

 それはムゲンドラモンの力そのものだった。それを受け取ったのだ。

 

「アリガトウゴザイマス」

 

 瞬間、アンドロモンは進化する。どこかムゲンドラモンに似た機械竜へと。

 

「……アア、見事ダ」

 

 それを見届けて、ムゲンドラモンは静かに目を閉じた。身体が光となって消えていく。

 

「今行ク。ユーゴ……」

 

 ムゲンドラモンは消滅した。最後までユーゴに付き添って。

 そして、二つの命の最後を見届けて、この数十分後。

 セントラル病院――EDEN患者であるアミや来人の肉体、そして勇吾が入院する病院の前に、アミと悠子はいた。

 

「今日はありがとうございました」

「うぅん。私こそ」

「私、兄に話したいです。今までのこと、今日のこと、もう一人の兄のこと、私ともう一人の兄を支えてくれたパートナーのこと……あと、アミさんたちのことも。だから……」

「うん、頑張ろう! まだまだこれからだよ」

「はい! そうですね!」

 

 アミと悠子は頷きあって気合を入れ直し、そのままその場で別れる。

 悠子と別れたアミは探偵事務所に帰る道すがら、やはり来人たちを探すべく歩き出した。

 

「私も頑張るよ。来人……」

 

 歩きながら、空を見上げる。

 夕暮れの中に薄らと星が見え隠れしている。そんな空模様に、アミは目を細めて――そんな彼女は見た。

 

「うふふ。あのお方を誑かす愚女……見つけましたわ」

 

 一直線に自分の下へとやって来る女神の姿を。

 今日はまだ終わりそうになかった。

 




というわけで、第七十九話。

悠子のパートナーデジモン進化回――と、アミのアンドロモンも(一応)進化回。
アンドロモンはせっかく進化したのに、初陣はまさかのヤンデレ様になる模様。
そして、微妙に仲間はずれ気味なテリアモン。

そんな感じで次回に続きます。
次回、VSヤンデレ様。
そういえば、未だに名前を出してないんですよね……。

それでは次回もよろしくお願いします。
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