【完結】デジモンストーリーサイバースルゥース~電脳探偵と神を宿せし少年~   作:行方不明

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第八話~必殺技を目指して~

 電脳探偵の誕生から数日後のこと。

 EDEN下層クーロンエリアにて、来人は――。

 

「今日は追いかけられないだろうな……!」

『貴様の運の悪さには我もほとほと呆れるぞ』

「うるせぇ!」

 

 ――来人は、今日も今日とてカミサマ監修のトレーニングに必死に励んでいた。

 何がそんなに彼を駆り立てるかというと、この数日で彼はこの姿でいることの危険性を嫌というほど思い知ったからだ。嫌でも身が入ろうというものだった。

 まあ、監修しているカミサマとしては、今後のことも考えてトレーニングに身を入れてくれるのは嬉しいことだ。が、カミサマとしても、何かが致命的にズレてる気がしてならなかった。

 

「ふっ……はっ……はぁっ!」

 

 やっていることは、筋トレや走り込み――ではない。どちらかといえば、突きや蹴り、殴打といった戦闘重視のトレーニングだった。

 

『ふむ……ここ数日費やしただけあって、だいぶマシになってきているな』

「お? 本当か?」

 

 カミサマの言う通り、来人の動きはマシになって来ている。

 あれから、ハッカー軍団との追いかけっこという名の戦闘も何回か経験していることだし、身の危険を何回も感じた甲斐もあって慣れたのだろう。

 まだ素人臭いところはあるものの、戦闘に関してもこの数日で様になって来ているほどだった。

 

『うむ。まだまだ幼稚だが、それでも初日と比べるまでもない』

「貶められてるのか、褒められてるのか……」

『何を言う。褒めているに決まってるだろう。人を伸ばすのは、褒めるのが基本だ』

 

 皮肉混じりに聞こえるその言葉も、カミサマ曰く褒め言葉らしい。

 何と言うか、いろいろとズレている。これは、カミサマが神様だからズレているのか、それともこのカミサマ個人の性格がズレているのか。

 わからなかったが、とりあえずカミサマはもう一度自分の言動を省みた方がいいのではないか。そんなことを思った来人だった。

 

「……カミサマは人の心について勉強した方がいいんじゃないか?」

『余計な世話だ! 全く。なぜここでも同じことを言われなければならないのだ……!』

「え?」

『こちらの話だ。それよりも、手が止まっているぞ』

 

 正直に言えば、来人はカミサマの言った独り言が激しく気になった。気になった、のはいいが。答えてはくれそうになかった。

 いつか絶対に聞き出してやる。そんなことを来人は思って、再び身体を動かし始めるのだった。

 

『ふむ。そろそろ次のステップに行ってもいいかもしれんな』

「え? 次のステップ?」

『そうだ。本当ならば早すぎるが……しかし、時間が有限であることも事実。やっておくに越したことはないだろう』

 

 多少マシになったとは言え、先ほども言った通り、今の来人の戦闘レベルは素人に毛が生えたレベルだ。本来ならば、次のステップに進むには早すぎる。来人でさえ、そう思う。

 だが、この平穏な時間がいつまで続くかは、カミサマでもわからない。こういった時間が崩れるのは一瞬だ。目的の重要性を考えれば、その時になって準備不足でした、ではすませられることではない。

 だからこそ、多少早すぎる気はしたものの、カミサマは来人のトレーニングを次のステップに進めることにしたのだ。

 

「で、次のステップって……?」

『必殺技の練習だな』

「ひ、必殺技?」

 

 必ず殺す技と書いて、必殺技。

 思いもよらないその単語に、思わず聞き返した来人だったが、その意味がわからなかったわけではない。

 その概念は、古今東西の漫画やアニメ、ゲームに登場するほどであり、今や普通に常識である。が、現実として必殺技が成り立つかと言えば、答えは否だ。

 そんなものが成り立つのは、架空の世界だけ。そう思っていたからこそ、来人は呆気にとられたのである。

 

『何を驚いている?』

「いや、必殺技って……冗談じゃなくて、か?」

『何が冗談なものか。デジモンには、その種それぞれに必殺技がある。多くは、その種の持つ最大の武器、それを極限の形で使いこなした技だ』

「へぇ。って! もしかして初日のティラノモンとか、時々やたらと強い攻撃をして来たアレは……!」

『そうだ。アレが必殺技だ。その種の最大火力攻撃と言い換えてもいいだろう。最大火力であるからして、これを使えるのと使えないのとでは、戦闘に大きな差が出てくる』

 

 必殺技という単語には引っかかった来人でも、そう説明されればなんとなく理解できなくもなかった。ようするに、武術などで言う奥義などと同じ扱いなのだ。

 しかも、今の今まで気付けなかったが、来人はここ数日の戦闘の中で、必殺技の力を身をもって知っていた。思い出して、通常攻撃と必殺技の威力の違いに、来人は身震いする。

 なるほど、確かにコレを使えるのと使えないのとでは、かなり違うだろう。

 

『同時に、必殺技とは最も受けてはならない攻撃だ。理由は……言わずともわかるな?』

「そりゃ、もちろん」

『ならばよし。格下のものならば、耐えられるかもしれぬが、中には一発逆転を可能にするものもある。完全体や究極体ともなれば、一撃でアウトになる攻撃すらある。耐えられる確信がないのならば、極力防がずに躱せ』

「ふんふん……ん?」

 

 カミサマの言葉を真剣に聞いていた来人だったが、途中で疑問に首を傾げた。今の中で、意味のわからない単語があったことに、来人は気づいたのだ。

 

「なあ、前も言ってたけど、完全体とか究極体とか……ってなんなんだ?」

『言ってなかったか。それは済まなかったな。デジモンには成長段階があり、進化することで上の成長段階へと行く。その際、往々にして見た目なども変わることが多い』

 

 実際にその進化を見ていない来人は何とも言えない。が、今の来人の頭の中では、人間の子供と大人が一瞬で変わる様子が思い浮かべられていた。おおよそはこんなものだろう、と。

 まあ、実際の進化では、それ以上の変わりようを見せるのだが。

 

「なるほど……進化、ね。しかも見た目も変わるって……トンデモ生物だな」

『貴様ら人間から見ればそうだろう。成長段階は二段階に分けられる幼年期、成長期、成熟期、完全体と来て、究極体だ。ついでに言えば、貴様はアイギオモンで、成熟期だ』

「成熟期……」

『成長段階が一つ違うだけで、恐ろしいまでの差がある。例外はあるがな。なるべく上の成長段階を相手取るのは避けろ』

 

 確かに、人間でさえ大人と子供では、力にかなりの差があるものだ。大人と子供が喧嘩する様子を思い浮かべて、来人は重々しく頷いた。

 まあ、とはいえ、だ。来人はカミサマの言葉を理解した気になっていたが、あくまで気になっていただけだった。来人は進化と同様に成長段階の力の差を甘く見すぎていたのだ。

 

『まずは必殺技の練習。話はそこからだ。同格相手に負けそうなところを直さねばな』

「う……わかった。まずはどうする?」

『どうするもなにもない。実戦だ』

「はい……?」

 

 思わず、来人は聞き返した。できれば、聞き間違いであることを祈って。

 だが。

 

『何度も言わせるな。実戦だ』

 

 だが、その祈りは通じることはなく、無情にも答えは同じだった。

 苛立ったような声で返ってくるカミサマの言葉を前に、来人は泣きそうだ。今の来人の脳裏には、ハッカーの前にノコノコと現れる哀れな自分(イケニエ)の姿が思い描かれていた。

 

「いやいやいやいや! 実戦て! 嫌だぞ! ハッカーたちの前に行くのは!」

 

 カミサマの機嫌が不機嫌になろうがなるまいが構わない。ただ、生存本能の叫ぶままに抗議する来人。

 

『……何を言っている?』

「へ? いや、だから実戦って……」

『誰も奴らの前に出るとは言っておらん。人の話は最後まで聞け』

 

 来人を沈めたのは、カミサマの呆れたような声だった。

 そこでようやく、来人は自分が早とちりをしていたことに気がついた。実戦という言葉とハッカーたちが結びついたため起こった勘違いであるが、もう少し冷静だったのならば気づけただろう。

 それに気づけなかったのは、単に言葉にある圧力に焦ってしまったからだ。

 

『野良デジモンを相手にする。幸い、デジモンの中には血の気が多い者も多い。正当防衛ならば問題はないだろう』

「野良デジモン!? そんなのいるのか……ってそうか。ハッカーたちはデジモンを捕まえて使役する。ってことは、いるのか」

『うむ。迷い込んでいるのか、それとも故意にこの世界にいるのかは定かではないがな。まぁ、今は自分のことだけを考えろ。行くぞ』

 

 カミサマの声に従って、来人は歩き出す。が、その内心では、今からすることの困難さを思い、憂鬱だった。

 まあ、それもそうだろう。野良デジモンを見つけ、襲いかかって来た相手だけを狙って実戦トレーニングをするのはいい。いや、よくはないかもしれないが、まだいい。だが、問題は、ここには野良デジモンだけではなく、ハッカーたちもいるという点である。

 つまり、ハッカーたちに見つからないように、野良デジモンにだけ見つかれとそう言っているのだ。カミサマは。

 

「無茶だろ……」

 

 時折いるハッカーたちに見つからないように、彼らの死角を利用してコソコソと動く来人。

 気分は忍者である。が、自分の身の安全が懸かっている現在、そんな気分を呑気に楽しむことはできなかった。気分は、本物の忍者である。戦国時代とかにいた。

 

『ふむ……いたな。見えるだろう? 右十時の方向だ』

「細かい……おっいた……けど、なぁ。ずいぶんとかわいくないか?」

『幼年期だからな。仕方なかろう』

 

 今、来人の視線の先にいたのは、小さなデジモンだった。どこかでぬいぐるみとか、マスコットとかで売られていそうな、とてもかわいい姿の小さなデジモン。

 幼年期ということだし、さすがにあんな小さく幼いデジモンと戦うのは、人としてどうかと来人は思う。

 経験値的な問題から、カミサマも同意見のようだった。

 

『ふむ。この辺りには強いデジモンはいないのかもしれぬな。下層に行くぞ』

「下層……?」

『我が知っていて、なぜ貴様が知らぬ。まぁよい。この空間は幾つもの層に別れている。最も上層であるここは、それだけ安全なのやもしれぬな』

「……安全、ね。納得できねぇ」

 

 ハッカーに追われ続けた身として、そう思う来人。そんな彼でも、下層に行くのは賛成だった。さすがに、幼いデジモンや自分の身を狙うハッカー相手に実戦トレーニングをしたくはない。

 満場一致だった。

 

『下層への入口を探せ。あるはずだ』

「了解、っと」

 

 隠密行動を意識して歩き出した。

 目指すは来人は下層。――“クーロンLV2”と呼ばれる場所だ。

 




というわけで、第八話。

シルバーウィーク(うちの大学には全く関係ありませんでしたが)ですし、今回の話が特に山もオチもない合間の話ということもあって、更新しました。

この小説はゼヴォの時と同じで、一応日曜と木曜更新を考えていますが、こうやってたまに不定期更新することもあるかもです。

とりあえず、次回は明日ですね。

それでは次回もよろしくお願いします。
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